[本編] 浅多 侑思 編
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【浅多 侑思】
「……だ、誰だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
声が震えるのは耐えられたが、思わず後ずさってしまう。
包帯を巻いていることから、病院から抜け出した患者といったところだろうか。
唯一包帯が巻かれていない左目と口は、笑みの形に歪んでいる。
声だけ聞けば男のようだが、子供か大人かもわからない。
【浅多 侑思】
(いや、ヨントリーの社員ではないということだけで十分だ)
通報するべきかと携帯を取り出そうとした時、そいつが顔を上げる。
【???】
「あんたの恋人、女と浮気したと思ったら今度は男と出てったな。ははは、モテモテじゃねえか」
恋人と言われたことに背筋が凍る。
名前をはっきりと言われたわけでもないのに、その口調は明らかにクロノのことを指しているという確信があった。
誰にも話していない筈なのに、何故こいつが知っている?
いや、死神界の連中なら、知っていてもおかしくはないかもしれないが―――。
何かの答えを導き出しそうになった時、その男が数歩前へ出る。
ポケットに手を入れたのを見て身構えた僕に、そいつは口元を三日月型にしてせせら笑う。
【???】
「これ、見てみろよ」
その手にあるのは、液晶タブレット。
僕とそいつの距離は、まだ数歩分離れている。
【浅多 侑思】
「僕がそれを見なきゃいけない理由がどこにある」
【???】
「理由なんか知らねえよ。ただ、見る権利があるっつってんだ」
【???】
「だって、あんたの恋人のことだもんな。寧ろ、あんたにしか見る権利はない」
【浅多 侑思】
「また、「恋人」……」
【浅多 侑思】
「そこまで断定されて尚、否定するつもりはない……だが、」
【浅多 侑思】
「一体どこで、それを……」
【???】
「はは、すっげえ顔色悪いじゃん。どこでって?あんたがこいつと恋人なのを、どこで知ったのかって?」
【???】
「知られたら都合でも悪いのか? 部長さん」
【浅多 侑思】
「……っ、お前が何を見せたいのか知らないが、僕には必要ない!」
言い切って、男の横をすり抜けようとしたら回り込まれた。
そして目の前に突きつけられたのは、タブレットの画面。
既に起動していたようで、今まさに映像が始まろうとしているところだった。
見たくない。
強迫観念に追い立てられるように、目を背けた時。
シャンパンゴールドの背景が映った。
思い起こすのは、さっき見せられたPV。
金色の背景を後ろに、クロノと女性タレントが寄り添っている映像。
気付いた時には、僕はそれに目を奪われてしまっていた。
2人はグラスを傾けながら見つめ合っていて。
不意にクロノが、女性の髪を一房掬って、笑う。
そして映像が途切れて、撮影スタジオと思われる映像に切り替わる。
【女優】
『黒乃さんって、本当にモデル業とかされたことないんですか?』
【クロノ】
『はは……ありません。ずっと普通の会社員でしたから』
【女優】
『本当ですか? 私、こんな偉そうなこと言える立場じゃないですけど、凄い度胸だと思いますよ』
【女優】
『全然緊張してないんですもの。体が触れ合ってる時って、結構感情が伝わってきちゃうんですけど』
【女優】
『本当、どっしりと構えてて。しかもカメラを向けられても全然動じないし……』
【クロノ】
『褒めすぎです。それに、緊張はしてますよ? なかなか表情には出にくいだけで』
【クロノ】
『だって、こんなにきれいな方が近くにいたら、ドキドキしないわけがないじゃないですか』
【女優】
『まあ、うふふ。面白い方ですね、黒乃さんって』
それから再び画面が切り替わり、綾さんと食事をしているクロノが映った。
【綾 上総】
『黒乃、さっきの話なんだけど、本当に妹に会ってやる気はねえのか?』
【クロノ】
『ですから、恋人がいるんで。せっかくの機会ですけど……』
【綾 上総】
『でも、お前も見たことあるだろ? 秘書課の綾。ほら、髪ストレートでさ、肩の上までで』
【クロノ】
『セルシュ・ルタンのシオーネの香水をつけてる方ですね』
【綾 上総】
『……知ってんじゃねえか。つか、なんでそんなことまで知ってんだよ。びびったぞ』
【クロノ】
『わかりますよ、匂いで。なんなら副社長のも当てましょうか?』
【綾 上総】
『おっ、やれるもんならやってみろ』
【クロノ】
『じゃあ、もう少しこっち来てください。首んとこの匂いが一番わかり易いんで』
【綾 上総】
『……ッ、バカ。やめろ。……あー!! 妹に言っておく! 黒乃はタラシだ!』
黙って見入った。
