[本編] 日留川 凌央 編
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見上げた窓の向こうの空に、真っ黒な亀裂が入っている。
【クロノ】
「なに……?」
【日留川 凌央】
「え……っ」
ほぼ同時に、日留川がよろめく。
見ると、日留川が足蹴にしていた生徒が、立ち上がっていた。
廊下から次々と他の生徒達も入ってきて、ふらついて尻もちをついた日留川へ近づいていく。
【日留川 凌央】
「くっ……来るな。なんだよてめえら」
俯いている生徒達は、ただならぬ雰囲気を醸し出している。
まるで、もう我慢がならないとばかりに、一様に日留川を睨みつけている。
日留川は尻もちをついたまま後ずさり、その辺にあったものを手当たり次第に投げつける。
だけど生徒達は、どこに当たろうが眉一つ動かさず―――
じりじりと日留川に詰め寄っていく。
【日留川 凌央】
「―――ひっ……」
【クロノ】
「……」
いつでも鎌を具現化できるように気を張りながらも、
俺は……
様子を見守ることにした。
【日留川 凌央】
「な、何やってんだよ……助けろよ!!」
【日留川 凌央】
「俺のこと助けにきたんだろ!?そこのあんた!!」
【クロノ】
「……」
だけど俺は目を逸らす。
少なくとも、今のこいつは、現実世界で会った、本当のこいつの顔をしている。
少し荒療治だが、頭を冷やすにはちょうど良い機会だろうと思ったから。据えてもらえ。きついお灸をな。
無視された日留川は呆然とし―――唇を噛み締める。
【日留川 凌央】
「ふざけんなよ……!覚えてろよ、絶対タダじゃ済まさないからな!!」
その時、1人の生徒の手が、乱暴に日留川の胸ぐらを掴み上げた。
【ヤンキー風生徒1】
「よお、日留川」
【日留川 凌央】
「ぐっ……苦し、い……っ」
【ヤンキー風生徒1】
「今まで、よくも散々好き勝手してくれたな、オイ」
胸ぐらを掴み上げられた日留川は、その手から逃れようと必死でもがいている。
爪先が辛うじて地面についているくらいだから、苦しそうだ。
目端で、日留川が必死に俺を助けを求めてきているけど。
俺はやっぱり、気付かないフリを続けている。
もちろん後で助けに入ってやるさと、心の中では返事をした。
さて、あとはどのタイミングで助けてやるかだけど。
どうやら、奴らの目的は日留川のようで、俺の方は誰も見向きもしない。
ここで見物しながら、ゆっくりと見極めよう。
―――憧憬夢が、どうしてこんなことになってるのか。
夢主の望んだ夢を見せる筈のリビドーが、どうしてこんな動きをしてるのか。
【ヤンキー風生徒2】
「お前こないださ、面白いこと言ってたよな。俺らに」
【日留川 凌央】
「あ………あ……」
【ヤンキー風生徒3】
「俺の目の前で、1人でやってみせろよ、だっけ?」
【ヤンキー風生徒1】
「テメーがやってみせろよ、この引きこもりが」
【日留川 凌央】
「い……嫌だ……っ」
生徒達の手が、日留川のズボンに伸びていく。
【日留川 凌央】
「嫌だああああああ!!」
その日、俺は全教科で平均98点をとった。
【先生】
「うーん、お前にはちょっと問題が簡単すぎたかもな」
だけど俺は知ってる。
【先生】
「いいかー、お前らも日留川を見習って勉強するように」
先生がそう言うたび、クラスメイトの目が冷たくなるのを。
【父親】
「お前は本当によくできた子供だな。父さんもお前くらい勉強ができれば良かったんだけどな」
【母親】
「本当よね。毎回こんな点数とってきて……ちゃんと夜眠れてる?」
テストを持って帰ると、両親は点数を見て喜んだ。
だけど俺は知ってた。
同じクラスで近所に住んでる奴らは一家揃って、俺達家族には挨拶すらしないことを。
―――人には親切にしなさい。
それが両親の口癖だけど。
ねえ、父さん、母さん。
こんな奴らに優しくする必要って、本当にあるの?
