[本編] 日留川 凌央 編
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姿を現したまま、俺は日留川の背後に立っている。
だけどキーを打つ音は止まらず、こちらを振り返る様子もない。
よほどチャットが面白いんだろうな。
モニタを覗きこんでみる。
つまりwwwwwリビドーは誰が何と言おうと現実なわけでwww
結構じゃねーかwww今生きてる現実が夢じゃないなんてwww
誰にも言えねーwww
此岸も彼岸も紙一重ってなwww
【アンク】
「『イクシード』というのが、日留川さんのハンドルネームらしいですな」
【アンク】
「思春期特有の現象で、夢と現実の区別がつかなくなる……」
【アンク】
「これが、厨二病と呼ばれるものらしいですぞ」
俺の隣にいるじいが、苦笑交じりに告げる。
だけどまあ、日留川が言っていることもあながち間違いでは無いような気がする。
更に腰を曲げてモニタを覗き込んでも、まだ気づかれない。
日留川の口元には笑いが滲んでいた。
文面を見ると誰かを煽る書き込みをしているようだ。
憧憬夢は、8割はエロか恋愛絡みらしいぜwwwww
とりあえず、これ以上無視され続けるのも得策ではないので。
俺は……
日留川の肩を抱きすくめるように、腕をかける。
【クロノ】
「へえ、じゃあお前も『やらしい夢』のために使ってんの」
【日留川 凌央】
「ッ、―――ヒ……!」
悲鳴にならない声を上げて、そいつが振り返る。
驚きと恐怖で固まってしまっているようで、瞬きもしない男。
夢の中での女王様然とした行動と、意外とビビリな対応のギャップに。
更なる興味と、ちょっとした嗜虐心が芽生えるのを感じていた。
【クロノ】
「こんばんは」
【日留川 凌央】
「……」
【クロノ】
「聞いてる?こんばんは」
【日留川 凌央】
「お、おま……」
どうやら口もきけない程動揺しているらしい。
同級生に1人でするよう強要したり、顔を蹴ったりしてた奴と同一人物とは思えない。
逆に顎に肘鉄が入るくらいの覚悟はしてたんだけど。
じっと見下ろしていると、その肩が小刻みに震えてるのが伝わってきた。
面白い。
跳ね除けるのも忘れて、完全に思考停止か。
擦れっ枯らした態度を取られるよりも、この方が素直で可愛い。
驚かせた甲斐があるというもの、死神冥利に尽きるというか―――まあいいや。
さらにイタズラしたくなって手を伸ばし、そいつの顎に手をかける。
【クロノ】
「こんばんは。欲求不満なら俺がリアルで解消してやろうか」
そのままキスする振りをすると、日留川は慌てて俺を突き飛ばした。
それはあまり強い力ではなかったが、それでやっと日留川はハッとしたらしい。くっと顎を上げ、偉そうな表情をした。
【日留川 凌央】
「……お前、い、いつの間に入ったんだ。まあ、このセキュリティをくぐって来れた事は誉めてやる」
日留川がやっと言葉を返した。……玄関から普通に入って来れそうな部屋だって事には、触れないでおこう。
【クロノ】
「結構前からいたよ。それより―――」
もう1度抱き寄せて、耳元に口を寄せて囁く。
【クロノ】
「随分熱中してネットやってたな」
耳に息が掛かると、日留川はピクンと反応した。それから激しく身を捩って抵抗する。
【日留川 凌央】
「っ……! 離れろ!!俺に触るな!!」
痛い目に合う前にさっと身を引いて、俺は淡々とそいつを見返す。
日留川は俺を睨みながら、じりじりと俺と距離を取った。……睨んでるというか、虚勢張ってる感じだ。
なんか、だんだん弱いものイジメしてる気分になってきた。
そこで気付く。
今のこの状況って、こいつが夢の中で見てた光景と―――真逆の立場だな。
それでまた思う。
―――面白い因果だな、と。
日留川は何度か息を吸うと、突然ふっと気だるげな笑みを浮かべた。
【日留川 凌央】
「金ならある。欲しいなら持っていけ。所詮は紙切れだ」
【クロノ】
「金……?ああ、俺のこと強盗かなにかと思ってるのか」
日留川の態度は大きいけれど、手や唇が震えている。
その口からは何の返事もない。けれど、俺から目を逸らしはしない。
……ああ、そうか。さっきから、きっとこいつは、虚勢を張って俺を睨んでたんじゃない。
ただ、自らの恐怖心を恥じて――。そして、自らの弱さを悔いるように―――
健気だな。
こうやって人間に対峙するたびに思う。
彼らは無力で、儚い。
【クロノ】
「俺は泥棒じゃない。死神」
その言葉に、日留川の目が見開かれる。
【日留川 凌央】
「見え透いた嘘を言う、ただの不審者のくせに」
【日留川 凌央】
「アンタからは深淵の匂いがしない、死神のはずがない」
【クロノ】
