[本編] 日留川 凌央 編
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俺達3人は、無事に現実世界に戻ってくることができた。
とりあえず俺は、凌央と凌央の母親が目を擦りながら起き上がったのを見てほっと一息つく。
すると母親は落ち着きなく辺りを見渡して、俺と目が合うと。
自分がさっきまでどこに居たのかとか、疑問はいっぱいあるはずなのに。
慌ててソファから滑り降り、俺の目の前で手をついて頭を下げた。
【クロノ】
「えっ……いや、お母さん…」
【日留川母】
「本当にご迷惑をおかけ致しました…! 申し訳ありません!」
【日留川母】
「先程お聞きしましたが、本当に包丁は体まで到達しなかったのですか!?」
【クロノ】
「はい、運良く。ですから大丈夫ですよ」
【日留川母】
「……ですが、それでも!」
【日留川母】
「人を刺すなんてとんでもないことです!」
【日留川母】
「私はこれからすぐに警察署に向かいますので、自首を――」
【クロノ】
「えっ!」
【日留川 凌央】
「なななな何言って…! 駄目に決まってるだろそんなの!」
【日留川母】
「離して凌央! 母さんは人としてやってはいけないことをしてしまったのよ…!」
後悔の涙を流しながら、凌央を振りほどいて立ち上がろうとする母親の横に。
ずっと見守っていたじいが、片膝をついて近付く。
【日留川母】
「あ……あなたは…?」
良いタイミングで近づいてきてくれたじいに、目礼をすると。
じいはこっそりと親指を立てた。
【クロノ】
「この人は俺のかかりつけの医者です」
【クロノ】
「お母さんが倒れた時、少し精神状態が不安定に見えましたので」
【クロノ】
「それも併せて診察してもらおうと思い、俺が呼んだんです」
【アンク】
「初めまして、日留川さん。お体の具合はいかがですか?」
【日留川母】
「あ……、いえ、特にどこも…」
【日留川母】
「でも、そういえば……私は、あれから一体どうなってしまったのですか?」
【日留川 凌央】
「そうだ! 母さん、今日、俺達をここで待ってる間か」
【日留川 凌央】
「もしくはその前に……誰か怪しい奴に会ったりしなかった?」
【クロノ】
「例えば背丈は小さめで、目が三白眼気味の男とか」
【日留川母】
「……あっ!」
【日留川母】
「ちょっと記憶が曖昧なのですが…会いました」
【日留川母】
「昨日、ここで凌央を待っていた時のことです」
【日留川母】
「突然、顔に包帯を巻いた男の人が話しかけてきて」
【日留川母】
「息子が今大変な目にあってるから…そして、これを見れば息子とも和解できるはずだから」
【日留川母】
「是非これを見て欲しいと言われて……あの、モニターのようなものを見せられて」
【日留川母】
「そこから記憶が混濁しているのですが…確か頭がぼんやりして」
【日留川母】
「こう、胸の中がどす黒くなるのがわかる…と言いますか、不思議な感覚だったのですが」
じいが目を細めて視線を投げたので、俺も頷く。
おそらくそれはユリスが新しく開発した、悪夢を見せる装置なのだろう。
【アンク】
「その男は今、指名手配をされている人物なのです」
【日留川母】
「えっ…!」
【アンク】
「怪しげな催眠術を使う男でしてな。我々医者も迷惑しているのですよ」
【アンク】
「ですから奥さんが体験されたものは、全てがその男の催眠術のせいでございます」
【日留川母】
「全て……?」
母親は表情を曇らせて、不安そうに凌央に視線を流した。
凌央はその意味に気付いたらしく、諦めたように溜息をついて。
テーブルの上に置かれたままだった、冷めたコーヒーを飲んだ。
【日留川 凌央】
「俺が言ったことは、夢じゃないよ」
【日留川 凌央】
「さっき母さんが朦朧としてる時に、俺が実際話しかけてたから」
【日留川母】
「本当なの…?」
【日留川 凌央】
「本当」
母親は立ち上がって、凌央に駆け寄って抱きついた。
息子の胸に顔を埋めて泣き喚く姿を見て、俺とじいはひとまず席を外すことにした。
【クロノ】
「じゃあ、俺達はちょっと外にいるから。落ち着いた頃に戻ってくる」
【アンク】
