[本編] 綾 上総 編
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【岩下】
「待って下さい!救護室に……!」
岩下の制止を振り切るように会社を出て、昼の街を歩く。
俺と無関係な、他人ばかりが行き交うこの街を。
【綾 上総】
「くそ……ッ。早く帰って来いよ、クロノ…」
【綾 上総】
「訊きたいことが山のようにあるんだよ…!」
【クロノ】
「ユリスの奴、最近、急に魂狩りの成績上位者になったから、なんか変だと思ってはいたけど」
【クロノ】
「ユリスの成績が上がりだした時期と、リビドー死亡者が増えた時期が、こうもぴったり重なるとはね」
【アンク】
「狩った魂も、リビドー使用者のものが大半でございました」
じいは、覚悟を決めたような、でもまだ躊躇っているような、複雑な表情をした。
【アンク】
「…偶然にしては、出来すぎています…」
【クロノ】
「これは偶然と思うより、故意と判断する方が自然だね」
【クロノ】
「リビドーを使って人が死ぬ。犯人は、それで得する奴だと思ってた」
【クロノ】
「それは…」
【クロノ】
「一番得をするのは死神かなって、考えてはいたけど…」
【アンク】
「死神仲間を疑いたくはなかったのですが…」
【クロノ】
「俺だって気分良くないよ、こんなの。
でもこれは、同情で許していいことじゃない」
【クロノ】
「ユリスのところへ行こう。……確認しないといけない」
【綾 上総】
「うっぜぇ……」
俺は道の端にしゃがみ込んで目を閉じた。
もう、うんざりだ。なにも見たくない。
幽霊のようにフラフラと、力なく歩き続けていた俺を、すれ違うヤツらは酔っ払いかなにかだと思ったらしく、
一様に嫌悪感を露にして、俺を避けた。その顔を、もう見たくなかった。
――子供の笑い声がして、なんとなく目を開ける。
小学生くらいの少年とその父親が、手を繋いで歩いているのが見えた。
【小学生】
「それでね、みっちゃんがやっつけたんだよ、お父さん!」
【父親】
「凄いな。みっちゃんは本当、男らしい子だな」
【小学生】
「俺だってやろうとしたけど、みっちゃんが先に…!」
【父親】
「分かってる分かってる。タケシは俺の自慢の息子だからな」
【小学生】
「うん!えへへ」
……二人はとても幸せそうで、輝いていた。
親子で楽しそうに会話が出来るなんて、羨ましすぎて目眩がした。
俺にはなかったもの。与えられなかったもの。
その全てを、あの子供は持っている。全て持っていて、しかも未来があるんだ。
俺みたいに死が決定してる人間とは違う。
【綾 上総】
「ずるい……、だろ」
【綾 上総】
「不公平だろ…。…なんで…」
そんな言葉が、口を衝いて出た。
親子は、俺に気付きもせず通り過ぎていく。
その背中を見ていたら、あまりにも自分が惨めに思えた。
【綾 上総】
「なんで俺は、もらえないんだよ…」
…なにが、こんなに違うんだろう。
なんで、俺とは違うんだろう。
――俺は、小学生の頃のことを、思い出していた。
――クラスで学級新聞を作る事になって。
俺と友達のサトシが、新聞係に抜擢された。
クラスメイトのことを取材したり、四コマ漫画を描いたり――
【子供の上総】
「お父さん、これ見て!俺が作ったんだよ」
夕食の席で、俺は誇らしげに、親父に新聞を見せた。
凄く頑張って作った新聞だった。生まれて初めてってくらい一生懸命取り組んだ。
完成した新聞を先生もクラスの皆も、誉めてくれて――
【綾 一輝】
「それは、今見せなければならない物か?」
意気揚々と新聞を見せた俺は、期待と違いすぎる親父の反応に顔色を失った。
【綾 上総】
「で、でも……、先生もよく頑張ったって言ってくれて…」
――そりゃ、子供の作る物だから、全然面白くない。
今見たら俺だって、『なんだこれ』なんて、笑うだろうけど。
だけど――
【綾 一輝】
「それより、テストが近かったと思ったが」
【上総の母親】
「そうでしたわね。上総、テスト勉強は捗っているの?」
【上総の母親】
「中学受験も近いのよ。しっかりしてくれないと」
――テストが近いのは分かっていた。
だけど、俺は勉強よりも、新聞作りに力を入れていた――
【子供の上総】
