[本編] 日留川 凌央 編
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昔は、自分が人と違うなんて考えもしなかった。
親に言われるがままに、素直にひたすら勉強してただけだった。
小さい頃は、友達と呼べるような奴も結構いたと思う。
だけどいつからだろう。
俺はいつの間にか1人になった。
友達だった奴は、学年が上がるたびに俺を避けるようになって。
テストの順位が貼り出されるたびに、俺は孤立していった。
ー今は、1人でいることに何の不満もない。
むしろ、頭の悪い連中と関わらなくて済んでせいせいする。
だけど―――今でも俺を蔑んだ奴らのことを思うと…
俺を馬鹿にした奴らは、全員地獄に落ちろ。
頭がいいってだけで妬んで、俺を孤立させようとしたクズ共。
いい高校に入って、成績も常にトップであることの何が悪い?
俺は、お前たちとは違う。
だから、友達とか同僚とか、そういう人間関係はもうウンザリだ。
1人でひっそり、静寂の中で暮らしたい。
俺は、永遠に、孤独な闇に包まれていたい………
日課になっているネットの時間、興味深い情報を手に入れた。
夢を操るヘッドセット式の脳波装置が、最近出回っているらしい。名前は――
【日留川 凌央】
「――リビドー、か……」
リビドー……
――脳波に直接作用して、持ち主が望む通りの夢を見させる装置。
脳波なんかいじって、体に悪影響はないのかと調べもしたが―――。
今のところ、そういう事例はないようだ。
まだ出たばかりの新鮮な情報で、使っている奴も少ないようだった。
無論、興味が沸いた。
この装置を使ってやろうと思った。
――――……
購入サイトは、もちろん表立った場所にはなかったが、俺にかかれば、発見する事など造作もなかった。
見つけたのは、『rakudo』という名の、いかにも怪しげなデザインのサイト。
他のルートも調べてみたが、ここを通してしか購入できないらしい。
いつものクセで、軽くハッキングをしてみたが―――弾かれる。
【日留川 凌央】
「……ふーん」
俺を弾けるプログラム……。となると、このサイトは確実に『クロ』だ。
まともな企業が裏サイトをやってるわけないし。
パチンと爪を弾いて、俺は笑った。
【日留川 凌央】
「誰がこんな装置を作ったのか知らないけど」
このサイトの運営は、自分と似たような奴がやってるのかもな。
俺と同じように、暇を持て余した誰かのイタズラだ。きっと。
購入ボタンを押すとき、ふと、昔のクラスメイト達の顔がよぎった。
―――その日からずっと、俺はリビドーを使い続けている。
【クロノ】
「21歳、男……」
じいから渡されたプロフィールを読みながら、眠っている男を見下ろす。俺とじいは今、そいつの枕元に立っていた。
【クロノ】
「幸せそう…っていうか、邪悪な笑顔。ま、楽しそうではあるけど」
【アンク】
「左様でございますな。これが、憧憬夢を見せる、リビドーの力です」
【アンク】
「夢主の願望が実現している状態でございますから。寝顔にも欲望は顕れるものですな」
小さな寝息を立てている寝顔を、俺は改めて眺めた。……見た感じ、細いし筋肉もついてないように見える。
【クロノ】
「……なんていうか、小柄」
【アンク】
「資料によりますと、引きこもりらしいですからな」
【クロノ】
「引きこもりだと背が伸びないとか、そういうデータでも出てんの?」
【アンク】
「さあ。多少は関係あるんじゃないかという持論です」
【クロノ】
「へえ。……で、なんだっけ、引きこもり? 違う、ニート? 自宅警備員?」
【アンク】
「どれも同じ意味でございますぞ。ニートでいいんじゃないでしょうか。言いやすいですし」
【クロノ】
「じゃあさ……その、ニート特有というか、なんというか」
【クロノ】
「部屋、もの凄く汚いし、容姿も何かだらしない」
男はやや怠惰な外見。周りを気にしなくても良いからだろうか。――けど、どこか神経質そうな印象も受ける。
そんなことを考えていると、じいにジト目で見詰められていることに気付いた。
【クロノ】
「……なに?」
【アンク】
「そうやって、どうでも良いことを並べ立てて、夢の中に入るのを遅らせようと必死な訳ですな」
【アンク】
「いくら先延ばしにしても、死神長様直々の命令を、そう簡単に辞退することはできませんぞ」
【アンク】
「その辺は、わかっておられますな?」
痛いところを突かれた俺は……適当にごまかした。
【クロノ】
「わかってるわかってる」
【アンク】
「おやおや、失礼いたしました。では、早速お仕事に取り掛かって下さいますな」
……墓穴。
【クロノ】
「……まあ、さっさとやって終わらせるか」
【アンク】
「かしこまりました。ではこちらを頭に装着してくだされ」