「……? 何を言って………」
問いかけて、ふと気付く。もしかして、これが廚二病と言うやつか……。
俺は、どうやって説明したものかと頭を抱えた。
すっかり警戒してしまった日留川は、俺が少し手を動かしただけで10センチは遠ざかっていく。
ここまで激しく怯えられると、申し訳なくなってくる。
俺は……
申し訳ないのと同時にイジメたくなるのは、俺の悪いクセかもしれない。
ダン、と強く床踏んで1歩近づくと。
日留川は30センチくらい飛び上がったように見えた。
こういうオモチャ、知ってる。
【クロノ】
「……プッ……くく」
堪え切れずに、俺は顔を隠して吹き出してしまった。
それを見た日留川の顔が、みるみる赤く染まっていく―――と思いきや。
悔しそうに歯を食いしばっただけで、警戒心に身を固くしたままだった。
咳払いして、襟を正す。
【クロノ】
「失礼。新鮮な反応だったもんだから、面白くて」
【日留川 凌央】
「っ……!」
【クロノ】
「で、ものの例えとかじゃなくて、俺は本当に死神なんだけど」
【クロノ】
「説明するのがちょっと難しい」
日留川は、上目遣いになって、俺を訝しんでいる。
不審者が何か言い始めた、と、警戒心の強い瞳が雄弁に語っていた。
【クロノ】
「えーと」
死神である証明なんて難しすぎる。何をしても手品と思われそうだ。
俺は、ふと顔を上げる。
【クロノ】
「同級生に自分でアレさせるとか、けっこう過激な夢だった」
【日留川 凌央】
「は……?」
死神だという証明は、人智の及ばないような行為をするに限ると思った。
しかし目の前の男は、まだ何を言われたかわからないらしく、目を丸くしている。
【クロノ】
「あれがお前の潜在意識か」
【クロノ】
「同級生をひざまずかせて、目の前で屈辱的な行為をさせる」
【クロノ】
「そういうのが趣味なのか、鬱憤が溜まってるのかは知らないけど」
【クロノ】
「もう少し、健康的な方法を模索した方が自分の為になると思う」
【日留川 凌央】
「な……何の話だよ。夢の中とか、意味わかんないんだけど」
日留川は、濃い動揺を滲ませて、目を逸らした。
……この点を認めさせるのは流石に難しいか。
誰にも見られたくないはずの深層意識だもんな。
だから心の奥を覗くようなことはせず、淡々と見たものを述べるだけにしておく。
俺の存在を信じさせるためだけに。
【クロノ】
「お前の夢に入って見てたけど、夢の中じゃお前、俺のことを認識しなくてさ」
だけどキーを打つ音は止まらず、こちらを振り返る様子もない。
よほどチャットが面白いんだろうな。
モニタを覗きこんでみる。
つまりwwwwwリビドーは誰が何と言おうと現実なわけでwww
結構じゃねーかwww今生きてる現実が夢じゃないなんてwww
誰にも言えねーwww
此岸も彼岸も紙一重ってなwww
【アンク】
「『イクシード』というのが、日留川さんのハンドルネームらしいですな」
【アンク】
「思春期特有の現象で、夢と現実の区別がつかなくなる……」
【アンク】
「これが、厨二病と呼ばれるものらしいですぞ」
俺の隣にいるじいが、苦笑交じりに告げる。
だけどまあ、日留川が言っていることもあながち間違いでは無いような気がする。
更に腰を曲げてモニタを覗き込んでも、まだ気づかれない。
日留川の口元には笑いが滲んでいた。
文面を見ると誰かを煽る書き込みをしているようだ。
憧憬夢は、8割はエロか恋愛絡みらしいぜwwwww
とりあえず、これ以上無視され続けるのも得策ではないので。
俺は……
日留川の肩を抱きすくめるように、腕をかける。
【クロノ】
「へえ、じゃあお前も『やらしい夢』のために使ってんの」
【日留川 凌央】
「ッ、―――ヒ……!」
悲鳴にならない声を上げて、そいつが振り返る。
驚きと恐怖で固まってしまっているようで、瞬きもしない男。
夢の中での女王様然とした行動と、意外とビビリな対応のギャップに。
更なる興味と、ちょっとした嗜虐心が芽生えるのを感じていた。
【クロノ】
「こんばんは」
【日留川 凌央】
「……」
【クロノ】
「聞いてる?こんばんは」
【日留川 凌央】
「お、おま……」
どうやら口もきけない程動揺しているらしい。
同級生に1人でするよう強要したり、顔を蹴ったりしてた奴と同一人物とは思えない。
逆に顎に肘鉄が入るくらいの覚悟はしてたんだけど。
じっと見下ろしていると、その肩が小刻みに震えてるのが伝わってきた。
面白い。
跳ね除けるのも忘れて、完全に思考停止か。
擦れっ枯らした態度を取られるよりも、この方が素直で可愛い。
驚かせた甲斐があるというもの、死神冥利に尽きるというか―――まあいいや。
さらにイタズラしたくなって手を伸ばし、そいつの顎に手をかける。
