[本編] 綾 上総 編
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俺はもう一度、鎌を生成して構える。
こっちが攻撃しなくても、ユリスが上総に危害を加えるのなら、いっそ一気に片を付けてしまった方がいい。
そして――、上総の気持ちに早く応えてやりたい。
今すぐに抱き締めてやれたらいいと思った。
俺が鎌を構えるのを見て、ユリスの顔がはっきりと歪む。
敵意をむき出しにして、殺意を隠さない。
【ユリス】
「この状況でイチャつきだしたと思ったら、今度は俺に歯向かおうっての?」
【クロノ】
「そういうことになるな」
【クロノ】
「まあ元々、なにもしないで、じっとしているつもりもなかったけどね」
【ユリス】
「いいのかよ?このクズが死ぬぜ?」
ユリスの鎌は、上総の首に当てられている。
あのまま少し力を入れたら、上総の首はいとも容易く落ちるだろう。
けど、だからといって、じっとしていたって変わらないことはもう分かったし。
【クロノ】
(ユリスの懐に踏み込むか、ユリスを上総から引き離すか…)
どちらにしても、失敗は許されない。
【クロノ】
(なにか使えそうな物はないか…?)
そう思って見渡し、俺の右手側にある、中央の彫刻から水が上がる噴水に狙いを付けた。
俺は、ユリスに勘付かれないように少しずつ右へ移動していく。
【綾 上総】
「クロノ、俺に構うな!そう簡単に死にゃしねーよ」
【ユリス】
「お前は黙ってろよ!どうせなんも出来ないまま、死んでいく運命なんだからさ」
ユリスは俺から目を離さないまま、上総を怒鳴りつけた。
そして、変に落ち着いた顔をして、俺を見つめた。
【ユリス】
「いいか?これが最後の忠告だからな」
【ユリス】
「今すぐ鎌を消せ。俺に服従すれば許してやる」
言い終えると、ユリスは途端に顔を歪めた。
胸の傷から血が流れ、とうとう脚の方まで赤く染め始めている。あれでは、いくら死神でも辛いだろう。
【ユリス】
「俺に服従するなら、このクズの命も助けてやるよ」
【クロノ】
「………服従って、なにをすればいいわけ?」
【ユリス】
「クロノには簡単なことだって!お前が、俺に奉仕すんの」
【クロノ】
「ここで?」
【ユリス】
「ここでだよ!今すぐに!」
【クロノ】
「上総が見てるけど、いいの?お前」
【ユリス】
「はあ?!それで困るのはクロノの方だろ?」
【クロノ】
「……ユリス」
俺は、出来るだけいつも通りの表情を装った。
持っているのがだるくなったという顔をして、鎌の柄を右肩に当てる。
【クロノ】
「俺は……」
鎌を強く握り直し――
【クロノ】
「お前じゃ勃たない」
言葉と同時に、鎌を勢いよく噴水へと振り下ろす。
中央の彫刻を砕くと、勢いよく四方へ吹き出した水と一緒に、彫刻の破片が飛び散った。
ユリスが咄嗟に腕で顔を庇った隙に、上総から離れるように蹴り倒した。
【ユリス】
「ぐあっ……!!クロノ、お前……ッ!!」
水溜りへと蹴り飛ばされたユリスが、振り返って怒鳴るけど、関係ない。
俺は最初から…
上総のことしか、見えていない。上総の手をとることが出来れば、それでいいんだ。
【クロノ】
「上総!!」
あの頃、俺はずっと、手を伸ばしていたんだ。
誰かに助けてほしくて。
