[本編] 綾 上総 編
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碌な会話が出来そうにないな僕は落ちる
またねーwww
やれやれ、ガキがいるチャットだなんて聞いてねーぞ
あ?www
ガキって誰のことだよwww
なに?www偉そうにwww
ハッキングしてやろうか?www
やれるもんならやってみろよ、スーパーハッカー様?
チャットの内容はどんどん険悪になっていき、これ以上見ていても意味がなさそうだ。
画面を見つめる綾の表情にも剣呑としたものが混じり出す。
俺は画面から離れ、キーボードを叩いている綾の後ろで考え込む。
【クロノ】
(大した情報は得られなかったけど…)
【クロノ】
(LIPが何なのかも、結局分からずじまいだし…)
【クロノ】
(paraiso関連を一通り、じいに調査してもらうか)
俺が今後の方針を決めたところで、丁度、キーを叩く音が止まった。
綾が、パソコンの電源を落としていた。
さっきまで、ネットで喧嘩腰だったのが嘘のように、ケロリとしている。
綾はそのままキッチンまで歩いていき、高そうなワインを開けて、直接口をつけて飲む。
雫が床に零れても気にする様子はない。
そうして飲むだけ飲んだら、ボトルをテーブルの上に置きっぱなしにして、寝室へ戻ってきた。
ベッドに潜り込むと、寝転がったままリビドーを装着して、そのまま目を閉じる。
すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、綾の顔に笑みが浮かんだ。
【クロノ】
(憧憬夢を見始めたのか)
覗き込んだ綾の寝顔は…
【クロノ】
(こうやって黙ってれば、顔もいいし、可愛いんだけど)
【クロノ】
「…っと、仕事仕事」
俺もリビドーを装着し、横になる。
そして、じいに教えてもらったやり方で、リビドーを起動した。
【クロノ】
「う、っく…」
今回で二度目だけど、誰かの夢に入るときの不快感には慣れそうにもない。
衝撃で少しフラつく頭を横に振りながら、目を開ける。
【クロノ】
「ここは…」
昨日と同じ、遊園地だった。
原色の光の洪水の中に、相変わらず人の姿はない。
【クロノ】
「今日も貸切とかぬかすわけ?」
返事がないのはわかっていたが、思わず嫌味の一つも言いたくなる。
綾を探しながら歩いていくと、お化け屋敷を見つけた。
【クロノ】
「そういえば昨日、お化け屋敷に入りたいとか言ってたな…」
昨日の綾と父親の会話を思い出し、お化け屋敷に入ってみることにした。
おばけ屋敷の中は真っ暗だった。
空気はひんやりとしていて、不気味な雰囲気はあるけど。
お化けが嚇かしてくるような仕掛けは一つもなく。
ただ、何もない暗闇が続いているだけだ。
【クロノ】
「本当はお化け、怖いんじゃないのか?」
【クロノ】
「お化け屋敷の中身がなにもないんじゃ、そう疑われるぞ」
言いながら、ゆっくりと歩みを進める。
ほとんど何も見えない状態が長く続き、そろそろ、これは戻った方がいいかもしれないと思い始めた時。
遠くの方に、ぼんやりと灯りが見えた。
ゆっくりと、灯りに近寄っていく。
その光は四角い形をしていて。
その前には、誰か人がいる。
この二つが明確になった時、カシャカシャという音も聞こえるようになった。
【クロノ】
(キーボードを叩いている音か?)
もっと近寄ってみる。
暗闇の中で、子供の姿をした綾が、父親の膝の上に座ってPCを操作していた。
【クロノ】
「……何やってるの?」
【子供の上総】
「うわ、昨日の人だ。本当に来たの?」
【クロノ】
「また明日、って言っただろ?」
【子供の上総】
「邪魔するなよ。これから、パパに大事な報告をするんだからな」
【クロノ】
「こんな暗い所で?」
綾の瞳に感情はなく、モニターの光が無機質に反射していた。
綾を膝に乗せた父親は、微動だにしない。
……異様な光景だった。
俺はそっと、画面を覗き込む。
画面に映し出されていたのは、昼間の仕事で話していた、大沢商事からのメール画面だった。
そこには、感謝の文が綴られている。
【綾 一輝】
「お前が取引を成功させてくれたから、我が社も安泰だ」
【綾 一輝】
「偉いぞ!さすが可愛い俺の息子だ!」
【子供の上総】
「へへ、俺、これからも頑張るよ!」
父親は満面の笑みを浮かべて、綾の頭を撫でている。
それを受ける綾も、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
……そんなやり取りをいつまでも続けようとしている。
俺はまた、呆れてため息をついた。
【クロノ】
(夢で褒められても、しょうがないだろうに……)
【クロノ】
(……もしかして、現実では評価されたり、褒められた事がないってことか?)