【クロノ】
「こんばんは。欲求不満なら俺がリアルで解消してやろうか」
そのままキスする振りをすると、日留川は慌てて俺を突き飛ばした。
それはあまり強い力ではなかったが、それでやっと日留川はハッとしたらしい。くっと顎を上げ、偉そうな表情をした。
【日留川 凌央】
「……お前、い、いつの間に入ったんだ。まあ、このセキュリティをくぐって来れた事は誉めてやる」
日留川がやっと言葉を返した。……玄関から普通に入って来れそうな部屋だって事には、触れないでおこう。
【クロノ】
「結構前からいたよ。それより―――」
もう1度抱き寄せて、耳元に口を寄せて囁く。
【クロノ】
「随分熱中してネットやってたな」
耳に息が掛かると、日留川はピクンと反応した。それから激しく身を捩って抵抗する。
【日留川 凌央】
「っ……! 離れろ!!俺に触るな!!」
痛い目に合う前にさっと身を引いて、俺は淡々とそいつを見返す。
日留川は俺を睨みながら、じりじりと俺と距離を取った。……睨んでるというか、虚勢張ってる感じだ。
なんか、だんだん弱いものイジメしてる気分になってきた。
そこで気付く。
今のこの状況って、こいつが夢の中で見てた光景と―――真逆の立場だな。
それでまた思う。
―――面白い因果だな、と。
日留川は何度か息を吸うと、突然ふっと気だるげな笑みを浮かべた。
【日留川 凌央】
「金ならある。欲しいなら持っていけ。所詮は紙切れだ」
【クロノ】
「金……?ああ、俺のこと強盗かなにかと思ってるのか」
日留川の態度は大きいけれど、手や唇が震えている。
その口からは何の返事もない。けれど、俺から目を逸らしはしない。
……ああ、そうか。さっきから、きっとこいつは、虚勢を張って俺を睨んでたんじゃない。
ただ、自らの恐怖心を恥じて――。そして、自らの弱さを悔いるように―――
健気だな。
こうやって人間に対峙するたびに思う。
彼らは無力で、儚い。
【クロノ】
「俺は泥棒じゃない。死神」
その言葉に、日留川の目が見開かれる。
【日留川 凌央】
「見え透いた嘘を言う、ただの不審者のくせに」
【日留川 凌央】
「アンタからは深淵の匂いがしない、死神のはずがない」
【クロノ】
「……? 何を言って………」
問いかけて、ふと気付く。もしかして、これが廚二病と言うやつか……。
俺は、どうやって説明したものかと頭を抱えた。
すっかり警戒してしまった日留川は、俺が少し手を動かしただけで10センチは遠ざかっていく。
ここまで激しく怯えられると、申し訳なくなってくる。
俺は……
申し訳ないのと同時にイジメたくなるのは、俺の悪いクセかもしれない。
ダン、と強く床踏んで1歩近づくと。
日留川は30センチくらい飛び上がったように見えた。
こういうオモチャ、知ってる。
【クロノ】
「……プッ……くく」
堪え切れずに、俺は顔を隠して吹き出してしまった。
それを見た日留川の顔が、みるみる赤く染まっていく―――と思いきや。
悔しそうに歯を食いしばっただけで、警戒心に身を固くしたままだった。
咳払いして、襟を正す。
【クロノ】
「失礼。新鮮な反応だったもんだから、面白くて」
【日留川 凌央】
「っ……!」
【クロノ】
「で、ものの例えとかじゃなくて、俺は本当に死神なんだけど」
【クロノ】
「説明するのがちょっと難しい」
日留川は、上目遣いになって、俺を訝しんでいる。
不審者が何か言い始めた、と、警戒心の強い瞳が雄弁に語っていた。
【クロノ】
「えーと」
死神である証明なんて難しすぎる。何をしても手品と思われそうだ。
俺は、ふと顔を上げる。
【クロノ】
「同級生に自分でアレさせるとか、けっこう過激な夢だった」
【日留川 凌央】
「は……?」
死神だという証明は、人智の及ばないような行為をするに限ると思った。
しかし目の前の男は、まだ何を言われたかわからないらしく、目を丸くしている。
【クロノ】
「あれがお前の潜在意識か」
【クロノ】
「同級生をひざまずかせて、目の前で屈辱的な行為をさせる」
【クロノ】
「そういうのが趣味なのか、鬱憤が溜まってるのかは知らないけど」
【クロノ】
「もう少し、健康的な方法を模索した方が自分の為になると思う」
【日留川 凌央】
「な……何の話だよ。夢の中とか、意味わかんないんだけど」
日留川は、濃い動揺を滲ませて、目を逸らした。
……この点を認めさせるのは流石に難しいか。
誰にも見られたくないはずの深層意識だもんな。
だから心の奥を覗くようなことはせず、淡々と見たものを述べるだけにしておく。
俺の存在を信じさせるためだけに。
【クロノ】
「お前の夢に入って見てたけど、夢の中じゃお前、俺のことを認識しなくてさ」