[本編] 綾 上総 編
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子供の頃から、望むものは全て手に入れてきた。
女も地位も名声も、望めば望むだけ手に入った。
どれもこれも、金さえ積めば手に入るんだから、俺にとっては簡単なことだった。
親の金で手に入れるなんてどーのこーのと言う奴もいたが、関係ない。
親の金で育つのは子供の当然の権利だろ。
っていうか、手に入れる手段なんて、どうでもいいだろ?
自分のものになるかならないかだけが大事だろ?
だから、リビドーとかいう『理想の夢を見る装置』が出回ってるらしいと噂で聞いた時も、関心は持たなかった。
くだらない。
夢じゃなくて、現実で叶えろよって思っていた。
だってそんなものがなくても、俺の願望は現実で叶うんだから。
俺の現実は、満ち足りているんだから。
【綾 上総】
「ま、おもしろ半分で注文してみたけど……。特に見たい夢もねーしな…」
相変わらず、リビドーにハマる奴らなんて、理解出来ないままだ。
しかしこれだけ世間を騒がせてるとなると、一度くらいはどんなものか見てみたいと思った。
【綾 上総】
「ま、話のネタくらいにはなるだろ」
リビドーの入手ルートは、公にはされていない。
所謂、レアアイテムだ。
まあ俺は、コネですぐに手に入れることが出来たけどな。
俺くらいの地位を持ってりゃ、こんなもん手に入れるのは朝飯前だった。
リビドーを装着してみる。………妙に頭になじむ感じがあって、なんか不気味だ。
【綾 上総】
「こんなものが流行ってるとか、理解できねーけど…。試しに今夜、使ってみっか」
どうせなら、俺を楽しませてくれるといいんだけどな。
呟いた俺の耳に、ドアをノックする音が聞こえた。
【綾 上総】
「開いてるぜ。誰だ? 岩下か?」
ドアを開けて入って来たのは、案の定、部下の岩下だった。
【岩下】
「副社長、ミーティングの件でお話が……、って、何です? それ」
リビドーを頭につけている俺を見て、岩下は不思議そうな顔をする。
【綾 上総】
「バーカ。てめえ、流行ってるもんくらい、ちゃんとチェックしとけよ」
【岩下】
「は、はい……。で、何です? それは」
【綾 上総】
「リビドーだよリビドー。世間を騒がせてる、望み通りの夢を見せる装置だよ」
【岩下】
「え、それが?!へぇ……、よく手に入りましたね。
入手困難って聞いた事がありますよ」
【綾 上総】
(入手困難以前に、リビドー使用者の怪死ってネタが先だろ、普通)
岩下は、どうにもずれている。
こういうずれ方だし、口も固いから、こうして見せびらかせるわけなんだけどな。
【綾 上総】
「チョロいもんだっつーの!お前、俺を誰だと思ってるんだよ」
【綾 上総】
「まあいーや。今日使ってみるから、感想教えてやる」
岩下は曖昧な笑顔で頷いている。
興味は無いけど、副社長が言ってるから頷いとこうって顔だ。
【綾 上総】
「お前さ、『適当に頷いとこう』ってあからさますぎ。
そんなじゃ出世できねーぞ?」
【岩下】
「…………」
【綾 上総】
「じゃ、俺は今日はもう帰るから。後よろしく」
【岩下】
「ちょっ、待ってください! お話が……」
【綾 上総】
「ミーティングの件って、博通堂宛の企画書のことだろ?データ不足。全没でやり直し。以上」
呆然とする岩下を無視して、簡単に荷物をまとめて副社長室を出た。
その夜。リビドーを装着してベッドに入った。
願望を全て現実で叶えている俺に、リビドーはどんな夢を見せるのかと、意地悪い気持ちで眠りに就く。
……親父の、夢を見た。
―――その日からずっと、俺はリビドーを使い続けている。
【クロノ】
「綾上総、31歳、男……。へえ、この歳で副社長か」
【クロノ】
「道理で自信満々って顔してる。憎たらしいくらいだね」
じいから渡されたプロフィールを読みながら、眠っている男を見下ろす。
俺とじいは今、そいつの枕元に立っていた。
【クロノ】
「幸せそうな顔して寝てる」
【アンク】
「左様でございますな。これがリビドーの力です」
【クロノ】
「ああ、憧憬夢ってやつ?」
【アンク】
「ええ、夢主の願望が実現している夢を見ている状態でございますから」
【アンク】
「幸福な気持ちにもなるでしょうね」
【クロノ】
「ふーん……」
小さな寝息を立てている寝顔を、俺は改めて眺めた。
【クロノ】