「で、でも…」
【綾 一輝】
「言い訳は必要ない。言い訳なんてクズのすることだ」
――俺は今でも、優先順位を間違えたなんて思っていない――
【子供の上総】
「でも、俺、頑張ったんだよ!」
【子供の上総】
「こんなに頑張って、なにかを作ったの、初めてなんだよ!」
【綾 一輝】
「もう話は済んだ」
【綾 一輝】
「私は忙しい。お前にばかり、感けている暇はない」
【子供の上総】
「パパ……」
【上総の母親】
「お父様の言う通りですよ?お父様はお忙しいのに、上総は我儘ばかり言って…」
――お袋はいつだって、正しいのは親父で、間違っているのは俺だと言う――
【上総の母親】
「それより一輝さん、今度のヨーロッパ出張、私もご一緒致しますわ」
【上総の母親】
「上総の世話は、家政婦に任せてありますので」
そしていつも、俺のことは家政婦に任せっぱなし。
【綾 一輝】
「そうか。では頼むとしよう」
――親父も、今と同じだ。俺に、愛情を注いでくれたことなんてない――
二人は仕事の話や打ち合わせをしながら、リビングから出て行った。
俺は、そっと新聞を折り畳んで、テーブルの上に置いた。
ここに置いておけば、明日の朝、親父が見てくれるんじゃないかと思ったんだ。
――けど、翌朝。
ゴミ箱の中に、俺の新聞が捨てられていた。
もう、涙すら出なかった。
あの時、なにかを失った。愛されることを、あの瞬間に諦めてしまったような気がする。
――けど、ずっと心の片隅で叫んでいたような気がする。
……誰か。誰でもいいから。俺を愛してくれないか。
あの時から、…大人になった今でも、俺は―――ずっと、求めている。
俺とじいは、ユリスの家に来ていた。
これで真実が明らかになればいいと願っていたけれど。
ユリスの家で、俺達は愕然として、立ち尽くしていた。
【クロノ】
「ここ、ユリスが暮らしてると思う…?」
【アンク】
「いいえ…。正に、もぬけの殻でございますな…」
それは、小さいけれど強烈な違和感だった。生活に必要な物が、一切見当たらない。
じいと他の部屋も見てみたけど、やっぱり生活感が全くない。
【アンク】
「考えたくはありませんが…。逃げたのでしょうか?」
「待って下さい!救護室に……!」
岩下の制止を振り切るように会社を出て、昼の街を歩く。
俺と無関係な、他人ばかりが行き交うこの街を。
【綾 上総】
「くそ……ッ。早く帰って来いよ、クロノ…」
【綾 上総】
「訊きたいことが山のようにあるんだよ…!」
【クロノ】
「ユリスの奴、最近、急に魂狩りの成績上位者になったから、なんか変だと思ってはいたけど」
【クロノ】
「ユリスの成績が上がりだした時期と、リビドー死亡者が増えた時期が、こうもぴったり重なるとはね」
【アンク】
「狩った魂も、リビドー使用者のものが大半でございました」
じいは、覚悟を決めたような、でもまだ躊躇っているような、複雑な表情をした。
【アンク】
「…偶然にしては、出来すぎています…」
【クロノ】
「これは偶然と思うより、故意と判断する方が自然だね」
【クロノ】
「リビドーを使って人が死ぬ。犯人は、それで得する奴だと思ってた」
【クロノ】
「それは…」
【クロノ】
「一番得をするのは死神かなって、考えてはいたけど…」
【アンク】
「死神仲間を疑いたくはなかったのですが…」
【クロノ】
「俺だって気分良くないよ、こんなの。
でもこれは、同情で許していいことじゃない」
【クロノ】
「ユリスのところへ行こう。……確認しないといけない」
【綾 上総】
「うっぜぇ……」
俺は道の端にしゃがみ込んで目を閉じた。
もう、うんざりだ。なにも見たくない。
幽霊のようにフラフラと、力なく歩き続けていた俺を、すれ違うヤツらは酔っ払いかなにかだと思ったらしく、
一様に嫌悪感を露にして、俺を避けた。その顔を、もう見たくなかった。
――子供の笑い声がして、なんとなく目を開ける。
小学生くらいの少年とその父親が、手を繋いで歩いているのが見えた。
【小学生】
「それでね、みっちゃんがやっつけたんだよ、お父さん!」
【父親】
「凄いな。みっちゃんは本当、男らしい子だな」
【小学生】
「俺だってやろうとしたけど、みっちゃんが先に…!」
【父親】