ズボンに手をかけられた時、俺は反射的に目をつむった。
まただ。
またこうやっていじめられるのか。
女子の目の前でズボンを下ろされたり、体育が終わった後には制服を隠されたり。
こんなこと、高校までの間に何度も経験してきた。
もう嫌だ。こんなこともうされたくない。
【クロノ】
「おい」
【日留川 凌央】
「うっ……グス、っ……」
【クロノ】
「目を開けろ、日留川」
誰かの声が聞こえて目を開けると、見たことのない男が俺の顔を覗き込んでいた。
日留川にむらがる生徒達をかき分けて、その手を強く引いて助け出す。
少し離れた所まで逃げて、少し落ち着いてから呼びかけたが、焦点があってない。
【日留川 凌央】
「ぐすっ……、うっ、うっ」
【クロノ】
「おい、聞こえてるか」
【日留川 凌央】
「ううぅ……もう嫌だ……嫌だ、嫌だ……!」
人目も憚らず泣きじゃくっている様子を見るに、完全に冷静さを失っているらしい。
よほど深い心の傷を刺激されたのだろう。
その頭を撫でてやったけど、明確な反応はなかった。
わざと様子見するような真似をしたことを、ちょっとだけ反省する。
【クロノ】
「……まあ、とりあえずは充分なお仕置きは食らったな」
縮こまっている震えている背中を一撫でして、鎌を生成しながら立ち上がる。
教室から溢れ出した生徒達の群れが、こちらに押し寄せている。
【クロノ】
(しかし、憧憬夢がこんな風になるとは……まずは、じいに相談してみるか)
日留川をその場に置いて、地面を蹴って目覚めようとした時。
ズボンの裾を、軽く引かれた。
【クロノ】
「……」
不安そうな日留川が、縋るように俺を見上げている。
【クロノ】
「いや、先に夢から出るだけだから」
【日留川 凌央】
「うっ……グス」
掴んでいる手を下ろそうとしたが、離れない。
細かく震えている肩が、なんだかやけにか弱く見えて……俺は項垂れた。
【クロノ】
(一応、あいつらに見つからないような所に避難させておくか)
最悪の場合、日留川があいつらに捕まったとしても、夢の中だから構わないとは思ってたけど。
ほっとけない、と思ってしまった。
仕方がないので、俺は日留川の手を取った。軽く手を引くと、日留川は大人しく立ち上がった。
日留川は子供のように泣きながら、俺に導かれるまま付いてくる。
人間の学校の造りなんてよく解らないけど……。
【クロノ】
「やっぱりあった」
どこか、鍵がかけられる場所があると思ったのだ。
「体育倉庫」と書かれた部屋に、俺達は入って行った。そして、ドアの鍵をかける。
乱雑に積まれた埃っぽいマットの上に、日留川を座らせた。
【クロノ】
「鍵かけたから。あいつらも簡単には、入って来れないと思う」
【クロノ】
「だから俺、先に夢から出るよ」
【クロノ】
「なに……?」
【日留川 凌央】
「え……っ」
ほぼ同時に、日留川がよろめく。
見ると、日留川が足蹴にしていた生徒が、立ち上がっていた。
廊下から次々と他の生徒達も入ってきて、ふらついて尻もちをついた日留川へ近づいていく。
【日留川 凌央】
「くっ……来るな。なんだよてめえら」
俯いている生徒達は、ただならぬ雰囲気を醸し出している。
まるで、もう我慢がならないとばかりに、一様に日留川を睨みつけている。
日留川は尻もちをついたまま後ずさり、その辺にあったものを手当たり次第に投げつける。
だけど生徒達は、どこに当たろうが眉一つ動かさず―――
じりじりと日留川に詰め寄っていく。
【日留川 凌央】
「―――ひっ……」
【クロノ】
「……」
いつでも鎌を具現化できるように気を張りながらも、
俺は……
様子を見守ることにした。
【日留川 凌央】
「な、何やってんだよ……助けろよ!!」
【日留川 凌央】
「俺のこと助けにきたんだろ!?そこのあんた!!」
【クロノ】
「……」
だけど俺は目を逸らす。
少なくとも、今のこいつは、現実世界で会った、本当のこいつの顔をしている。
少し荒療治だが、頭を冷やすにはちょうど良い機会だろうと思ったから。据えてもらえ。きついお灸をな。
無視された日留川は呆然とし―――唇を噛み締める。
【日留川 凌央】
「ふざけんなよ……!覚えてろよ、絶対タダじゃ済まさないからな!!」
その時、1人の生徒の手が、乱暴に日留川の胸ぐらを掴み上げた。
【ヤンキー風生徒1】
「よお、日留川」
【日留川 凌央】
「ぐっ……苦し、い……っ」
【ヤンキー風生徒1】
「今まで、よくも散々好き勝手してくれたな、オイ」
胸ぐらを掴み上げられた日留川は、その手から逃れようと必死でもがいている。
爪先が辛うじて地面についているくらいだから、苦しそうだ。