【クロノ】
(人の心はなかなか動かせないって事を知っているから…憧憬夢にして見てるのか?)
【クロノ】
(いくら金を積んでも動かせないものがあるってことを、理解してるんだろうか)
そこまで考えた時、ピンと閃いた。
子供の姿をした夢の中の綾と、現実世界の綾。
夢の中の父親と、現実世界の父親。
二つのギャップ……。
【クロノ】
「もしかして、綾の願望……、綾が欲しいものって」
綾が『絶対に与えてもらえない』と思っているもの。
【クロノ】
「父親からの愛情?」
【クロノ】
「だから夢の中では、愛されている自分を演じている?」
子供の姿をした綾に、はっきり聞こえるように問いを重ねる。
【クロノ】
「だから、自分を愛してくれる父親を、夢に登場させたのか?」
【クロノ】
(親に愛されなかった人間が、こうやって、愛される自分を夢に見る)
【クロノ】
(もしそうなら、それはあまりに……)
俺の言葉を聞いても、綾には何の変化もなかった。
ただ、無邪気な様子で、遊ぶようにキーボードを打ち続けている。
綾の仕草は、拙くて不器用そうで、子供特有のものだった。
――精神的にも子供に戻れるものでしょうか?
じいの言葉を思い出す。
【クロノ】
(確認してみよう。この子供の綾は、何かおかしい気がする)
【クロノ】
「綾は父親からの愛が欲しくて、こんな夢を見ているの?」
【子供の上総】
「夢?あんた、なに言ってるの?」
【クロノ】
「現実では、あんたは父親に愛されていないんだろ?」
少しきつめに言うと、綾が振り返った。
その顔には不快感と、どこか驚いたような表情が入り混じっていた。
【子供の上総】
「はあ? 現実? 何それ。あんた頭おかしいの?」
【クロノ】
「……本当に分からないのか? これが夢だってこと」
【子供の上総】
「夢なわけないだろ。あんた、もういい加減、どっか行ってよ」
そう言うと、綾は父親の胸に顔を埋めて、それ以上の会話を拒否するように背中を向けてしまった。
小さな背中を眺めながら、俺は口元に手をやって考える。
綾は、俺が思っているより深く、現実逃避しているのかもしれない。
だから、現実と夢の区別がつかなくなっているのかもしれない。
【クロノ】
「なんにしても……、リビドーをやめさせれば解決だよな」
俺は綾を説得しようと、その細い肩を掴んだ。
またねーwww
やれやれ、ガキがいるチャットだなんて聞いてねーぞ
あ?www
ガキって誰のことだよwww
なに?www偉そうにwww
ハッキングしてやろうか?www
やれるもんならやってみろよ、スーパーハッカー様?
チャットの内容はどんどん険悪になっていき、これ以上見ていても意味がなさそうだ。
画面を見つめる綾の表情にも剣呑としたものが混じり出す。
俺は画面から離れ、キーボードを叩いている綾の後ろで考え込む。
【クロノ】
(大した情報は得られなかったけど…)
【クロノ】
(LIPが何なのかも、結局分からずじまいだし…)
【クロノ】
(paraiso関連を一通り、じいに調査してもらうか)
俺が今後の方針を決めたところで、丁度、キーを叩く音が止まった。
綾が、パソコンの電源を落としていた。
さっきまで、ネットで喧嘩腰だったのが嘘のように、ケロリとしている。
綾はそのままキッチンまで歩いていき、高そうなワインを開けて、直接口をつけて飲む。
雫が床に零れても気にする様子はない。
そうして飲むだけ飲んだら、ボトルをテーブルの上に置きっぱなしにして、寝室へ戻ってきた。
ベッドに潜り込むと、寝転がったままリビドーを装着して、そのまま目を閉じる。
すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、綾の顔に笑みが浮かんだ。
【クロノ】
(憧憬夢を見始めたのか)
覗き込んだ綾の寝顔は…
【クロノ】
(こうやって黙ってれば、顔もいいし、可愛いんだけど)
【クロノ】
「…っと、仕事仕事」
俺もリビドーを装着し、横になる。
そして、じいに教えてもらったやり方で、リビドーを起動した。
【クロノ】
「う、っく…」
今回で二度目だけど、誰かの夢に入るときの不快感には慣れそうにもない。
衝撃で少しフラつく頭を横に振りながら、目を開ける。
【クロノ】
「ここは…」
昨日と同じ、遊園地だった。
原色の光の洪水の中に、相変わらず人の姿はない。
【クロノ】
「今日も貸切とかぬかすわけ?」
返事がないのはわかっていたが、思わず嫌味の一つも言いたくなる。
綾を探しながら歩いていくと、お化け屋敷を見つけた。
【クロノ】
「そういえば昨日、お化け屋敷に入りたいとか言ってたな…」
昨日の綾と父親の会話を思い出し、お化け屋敷に入ってみることにした。
おばけ屋敷の中は真っ暗だった。
空気はひんやりとしていて、不気味な雰囲気はあるけど。
お化けが嚇かしてくるような仕掛けは一つもなく。
ただ、何もない暗闇が続いているだけだ。
【クロノ】
「本当はお化け、怖いんじゃないのか?」
【クロノ】
「お化け屋敷の中身がなにもないんじゃ、そう疑われるぞ」
言いながら、ゆっくりと歩みを進める。
ほとんど何も見えない状態が長く続き、そろそろ、これは戻った方がいいかもしれないと思い始めた時。
遠くの方に、ぼんやりと灯りが見えた。
ゆっくりと、灯りに近寄っていく。
その光は四角い形をしていて。
その前には、誰か人がいる。
この二つが明確になった時、カシャカシャという音も聞こえるようになった。
【クロノ】
(キーボードを叩いている音か?)
