[本編] 国重 昴正 編
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大切な奴がいた。
あいつは、いつだって俺を助け、協力し、側にいてくれた。
俺はあいつを、心の底から信頼していた。
あいつも俺を信頼してくれているのだと、心の底から信じていた。
けど、そんな関係は長く続かなかった。
当時、まだ刑事だった俺の仕事が忙しくなるにつれ、あいつと連絡を取る回数は減っていき、
激務に流されほとんど話も出来ないでいるうちに、あいつは姿を消していた。
信頼していたのなら、何故もっと、あいつと話が出来なかったのか。
あいつを振り返ってやれなかったのか。
【国重 昂正】
「リビドーですか…。確かに最近、世間を騒がせていますね」
【依頼人】
「はい。そのリビドーのせいで、あいつは…、くっ…」
俺に相談を持ちかけてきた男は泣きながらこう訴えた。
恋人がリビドーの使用によって死んだこと。
警察は、証拠不十分ということで大した調査をしてくれなかったこと。
くたびれた風貌のその男が、まるで昔の自分のように見えた。
大切なものを失った悲しみ、無念、後悔――。
俺は迷わず、手続きに必要な書類を依頼者の前に差し出す。
【国重 昂正】
「わかりました、お引き受けしましょう」
【国重 昂正】
「リビドーの通販サイトなどはご存知ですか?」
最初は調査のためだった。
まずは自分で使用してみなければと思った。
―――だけどその日から俺は、リビドーを使い続けている。
人間界に下りた俺が向かったのは、国重の部屋。
四十路の独身男に相応しく、汚れきった部屋だった。
資料の職業の欄に「探偵」とあったから、事務所兼自宅なのかと思ったけど……
ここが事務所じゃ、客が逃げ出すだろう。
そして、敷かれている布団を見ると、リビドーをつけた男が眠っていた。
【クロノ】
「国重昂正、42歳、男、探偵…」
じいからもらった資料に書いてあるプロフィールを読みながら、
目の前で眠っている国重を見下ろす。
【クロノ】
「リビドーを使ってるのは、刑事を辞めたことと関係あるのかな」
【アンク】
「警察関係の仕事は、色々な面で厳しいと聞きますが…。本当の理由はわかりませんな」
【クロノ】
「寝顔は安らかだね。良い夢を見れてるらしい」
【クロノ】
「穏やかな眠りを提供することが、リビドーの力?」
【アンク】
「そうとも言えますね。夢主の願望が実現している状態ですので」
【クロノ】
「ふうん。この人、どんな夢を見てるのかな」
【クロノ】
「結婚もしてないし…」
【クロノ】
「昔の恋人の夢でも見てたりして」
【アンク】
「そうかもしれませんな」
【クロノ】
「でも42歳っていったら結構な歳なのに、なんで結婚してないんだろう」
【クロノ】
「資料によると、探偵始める前はエリート警察だったって言うし」
【クロノ】
「今だってそんな金に困ってそうな感じはないし、結構見た目もいい」
【クロノ】
「女が放っておかなそうなもんだけど」
【アンク】
「人生色々ありますからなあ、仕事人間だったのかもしれませんぞ」
【クロノ】
「仕事に命を捧げてたんだとしても、あと少しで死ぬ運命なんだから、虚しいもんだ」
【アンク】
「このままですと…13日後には、そうなりますな」
【アンク】
「調査が上手く行けば……寿命が伸びるやもしれませんが」
【クロノ】
「まあ……頑張ってみるよ」
国重は、元刑事なだけあって、年の割りに体格はしっかりしている。
若い頃なんか、そりゃもうモテただろう。
でも顔つきは、少し影のあるおっさんって感じだ。
多分、その影ってやつが、リビドーを使うことになったきっかけなんだろう。
壁にかかった時計を見ると、丁度午前0時になろうとしていた。
【クロノ】
「日付が変わるか。そろそろ夢への介入を始める」
【アンク】
「承知いたしました。初めての試みですので、どうぞお気をつけて」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触してもいいの?」
【アンク】
「過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
【クロノ】
「お戯れ? ふーん、俺が何かすると思ってるわけ?」
【アンク】