渡されたのは、ヘッドホンのような形の装置。
【クロノ】
「これがリビドーか。……ていうか、どうやって手に入れたの」
【アンク】
「素性を隠して、参考に1つ購入してみました。ささ、これを付けて横になって下さい」
言われた通り頭につけて、床に横たわる。
【アンク】
「眠りにつく前に、ヘッドセットの右側についているスイッチを押すだけで、夢の世界へ行けるそうです」
【アンク】
「夢に入るまでの時間は、個人差もありますし、コンディションにもよるとのことですが」
【クロノ】
「……よくわかんないけど、わかった。とにかく行ってくる」
そしてまぶたを下ろそうと―――
思ったけど、起き上がる。
【クロノ】
「あ、ちょっと質問」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触していい?それともそっとしといた方がいい?」
【アンク】
「接触ですか……。ふむ、過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
お戯れの意味を理解して、じいから目を逸らす。
【クロノ】
「仕事は仕事として割り切ってやるけど、それだけじゃつまらない時もあるだろ」
言われなくても、人間とは深く付き合うつもりはないけど。
【クロノ】
「けど、これでも死神の端くれだ。時と場所くらいわきまえてるよ」
【アンク】
「なら宜しいんですがね」
【アンク】
「……とにかく、注意していただきたいことはもう1つあります」
じいが、俺に向かって手をかざす。
それを合図に、俺は軽く目を閉じた。
【アンク】
「夢に引きずられないように、お気をつけて」
どういう意味だと訊こうとした時、ヘッドセットを頭に被せられて、視界が真っ暗になった。
――――――………
【クロノ】
「うわっ……!」
まるで高所から落下したような衝撃を感じる。
他人の夢に入るってどんな気分なんだろうなとは思ってたけど。
あまり気持ちのいいものじゃなかった。
目を開けると、見たことのない世界が広がっている。
【クロノ】
「……ここは……どこかの学校か?」
しかし、校舎の窓から見える世界は、人間が生きている世界と変わらないように思える。
妙なところと言えば、夕焼けがやけに赤くて禍々しく感じるくらい。
……夢に引きずられるな、か。
しかし、学校なんてものに縁がない死神の俺には、この世界観には共感できない。
じいの忠告の意味の真意はわからないが、引きずられるなんてことは無いと思うけど。
俺は……気にしないことにした。
親に言われるがままに、素直にひたすら勉強してただけだった。
小さい頃は、友達と呼べるような奴も結構いたと思う。
だけどいつからだろう。
俺はいつの間にか1人になった。
友達だった奴は、学年が上がるたびに俺を避けるようになって。
テストの順位が貼り出されるたびに、俺は孤立していった。
ー今は、1人でいることに何の不満もない。
むしろ、頭の悪い連中と関わらなくて済んでせいせいする。
だけど―――今でも俺を蔑んだ奴らのことを思うと…
俺を馬鹿にした奴らは、全員地獄に落ちろ。
頭がいいってだけで妬んで、俺を孤立させようとしたクズ共。
いい高校に入って、成績も常にトップであることの何が悪い?
俺は、お前たちとは違う。
だから、友達とか同僚とか、そういう人間関係はもうウンザリだ。
1人でひっそり、静寂の中で暮らしたい。
俺は、永遠に、孤独な闇に包まれていたい………
日課になっているネットの時間、興味深い情報を手に入れた。
夢を操るヘッドセット式の脳波装置が、最近出回っているらしい。名前は――
【日留川 凌央】
「――リビドー、か……」
リビドー……
――脳波に直接作用して、持ち主が望む通りの夢を見させる装置。
脳波なんかいじって、体に悪影響はないのかと調べもしたが―――。
今のところ、そういう事例はないようだ。
まだ出たばかりの新鮮な情報で、使っている奴も少ないようだった。
無論、興味が沸いた。
この装置を使ってやろうと思った。
――――……
購入サイトは、もちろん表立った場所にはなかったが、俺にかかれば、発見する事など造作もなかった。
見つけたのは、『rakudo』という名の、いかにも怪しげなデザインのサイト。
他のルートも調べてみたが、ここを通してしか購入できないらしい。
いつものクセで、軽くハッキングをしてみたが―――弾かれる。
【日留川 凌央】
「……ふーん」
俺を弾けるプログラム……。となると、このサイトは確実に『クロ』だ。
まともな企業が裏サイトをやってるわけないし。
パチンと爪を弾いて、俺は笑った。
【日留川 凌央】
「誰がこんな装置を作ったのか知らないけど」
このサイトの運営は、自分と似たような奴がやってるのかもな。