目端で、日留川が必死に俺を助けを求めてきているけど。
俺はやっぱり、気付かないフリを続けている。
もちろん後で助けに入ってやるさと、心の中では返事をした。
さて、あとはどのタイミングで助けてやるかだけど。
どうやら、奴らの目的は日留川のようで、俺の方は誰も見向きもしない。
ここで見物しながら、ゆっくりと見極めよう。
―――憧憬夢が、どうしてこんなことになってるのか。
夢主の望んだ夢を見せる筈のリビドーが、どうしてこんな動きをしてるのか。
【ヤンキー風生徒2】
「お前こないださ、面白いこと言ってたよな。俺らに」
【日留川 凌央】
「あ………あ……」
【ヤンキー風生徒3】
「俺の目の前で、1人でやってみせろよ、だっけ?」
【ヤンキー風生徒1】
「テメーがやってみせろよ、この引きこもりが」
【日留川 凌央】
「い……嫌だ……っ」
生徒達の手が、日留川のズボンに伸びていく。
【日留川 凌央】
「嫌だああああああ!!」
その日、俺は全教科で平均98点をとった。
【先生】
「うーん、お前にはちょっと問題が簡単すぎたかもな」
だけど俺は知ってる。
【先生】
「いいかー、お前らも日留川を見習って勉強するように」
先生がそう言うたび、クラスメイトの目が冷たくなるのを。
【父親】
「お前は本当によくできた子供だな。父さんもお前くらい勉強ができれば良かったんだけどな」
【母親】
「本当よね。毎回こんな点数とってきて……ちゃんと夜眠れてる?」
テストを持って帰ると、両親は点数を見て喜んだ。
だけど俺は知ってた。
同じクラスで近所に住んでる奴らは一家揃って、俺達家族には挨拶すらしないことを。
―――人には親切にしなさい。
それが両親の口癖だけど。
ねえ、父さん、母さん。
こんな奴らに優しくする必要って、本当にあるの?
ズボンに手をかけられた時、俺は反射的に目をつむった。
まただ。
またこうやっていじめられるのか。
女子の目の前でズボンを下ろされたり、体育が終わった後には制服を隠されたり。
こんなこと、高校までの間に何度も経験してきた。
もう嫌だ。こんなこともうされたくない。
【クロノ】
「おい」
【日留川 凌央】
「うっ……グス、っ……」
【クロノ】
「目を開けろ、日留川」
誰かの声が聞こえて目を開けると、見たことのない男が俺の顔を覗き込んでいた。
日留川にむらがる生徒達をかき分けて、その手を強く引いて助け出す。
少し離れた所まで逃げて、少し落ち着いてから呼びかけたが、焦点があってない。
【日留川 凌央】
「ぐすっ……、うっ、うっ」
【クロノ】
「おい、聞こえてるか」
【日留川 凌央】
「ううぅ……もう嫌だ……嫌だ、嫌だ……!」
人目も憚らず泣きじゃくっている様子を見るに、完全に冷静さを失っているらしい。
よほど深い心の傷を刺激されたのだろう。
その頭を撫でてやったけど、明確な反応はなかった。
わざと様子見するような真似をしたことを、ちょっとだけ反省する。
【クロノ】
「……まあ、とりあえずは充分なお仕置きは食らったな」
縮こまっている震えている背中を一撫でして、鎌を生成しながら立ち上がる。
教室から溢れ出した生徒達の群れが、こちらに押し寄せている。
【クロノ】
(しかし、憧憬夢がこんな風になるとは……まずは、じいに相談してみるか)
日留川をその場に置いて、地面を蹴って目覚めようとした時。
ズボンの裾を、軽く引かれた。
【クロノ】
「……」
不安そうな日留川が、縋るように俺を見上げている。
【クロノ】
「いや、先に夢から出るだけだから」
【日留川 凌央】
「うっ……グス」
掴んでいる手を下ろそうとしたが、離れない。
細かく震えている肩が、なんだかやけにか弱く見えて……俺は項垂れた。
【クロノ】
(一応、あいつらに見つからないような所に避難させておくか)
最悪の場合、日留川があいつらに捕まったとしても、夢の中だから構わないとは思ってたけど。
ほっとけない、と思ってしまった。
仕方がないので、俺は日留川の手を取った。軽く手を引くと、日留川は大人しく立ち上がった。
日留川は子供のように泣きながら、俺に導かれるまま付いてくる。
人間の学校の造りなんてよく解らないけど……。
【クロノ】
「やっぱりあった」
どこか、鍵がかけられる場所があると思ったのだ。
「体育倉庫」と書かれた部屋に、俺達は入って行った。そして、ドアの鍵をかける。
乱雑に積まれた埃っぽいマットの上に、日留川を座らせた。
【クロノ】
「鍵かけたから。あいつらも簡単には、入って来れないと思う」
【クロノ】
「だから俺、先に夢から出るよ」