「積もる話もあるでしょうからな。ふふふ」
照れくさそうに口を尖らせる凌央を残して、凌央の部屋を後にする。
ドアを出た後、俺は死神の姿に戻って。
念のため、部屋に結界を張ってから。
じいと共に、ユリスが出現したという報告をしに死神界へ飛んだ。
ピンポーン……
【日留川 凌央】
「お、クロノが戻ってきた」
【日留川 凌央】
「はいはい。なんだよ、母さんがいるからって言っても」
【日留川 凌央】
「玄関くらい通り抜けたって大丈夫――……、」
【???】
「クロノじゃなくて残念」
【日留川 凌央】
「お、前……ッ」
【日留川母】
「凌央? どうしたの?」
【日留川 凌央】
「! 駄目だ、こっち来んな!! ――ッぐ」
【日留川母】
「……!!」
【???】
「……あれ、お母さんは無事に向こうの世界から戻って来れたんだねえ」
【???】
「いやあ良かった良かった。女ってえげつねえ悪夢見るから、地味に心配してたんだよね」
【日留川母】
「あなた……凌央に、何したの」
【???】
「息子のことよりも、今は自分の心配したら?」
【日留川母】
「きゃ…!! ……、うぐ…っ」
【???】
「……」
【???】
「……ははは」
【???】
「はははははは!」
【???】
「ぎゃははははは!! 明日の二面記事の出来上がりだ!」
【???】
「見出しはこうだ! 憎い母親を殺して精神崩壊したベンチャー社長!!」
【???】
「そしてクロノも、俺を憎んで、何千年経っても俺のことを忘れられない……」
【???】
「正に一石二鳥ってやつだな! あっはははははは!!」
―――――…………
――――その部屋に残されていたのは。
消滅した死神の僅かな魔力片と、包丁でメッタ刺しにされている女性と。
魂の抜けたベンチャー企業社長の体だけだった。
俺は、暫くは呆けてたけど。
少なくとも、凌央の功績だけは汚さない為に母親の身体と持ち物を魔力で燃やして。
抜け殻になった凌央の身体を死神界へ運んで、一緒に暮らすことにした。
そして後日、人間界の週刊誌には。
『消えたベンチャー社長と、その母親の謎』と。
都市伝説のような扱いで小さな記事が載ったのだった。
―日留川4章・BLACK END―
とりあえず俺は、凌央と凌央の母親が目を擦りながら起き上がったのを見てほっと一息つく。
すると母親は落ち着きなく辺りを見渡して、俺と目が合うと。
自分がさっきまでどこに居たのかとか、疑問はいっぱいあるはずなのに。
慌ててソファから滑り降り、俺の目の前で手をついて頭を下げた。
【クロノ】
「えっ……いや、お母さん…」
【日留川母】
「本当にご迷惑をおかけ致しました…! 申し訳ありません!」
【日留川母】
「先程お聞きしましたが、本当に包丁は体まで到達しなかったのですか!?」
【クロノ】
「はい、運良く。ですから大丈夫ですよ」
【日留川母】
「……ですが、それでも!」
【日留川母】
「人を刺すなんてとんでもないことです!」
【日留川母】
「私はこれからすぐに警察署に向かいますので、自首を――」
【クロノ】
「えっ!」
【日留川 凌央】
「なななな何言って…! 駄目に決まってるだろそんなの!」
【日留川母】
「離して凌央! 母さんは人としてやってはいけないことをしてしまったのよ…!」
後悔の涙を流しながら、凌央を振りほどいて立ち上がろうとする母親の横に。
ずっと見守っていたじいが、片膝をついて近付く。
【日留川母】
「あ……あなたは…?」
良いタイミングで近づいてきてくれたじいに、目礼をすると。
じいはこっそりと親指を立てた。
【クロノ】
「この人は俺のかかりつけの医者です」
【クロノ】
「お母さんが倒れた時、少し精神状態が不安定に見えましたので」
【クロノ】
「それも併せて診察してもらおうと思い、俺が呼んだんです」
【アンク】
「初めまして、日留川さん。お体の具合はいかがですか?」
【日留川母】
「あ……、いえ、特にどこも…」
【日留川母】
「でも、そういえば……私は、あれから一体どうなってしまったのですか?」
【日留川 凌央】
「そうだ! 母さん、今日、俺達をここで待ってる間か」
【日留川 凌央】
「もしくはその前に……誰か怪しい奴に会ったりしなかった?」
