[本編] 日留川 凌央 編
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【日留川 凌央】
「……本当に、に、人間じゃ……ないのか……?」
【クロノ】
「だからそうだって言ってるだろ。信じられないかも知れないけど」
【日留川 凌央】
「……」
日留川は口元に手を当て、今度は違う目で俺を見始めた。
得体の知れないものを見るような目つきだ。
良かった。これでやっと話を進められる。
―――死神にでも言われなければ、こんな話、説得力がないだろうから。
【クロノ】
「じゃあ本題」
【クロノ】
「あんた、もうすぐ死ぬよ」
【日留川 凌央】
「死ぬ?……は? なんで?」
【クロノ】
「だから、助けに来た」
【日留川 凌央】
「……死神が?」
【クロノ】
「そう。それが俺の今回の仕事」
俺がそう告げると、日留川は眉を寄せる。
今、その顔に浮かんでいるのは―――
もちろん、死ぬことへの恐怖や不安なんかではなく、ただの不快感。
突然現れた不審者に不吉なことを言われたという、ただの嫌悪。
通常、俺達死神は、マンガや映画にあるように人に死を宣告したりはしない。
ただ、体を離れた魂をそっと狩るだけだ。
だから、人間にこんな顔をされることは数少ない。―――少なくとも、俺は。
……少し過去のことを思い出して湿っぽくなった気持ちを切り替えて、深呼吸する。
元より、人間に俺達の存在をそう簡単に信じてもらえるとは思ってないし、どう思われようが構わない。
かといって仕事な以上、これで大人しく引き下がるわけにはいかない。
【クロノ】
「いきなり言われても信じられないとは思うけど。……ざっと説明すると」
【クロノ】
「リビドーの使いすぎで、もうすぐ死ぬ」
リビドーという言葉が出ると、日留川の肩がピクリと揺れた。
【日留川 凌央】
「……規定通りに使ってるけど。つかなんでリビドーのこと……知ってんの」
【クロノ】
「企業秘密。昨日、あんたの夢に入ったけど、声がかけられなかった」
【日留川 凌央】
「……声掛けられないと死ぬの?なんか関係あんの、それ」
【クロノ】
「とにかく今日もリビドーを使うなら、あんたの夢に行くから」
【日留川 凌央】
「はあ?……あんた何言ってんの?」
【クロノ】
「それだけ。じゃあ」
用は済んだので、俺はその場から姿を消した。
―――俺の目の前で、死神と名乗った男は消えた。
きっと俺は今、狐につままれたような顔ってのをしてると思う。
【日留川 凌央】
「……え?」
幾らまばたきしても、もう男の姿は見えない。
部屋じゅうを見回しても、姿も形もない。
頬をつねってみる。……目覚める気配はない。
頭を叩いてみる。……痛い。
誰かが部屋に侵入した痕跡を探してみる。……変わった所はない。
そして俺は、机に戻った。
俺の頭脳を持ってしても理解できないことに、久し振りに出くわした。
そのことに、今は驚いている。
非現実的なことが、目の前で起こってしまったことに。
……いや、違う。そんなこと、起こるわけがない。
冷たい水で顔を洗って、頭を冷やしてからもう1度考える。
そう、この世界の科学法則を揺らがす存在などありはしない。
あいつは、死神を名乗る変質者だ。
泥棒に入ったは良いけど、何も取らずに俺の目の前で消え……
そこまで考えて首を振る。
違う。今までのは全て幻覚だったんだ。そうじゃなきゃ説明がつかない。
【日留川 凌央】
「どうやら俺には、休息が必要らしい……」
そして。
玄関や窓の施錠をしっかりと確認して、リビドーを手に取った。
あの幻覚は、去り際、夢に来ると言っていた。
―――確かめてみようじゃないか。
俺とじいは死神界に戻り、事件の資料を漁っていた。
しかし新情報の入手はできなかった。
【アンク】
「やはり、日留川さんからの情報提供が望ましいですな」
【クロノ】
「確かに、それが1番簡単だろうな」
【アンク】
「それにしても……、先ほどは驚きましたぞ」
【アンク】
「まさか、往訪予約を入れるとは恐れ入りました」
【クロノ】
「それは…」
【クロノ】
「なんかもう、色々めんどくさくなったから。直球にした」
目も痛くなって来たことだし、パンと資料を閉じる。
【クロノ】
