[本編] 日留川 凌央 編
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【日留川 凌央】
「あの部屋も気に入ってたけど……もう引っ越す」
【クロノ】
「そっか……辛い事訊いてごめんね」
【日留川 凌央】
「…クロノに話せて良かった」
【日留川 凌央】
「……いろいろ、気持ちの整理もできたし」
【日留川 凌央】
「だけど……会社が雑誌に載ること、社員はすごく楽しみにしてるみたいだから」
【日留川 凌央】
「俺が載りたくないってだけで断るのも、何か違う気がしてるんだ」
【日留川 凌央】
「……社長としての俺の名前とか、顔は出さないようにして」
【日留川 凌央】
「企業紹介みたいな記事にしてもらえるかどうか、頼んでみようと思ってる」
【クロノ】
「うん」
【クロノ】
「凌央がそれでいいなら、俺は構わない」
【日留川 凌央】
「……怒ったりしないの?」
【クロノ】
「怒る? なんで」
【日留川 凌央】
「母親と遺恨が残ってるって言ったら、大体の人間は言うよ」
【日留川 凌央】
「じゃあ話し合って解決しろって」
【クロノ】
「俺は別にそこまでする必要はないと思うけど」
【クロノ】
「だって、凌央にはもう大事なものができてるし」
【クロノ】
「今前を向けてるなら、過去の辛い記憶を無理にひきずることもないでしょ」
【日留川 凌央】
「……」
【クロノ】
「少なくとも俺はそういう意見かな」
【日留川 凌央】
「……ありがと」
え、と声を上げるのと同時に、凌央が頬にキスをしてくれた。
その顔はちょっと嬉しそうに、照れくさそうに赤くなっていて。
俺は穏やかな気持ちで凌央の頭を掻き混ぜた。
…………
…………………………
数日後、凌央は言うことを紙にまとめて、出版社に電話をかけた。
向こうはこちらの申し出を快くOKしてくれた。
社員達は万歳をして狂喜乱舞し、記者が取材に来社すると会議室の前に全員が群がった。
―――――……
顔出しと名前出しは断ったものの、会社の説明は熱心にしている凌央を見守りながら。
俺は彼の成長ぶりを嬉しく思っていた。
【クロノ】
(やっぱり、会社や社員のことは大事なんだな)
【クロノ】
(凌央に、大事なものが増えて良かった……)
【記者】
「……ありがとうございました」
【記者】
「それでは次は、会社の中の写真を撮らせていただきたいのですが」
【記者】
「そうだなぁ…、まずは軽くデスク周りを」
【記者】
「…うわ、こういうのなっていうんでしたっけ。美少女フィギュアですか?」
【記者】
「うわー、これはちょっとインパクト凄いな。どうしよう、撮る?」
記者は、パソコンの周辺に飾ってある人形を指さして、カメラマンと半笑いを浮かべている。
【白鳥】
「とっ…撮るのでござるか? こここここを?」
【記者】
「あ、軽くでいいんで。かるーく。大丈夫ですから」
【菅原】
「なっ、このフィギュア今プレミアついててテレビに流れたら困るんですけどっ」
【記者】
「フィギュア? あー、申し訳ないのですがそれは一旦下げていただいて」
【菅原】
「下げる!? このプレミアムスプリングバージョンのエミたんを下げる!? 聞き捨てならないんですけど!」
当然、彼らはどよめいて、蒼白になって口をパクパクさせたり。
恨みがましい視線を繰りながらヒソヒソ囁き合っている。
記者は彼らの言葉を聞き流しながら、俺の方を見やった。
【記者】
「あ、じゃあもういいです。そこの方。黒乃さんでしたっけ」
【記者】
「イケメン営業マンとして、是非1枚……」
【クロノ】
「あー、いえ。ちょっと顔が割れるとアレなので」
【記者】
「え? いいじゃないですかー! 新規契約にも有利ですよー?」
【クロノ】
「いえいえ、申し訳ありませんが、今回はお見送りということで」
丁重にお断りしながら、俺は他の奴を生贄に差し出そうと室内を見渡したが。
どういうわけか、一瞬にして社員の姿がなくなっていた。
いや、正確に言えば隠れていた。机の下や部屋の隅にいた。
【クロノ】
「ちょっと。オフィスの中撮るって言ってるのに、そこに居たら写るよ?」
どうやらフィギュアをバカにされたことや、
話を無視されてしまったことで、記者達を完全にリア充と認定してしまったようだ。