父親や、母親や、友達に、助けてもらいたくて。
「誰からも愛されない」なんて不安を、消そうとすればするほど虚無感が募っていく。
そんな世界から、助け出してほしかった。
それには、誰かがこの手を握り返してくれるだけでよかったんだ。
――でもそんなこと、現実ではありえない。
伸ばした手を振り払われる度に。素通りされる度に。
俺は次第に手を伸ばせなくなっていって……、いつしか伸ばすのをやめてしまった。
上総を拘束している化物へ斬り掛かる。
化物は全く抵抗をしない。ユリスの命令がないからだろうか。
触手を切られようが、打撃を与えられようが。
微動だにせず、ただ上総を抱えている。
【ユリス】
「クソが!!」
ユリスが切り掛かってきたけど、鎌の柄で軽く体を突いてやる。ユリスは息を詰まらせ、しゃがみ込んだ。
【ユリス】
「化物っ! 上総を殺せ…っ!」
噎せながら、ユリスは命令を下す。
化物が動き出した。
触手は上総の首を絞めようと動き、クマは空いた腕を振り上げる。
【クロノ】
「させないって」
首に絡んだ触手を切り落とし、クマの腕を柄で弾き返す。
【クロノ】
「上総!あと少しだから!!」
憧憬夢なんて、俺の願望でしかない空虚な世界だと分かっていた。
――だけど。
周りから手を差しのべられて。愛していると伝えられて。
子供の俺が手を伸ばしても、誰も振り払ったりしない。
次第に、その光景の心地良さから離れられなくなっていった。
現実が、どんなに冷え冷えとした世界でも、ここに来れば大丈夫だって。
俺の欲しいものは、夢の中でしか得られないからって、憧憬夢へと逃げ込んだ。
こんなのは現実逃避だって、分かっていたけど。
俺の現実は、変わらないから。
俺の一生は、このまま終わるんだと思ってた。
―――そこに現れたのが、本当に、変なヤツで。
俺の夢にいきなり現れて、初対面で「死ぬ」とか言ってきて。
本当に、ムカつくヤツだと思ってたのに。
………なあ、クロノ。俺、分かんねーよ。
なんで、仕事で来てただけのくせに。
俺みたいなクズを心配して、何度も助けに来てくれたんだよ。
俺なんかを救いたいなんて言ったんだよ。生きててほしいなんて言うんだよ。
今まで誰もしてくれなかったこと全部、会って間もないあんたがしてくれるんだよ。
【綾 上総】
(あの日、あんたは俺に手を差しのべた)
だから、俺も手をのばすよ。
今、この瞬間だけは、もうなにも恐れずに。
腕の拘束が解かれた瞬間、上総の手が、俺へとまっすぐに伸びた。
俺は上総に笑いかける。
そして、上総の手を強く握り返した。
上総の手を引っ張ると、化物の拘束が完全に解けた。
そのまま腕を引いて、上総の体を抱きとめる。
【クロノ】
「上総…」
【クロノ】
「無事でよかった」
俺がそう言うと、上総は驚いたように目を瞠って。
それから、俺の肩に顔を埋めるようにして、ぎゅっと抱きついてきた。
俺は上総の髪に頬を寄せて、強く抱きしめた。
クロノの腕の中で、夢のようなことを考えた。
……もしかしたら。
俺から手を伸ばせば、親父との関係も変わるかな。
一回目はダメかもしれない。それでまた、傷つくかもしれない。
でも、もしも俺が諦めなかったら。
なにかが、変わるかもしれない。
そして俺は、その日が来るまで諦めないでいられるんじゃないか?