「色々前科がございますからな、クロノ様には」
じいのジト目を笑顔でかわす。
前科っていう言葉に対して、身に覚えがあるからだ。
【クロノ】
「安心して。いくら俺でも、期限の近付いてる仕事の最中に、イタズラはしない」
【クロノ】
「これでも死神の端くれなんで、一応弁えてるつもり」
国重が寝ている布団の横に、ごろんと寝転がる。
じいに言われるまでもなく、人間なんかに深入りするつもりはない。
【アンク】
「なら宜しいんですがね」
【アンク】
「……とにかく、注意していただきたいことはもう一つあります」
じいが、俺に向かって手をかざす。
それを合図に、俺は軽く目を閉じた。
【アンク】
「夢に引きずられないように、お気をつけて」
どういう意味だと訊く前に、ヘッドセット被せられ―――
――意識が、どんどん沈んでいくような感覚に襲われる。
【クロノ】
(夢に入るなんて初めてだし、無茶する気はないけど)
それにしても……
他人の夢に入るってどんな気分なんだろうな、と不意に思う。
【クロノ】
(他人の欲望にまみれた夢の中か……。やっぱ面倒)
【クロノ】
「うわ……!」
突然、急降下するような感覚に襲われて、慌てて目を開けると、そこは――
【クロノ】
「……庭園?」
色とりどりの花、晴れ渡る空に、飛び交う小鳥。まるで天界だ。
【クロノ】
(まあ、あんまり行ったこともないし…、様変わりしてるかもしれないけど)
だけど、大概の人間が持っている楽園のイメージは、こんなものだろう。
辺りを見回すが、国重の姿はない。
花畑の中、小枝や茂みを避けて歩くのがかったるくて、俺は飛んで移動することにした。
【クロノ】
(これが国重の憧憬夢か…)
【クロノ】
(意外とロマンチストなのか? 人は見かけによらないな)
しばらくして、花畑の中心に東屋を見つけた。
東屋にはベンチがあり、そこに人影を見つけた。
―――国重だ。隣に誰かいる。二人は寄り添って座っていた。
相手は、体格から男だとわかる。
【クロノ】
(男…? 兄弟か、親友…?)
だけど、見つめ合っている二人の距離がやけに近い。
【国重 昂正】
「薔薇を摘んできたのか? 本当に夏透(かおる)は、そういうの好きだな」
夏透と呼ばれた男は、手に持った黄色い薔薇の匂いをかいだ。
あいつは、いつだって俺を助け、協力し、側にいてくれた。
俺はあいつを、心の底から信頼していた。
あいつも俺を信頼してくれているのだと、心の底から信じていた。
けど、そんな関係は長く続かなかった。
当時、まだ刑事だった俺の仕事が忙しくなるにつれ、あいつと連絡を取る回数は減っていき、
激務に流されほとんど話も出来ないでいるうちに、あいつは姿を消していた。
信頼していたのなら、何故もっと、あいつと話が出来なかったのか。
あいつを振り返ってやれなかったのか。
【国重 昂正】
「リビドーですか…。確かに最近、世間を騒がせていますね」
【依頼人】
「はい。そのリビドーのせいで、あいつは…、くっ…」
俺に相談を持ちかけてきた男は泣きながらこう訴えた。
恋人がリビドーの使用によって死んだこと。
警察は、証拠不十分ということで大した調査をしてくれなかったこと。
くたびれた風貌のその男が、まるで昔の自分のように見えた。
大切なものを失った悲しみ、無念、後悔――。
俺は迷わず、手続きに必要な書類を依頼者の前に差し出す。
【国重 昂正】
「わかりました、お引き受けしましょう」
【国重 昂正】
「リビドーの通販サイトなどはご存知ですか?」
最初は調査のためだった。
まずは自分で使用してみなければと思った。
―――だけどその日から俺は、リビドーを使い続けている。
人間界に下りた俺が向かったのは、国重の部屋。
四十路の独身男に相応しく、汚れきった部屋だった。
資料の職業の欄に「探偵」とあったから、事務所兼自宅なのかと思ったけど……
ここが事務所じゃ、客が逃げ出すだろう。
そして、敷かれている布団を見ると、リビドーをつけた男が眠っていた。
【クロノ】
「国重昂正、42歳、男、探偵…」
じいからもらった資料に書いてあるプロフィールを読みながら、
目の前で眠っている国重を見下ろす。
【クロノ】
「リビドーを使ってるのは、刑事を辞めたことと関係あるのかな」
【アンク】
「警察関係の仕事は、色々な面で厳しいと聞きますが…。本当の理由はわかりませんな」