「分かってる分かってる。タケシは俺の自慢の息子だからな」
【小学生】
「うん!えへへ」
……二人はとても幸せそうで、輝いていた。
親子で楽しそうに会話が出来るなんて、羨ましすぎて目眩がした。
俺にはなかったもの。与えられなかったもの。
その全てを、あの子供は持っている。全て持っていて、しかも未来があるんだ。
俺みたいに死が決定してる人間とは違う。
【綾 上総】
「ずるい……、だろ」
【綾 上総】
「不公平だろ…。…なんで…」
そんな言葉が、口を衝いて出た。
親子は、俺に気付きもせず通り過ぎていく。
その背中を見ていたら、あまりにも自分が惨めに思えた。
【綾 上総】
「なんで俺は、もらえないんだよ…」
…なにが、こんなに違うんだろう。
なんで、俺とは違うんだろう。
――俺は、小学生の頃のことを、思い出していた。
――クラスで学級新聞を作る事になって。
俺と友達のサトシが、新聞係に抜擢された。
クラスメイトのことを取材したり、四コマ漫画を描いたり――
【子供の上総】
「お父さん、これ見て!俺が作ったんだよ」
夕食の席で、俺は誇らしげに、親父に新聞を見せた。
凄く頑張って作った新聞だった。生まれて初めてってくらい一生懸命取り組んだ。
完成した新聞を先生もクラスの皆も、誉めてくれて――
【綾 一輝】
「それは、今見せなければならない物か?」
意気揚々と新聞を見せた俺は、期待と違いすぎる親父の反応に顔色を失った。
【綾 上総】
「で、でも……、先生もよく頑張ったって言ってくれて…」
――そりゃ、子供の作る物だから、全然面白くない。
今見たら俺だって、『なんだこれ』なんて、笑うだろうけど。
だけど――
【綾 一輝】
「それより、テストが近かったと思ったが」
【上総の母親】
「そうでしたわね。上総、テスト勉強は捗っているの?」
【上総の母親】
「中学受験も近いのよ。しっかりしてくれないと」
――テストが近いのは分かっていた。
だけど、俺は勉強よりも、新聞作りに力を入れていた――
【子供の上総】
「で、でも…」
【綾 一輝】
「言い訳は必要ない。言い訳なんてクズのすることだ」
――俺は今でも、優先順位を間違えたなんて思っていない――
【子供の上総】
「でも、俺、頑張ったんだよ!」
【子供の上総】
「こんなに頑張って、なにかを作ったの、初めてなんだよ!」
【綾 一輝】
「もう話は済んだ」
【綾 一輝】
「私は忙しい。お前にばかり、感けている暇はない」
【子供の上総】
「パパ……」
【上総の母親】
「お父様の言う通りですよ?お父様はお忙しいのに、上総は我儘ばかり言って…」
――お袋はいつだって、正しいのは親父で、間違っているのは俺だと言う――
【上総の母親】
「それより一輝さん、今度のヨーロッパ出張、私もご一緒致しますわ」
【上総の母親】
「上総の世話は、家政婦に任せてありますので」
そしていつも、俺のことは家政婦に任せっぱなし。
【綾 一輝】
「そうか。では頼むとしよう」
――親父も、今と同じだ。俺に、愛情を注いでくれたことなんてない――
二人は仕事の話や打ち合わせをしながら、リビングから出て行った。
俺は、そっと新聞を折り畳んで、テーブルの上に置いた。
ここに置いておけば、明日の朝、親父が見てくれるんじゃないかと思ったんだ。
――けど、翌朝。
ゴミ箱の中に、俺の新聞が捨てられていた。
もう、涙すら出なかった。
あの時、なにかを失った。愛されることを、あの瞬間に諦めてしまったような気がする。
――けど、ずっと心の片隅で叫んでいたような気がする。
……誰か。誰でもいいから。俺を愛してくれないか。
あの時から、…大人になった今でも、俺は―――ずっと、求めている。
俺とじいは、ユリスの家に来ていた。
これで真実が明らかになればいいと願っていたけれど。
ユリスの家で、俺達は愕然として、立ち尽くしていた。
【クロノ】
「ここ、ユリスが暮らしてると思う…?」
【アンク】
「いいえ…。正に、もぬけの殻でございますな…」
それは、小さいけれど強烈な違和感だった。生活に必要な物が、一切見当たらない。
じいと他の部屋も見てみたけど、やっぱり生活感が全くない。
【アンク】
「考えたくはありませんが…。逃げたのでしょうか?」