[本編] 浅多 侑思 編
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次の週の月曜日。
いつものように、僕の方がクロノより先に目覚めた。
気持ち良さそうに眠っている寝顔を横目に、出勤の準備を始めた僕は。
最近、同じことばかり考えていた。
地位、名誉、金、恋人。
抱いていた理想の全てが現実になったとは言わないが、無難な範囲での夢は叶った。
あれから僕を取り巻く環境や、おそらく僕自身すらも緩やかに変わっていった。
その変化が良い方向に向かったからこそ叶ったことだと思っているし、
クロノも人間界での暮らしに慣れてくれて、あれから僕の世界は順調だった。
――――ただ1つの不安を残しては。
今日も黙々と仕事をこなして昼になった頃、綾さんがふらりと僕のデスクに現れた。
以前はこの人のことが大の苦手だったのだが、今では『少し苦手』になった。
有能な人だと思うし尊敬してもいるけれど、相変わらず強引すぎるところが…な。
【浅多 侑思】
「お疲れ様です、副社長」
【綾 上総】
「よー浅多。調子はどうだ? 相変わらずノリノリかぁ?」
【浅多 侑思】
「はい、つつがなく進んでいます。チーム内でも特に問題は発生していません」
【綾 上総】
「そーかそーか。お前も最近口数多いしなー」
【綾 上総】
「前みたいに営業先でテンパるみたいなこと無くなったっぽいって聞いてよ」
【綾 上総】
「いやあ成長したなぁオイって思ってたとこ」
【浅多 侑思】
「……ありがとうございます」
【綾 上総】
「で、ついこないだ決まったことなんだけど」
【綾 上総】
「お前んとこの黒乃、しばらく貸してくんねーか」
【浅多 侑思】
「申し訳ありません。今、黒乃は少し席を外していて…」
【綾 上総】
「ん? あー、そういうことじゃなくて。もっと長期間で貸してほしいっつか」
【綾 上総】
「こないだのパーティーに、取引先の広告代理店のお偉いさんが来ててな」
【綾 上総】
「そこに依頼してるウチんとこの新商品のPVに、是非出てほしいんだとよ」
【浅多 侑思】
「えっ……!?」
【綾 上総】
「な、びっくりするよなー? 会社としてもさ、有名人を起用してほしいのが本音だろ?」
【綾 上総】
「だから、あくまで黒乃は素人ですよってソフトに言ってみたんだけどさ」
【綾 上総】
「ぜーったい大丈夫です、絶対イけますって言ってきかねんだわそのオッサン」
【綾 上総】
「そこまで言うなら? じゃあ……お任せしますけどもっつって。ここに来たわけ」
【浅多 侑思】
「は、はあ……」
死神がテレビに出るっていうのは……大丈夫なのか?
仮に問題無いとしても、クロノが出演したPVが大勢の目に触れて―――。
うっかり人気が出てしまうなんてことがあったら。…それは個人的に見過ごせない。
いや、色々考えたところで、僕に拒否権はないんだが。
【浅多 侑思】
「戻ってきたら、すぐそちらに向かわせます」
【綾 上総】
「いや、お前が話しておいてくれれば……って、お。戻ってきたな」
【クロノ】
「……? あれ。副社長。お疲れ様でーす」
【綾 上総】
「今ちょうどお前の話してたとこなんだよ。あのな」
綾さんの話が進むにつれて、案の定クロノの表情は暗くなっていく。
嫌そうになるといった方が正しいか。
【クロノ】
「お断りします」
【浅多 侑思】
(まあ、そう言うだろうな……)
それ以外の答えは、想像出来なかったからな。
【綾 上総】
「おいおい、有名人になれるかもしれないんだぜ? お前のそのツラならイケるって」
【クロノ】
「今の待遇に十分満足していますので」
【綾 上総】
「駄目だ。業務命令だぞ」
クロノがむっと口を噤んだ。
人間界での長い暮らしで、自由奔放な死神もその単語の重さを知ったらしい。
クロノは感情を押し込めるように、目を伏せる。
【クロノ】
「ですが、うちのチームの次の新商品の開発も大詰めですし…」
【綾 上総】
「浅多がいんだろ。お前のPV出演だって、立派な会社への貢献だぞ」
【クロノ】
「……」
【綾 上総】
「大事な大手取引先だ。絶対に機嫌を損ねさせるわけにはいかねえんだよ」
【綾 上総】
「な? ここまで言われて、断るわけにはいかねーだろ?」
綾さんは上機嫌に笑ってはいるが、副社長命令ということに変わりはない。
考えあぐねているクロノに、僕は口を開く。
【浅多 侑思】
「行って来い。こちらはどうとでもなるから」
【浅多 侑思】
「お前はしばらく、その業務に専念しろ」