「父親は会社経営で大金持ち。なに不自由なく育ったお坊ちゃま」
【クロノ】
「だからこそ傲岸不遜で自己中心的で自意識過剰。で、羽振りがいい」
【クロノ】
「なんでそんなヤツがリビドーを使ってるんだろうね?」
【アンク】
「そうですな…。なにか…現実では叶わない願望があるのでしょうなあ」
【クロノ】
「こいつに?こいつが夢でしか叶えられない願望って、
どんなものだろう」
【クロノ】
「例えば…」
【クロノ】
「意外と、つまんないくらい平凡なもんかもね」
【アンク】
「人生色々ありますからなあ」
じいはニコニコと笑ってはいるけど、俺は笑う気にはなれない。
顔は結構好みなんだけど、どうにもいけすかない感じがする。
どうせなら、謙虚で素直そうなヤツだったら良かったのに、なんて思ったりしている。
【クロノ】
「……とにかく。日も変わるし、そろそろ介入する」
【アンク】
「かしこまりました。ではリビドーを頭に装着してくだされ」
【クロノ】
「よっ…と。これでいいの?」
【アンク】
「はい、よくお似合いでございますぞ!」
じいの言葉を無視して、綾の隣に横たわる。
【クロノ】
「……黙って寝てるだけなら、結構好みなのにな」
肘枕しながら布団を捲り、全裸で眠っている綾の身体をしげしげと眺める。
でも、じいが綾に布団を掛け直したので、諦めて目を瞑った。
【アンク】
「眠りにつく前に、ヘッドセットの右側についているスイッチを押すだけで、夢の世界へ行けるそうです」
【アンク】
「夢に入るまでの時間は個人差もありますし、コンディションにもよるとのことですが」
【クロノ】
「あ、ちょっと質問」
思い付き、俺はぱちっと目を開けた。
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触してもいい?それとも、そっとしておいた方がいい?」
【アンク】
「接触ですか……。ふむ……、過度のお戯れをなさらなければ問題ないかと」
「お戯れ」の意味を理解して、俺はじいから目を逸らす。
【クロノ】
「仕事は仕事として、割り切ってやってるけど、それだけじゃつまらない時もあるだろ」
まぁそれ以前に、人間とは深く関わるつもりはないけど。
【クロノ】
「けど、これでも死神の端くれだ。一応、弁えてるつもり」
女も地位も名声も、望めば望むだけ手に入った。
どれもこれも、金さえ積めば手に入るんだから、俺にとっては簡単なことだった。
親の金で手に入れるなんてどーのこーのと言う奴もいたが、関係ない。
親の金で育つのは子供の当然の権利だろ。
っていうか、手に入れる手段なんて、どうでもいいだろ?
自分のものになるかならないかだけが大事だろ?
だから、リビドーとかいう『理想の夢を見る装置』が出回ってるらしいと噂で聞いた時も、関心は持たなかった。
くだらない。
夢じゃなくて、現実で叶えろよって思っていた。
だってそんなものがなくても、俺の願望は現実で叶うんだから。
俺の現実は、満ち足りているんだから。
【綾 上総】
「ま、おもしろ半分で注文してみたけど……。特に見たい夢もねーしな…」
相変わらず、リビドーにハマる奴らなんて、理解出来ないままだ。
しかしこれだけ世間を騒がせてるとなると、一度くらいはどんなものか見てみたいと思った。
【綾 上総】
「ま、話のネタくらいにはなるだろ」
リビドーの入手ルートは、公にはされていない。
所謂、レアアイテムだ。
まあ俺は、コネですぐに手に入れることが出来たけどな。
俺くらいの地位を持ってりゃ、こんなもん手に入れるのは朝飯前だった。
リビドーを装着してみる。………妙に頭になじむ感じがあって、なんか不気味だ。
【綾 上総】
「こんなものが流行ってるとか、理解できねーけど…。試しに今夜、使ってみっか」
どうせなら、俺を楽しませてくれるといいんだけどな。
呟いた俺の耳に、ドアをノックする音が聞こえた。
【綾 上総】
「開いてるぜ。誰だ? 岩下か?」
ドアを開けて入って来たのは、案の定、部下の岩下だった。
【岩下】
「副社長、ミーティングの件でお話が……、って、何です? それ」
リビドーを頭につけている俺を見て、岩下は不思議そうな顔をする。
【綾 上総】
「バーカ。てめえ、流行ってるもんくらい、ちゃんとチェックしとけよ」
【岩下】
「は、はい……。で、何です? それは」
【綾 上総】
「リビドーだよリビドー。世間を騒がせてる、望み通りの夢を見せる装置だよ」