俺と同じように、暇を持て余した誰かのイタズラだ。きっと。
購入ボタンを押すとき、ふと、昔のクラスメイト達の顔がよぎった。
―――その日からずっと、俺はリビドーを使い続けている。
【クロノ】
「21歳、男……」
じいから渡されたプロフィールを読みながら、眠っている男を見下ろす。俺とじいは今、そいつの枕元に立っていた。
【クロノ】
「幸せそう…っていうか、邪悪な笑顔。ま、楽しそうではあるけど」
【アンク】
「左様でございますな。これが、憧憬夢を見せる、リビドーの力です」
【アンク】
「夢主の願望が実現している状態でございますから。寝顔にも欲望は顕れるものですな」
小さな寝息を立てている寝顔を、俺は改めて眺めた。……見た感じ、細いし筋肉もついてないように見える。
【クロノ】
「……なんていうか、小柄」
【アンク】
「資料によりますと、引きこもりらしいですからな」
【クロノ】
「引きこもりだと背が伸びないとか、そういうデータでも出てんの?」
【アンク】
「さあ。多少は関係あるんじゃないかという持論です」
【クロノ】
「へえ。……で、なんだっけ、引きこもり? 違う、ニート? 自宅警備員?」
【アンク】
「どれも同じ意味でございますぞ。ニートでいいんじゃないでしょうか。言いやすいですし」
【クロノ】
「じゃあさ……その、ニート特有というか、なんというか」
【クロノ】
「部屋、もの凄く汚いし、容姿も何かだらしない」
男はやや怠惰な外見。周りを気にしなくても良いからだろうか。――けど、どこか神経質そうな印象も受ける。
そんなことを考えていると、じいにジト目で見詰められていることに気付いた。
【クロノ】
「……なに?」
【アンク】
「そうやって、どうでも良いことを並べ立てて、夢の中に入るのを遅らせようと必死な訳ですな」
【アンク】
「いくら先延ばしにしても、死神長様直々の命令を、そう簡単に辞退することはできませんぞ」
【アンク】
「その辺は、わかっておられますな?」
痛いところを突かれた俺は……適当にごまかした。
【クロノ】
「わかってるわかってる」
【アンク】
「おやおや、失礼いたしました。では、早速お仕事に取り掛かって下さいますな」
……墓穴。
【クロノ】
「……まあ、さっさとやって終わらせるか」
【アンク】
「かしこまりました。ではこちらを頭に装着してくだされ」
渡されたのは、ヘッドホンのような形の装置。
【クロノ】
「これがリビドーか。……ていうか、どうやって手に入れたの」
【アンク】
「素性を隠して、参考に1つ購入してみました。ささ、これを付けて横になって下さい」
言われた通り頭につけて、床に横たわる。
【アンク】
「眠りにつく前に、ヘッドセットの右側についているスイッチを押すだけで、夢の世界へ行けるそうです」
【アンク】
「夢に入るまでの時間は、個人差もありますし、コンディションにもよるとのことですが」
【クロノ】
「……よくわかんないけど、わかった。とにかく行ってくる」
そしてまぶたを下ろそうと―――
思ったけど、起き上がる。
【クロノ】
「あ、ちょっと質問」
【クロノ】
「夢の中でこいつに接触していい?それともそっとしといた方がいい?」
【アンク】
「接触ですか……。ふむ、過度のお戯れをいたさなければ問題ないかと」
お戯れの意味を理解して、じいから目を逸らす。
【クロノ】
「仕事は仕事として割り切ってやるけど、それだけじゃつまらない時もあるだろ」
言われなくても、人間とは深く付き合うつもりはないけど。
【クロノ】
「けど、これでも死神の端くれだ。時と場所くらいわきまえてるよ」
【アンク】
「なら宜しいんですがね」
【アンク】
「……とにかく、注意していただきたいことはもう1つあります」
じいが、俺に向かって手をかざす。
それを合図に、俺は軽く目を閉じた。
【アンク】
「夢に引きずられないように、お気をつけて」
どういう意味だと訊こうとした時、ヘッドセットを頭に被せられて、視界が真っ暗になった。
――――――………
【クロノ】
「うわっ……!」
まるで高所から落下したような衝撃を感じる。
他人の夢に入るってどんな気分なんだろうなとは思ってたけど。
あまり気持ちのいいものじゃなかった。
目を開けると、見たことのない世界が広がっている。
【クロノ】
「……ここは……どこかの学校か?」
しかし、校舎の窓から見える世界は、人間が生きている世界と変わらないように思える。
妙なところと言えば、夕焼けがやけに赤くて禍々しく感じるくらい。
……夢に引きずられるな、か。
しかし、学校なんてものに縁がない死神の俺には、この世界観には共感できない。
じいの忠告の意味の真意はわからないが、引きずられるなんてことは無いと思うけど。
俺は……気にしないことにした。