「それにしても……なかなか信じてもらえないもんだ」
【アンク】
「自分達の科学力を盲信している人間には、難しい話かと思われます」
チクチクと痛む瞼の裏に、淡い思い出が蘇る。
迎えにきた俺の存在を、人間でただ1人察知することができて。
そして俺の存在を信じてくれた―――あの少年と過ごした季節のことを。
―――……
【クロノ】
「さて、そろそろあいつもリビドーを使う頃だと思うから、行ってくる」
突然立ち上がった俺を、じいはただ黙って見上げた。
【アンク】
「では、私はもう少し資料を探してみます」
【アンク】
「何かございましたら、夢の中から私に呼びかけてくださいませ」
【クロノ】
「わかった。……じゃあ、よろしく」
リビドーを持って、あいつの部屋へ瞬間移動すると。
案の定、ベッドに横たわる日留川の姿があった。
見ず知らずのヤツに1度忠告されて変わるほど、俺だって素直じゃないけど。
リビドーのせいで死ぬって言ったのに。
どうしてこいつは、リビドーを使い続けるんだろう。
目を閉じてすぐに、内臓を引っ張られるような感覚が襲ってくる。
それを超えれば、この間と同じ、学校の中だった。
【クロノ】
「……いつまで経っても慣れそうもない、この感覚」
口元を手で押さえながら、耳を澄ます。
そして、声が聞こえた教室を開けると、昨日と同じ光景が繰り広げられていた。
いや、昨日と一緒じゃない。
学生服の日留川が、ヤンキー風の生徒の上に座っている。
あの生徒は、昨日無理矢理させられていたうちの一人だ。
【日留川 凌央】
「お前、昨日自分でシなかったよな?何でもやるって言ったの、どこの誰だっけ?」
【ヤンキー風生徒2】
「……っ、す、すみません……どうしても、恥ずかしくて……」
【日留川 凌央】
「恥ずかしい?」
すっと目を細めた日留川が相手を見下し、持っていた鞭を振り上げる。
【日留川 凌央】
「お前は人間だっけ?それとも豚!?」
日留川の鞭が空を切り、生徒の尻に当たる。弾けるような凄い音がした。
【ヤンキー風生徒2】
「いっ……痛い!!豚です、日留川様!!」
【日留川 凌央】
「豚が恥ずかしいとか? 痛いとか言うんだ!?ねえ!?」
【ヤンキー風生徒2】
「ぶっ……ブヒ、ブヒイイぃぃぃッ……!!」
【日留川 凌央】
「今、どんな気分?ねえ、俺に叩かれるのはどんな気分なんだよ!!」
生徒が片足を伸ばし、足先を椅子の脚に引っ掛けて、近くに引き寄せた。そして椅子の脚を挟んで、自分の秘所を擦り付ける。
【日留川 凌央】
「あっは! 嬉しいんだ!俺にケツ叩かれて嬉しいんだ!!」
……そろそろ、ここで黙って見てるのすら苦痛になってきた。
居た堪れなくなって、俺は教室の扉を開けた。
その音で、日留川がぴたりと動きを止める。
四つん這いになっている生徒を足蹴にしながら……ゆっくと振り返った。
先ほどとは打って変って、恐怖など感じたこともないような顔をしていた。
現実世界で話していた男は、俺の目の前にはいない。
【日留川 凌央】
「あ?なんだ、本当に来たんだ、死神さん?」
【クロノ】
「来ると言ったろ」
【クロノ】
「予告しといたから。ちゃんと認識してくれてよかった」
【日留川 凌央】
「んなことどーでもいーし。……ていうか」
【日留川 凌央】
「アンタの用件ってなんだっけ?」
【クロノ】
「助けにきた」
【日留川 凌央】
「アハハハハハハハハ!!」
窓ガラスが割れそうな笑い声に、顔をしかめる。
【日留川 凌央】
「助けに来たって何!?何言っちゃってんのコイツ!!」
【クロノ】
「それが仕事だって言っただろ」
【日留川 凌央】
「ははは、信じるわけねーし。ちょっとガチで言っちゃって良い? マジうざい」
【日留川 凌央】
「関係ないからほっといてくれます?しゃしゃってんじゃねーぞ、クズ」
真顔になった日留川が、手持ち無沙汰のように生徒の腹を蹴る。
呻いた生徒は咳き込みながら、手足を必死に突っ張っている。
……クズか。
夢に逃げているような人間に言われても、痛くも痒くもないけど。
―――まあ、良い気分はしない。
ほんと、人間ってのはどうしようもない。
やれやれという気持ちで、俺は虐げられている生徒を指さす。
【クロノ】
「それがあんたの願望? 自分を虐げた奴を見下して蔑むことが?」
