本編
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《兆し》
番組収録が終わった仕事帰り。
今日は山口に送って貰う事もなく、徒歩で帰宅していた。
エンジェル営業も無いとなると、熱を持て余し男を呼び出してしまうのだが…
【壱川 咲十郎】
(……これ以上、誰かに知られてしまうかもしれないと考えると――)
今は、大人しく家でひっそりと熱が静まるのを待つしかないだろう。
体の奥でざわつく熱を押さえ込むように、壱川は自身をしっかりと抱きしめて歩き直す。
【壱川 咲十郎】
(どうして、笹雨さんも葛城さんも…)
【壱川 咲十郎】
(何も言わずにいてくださるのでしょう)
呆れてものも言えないほど失望されてしまったかもしれないと考えていたが、
二人とも普段どおりに接してくれている。
自分でも愚かな行為だと感じているのに、二人はどう感じているのだろうか。
自分の体質を知った人に、優しく接してもらった経験が無い壱川は
どう捉えていいものかわからず、ぐるぐると悩み続けていた。
気が付けば、自宅についてしまうぐらい考え込んでしまったらしい。
ふと顔を上げると、玄関先に人影が見える。
【政親】
「こんばんは、咲」

《本番》
【壱川 咲十郎】
「粗茶ですが………」
【政親】
「どうぞお気遣い無く」
【壱川 咲十郎】
「……あの、コーヒーの方が」
【政親】
「座りなさい」
やんわりと配慮を断る言葉は、茶を差し出す手が震えていた為だろうか。
壱川はそんなことを考えながら盆を下げ、政親の向かいに座る。
この体質も、前の事務所を辞めさせられた経緯も既に知られている。
前触れも無く、自分の目の前に現れた政親。
とうとう呆れ果て引導を渡されてしまうのだろうか。
【壱川 咲十郎】
「……本当に、ご迷惑をお掛けして…っ、すみません」
【政親】
「何のことでしょうか」
【壱川 咲十郎】
「え……?
最終通告、ということではないのでしょうか」
気が緩んだ壱川の頬に、一筋の涙が流れる。
見上げた壱川の顔は切なげに瞳が揺れ、無防備に口が小さく開いていた。
この危うさが壱川の魅力を惹きたてるのだと、政親は実感する。
だが、扱い様によっては酷く危険で、非常に危ういバランスで保たれている。
上手く手綱を握る人間が居なければ、簡単に脆く崩れ去ってしまうだろう。
【政親】
「―咲。私はまだ、何も言っていませんよ」
政親の口端が、そっと吊り上がった。

《絶頂》
【政親】
「本日伝えたことはしっかりと覚えておくように」
【壱川 咲十郎】
「はい………」
最終通告ではなかったが、厳重注意に近く釘をさされる形となった。
見送る為玄関先に立つものの、壱川は自分のふがいなさについ顔を伏せてしまう。
だが、挨拶ぐらいはしっかりと目を見て伝えなくてはならない。
【壱川 咲十郎】
「今日はほんまに、ありがとうございました」
【政親】
「咲。言ったばかりなのになんて顔をしているんです」
【壱川 咲十郎】
「………顔?……、あっ……」
ふわり、と上質な香りが舞い、壱川が抱き寄せられたと気づいた時には
政親は壱川の顎に手をかけ、視線を合わせ瞳を覗き込む。
政親の目には、壱川の熱を孕み訴えかけるような双眸を映していて―
【政親】
「私が相手をすることはありませんよ。
勿論、これから誰かに会うことも許しません」
【壱川 咲十郎】
「……ごめんなさい。大丈夫、ですので……」
【政親】
「それでは、おやすみなさい」
【壱川 咲十郎】
「おやすみなさい」
政親が出ていくのを見送った後、扉に鍵をかけてふらふらとベッドに沈み込む。
政親の目に映った、浅ましい自分の顔が焼きついて離れなかった。
じんわりと込み上げる熱を抑える為、布団を被りきつく目を瞑る。
【壱川 咲十郎】
「もう、あの場所は帰りたくない……」
無意識に呟きながら、深い眠りへと沈んでいくのだった。