【岩下】
「え、それが?!へぇ……、よく手に入りましたね。
入手困難って聞いた事がありますよ」
【綾 上総】
(入手困難以前に、リビドー使用者の怪死ってネタが先だろ、普通)
岩下は、どうにもずれている。
こういうずれ方だし、口も固いから、こうして見せびらかせるわけなんだけどな。
【綾 上総】
「チョロいもんだっつーの!お前、俺を誰だと思ってるんだよ」
【綾 上総】
「まあいーや。今日使ってみるから、感想教えてやる」
岩下は曖昧な笑顔で頷いている。
興味は無いけど、副社長が言ってるから頷いとこうって顔だ。
【綾 上総】
「お前さ、『適当に頷いとこう』ってあからさますぎ。
そんなじゃ出世できねーぞ?」
【岩下】
「…………」
【綾 上総】
「じゃ、俺は今日はもう帰るから。後よろしく」
【岩下】
「ちょっ、待ってください! お話が……」
【綾 上総】
「ミーティングの件って、博通堂宛の企画書のことだろ?データ不足。全没でやり直し。以上」
呆然とする岩下を無視して、簡単に荷物をまとめて副社長室を出た。
その夜。リビドーを装着してベッドに入った。
願望を全て現実で叶えている俺に、リビドーはどんな夢を見せるのかと、意地悪い気持ちで眠りに就く。
……親父の、夢を見た。
―――その日からずっと、俺はリビドーを使い続けている。
【クロノ】
「綾上総、31歳、男……。へえ、この歳で副社長か」
【クロノ】
「道理で自信満々って顔してる。憎たらしいくらいだね」
じいから渡されたプロフィールを読みながら、眠っている男を見下ろす。
俺とじいは今、そいつの枕元に立っていた。
【クロノ】
「幸せそうな顔して寝てる」
【アンク】
「左様でございますな。これがリビドーの力です」
【クロノ】
「ああ、憧憬夢ってやつ?」
【アンク】
「ええ、夢主の願望が実現している夢を見ている状態でございますから」
【アンク】
「幸福な気持ちにもなるでしょうね」
【クロノ】
「ふーん……」
小さな寝息を立てている寝顔を、俺は改めて眺めた。
【クロノ】
「父親は会社経営で大金持ち。なに不自由なく育ったお坊ちゃま」
【クロノ】
「だからこそ傲岸不遜で自己中心的で自意識過剰。で、羽振りがいい」
【クロノ】
「なんでそんなヤツがリビドーを使ってるんだろうね?」
【アンク】
「そうですな…。なにか…現実では叶わない願望があるのでしょうなあ」
【クロノ】
「こいつに?こいつが夢でしか叶えられない願望って、
どんなものだろう」
【クロノ】
「例えば…」
【クロノ】
「意外と、つまんないくらい平凡なもんかもね」
【アンク】
「人生色々ありますからなあ」
じいはニコニコと笑ってはいるけど、俺は笑う気にはなれない。
顔は結構好みなんだけど、どうにもいけすかない感じがする。
どうせなら、謙虚で素直そうなヤツだったら良かったのに、なんて思ったりしている。
【クロノ】
「……とにかく。日も変わるし、そろそろ介入する」
【アンク】
「かしこまりました。ではリビドーを頭に装着してくだされ」
【クロノ】
「よっ…と。これでいいの?」
【アンク】
「はい、よくお似合いでございますぞ!」
じいの言葉を無視して、綾の隣に横たわる。
【クロノ】
「……黙って寝てるだけなら、結構好みなのにな」
肘枕しながら布団を捲り、全裸で眠っている綾の身体をしげしげと眺める。
でも、じいが綾に布団を掛け直したので、諦めて目を瞑った。
【アンク】
「眠りにつく前に、ヘッドセットの右側についているスイッチを押すだけで、夢の世界へ行けるそうです」
【アンク】
「夢に入るまでの時間は個人差もありますし、コンディションにもよるとのことですが」
【クロノ】
「あ、ちょっと質問」
思い付き、俺はぱちっと目を開けた。
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触してもいい?それとも、そっとしておいた方がいい?」
【アンク】
「接触ですか……。ふむ……、過度のお戯れをなさらなければ問題ないかと」
「お戯れ」の意味を理解して、俺はじいから目を逸らす。
【クロノ】
「仕事は仕事として、割り切ってやってるけど、それだけじゃつまらない時もあるだろ」
まぁそれ以前に、人間とは深く関わるつもりはないけど。
【クロノ】
「けど、これでも死神の端くれだ。一応、弁えてるつもり」