[本編] 国重 昴正 編
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【クロノ】
「恋人に手を上げられて、あんたが怒るのは当然だけど、あの場面では攻撃せざるを得なかった」
【クロノ】
「俺がとった方法が間違ってたとは思わないし、そのことについて謝る気はないけど」
【クロノ】
「あんたが、もう気にしてないって言うなら、俺も少しは気が楽だ」
【国重 昂正】
「……ふん」
舌打ちをしながらも、否定はされなかった。
そのことに小さく安堵し、国重の後を追う。
国重は、俺が事務所の中まで付いて行っても咎めず、振り返らずに告げる。
【国重 昂正】
「お前も、リビドーについて調べてるんだったな」
【クロノ】
「そうだけど。……覚えてたんだ。意外」
【国重 昂正】
「職業病みたいなもんだ。で、昨日少し考えたんだが」
【国重 昂正】
「リビドーの調査。協力関係とまではいかないが、情報交換くらいならしても構わん」
【クロノ】
「……どういう風の吹き回し?」
【国重 昂正】
「……人が聞き入れなきゃ頭が固い、折れてやりゃ意外、てか? おい」
国重の声に怒気が混じり始めたので、俺は両手でどうどうと国重を制した。
なんとなく視線を逸らすと、ホワイトボードが視界に入り。
「古林:休暇」と書いてあるのに気が付いた。
【クロノ】
「……全然関係ない話だけど、古林ってあんたの好みだろ」
【国重 昂正】
「……能力で採用した事だけは信じてくれ。だが、まあ、好みだ。……好みだった」
【クロノ】
「なんで過去形?」
【国重 昂正】
「あいつ、学生時代からアツアツの恋人がいるんだよ」
【クロノ】
(『アツアツ』って……)
【国重 昂正】
「俺は、他人のものには興味がわかねぇんだよ。今回の休暇も、恋人と旅行だとよ」
話題が逸れまくっている事に気付いた俺達に、妙な沈黙が降りた。
【国重 昂正】
「……話を戻そう。古林がいないのは好都合だ」
国重が応接用のソファーにどかっと腰を下ろしたので、俺もその向かいのソファーに座った。
【国重 昂正】
「リビドーが、お前みたいな……、人間以外の何かが絡んでる事件なら」
【国重 昂正】
「人間の力で調査するのは、限界があると思ってな。それで、情報交換しようと思った」
【クロノ】
「なるほど」
【クロノ】
「まあ、俺が居た方が、調査は有利に進むとは思う」
【国重 昂正】
「突然部屋にパッと現れるし、銃刀法違反も関係ねえみたいだしな」
【国重 昂正】
「チッ。てめえみたいなのが探偵やりゃあ、こなせない依頼はねぇだろうよ」
国重は、忌々しそうに呟いたけれど、拗ねたようなその態度は、ちょっと可笑しかった。
【クロノ】
「じゃあ、まずは助手から始めようかな。宜しく頼むよ、先生」
国重は気を取り直すように咳払いをし、手帳を開いた。
――某企業の人間が、リビドーをいたく気に入ってるとの情報が入った
――今日の調査は、そいつのいきつけのバーでの聞き込みだ
夜を待って、俺達は繁華街を歩き、バーへ向かった。
【クロノ】
「ターゲットがバーにいるとか、そういう情報ってどこから仕入れてくるの」
【国重 昂正】
「企業秘密とさせていただこうか。…それよりお前、人前で妙な技使うなよ」
【クロノ】
「常識ある死神なんで、その辺はご心配なく」
【クロノ】
「ソツなく、スマートに、あんたの友人役を演じるさ」
囁きながら寄り添って腕を絡めると、国重は飛び上がった。
実にからかい甲斐のあるオッサンだ。
【国重 昂正】
「そういう冗談はやめろ! 人が見てるだろうが!?」
【クロノ】
「失敬、こういうのって人に見せるものだと思ってた。さ、行こう」
腕を離すと国重は、大股でズンズンと先に行ってしまった。
足早に歩き、どうにか追いついて周囲を見渡すと、街並みが上品になってきたことに気づく。
なるほど、確かに洒落たバーがありそうだ。
国重は一件のバーの前で足を止め、俺に目配せしてくる。
ひとつ頷き、中へ入った。
ジャズが流れる、落ち着いた雰囲気の店だ。
こういう所に入るのは初めてなので、物珍しげに見回してると腕を引かれた。
【国重 昂正】
「キョロキョロしてんじゃねえよ。……見ろ、あれだ」
囁き声の示す方を見やると、スーツ姿の男が二人座っている。
【国重 昂正】
「いいか、一般客を装って近づくぞ。お前は適当に相槌打ってろ」
言われなくてもそれしかできない。
俺が頷いたのを合図に、国重は手近な席に座って、まずは酒を一杯頼んでから。