その時、世界の片隅にピシリと亀裂が入ったのを、俺は見逃さなかった。
「……本当に、に、人間じゃ……ないのか……?」
【クロノ】
「だからそうだって言ってるだろ。信じられないかも知れないけど」
【日留川 凌央】
「……」
日留川は口元に手を当て、今度は違う目で俺を見始めた。
得体の知れないものを見るような目つきだ。
良かった。これでやっと話を進められる。
―――死神にでも言われなければ、こんな話、説得力がないだろうから。
【クロノ】
「じゃあ本題」
【クロノ】
「あんた、もうすぐ死ぬよ」
【日留川 凌央】
「死ぬ?……は? なんで?」
【クロノ】
「だから、助けに来た」
【日留川 凌央】
「……死神が?」
【クロノ】
「そう。それが俺の今回の仕事」
俺がそう告げると、日留川は眉を寄せる。
今、その顔に浮かんでいるのは―――
もちろん、死ぬことへの恐怖や不安なんかではなく、ただの不快感。
突然現れた不審者に不吉なことを言われたという、ただの嫌悪。
通常、俺達死神は、マンガや映画にあるように人に死を宣告したりはしない。
ただ、体を離れた魂をそっと狩るだけだ。
だから、人間にこんな顔をされることは数少ない。―――少なくとも、俺は。
……少し過去のことを思い出して湿っぽくなった気持ちを切り替えて、深呼吸する。
元より、人間に俺達の存在をそう簡単に信じてもらえるとは思ってないし、どう思われようが構わない。
かといって仕事な以上、これで大人しく引き下がるわけにはいかない。
【クロノ】
「いきなり言われても信じられないとは思うけど。……ざっと説明すると」
【クロノ】
「リビドーの使いすぎで、もうすぐ死ぬ」
リビドーという言葉が出ると、日留川の肩がピクリと揺れた。
【日留川 凌央】
「……規定通りに使ってるけど。つかなんでリビドーのこと……知ってんの」
【クロノ】
「企業秘密。昨日、あんたの夢に入ったけど、声がかけられなかった」
【日留川 凌央】
「……声掛けられないと死ぬの?なんか関係あんの、それ」
【クロノ】
「とにかく今日もリビドーを使うなら、あんたの夢に行くから」
【日留川 凌央】
「はあ?……あんた何言ってんの?」
【クロノ】
「それだけ。じゃあ」
用は済んだので、俺はその場から姿を消した。
―――俺の目の前で、死神と名乗った男は消えた。
きっと俺は今、狐につままれたような顔ってのをしてると思う。
【日留川 凌央】
「……え?」
幾らまばたきしても、もう男の姿は見えない。
部屋じゅうを見回しても、姿も形もない。
頬をつねってみる。……目覚める気配はない。
頭を叩いてみる。……痛い。
誰かが部屋に侵入した痕跡を探してみる。……変わった所はない。
そして俺は、机に戻った。
俺の頭脳を持ってしても理解できないことに、久し振りに出くわした。
そのことに、今は驚いている。
非現実的なことが、目の前で起こってしまったことに。
……いや、違う。そんなこと、起こるわけがない。
冷たい水で顔を洗って、頭を冷やしてからもう1度考える。
そう、この世界の科学法則を揺らがす存在などありはしない。
あいつは、死神を名乗る変質者だ。
泥棒に入ったは良いけど、何も取らずに俺の目の前で消え……
そこまで考えて首を振る。
違う。今までのは全て幻覚だったんだ。そうじゃなきゃ説明がつかない。
【日留川 凌央】
「どうやら俺には、休息が必要らしい……」
そして。
玄関や窓の施錠をしっかりと確認して、リビドーを手に取った。
あの幻覚は、去り際、夢に来ると言っていた。
―――確かめてみようじゃないか。
俺とじいは死神界に戻り、事件の資料を漁っていた。
しかし新情報の入手はできなかった。
【アンク】
「やはり、日留川さんからの情報提供が望ましいですな」
【クロノ】
「確かに、それが1番簡単だろうな」
【アンク】
「それにしても……、先ほどは驚きましたぞ」
【アンク】
「まさか、往訪予約を入れるとは恐れ入りました」
【クロノ】
「それは…」
【クロノ】
「なんかもう、色々めんどくさくなったから。直球にした」
目も痛くなって来たことだし、パンと資料を閉じる。
【クロノ】
「それにしても……なかなか信じてもらえないもんだ」
【アンク】