その日まで、俺は負けないでいられる。今度こそ……。
そんな夢みたいなことが、現実で叶うって。
クロノの腕の中では、そんな風に思えた。
【ユリス】
「お前等!クソックソックソッ!!!」
【ユリス】
「ブチ殺す!!ぜってー殺す!!!!」
ユリスの怒声を背に、俺は。
偽物の俺の綻びを切った。偽物の俺が、音もなく霧散する。
もう一体、クマの綻びも切ろうとした時。
上総が、クマの方へと振り返った。
睫毛を透かして見る上総の瞳は、何故だかとても綺麗だった。
綻びを切ると、クマは音もなく消えていった。
上総は、クマが完全に消えるまで、じっと見つめていた。
こっちが攻撃しなくても、ユリスが上総に危害を加えるのなら、いっそ一気に片を付けてしまった方がいい。
そして――、上総の気持ちに早く応えてやりたい。
今すぐに抱き締めてやれたらいいと思った。
俺が鎌を構えるのを見て、ユリスの顔がはっきりと歪む。
敵意をむき出しにして、殺意を隠さない。
【ユリス】
「この状況でイチャつきだしたと思ったら、今度は俺に歯向かおうっての?」
【クロノ】
「そういうことになるな」
【クロノ】
「まあ元々、なにもしないで、じっとしているつもりもなかったけどね」
【ユリス】
「いいのかよ?このクズが死ぬぜ?」
ユリスの鎌は、上総の首に当てられている。
あのまま少し力を入れたら、上総の首はいとも容易く落ちるだろう。
けど、だからといって、じっとしていたって変わらないことはもう分かったし。
【クロノ】
(ユリスの懐に踏み込むか、ユリスを上総から引き離すか…)
どちらにしても、失敗は許されない。
【クロノ】
(なにか使えそうな物はないか…?)
そう思って見渡し、俺の右手側にある、中央の彫刻から水が上がる噴水に狙いを付けた。
俺は、ユリスに勘付かれないように少しずつ右へ移動していく。
【綾 上総】
「クロノ、俺に構うな!そう簡単に死にゃしねーよ」
【ユリス】
「お前は黙ってろよ!どうせなんも出来ないまま、死んでいく運命なんだからさ」
ユリスは俺から目を離さないまま、上総を怒鳴りつけた。
そして、変に落ち着いた顔をして、俺を見つめた。
【ユリス】
「いいか?これが最後の忠告だからな」
【ユリス】
「今すぐ鎌を消せ。俺に服従すれば許してやる」
言い終えると、ユリスは途端に顔を歪めた。
胸の傷から血が流れ、とうとう脚の方まで赤く染め始めている。あれでは、いくら死神でも辛いだろう。
【ユリス】
「俺に服従するなら、このクズの命も助けてやるよ」
【クロノ】
「………服従って、なにをすればいいわけ?」
【ユリス】
「クロノには簡単なことだって!お前が、俺に奉仕すんの」
【クロノ】
「ここで?」
【ユリス】
「ここでだよ!今すぐに!」
【クロノ】
「上総が見てるけど、いいの?お前」
【ユリス】
「はあ?!それで困るのはクロノの方だろ?」
【クロノ】
「……ユリス」
俺は、出来るだけいつも通りの表情を装った。
持っているのがだるくなったという顔をして、鎌の柄を右肩に当てる。
【クロノ】
「俺は……」
鎌を強く握り直し――
【クロノ】
「お前じゃ勃たない」
言葉と同時に、鎌を勢いよく噴水へと振り下ろす。
中央の彫刻を砕くと、勢いよく四方へ吹き出した水と一緒に、彫刻の破片が飛び散った。
ユリスが咄嗟に腕で顔を庇った隙に、上総から離れるように蹴り倒した。
【ユリス】
「ぐあっ……!!クロノ、お前……ッ!!」
水溜りへと蹴り飛ばされたユリスが、振り返って怒鳴るけど、関係ない。
俺は最初から…
上総のことしか、見えていない。上総の手をとることが出来れば、それでいいんだ。
【クロノ】
「上総!!」
あの頃、俺はずっと、手を伸ばしていたんだ。
誰かに助けてほしくて。
父親や、母親や、友達に、助けてもらいたくて。
「誰からも愛されない」なんて不安を、消そうとすればするほど虚無感が募っていく。