僕以外の男女と、親しげに話すクロノの映像を。
おそらく、仕事をしていれば繰り広げられるであろう、至って自然な映像だった。
なのに、僕の胸はざわついている。
【浅多 侑思】
「……これがどうした」
【???】
「どうしたもなにも、これだけ」
【???】
「あんたの方こそ、それだけ? これ見てそんなことしか言えねえの」
【???】
「よくそんな飄々としてられんな。もっと危機感持てよ、恋人なんだろ?」
【???】
「明らかに他の女にも、他の男にも興味津々じゃねえか。なあ」
【浅多 侑思】
「……つまり、」
その先をスムーズに言えなくて。
一度間を置いて、言い直す。
【浅多 侑思】
「つまり、やましい気持ちがあると言いたいのか?」
【???】
「それだけじゃ不十分だな。だけど俺に言わせるのは違ぇだろ?」
【???】
「自分で考えろよ。だってあんたも最近、クロノとの関係について悩んでたんだろ?」
【浅多 侑思】
「な……」
そいつはニヤニヤしながら、僕の顔色を窺っている。
なんで、僕達の情報がここまで漏れてるんだ。
だけどそれを問い正してどうする。今はそんなことは関係ない。
僕とクロノの気持ちのあり方を問われているだけだ。
【浅多 侑思】
(…確かに、悩んでいた。だが……真剣だからこそ悩むんだ)
僕はクロノのことを、疑っていたわけじゃない。
【浅多 侑思】
「ッ…違う…クロノは浮気なんかしない。僕も…違う……」
【???】
「浮気は絶対しねえっつった奴が、本当に一生涯浮気しねえのか?」
【???】
「あんた、どんだけお人好しなんだよ。手放しで相手のこと、信用しすぎじゃね?」
【???】
「それともそんな頑なに否定できるのは、絶対に浮気しねえっつう確固たる自信があるからか?」
【???】
「去勢でもしたんか? それともパイプカット? どうなんだよ、あ?」
【浅多 侑思】
「そんなことはしない! た、ただ……」
【浅多 侑思】
「クロノは、絶対に……」
【???】
「んなもんは理想! 夢! お前が押し付けてるだけの、幻影だよ!」
【???】
「とっとと認めちまえった方が、楽じゃね? これでも見てさぁ」
震える僕の目の前で、そいつがタブレットのボタンを押すと。
ノイズが走った後に、映像の先頭まで巻き戻って再生が始まった。
不意に画面が歪んで、内側から別の映像が入り込んでくる。
頭の中を弄られているような感覚に、目眩を感じてその場にうずくまった。
「……だ、誰だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
声が震えるのは耐えられたが、思わず後ずさってしまう。
包帯を巻いていることから、病院から抜け出した患者といったところだろうか。
唯一包帯が巻かれていない左目と口は、笑みの形に歪んでいる。
声だけ聞けば男のようだが、子供か大人かもわからない。
【浅多 侑思】
(いや、ヨントリーの社員ではないということだけで十分だ)
通報するべきかと携帯を取り出そうとした時、そいつが顔を上げる。
【???】
「あんたの恋人、女と浮気したと思ったら今度は男と出てったな。ははは、モテモテじゃねえか」
恋人と言われたことに背筋が凍る。
名前をはっきりと言われたわけでもないのに、その口調は明らかにクロノのことを指しているという確信があった。
誰にも話していない筈なのに、何故こいつが知っている?
いや、死神界の連中なら、知っていてもおかしくはないかもしれないが―――。
何かの答えを導き出しそうになった時、その男が数歩前へ出る。
ポケットに手を入れたのを見て身構えた僕に、そいつは口元を三日月型にしてせせら笑う。
【???】
「これ、見てみろよ」
その手にあるのは、液晶タブレット。
僕とそいつの距離は、まだ数歩分離れている。
【浅多 侑思】
「僕がそれを見なきゃいけない理由がどこにある」
【???】
「理由なんか知らねえよ。ただ、見る権利があるっつってんだ」
【???】
「だって、あんたの恋人のことだもんな。寧ろ、あんたにしか見る権利はない」
【浅多 侑思】
「また、「恋人」……」
【浅多 侑思】
「そこまで断定されて尚、否定するつもりはない……だが、」
【浅多 侑思】
「一体どこで、それを……」
【???】
「はは、すっげえ顔色悪いじゃん。どこでって?あんたがこいつと恋人なのを、どこで知ったのかって?」
【???】
「知られたら都合でも悪いのか? 部長さん」
【浅多 侑思】
「……っ、お前が何を見せたいのか知らないが、僕には必要ない!」
言い切って、男の横をすり抜けようとしたら回り込まれた。
そして目の前に突きつけられたのは、タブレットの画面。
既に起動していたようで、今まさに映像が始まろうとしているところだった。