頃合いを見計らって、男達に近づく。
【綾 上総】
「ん? なに、おっさん。何か用?」
国重は、人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、煙草をふかしながら口を開く。春川の時と態度が全然違う。
相手の男が、春川と違って高慢そうな雰囲気なので、却って威圧感を隠しやすいのかもしれない。
【国重 昂正】
「リビドーの噂を聞いてな。使いたいと思ってるんだが」
【国重 昂正】
「あんたら今、リビドーの話をしてなかったか」
【綾 上総】
「してないけど? へえ。何か知ってるか? 浅多」
【浅多 侑思】
「いえ、僕は何も。……そもそもリビドーなんてものに興味はありません」
【綾 上総】
「嘘だろ~? お前、使ってそうな顔してるし」
【浅多 侑思】
「心外です」
【綾 上総】
「ま、聞いた? 俺達、何も知らねーよ」
【綾 上総】
「ニュースとか噂で聞くくらいの事は知ってるけどね」
【綾 上総】
「でも、使いたいなら、そんなことが訊きたいわけじゃないんだろ? あんたら」
二人の男はグラスを傾けながら、こちらの出方を窺ってるようにも見える。
特にメガネの男は、目線を合わせようとしないし、怪しい気はする。
【国重 昂正】
「いや、本当にどんな情報でも構わない。その噂とやらでも良い」
【綾 上総】
「だからぁ、何も話すことなんかないって言ってんの。しつこいオッサンだな」
背が高い方の男が立ち上がり、何故か国重の横を通り過ぎて、俺のすぐ隣で立ち止まった。
【綾 上総】
「こっちの美青年くんとの方が、変な機械よりよっぽどいい夢見れそうだけどな」
腰を撫でられて、そのまま尻を揉まれた。
【国重 昂正】
「……なにやってんだ、あんた」
【綾 上総】
「あ、悪い、怒ってる? 随分キレイな子だったからさ、つい手が滑って」
そう言いながらも、男は慣れた手つきで俺の尻を揉み続けている。
俺はタチ専門だが、まあ悪い感触じゃない。結構巧いと思う。
【国重 昂正】
「帰るぞ」
【クロノ】
「え、もういいの」
ツカツカと寄ってきた国重に手首を取られて。
あっと言う間に店から引きずり出されてしまった。
店の外に出るや否や、俺は壁際に追い詰められた。掴まれたままの手首が、少し痛い。
「恋人に手を上げられて、あんたが怒るのは当然だけど、あの場面では攻撃せざるを得なかった」
【クロノ】
「俺がとった方法が間違ってたとは思わないし、そのことについて謝る気はないけど」
【クロノ】
「あんたが、もう気にしてないって言うなら、俺も少しは気が楽だ」
【国重 昂正】
「……ふん」
舌打ちをしながらも、否定はされなかった。
そのことに小さく安堵し、国重の後を追う。
国重は、俺が事務所の中まで付いて行っても咎めず、振り返らずに告げる。
【国重 昂正】
「お前も、リビドーについて調べてるんだったな」
【クロノ】
「そうだけど。……覚えてたんだ。意外」
【国重 昂正】
「職業病みたいなもんだ。で、昨日少し考えたんだが」
【国重 昂正】
「リビドーの調査。協力関係とまではいかないが、情報交換くらいならしても構わん」
【クロノ】
「……どういう風の吹き回し?」
【国重 昂正】
「……人が聞き入れなきゃ頭が固い、折れてやりゃ意外、てか? おい」
国重の声に怒気が混じり始めたので、俺は両手でどうどうと国重を制した。
なんとなく視線を逸らすと、ホワイトボードが視界に入り。
「古林:休暇」と書いてあるのに気が付いた。
【クロノ】
「……全然関係ない話だけど、古林ってあんたの好みだろ」
【国重 昂正】
「……能力で採用した事だけは信じてくれ。だが、まあ、好みだ。……好みだった」
【クロノ】
「なんで過去形?」
【国重 昂正】
「あいつ、学生時代からアツアツの恋人がいるんだよ」
【クロノ】
(『アツアツ』って……)
【国重 昂正】
「俺は、他人のものには興味がわかねぇんだよ。今回の休暇も、恋人と旅行だとよ」
話題が逸れまくっている事に気付いた俺達に、妙な沈黙が降りた。
【国重 昂正】
「……話を戻そう。古林がいないのは好都合だ」
国重が応接用のソファーにどかっと腰を下ろしたので、俺もその向かいのソファーに座った。
【国重 昂正】
「リビドーが、お前みたいな……、人間以外の何かが絡んでる事件なら」
【国重 昂正】
「人間の力で調査するのは、限界があると思ってな。それで、情報交換しようと思った」
【クロノ】