もっと近寄ってみる。
暗闇の中で、子供の姿をした綾が、父親の膝の上に座ってPCを操作していた。
【クロノ】
「……何やってるの?」
【子供の上総】
「うわ、昨日の人だ。本当に来たの?」
【クロノ】
「また明日、って言っただろ?」
【子供の上総】
「邪魔するなよ。これから、パパに大事な報告をするんだからな」
【クロノ】
「こんな暗い所で?」
綾の瞳に感情はなく、モニターの光が無機質に反射していた。
綾を膝に乗せた父親は、微動だにしない。
……異様な光景だった。
俺はそっと、画面を覗き込む。
画面に映し出されていたのは、昼間の仕事で話していた、大沢商事からのメール画面だった。
そこには、感謝の文が綴られている。
【綾 一輝】
「お前が取引を成功させてくれたから、我が社も安泰だ」
【綾 一輝】
「偉いぞ!さすが可愛い俺の息子だ!」
【子供の上総】
「へへ、俺、これからも頑張るよ!」
父親は満面の笑みを浮かべて、綾の頭を撫でている。
それを受ける綾も、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
……そんなやり取りをいつまでも続けようとしている。
俺はまた、呆れてため息をついた。
【クロノ】
(夢で褒められても、しょうがないだろうに……)
【クロノ】
(……もしかして、現実では評価されたり、褒められた事がないってことか?)
【クロノ】
(人の心はなかなか動かせないって事を知っているから…憧憬夢にして見てるのか?)
【クロノ】
(いくら金を積んでも動かせないものがあるってことを、理解してるんだろうか)
そこまで考えた時、ピンと閃いた。
子供の姿をした夢の中の綾と、現実世界の綾。
夢の中の父親と、現実世界の父親。
二つのギャップ……。
【クロノ】
「もしかして、綾の願望……、綾が欲しいものって」
綾が『絶対に与えてもらえない』と思っているもの。
【クロノ】
「父親からの愛情?」
【クロノ】
「だから夢の中では、愛されている自分を演じている?」
子供の姿をした綾に、はっきり聞こえるように問いを重ねる。
【クロノ】
「だから、自分を愛してくれる父親を、夢に登場させたのか?」
【クロノ】
(親に愛されなかった人間が、こうやって、愛される自分を夢に見る)
【クロノ】
(もしそうなら、それはあまりに……)
俺の言葉を聞いても、綾には何の変化もなかった。
ただ、無邪気な様子で、遊ぶようにキーボードを打ち続けている。
綾の仕草は、拙くて不器用そうで、子供特有のものだった。
――精神的にも子供に戻れるものでしょうか?
じいの言葉を思い出す。
【クロノ】
(確認してみよう。この子供の綾は、何かおかしい気がする)
【クロノ】
「綾は父親からの愛が欲しくて、こんな夢を見ているの?」
【子供の上総】
「夢?あんた、なに言ってるの?」
【クロノ】
「現実では、あんたは父親に愛されていないんだろ?」
少しきつめに言うと、綾が振り返った。
その顔には不快感と、どこか驚いたような表情が入り混じっていた。
【子供の上総】
「はあ? 現実? 何それ。あんた頭おかしいの?」
【クロノ】
「……本当に分からないのか? これが夢だってこと」
【子供の上総】
「夢なわけないだろ。あんた、もういい加減、どっか行ってよ」
そう言うと、綾は父親の胸に顔を埋めて、それ以上の会話を拒否するように背中を向けてしまった。
小さな背中を眺めながら、俺は口元に手をやって考える。
綾は、俺が思っているより深く、現実逃避しているのかもしれない。
だから、現実と夢の区別がつかなくなっているのかもしれない。
【クロノ】
「なんにしても……、リビドーをやめさせれば解決だよな」
俺は綾を説得しようと、その細い肩を掴んだ。