そんな世界から、助け出してほしかった。
それには、誰かがこの手を握り返してくれるだけでよかったんだ。
――でもそんなこと、現実ではありえない。
伸ばした手を振り払われる度に。素通りされる度に。
俺は次第に手を伸ばせなくなっていって……、いつしか伸ばすのをやめてしまった。
上総を拘束している化物へ斬り掛かる。
化物は全く抵抗をしない。ユリスの命令がないからだろうか。
触手を切られようが、打撃を与えられようが。
微動だにせず、ただ上総を抱えている。
【ユリス】
「クソが!!」
ユリスが切り掛かってきたけど、鎌の柄で軽く体を突いてやる。ユリスは息を詰まらせ、しゃがみ込んだ。
【ユリス】
「化物っ! 上総を殺せ…っ!」
噎せながら、ユリスは命令を下す。
化物が動き出した。
触手は上総の首を絞めようと動き、クマは空いた腕を振り上げる。
【クロノ】
「させないって」
首に絡んだ触手を切り落とし、クマの腕を柄で弾き返す。
【クロノ】
「上総!あと少しだから!!」
憧憬夢なんて、俺の願望でしかない空虚な世界だと分かっていた。
――だけど。
周りから手を差しのべられて。愛していると伝えられて。
子供の俺が手を伸ばしても、誰も振り払ったりしない。
次第に、その光景の心地良さから離れられなくなっていった。
現実が、どんなに冷え冷えとした世界でも、ここに来れば大丈夫だって。
俺の欲しいものは、夢の中でしか得られないからって、憧憬夢へと逃げ込んだ。
こんなのは現実逃避だって、分かっていたけど。
俺の現実は、変わらないから。
俺の一生は、このまま終わるんだと思ってた。
―――そこに現れたのが、本当に、変なヤツで。
俺の夢にいきなり現れて、初対面で「死ぬ」とか言ってきて。
本当に、ムカつくヤツだと思ってたのに。
………なあ、クロノ。俺、分かんねーよ。
なんで、仕事で来てただけのくせに。
俺みたいなクズを心配して、何度も助けに来てくれたんだよ。
俺なんかを救いたいなんて言ったんだよ。生きててほしいなんて言うんだよ。
今まで誰もしてくれなかったこと全部、会って間もないあんたがしてくれるんだよ。
【綾 上総】
(あの日、あんたは俺に手を差しのべた)
だから、俺も手をのばすよ。
今、この瞬間だけは、もうなにも恐れずに。
腕の拘束が解かれた瞬間、上総の手が、俺へとまっすぐに伸びた。
俺は上総に笑いかける。
そして、上総の手を強く握り返した。
上総の手を引っ張ると、化物の拘束が完全に解けた。
そのまま腕を引いて、上総の体を抱きとめる。
【クロノ】
「上総…」
【クロノ】
「無事でよかった」
俺がそう言うと、上総は驚いたように目を瞠って。
それから、俺の肩に顔を埋めるようにして、ぎゅっと抱きついてきた。
俺は上総の髪に頬を寄せて、強く抱きしめた。
クロノの腕の中で、夢のようなことを考えた。
……もしかしたら。
俺から手を伸ばせば、親父との関係も変わるかな。
一回目はダメかもしれない。それでまた、傷つくかもしれない。
でも、もしも俺が諦めなかったら。
なにかが、変わるかもしれない。
そして俺は、その日が来るまで諦めないでいられるんじゃないか?
その日まで、俺は負けないでいられる。今度こそ……。
そんな夢みたいなことが、現実で叶うって。
クロノの腕の中では、そんな風に思えた。
【ユリス】
「お前等!クソックソックソッ!!!」
【ユリス】
「ブチ殺す!!ぜってー殺す!!!!」
ユリスの怒声を背に、俺は。
偽物の俺の綻びを切った。偽物の俺が、音もなく霧散する。
もう一体、クマの綻びも切ろうとした時。
上総が、クマの方へと振り返った。
睫毛を透かして見る上総の瞳は、何故だかとても綺麗だった。
綻びを切ると、クマは音もなく消えていった。
上総は、クマが完全に消えるまで、じっと見つめていた。