誰もが、疑心暗鬼に陥った捨て犬のような目をしている。
【クロノ】
「俺と初めて会った時も、皆そんな反応してたな」
【東海林】
「憎い…リア充憎い…滅べ…ニフラム…」
【クロノ】
(うわ、リア充への恨みが一番強いのは、まさかの東海林さんか…)
【白鳥】
「黒乃たんはイケメンリア充であるがしかしッ、もう拙者達の身内でござる!!」
【菅原】
「同意!! 僕らの瘴気が染み込んだ黒乃さんはもはやイケメンではあってもリア充ではないんですけど!!」
【クロノ】
「瘴気……」
【東海林】
「憎い…憎い…」
【クロノ】
「凌央、なんか俺すごくイケメンらしいよ」
【日留川 凌央】
「うるさい、とにかく皆を静かにさせて」
【クロノ】
「はいはい…」
【クロノ】
「じゃあ皆、いつも通りに仕事して、デスク周りのものは一旦見えない所に避難させて」
【クロノ】
「ちゃっちゃと撮影終わらせたら、就業後は会議室のスクリーンでアニメ見ていいから」
俺の言葉に皆ガバッと敬礼をすると、デスク周りを一瞬にして片付けた。
そうしてオフィス内の写真を数枚撮った後、記者たちは呆気なく帰って行った。
【クロノ】
「ふう。さてと……無事に終わったね」
【日留川 凌央】
「クロノのおかげだ」
漸く訪れた静寂に、2人揃って深い溜め息をついたのだった。
……………
…………………………
その日は、全員が朝からそわそわしていた。
仕事はあまり捗らなかったし、備品のコーヒーカップも3個くらい割れた。
何度もエントランスまで行っては、まだ来ないと引き返してきていた1人の社員が。
ゴールを決めたサッカー選手のようにオフィスのドアを蹴破って入ってきたのが、たった今。
全員がイスを蹴倒して立ち上がり、社内は一瞬で燃え上がる。
【白鳥】
「うおおおおおお来たでござるよぉおおおお!!」
【菅原】
「これがっこれこそが待ち望んでいた見本誌なんですけどぉおおおい!!」
【東海林】
「まずは社長が確認してください。お願いします」
【日留川 凌央】
「……」
分厚い封筒に包まれたそれを凌央はじっと見下ろして。
覚悟を決めたように封を切る。
そして全員が固唾を飲んで見守る中、パラパラと捲って顔を上げる。
「あの部屋も気に入ってたけど……もう引っ越す」
【クロノ】
「そっか……辛い事訊いてごめんね」
【日留川 凌央】
「…クロノに話せて良かった」
【日留川 凌央】
「……いろいろ、気持ちの整理もできたし」
【日留川 凌央】
「だけど……会社が雑誌に載ること、社員はすごく楽しみにしてるみたいだから」
【日留川 凌央】
「俺が載りたくないってだけで断るのも、何か違う気がしてるんだ」
【日留川 凌央】
「……社長としての俺の名前とか、顔は出さないようにして」
【日留川 凌央】
「企業紹介みたいな記事にしてもらえるかどうか、頼んでみようと思ってる」
【クロノ】
「うん」
【クロノ】
「凌央がそれでいいなら、俺は構わない」
【日留川 凌央】
「……怒ったりしないの?」
【クロノ】
「怒る? なんで」
【日留川 凌央】
「母親と遺恨が残ってるって言ったら、大体の人間は言うよ」
【日留川 凌央】
「じゃあ話し合って解決しろって」
【クロノ】
「俺は別にそこまでする必要はないと思うけど」
【クロノ】
「だって、凌央にはもう大事なものができてるし」
【クロノ】
「今前を向けてるなら、過去の辛い記憶を無理にひきずることもないでしょ」
【日留川 凌央】
「……」
【クロノ】
「少なくとも俺はそういう意見かな」
【日留川 凌央】
「……ありがと」
え、と声を上げるのと同時に、凌央が頬にキスをしてくれた。
その顔はちょっと嬉しそうに、照れくさそうに赤くなっていて。
俺は穏やかな気持ちで凌央の頭を掻き混ぜた。
…………
…………………………
数日後、凌央は言うことを紙にまとめて、出版社に電話をかけた。
向こうはこちらの申し出を快くOKしてくれた。
社員達は万歳をして狂喜乱舞し、記者が取材に来社すると会議室の前に全員が群がった。
―――――……
顔出しと名前出しは断ったものの、会社の説明は熱心にしている凌央を見守りながら。
俺は彼の成長ぶりを嬉しく思っていた。
【クロノ】
(やっぱり、会社や社員のことは大事なんだな)