人間界で人間として暮らすということに、許しが出ているのだから。
人間として仕事をこなす分には、何も問題はないはずだと後押しする。
クロノも僕と同じ考えを持っていたからこそ断りきれなかったのか、やがてしぶしぶ頷いた。
【クロノ】
「……わかりました」
【綾 上総】
「よーし、よく言った!」
綾さんに肩を抱かれながら、クロノは言いにくそうに続ける。
【クロノ】
「でも、仕事を始める前に身内に相談だけさせてください」
【綾 上総】
「相談? お前、やるって言ったじゃねーか」
【クロノ】
「いえ、仕事はやりますよ。でも、その前に……」
【綾 上総】
「やるって決めてんのに相談しなきゃ駄目なのか? 報告じゃねえんだろ?」
何か言いたげに投げられた視線に、わかってると目配せをする。
死神という立場上、自分の一存では決められないのだろうと、助け舟を出してやる。
【浅多 侑思】
「そうだな。世間に姿を露出させるなら、一応身内に相談した方がいいな。お前の場合は」
【クロノ】
「……、そうなんです、俺の両親、かなり頭が堅い人で」
【綾 上総】
「……ふーん? ……まあお前、妙に育ち良さそうだもんなあ」
【綾 上総】
「カッチリしたお家柄かぁ。んじゃ仕方ねえか。いきなりテレビの前で卒倒されても困るもんな」
【綾 上総】
「じゃ、とっとと相談してこい。言っとくけどきっちり丸め込めろよ」
【綾 上総】
「何だったら俺に連絡寄越せ。説得してやっから」
【クロノ】
「ははは……、じゃあ、明日までには正式に返事しますから」
―――――……
綾さんを見送ってから、僕とクロノは溜息をついた。
【浅多 侑思】
「よく引き受けたな。感心したぞ」
【クロノ】
「本当はめちゃくちゃ嫌に決まってるだろ……だけど断ると、心象よくないだろうから…」
【浅多 侑思】
「わかってる。チームのことを、優先して考えてくれたんだろ。お前の選択は正しい」
【クロノ】
「……今ようやく、ちょっと頑張って良かったって思った」
いつものように、僕の方がクロノより先に目覚めた。
気持ち良さそうに眠っている寝顔を横目に、出勤の準備を始めた僕は。
最近、同じことばかり考えていた。
地位、名誉、金、恋人。
抱いていた理想の全てが現実になったとは言わないが、無難な範囲での夢は叶った。
あれから僕を取り巻く環境や、おそらく僕自身すらも緩やかに変わっていった。
その変化が良い方向に向かったからこそ叶ったことだと思っているし、
クロノも人間界での暮らしに慣れてくれて、あれから僕の世界は順調だった。
――――ただ1つの不安を残しては。
今日も黙々と仕事をこなして昼になった頃、綾さんがふらりと僕のデスクに現れた。
以前はこの人のことが大の苦手だったのだが、今では『少し苦手』になった。
有能な人だと思うし尊敬してもいるけれど、相変わらず強引すぎるところが…な。
【浅多 侑思】
「お疲れ様です、副社長」
【綾 上総】
「よー浅多。調子はどうだ? 相変わらずノリノリかぁ?」
【浅多 侑思】
「はい、つつがなく進んでいます。チーム内でも特に問題は発生していません」
【綾 上総】
「そーかそーか。お前も最近口数多いしなー」
【綾 上総】
「前みたいに営業先でテンパるみたいなこと無くなったっぽいって聞いてよ」
【綾 上総】
「いやあ成長したなぁオイって思ってたとこ」
【浅多 侑思】
「……ありがとうございます」
【綾 上総】
「で、ついこないだ決まったことなんだけど」
【綾 上総】
「お前んとこの黒乃、しばらく貸してくんねーか」
【浅多 侑思】
「申し訳ありません。今、黒乃は少し席を外していて…」
【綾 上総】
「ん? あー、そういうことじゃなくて。もっと長期間で貸してほしいっつか」
【綾 上総】
「こないだのパーティーに、取引先の広告代理店のお偉いさんが来ててな」
【綾 上総】
「そこに依頼してるウチんとこの新商品のPVに、是非出てほしいんだとよ」
【浅多 侑思】
「えっ……!?」
【綾 上総】
「な、びっくりするよなー? 会社としてもさ、有名人を起用してほしいのが本音だろ?」
【綾 上総】
「だから、あくまで黒乃は素人ですよってソフトに言ってみたんだけどさ」
【綾 上総】
「ぜーったい大丈夫です、絶対イけますって言ってきかねんだわそのオッサン」
【綾 上総】
「そこまで言うなら? じゃあ……お任せしますけどもっつって。ここに来たわけ」
【浅多 侑思】
「は、はあ……」
死神がテレビに出るっていうのは……大丈夫なのか?