「なるほど」
【クロノ】
「まあ、俺が居た方が、調査は有利に進むとは思う」
【国重 昂正】
「突然部屋にパッと現れるし、銃刀法違反も関係ねえみたいだしな」
【国重 昂正】
「チッ。てめえみたいなのが探偵やりゃあ、こなせない依頼はねぇだろうよ」
国重は、忌々しそうに呟いたけれど、拗ねたようなその態度は、ちょっと可笑しかった。
【クロノ】
「じゃあ、まずは助手から始めようかな。宜しく頼むよ、先生」
国重は気を取り直すように咳払いをし、手帳を開いた。
――某企業の人間が、リビドーをいたく気に入ってるとの情報が入った
――今日の調査は、そいつのいきつけのバーでの聞き込みだ
夜を待って、俺達は繁華街を歩き、バーへ向かった。
【クロノ】
「ターゲットがバーにいるとか、そういう情報ってどこから仕入れてくるの」
【国重 昂正】
「企業秘密とさせていただこうか。…それよりお前、人前で妙な技使うなよ」
【クロノ】
「常識ある死神なんで、その辺はご心配なく」
【クロノ】
「ソツなく、スマートに、あんたの友人役を演じるさ」
囁きながら寄り添って腕を絡めると、国重は飛び上がった。
実にからかい甲斐のあるオッサンだ。
【国重 昂正】
「そういう冗談はやめろ! 人が見てるだろうが!?」
【クロノ】
「失敬、こういうのって人に見せるものだと思ってた。さ、行こう」
腕を離すと国重は、大股でズンズンと先に行ってしまった。
足早に歩き、どうにか追いついて周囲を見渡すと、街並みが上品になってきたことに気づく。
なるほど、確かに洒落たバーがありそうだ。
国重は一件のバーの前で足を止め、俺に目配せしてくる。
ひとつ頷き、中へ入った。
ジャズが流れる、落ち着いた雰囲気の店だ。
こういう所に入るのは初めてなので、物珍しげに見回してると腕を引かれた。
【国重 昂正】
「キョロキョロしてんじゃねえよ。……見ろ、あれだ」
囁き声の示す方を見やると、スーツ姿の男が二人座っている。
【国重 昂正】
「いいか、一般客を装って近づくぞ。お前は適当に相槌打ってろ」
言われなくてもそれしかできない。
俺が頷いたのを合図に、国重は手近な席に座って、まずは酒を一杯頼んでから。
頃合いを見計らって、男達に近づく。
【綾 上総】
「ん? なに、おっさん。何か用?」
国重は、人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、煙草をふかしながら口を開く。春川の時と態度が全然違う。
相手の男が、春川と違って高慢そうな雰囲気なので、却って威圧感を隠しやすいのかもしれない。
【国重 昂正】
「リビドーの噂を聞いてな。使いたいと思ってるんだが」
【国重 昂正】
「あんたら今、リビドーの話をしてなかったか」
【綾 上総】
「してないけど? へえ。何か知ってるか? 浅多」
【浅多 侑思】
「いえ、僕は何も。……そもそもリビドーなんてものに興味はありません」
【綾 上総】
「嘘だろ~? お前、使ってそうな顔してるし」
【浅多 侑思】
「心外です」
【綾 上総】
「ま、聞いた? 俺達、何も知らねーよ」
【綾 上総】
「ニュースとか噂で聞くくらいの事は知ってるけどね」
【綾 上総】
「でも、使いたいなら、そんなことが訊きたいわけじゃないんだろ? あんたら」
二人の男はグラスを傾けながら、こちらの出方を窺ってるようにも見える。
特にメガネの男は、目線を合わせようとしないし、怪しい気はする。
【国重 昂正】
「いや、本当にどんな情報でも構わない。その噂とやらでも良い」
【綾 上総】
「だからぁ、何も話すことなんかないって言ってんの。しつこいオッサンだな」
背が高い方の男が立ち上がり、何故か国重の横を通り過ぎて、俺のすぐ隣で立ち止まった。
【綾 上総】
「こっちの美青年くんとの方が、変な機械よりよっぽどいい夢見れそうだけどな」
腰を撫でられて、そのまま尻を揉まれた。
【国重 昂正】
「……なにやってんだ、あんた」
【綾 上総】
「あ、悪い、怒ってる? 随分キレイな子だったからさ、つい手が滑って」
そう言いながらも、男は慣れた手つきで俺の尻を揉み続けている。
俺はタチ専門だが、まあ悪い感触じゃない。結構巧いと思う。
【国重 昂正】
「帰るぞ」
【クロノ】
「え、もういいの」
ツカツカと寄ってきた国重に手首を取られて。
あっと言う間に店から引きずり出されてしまった。
店の外に出るや否や、俺は壁際に追い詰められた。掴まれたままの手首が、少し痛い。