【クロノ】
(凌央に、大事なものが増えて良かった……)
【記者】
「……ありがとうございました」
【記者】
「それでは次は、会社の中の写真を撮らせていただきたいのですが」
【記者】
「そうだなぁ…、まずは軽くデスク周りを」
【記者】
「…うわ、こういうのなっていうんでしたっけ。美少女フィギュアですか?」
【記者】
「うわー、これはちょっとインパクト凄いな。どうしよう、撮る?」
記者は、パソコンの周辺に飾ってある人形を指さして、カメラマンと半笑いを浮かべている。
【白鳥】
「とっ…撮るのでござるか? こここここを?」
【記者】
「あ、軽くでいいんで。かるーく。大丈夫ですから」
【菅原】
「なっ、このフィギュア今プレミアついててテレビに流れたら困るんですけどっ」
【記者】
「フィギュア? あー、申し訳ないのですがそれは一旦下げていただいて」
【菅原】
「下げる!? このプレミアムスプリングバージョンのエミたんを下げる!? 聞き捨てならないんですけど!」
当然、彼らはどよめいて、蒼白になって口をパクパクさせたり。
恨みがましい視線を繰りながらヒソヒソ囁き合っている。
記者は彼らの言葉を聞き流しながら、俺の方を見やった。
【記者】
「あ、じゃあもういいです。そこの方。黒乃さんでしたっけ」
【記者】
「イケメン営業マンとして、是非1枚……」
【クロノ】
「あー、いえ。ちょっと顔が割れるとアレなので」
【記者】
「え? いいじゃないですかー! 新規契約にも有利ですよー?」
【クロノ】
「いえいえ、申し訳ありませんが、今回はお見送りということで」
丁重にお断りしながら、俺は他の奴を生贄に差し出そうと室内を見渡したが。
どういうわけか、一瞬にして社員の姿がなくなっていた。
いや、正確に言えば隠れていた。机の下や部屋の隅にいた。
【クロノ】
「ちょっと。オフィスの中撮るって言ってるのに、そこに居たら写るよ?」
どうやらフィギュアをバカにされたことや、
話を無視されてしまったことで、記者達を完全にリア充と認定してしまったようだ。
誰もが、疑心暗鬼に陥った捨て犬のような目をしている。
【クロノ】
「俺と初めて会った時も、皆そんな反応してたな」
【東海林】
「憎い…リア充憎い…滅べ…ニフラム…」
【クロノ】
(うわ、リア充への恨みが一番強いのは、まさかの東海林さんか…)
【白鳥】
「黒乃たんはイケメンリア充であるがしかしッ、もう拙者達の身内でござる!!」
【菅原】
「同意!! 僕らの瘴気が染み込んだ黒乃さんはもはやイケメンではあってもリア充ではないんですけど!!」
【クロノ】
「瘴気……」
【東海林】
「憎い…憎い…」
【クロノ】
「凌央、なんか俺すごくイケメンらしいよ」
【日留川 凌央】
「うるさい、とにかく皆を静かにさせて」
【クロノ】
「はいはい…」
【クロノ】
「じゃあ皆、いつも通りに仕事して、デスク周りのものは一旦見えない所に避難させて」
【クロノ】
「ちゃっちゃと撮影終わらせたら、就業後は会議室のスクリーンでアニメ見ていいから」
俺の言葉に皆ガバッと敬礼をすると、デスク周りを一瞬にして片付けた。
そうしてオフィス内の写真を数枚撮った後、記者たちは呆気なく帰って行った。
【クロノ】
「ふう。さてと……無事に終わったね」
【日留川 凌央】
「クロノのおかげだ」
漸く訪れた静寂に、2人揃って深い溜め息をついたのだった。
……………
…………………………
その日は、全員が朝からそわそわしていた。
仕事はあまり捗らなかったし、備品のコーヒーカップも3個くらい割れた。
何度もエントランスまで行っては、まだ来ないと引き返してきていた1人の社員が。
ゴールを決めたサッカー選手のようにオフィスのドアを蹴破って入ってきたのが、たった今。
全員がイスを蹴倒して立ち上がり、社内は一瞬で燃え上がる。
【白鳥】
「うおおおおおお来たでござるよぉおおおお!!」
【菅原】
「これがっこれこそが待ち望んでいた見本誌なんですけどぉおおおい!!」
【東海林】
「まずは社長が確認してください。お願いします」
【日留川 凌央】
「……」
分厚い封筒に包まれたそれを凌央はじっと見下ろして。
覚悟を決めたように封を切る。
そして全員が固唾を飲んで見守る中、パラパラと捲って顔を上げる。