「自分達の科学力を盲信している人間には、難しい話かと思われます」
チクチクと痛む瞼の裏に、淡い思い出が蘇る。
迎えにきた俺の存在を、人間でただ1人察知することができて。
そして俺の存在を信じてくれた―――あの少年と過ごした季節のことを。
―――……
【クロノ】
「さて、そろそろあいつもリビドーを使う頃だと思うから、行ってくる」
突然立ち上がった俺を、じいはただ黙って見上げた。
【アンク】
「では、私はもう少し資料を探してみます」
【アンク】
「何かございましたら、夢の中から私に呼びかけてくださいませ」
【クロノ】
「わかった。……じゃあ、よろしく」
リビドーを持って、あいつの部屋へ瞬間移動すると。
案の定、ベッドに横たわる日留川の姿があった。
見ず知らずのヤツに1度忠告されて変わるほど、俺だって素直じゃないけど。
リビドーのせいで死ぬって言ったのに。
どうしてこいつは、リビドーを使い続けるんだろう。
目を閉じてすぐに、内臓を引っ張られるような感覚が襲ってくる。
それを超えれば、この間と同じ、学校の中だった。
【クロノ】
「……いつまで経っても慣れそうもない、この感覚」
口元を手で押さえながら、耳を澄ます。
そして、声が聞こえた教室を開けると、昨日と同じ光景が繰り広げられていた。
いや、昨日と一緒じゃない。
学生服の日留川が、ヤンキー風の生徒の上に座っている。
あの生徒は、昨日無理矢理させられていたうちの一人だ。
【日留川 凌央】
「お前、昨日自分でシなかったよな?何でもやるって言ったの、どこの誰だっけ?」
【ヤンキー風生徒2】
「……っ、す、すみません……どうしても、恥ずかしくて……」
【日留川 凌央】
「恥ずかしい?」
すっと目を細めた日留川が相手を見下し、持っていた鞭を振り上げる。
【日留川 凌央】
「お前は人間だっけ?それとも豚!?」
日留川の鞭が空を切り、生徒の尻に当たる。弾けるような凄い音がした。
【ヤンキー風生徒2】
「いっ……痛い!!豚です、日留川様!!」
【日留川 凌央】
「豚が恥ずかしいとか? 痛いとか言うんだ!?ねえ!?」
【ヤンキー風生徒2】
「ぶっ……ブヒ、ブヒイイぃぃぃッ……!!」
【日留川 凌央】
「今、どんな気分?ねえ、俺に叩かれるのはどんな気分なんだよ!!」
生徒が片足を伸ばし、足先を椅子の脚に引っ掛けて、近くに引き寄せた。そして椅子の脚を挟んで、自分の秘所を擦り付ける。
【日留川 凌央】
「あっは! 嬉しいんだ!俺にケツ叩かれて嬉しいんだ!!」
……そろそろ、ここで黙って見てるのすら苦痛になってきた。
居た堪れなくなって、俺は教室の扉を開けた。
その音で、日留川がぴたりと動きを止める。
四つん這いになっている生徒を足蹴にしながら……ゆっくと振り返った。
先ほどとは打って変って、恐怖など感じたこともないような顔をしていた。
現実世界で話していた男は、俺の目の前にはいない。
【日留川 凌央】
「あ?なんだ、本当に来たんだ、死神さん?」
【クロノ】
「来ると言ったろ」
【クロノ】
「予告しといたから。ちゃんと認識してくれてよかった」
【日留川 凌央】
「んなことどーでもいーし。……ていうか」
【日留川 凌央】
「アンタの用件ってなんだっけ?」
【クロノ】
「助けにきた」
【日留川 凌央】
「アハハハハハハハハ!!」
窓ガラスが割れそうな笑い声に、顔をしかめる。
【日留川 凌央】
「助けに来たって何!?何言っちゃってんのコイツ!!」
【クロノ】
「それが仕事だって言っただろ」
【日留川 凌央】
「ははは、信じるわけねーし。ちょっとガチで言っちゃって良い? マジうざい」
【日留川 凌央】
「関係ないからほっといてくれます?しゃしゃってんじゃねーぞ、クズ」
真顔になった日留川が、手持ち無沙汰のように生徒の腹を蹴る。
呻いた生徒は咳き込みながら、手足を必死に突っ張っている。
……クズか。
夢に逃げているような人間に言われても、痛くも痒くもないけど。
―――まあ、良い気分はしない。
ほんと、人間ってのはどうしようもない。
やれやれという気持ちで、俺は虐げられている生徒を指さす。
【クロノ】
「それがあんたの願望? 自分を虐げた奴を見下して蔑むことが?」
その時、世界の片隅にピシリと亀裂が入ったのを、俺は見逃さなかった。