仮に問題無いとしても、クロノが出演したPVが大勢の目に触れて―――。
うっかり人気が出てしまうなんてことがあったら。…それは個人的に見過ごせない。
いや、色々考えたところで、僕に拒否権はないんだが。
【浅多 侑思】
「戻ってきたら、すぐそちらに向かわせます」
【綾 上総】
「いや、お前が話しておいてくれれば……って、お。戻ってきたな」
【クロノ】
「……? あれ。副社長。お疲れ様でーす」
【綾 上総】
「今ちょうどお前の話してたとこなんだよ。あのな」
綾さんの話が進むにつれて、案の定クロノの表情は暗くなっていく。
嫌そうになるといった方が正しいか。
【クロノ】
「お断りします」
【浅多 侑思】
(まあ、そう言うだろうな……)
それ以外の答えは、想像出来なかったからな。
【綾 上総】
「おいおい、有名人になれるかもしれないんだぜ? お前のそのツラならイケるって」
【クロノ】
「今の待遇に十分満足していますので」
【綾 上総】
「駄目だ。業務命令だぞ」
クロノがむっと口を噤んだ。
人間界での長い暮らしで、自由奔放な死神もその単語の重さを知ったらしい。
クロノは感情を押し込めるように、目を伏せる。
【クロノ】
「ですが、うちのチームの次の新商品の開発も大詰めですし…」
【綾 上総】
「浅多がいんだろ。お前のPV出演だって、立派な会社への貢献だぞ」
【クロノ】
「……」
【綾 上総】
「大事な大手取引先だ。絶対に機嫌を損ねさせるわけにはいかねえんだよ」
【綾 上総】
「な? ここまで言われて、断るわけにはいかねーだろ?」
綾さんは上機嫌に笑ってはいるが、副社長命令ということに変わりはない。
考えあぐねているクロノに、僕は口を開く。
【浅多 侑思】
「行って来い。こちらはどうとでもなるから」
【浅多 侑思】
「お前はしばらく、その業務に専念しろ」
人間界で人間として暮らすということに、許しが出ているのだから。
人間として仕事をこなす分には、何も問題はないはずだと後押しする。
クロノも僕と同じ考えを持っていたからこそ断りきれなかったのか、やがてしぶしぶ頷いた。
【クロノ】
「……わかりました」
【綾 上総】
「よーし、よく言った!」
綾さんに肩を抱かれながら、クロノは言いにくそうに続ける。
【クロノ】
「でも、仕事を始める前に身内に相談だけさせてください」
【綾 上総】
「相談? お前、やるって言ったじゃねーか」
【クロノ】
「いえ、仕事はやりますよ。でも、その前に……」
【綾 上総】
「やるって決めてんのに相談しなきゃ駄目なのか? 報告じゃねえんだろ?」
何か言いたげに投げられた視線に、わかってると目配せをする。
死神という立場上、自分の一存では決められないのだろうと、助け舟を出してやる。
【浅多 侑思】
「そうだな。世間に姿を露出させるなら、一応身内に相談した方がいいな。お前の場合は」
【クロノ】
「……、そうなんです、俺の両親、かなり頭が堅い人で」
【綾 上総】
「……ふーん? ……まあお前、妙に育ち良さそうだもんなあ」
【綾 上総】
「カッチリしたお家柄かぁ。んじゃ仕方ねえか。いきなりテレビの前で卒倒されても困るもんな」
【綾 上総】
「じゃ、とっとと相談してこい。言っとくけどきっちり丸め込めろよ」
【綾 上総】
「何だったら俺に連絡寄越せ。説得してやっから」
【クロノ】
「ははは……、じゃあ、明日までには正式に返事しますから」
―――――……
綾さんを見送ってから、僕とクロノは溜息をついた。
【浅多 侑思】
「よく引き受けたな。感心したぞ」
【クロノ】
「本当はめちゃくちゃ嫌に決まってるだろ……だけど断ると、心象よくないだろうから…」
【浅多 侑思】
「わかってる。チームのことを、優先して考えてくれたんだろ。お前の選択は正しい」
【クロノ】
「……今ようやく、ちょっと頑張って良かったって思った」