見たくない。
強迫観念に追い立てられるように、目を背けた時。
シャンパンゴールドの背景が映った。
思い起こすのは、さっき見せられたPV。
金色の背景を後ろに、クロノと女性タレントが寄り添っている映像。
気付いた時には、僕はそれに目を奪われてしまっていた。
2人はグラスを傾けながら見つめ合っていて。
不意にクロノが、女性の髪を一房掬って、笑う。
そして映像が途切れて、撮影スタジオと思われる映像に切り替わる。
【女優】
『黒乃さんって、本当にモデル業とかされたことないんですか?』
【クロノ】
『はは……ありません。ずっと普通の会社員でしたから』
【女優】
『本当ですか? 私、こんな偉そうなこと言える立場じゃないですけど、凄い度胸だと思いますよ』
【女優】
『全然緊張してないんですもの。体が触れ合ってる時って、結構感情が伝わってきちゃうんですけど』
【女優】
『本当、どっしりと構えてて。しかもカメラを向けられても全然動じないし……』
【クロノ】
『褒めすぎです。それに、緊張はしてますよ? なかなか表情には出にくいだけで』
【クロノ】
『だって、こんなにきれいな方が近くにいたら、ドキドキしないわけがないじゃないですか』
【女優】
『まあ、うふふ。面白い方ですね、黒乃さんって』
それから再び画面が切り替わり、綾さんと食事をしているクロノが映った。
【綾 上総】
『黒乃、さっきの話なんだけど、本当に妹に会ってやる気はねえのか?』
【クロノ】
『ですから、恋人がいるんで。せっかくの機会ですけど……』
【綾 上総】
『でも、お前も見たことあるだろ? 秘書課の綾。ほら、髪ストレートでさ、肩の上までで』
【クロノ】
『セルシュ・ルタンのシオーネの香水をつけてる方ですね』
【綾 上総】
『……知ってんじゃねえか。つか、なんでそんなことまで知ってんだよ。びびったぞ』
【クロノ】
『わかりますよ、匂いで。なんなら副社長のも当てましょうか?』
【綾 上総】
『おっ、やれるもんならやってみろ』
【クロノ】
『じゃあ、もう少しこっち来てください。首んとこの匂いが一番わかり易いんで』
【綾 上総】
『……ッ、バカ。やめろ。……あー!! 妹に言っておく! 黒乃はタラシだ!』
黙って見入った。
僕以外の男女と、親しげに話すクロノの映像を。
おそらく、仕事をしていれば繰り広げられるであろう、至って自然な映像だった。
なのに、僕の胸はざわついている。
【浅多 侑思】
「……これがどうした」
【???】
「どうしたもなにも、これだけ」
【???】
「あんたの方こそ、それだけ? これ見てそんなことしか言えねえの」
【???】
「よくそんな飄々としてられんな。もっと危機感持てよ、恋人なんだろ?」
【???】
「明らかに他の女にも、他の男にも興味津々じゃねえか。なあ」
【浅多 侑思】
「……つまり、」
その先をスムーズに言えなくて。
一度間を置いて、言い直す。
【浅多 侑思】
「つまり、やましい気持ちがあると言いたいのか?」
【???】
「それだけじゃ不十分だな。だけど俺に言わせるのは違ぇだろ?」
【???】
「自分で考えろよ。だってあんたも最近、クロノとの関係について悩んでたんだろ?」
【浅多 侑思】
「な……」
そいつはニヤニヤしながら、僕の顔色を窺っている。
なんで、僕達の情報がここまで漏れてるんだ。
だけどそれを問い正してどうする。今はそんなことは関係ない。
僕とクロノの気持ちのあり方を問われているだけだ。
【浅多 侑思】
(…確かに、悩んでいた。だが……真剣だからこそ悩むんだ)
僕はクロノのことを、疑っていたわけじゃない。
【浅多 侑思】
「ッ…違う…クロノは浮気なんかしない。僕も…違う……」
【???】
「浮気は絶対しねえっつった奴が、本当に一生涯浮気しねえのか?」
【???】
「あんた、どんだけお人好しなんだよ。手放しで相手のこと、信用しすぎじゃね?」
【???】
「それともそんな頑なに否定できるのは、絶対に浮気しねえっつう確固たる自信があるからか?」
【???】
「去勢でもしたんか? それともパイプカット? どうなんだよ、あ?」
【浅多 侑思】
「そんなことはしない! た、ただ……」
【浅多 侑思】
「クロノは、絶対に……」
【???】
「んなもんは理想! 夢! お前が押し付けてるだけの、幻影だよ!」
【???】
「とっとと認めちまえった方が、楽じゃね? これでも見てさぁ」
震える僕の目の前で、そいつがタブレットのボタンを押すと。
ノイズが走った後に、映像の先頭まで巻き戻って再生が始まった。
不意に画面が歪んで、内側から別の映像が入り込んでくる。
頭の中を弄られているような感覚に、目眩を感じてその場にうずくまった。