【クロノ】
「寝顔は安らかだね。良い夢を見れてるらしい」
【クロノ】
「穏やかな眠りを提供することが、リビドーの力?」
【アンク】
「そうとも言えますね。夢主の願望が実現している状態ですので」
【クロノ】
「ふうん。この人、どんな夢を見てるのかな」
【クロノ】
「結婚もしてないし…」
【クロノ】
「昔の恋人の夢でも見てたりして」
【アンク】
「そうかもしれませんな」
【クロノ】
「でも42歳っていったら結構な歳なのに、なんで結婚してないんだろう」
【クロノ】
「資料によると、探偵始める前はエリート警察だったって言うし」
【クロノ】
「今だってそんな金に困ってそうな感じはないし、結構見た目もいい」
【クロノ】
「女が放っておかなそうなもんだけど」
【アンク】
「人生色々ありますからなあ、仕事人間だったのかもしれませんぞ」
【クロノ】
「仕事に命を捧げてたんだとしても、あと少しで死ぬ運命なんだから、虚しいもんだ」
【アンク】
「このままですと…13日後には、そうなりますな」
【アンク】
「調査が上手く行けば……寿命が伸びるやもしれませんが」
【クロノ】
「まあ……頑張ってみるよ」
国重は、元刑事なだけあって、年の割りに体格はしっかりしている。
若い頃なんか、そりゃもうモテただろう。
でも顔つきは、少し影のあるおっさんって感じだ。
多分、その影ってやつが、リビドーを使うことになったきっかけなんだろう。
壁にかかった時計を見ると、丁度午前0時になろうとしていた。
【クロノ】
「日付が変わるか。そろそろ夢への介入を始める」
【アンク】
「承知いたしました。初めての試みですので、どうぞお気をつけて」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触してもいいの?」
【アンク】
「過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
【クロノ】
「お戯れ? ふーん、俺が何かすると思ってるわけ?」
【アンク】
「色々前科がございますからな、クロノ様には」
じいのジト目を笑顔でかわす。
前科っていう言葉に対して、身に覚えがあるからだ。
【クロノ】
「安心して。いくら俺でも、期限の近付いてる仕事の最中に、イタズラはしない」
【クロノ】
「これでも死神の端くれなんで、一応弁えてるつもり」
国重が寝ている布団の横に、ごろんと寝転がる。
じいに言われるまでもなく、人間なんかに深入りするつもりはない。
【アンク】
「なら宜しいんですがね」
【アンク】
「……とにかく、注意していただきたいことはもう一つあります」
じいが、俺に向かって手をかざす。
それを合図に、俺は軽く目を閉じた。
【アンク】
「夢に引きずられないように、お気をつけて」
どういう意味だと訊く前に、ヘッドセット被せられ―――
――意識が、どんどん沈んでいくような感覚に襲われる。
【クロノ】
(夢に入るなんて初めてだし、無茶する気はないけど)
それにしても……
他人の夢に入るってどんな気分なんだろうな、と不意に思う。
【クロノ】
(他人の欲望にまみれた夢の中か……。やっぱ面倒)
【クロノ】
「うわ……!」
突然、急降下するような感覚に襲われて、慌てて目を開けると、そこは――
【クロノ】
「……庭園?」
色とりどりの花、晴れ渡る空に、飛び交う小鳥。まるで天界だ。
【クロノ】
(まあ、あんまり行ったこともないし…、様変わりしてるかもしれないけど)
だけど、大概の人間が持っている楽園のイメージは、こんなものだろう。
辺りを見回すが、国重の姿はない。
花畑の中、小枝や茂みを避けて歩くのがかったるくて、俺は飛んで移動することにした。
【クロノ】
(これが国重の憧憬夢か…)
【クロノ】
(意外とロマンチストなのか? 人は見かけによらないな)
しばらくして、花畑の中心に東屋を見つけた。
東屋にはベンチがあり、そこに人影を見つけた。
―――国重だ。隣に誰かいる。二人は寄り添って座っていた。
相手は、体格から男だとわかる。
【クロノ】
(男…? 兄弟か、親友…?)
だけど、見つめ合っている二人の距離がやけに近い。
【国重 昂正】
「薔薇を摘んできたのか? 本当に夏透(かおる)は、そういうの好きだな」
夏透と呼ばれた男は、手に持った黄色い薔薇の匂いをかいだ。