【クロノ】
「例えば背丈は小さめで、目が三白眼気味の男とか」
【日留川母】
「……あっ!」
【日留川母】
「ちょっと記憶が曖昧なのですが…会いました」
【日留川母】
「昨日、ここで凌央を待っていた時のことです」
【日留川母】
「突然、顔に包帯を巻いた男の人が話しかけてきて」
【日留川母】
「息子が今大変な目にあってるから…そして、これを見れば息子とも和解できるはずだから」
【日留川母】
「是非これを見て欲しいと言われて……あの、モニターのようなものを見せられて」
【日留川母】
「そこから記憶が混濁しているのですが…確か頭がぼんやりして」
【日留川母】
「こう、胸の中がどす黒くなるのがわかる…と言いますか、不思議な感覚だったのですが」
じいが目を細めて視線を投げたので、俺も頷く。
おそらくそれはユリスが新しく開発した、悪夢を見せる装置なのだろう。
【アンク】
「その男は今、指名手配をされている人物なのです」
【日留川母】
「えっ…!」
【アンク】
「怪しげな催眠術を使う男でしてな。我々医者も迷惑しているのですよ」
【アンク】
「ですから奥さんが体験されたものは、全てがその男の催眠術のせいでございます」
【日留川母】
「全て……?」
母親は表情を曇らせて、不安そうに凌央に視線を流した。
凌央はその意味に気付いたらしく、諦めたように溜息をついて。
テーブルの上に置かれたままだった、冷めたコーヒーを飲んだ。
【日留川 凌央】
「俺が言ったことは、夢じゃないよ」
【日留川 凌央】
「さっき母さんが朦朧としてる時に、俺が実際話しかけてたから」
【日留川母】
「本当なの…?」
【日留川 凌央】
「本当」
母親は立ち上がって、凌央に駆け寄って抱きついた。
息子の胸に顔を埋めて泣き喚く姿を見て、俺とじいはひとまず席を外すことにした。
【クロノ】
「じゃあ、俺達はちょっと外にいるから。落ち着いた頃に戻ってくる」
【アンク】
「積もる話もあるでしょうからな。ふふふ」
照れくさそうに口を尖らせる凌央を残して、凌央の部屋を後にする。
ドアを出た後、俺は死神の姿に戻って。
念のため、部屋に結界を張ってから。
じいと共に、ユリスが出現したという報告をしに死神界へ飛んだ。
ピンポーン……
【日留川 凌央】
「お、クロノが戻ってきた」
【日留川 凌央】
「はいはい。なんだよ、母さんがいるからって言っても」
【日留川 凌央】
「玄関くらい通り抜けたって大丈夫――……、」
【???】
「クロノじゃなくて残念」
【日留川 凌央】
「お、前……ッ」
【日留川母】
「凌央? どうしたの?」
【日留川 凌央】
「! 駄目だ、こっち来んな!! ――ッぐ」
【日留川母】
「……!!」
【???】
「……あれ、お母さんは無事に向こうの世界から戻って来れたんだねえ」
【???】
「いやあ良かった良かった。女ってえげつねえ悪夢見るから、地味に心配してたんだよね」
【日留川母】
「あなた……凌央に、何したの」
【???】
「息子のことよりも、今は自分の心配したら?」
【日留川母】
「きゃ…!! ……、うぐ…っ」
【???】
「……」
【???】
「……ははは」
【???】
「はははははは!」
【???】
「ぎゃははははは!! 明日の二面記事の出来上がりだ!」
【???】
「見出しはこうだ! 憎い母親を殺して精神崩壊したベンチャー社長!!」
【???】
「そしてクロノも、俺を憎んで、何千年経っても俺のことを忘れられない……」
【???】
「正に一石二鳥ってやつだな! あっはははははは!!」
―――――…………
――――その部屋に残されていたのは。
消滅した死神の僅かな魔力片と、包丁でメッタ刺しにされている女性と。
魂の抜けたベンチャー企業社長の体だけだった。
俺は、暫くは呆けてたけど。
少なくとも、凌央の功績だけは汚さない為に母親の身体と持ち物を魔力で燃やして。
抜け殻になった凌央の身体を死神界へ運んで、一緒に暮らすことにした。
そして後日、人間界の週刊誌には。
『消えたベンチャー社長と、その母親の謎』と。
都市伝説のような扱いで小さな記事が載ったのだった。
―日留川4章・BLACK END―
