本編
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《兆し》
【平川 篤人】
「はじめまして、平川です。えーと。…その、今日からよろしくお願いします」
【政親】
「おはようございます。…ああ、貴方が」
平川 篤人(ヒラカワ アツト)
一部から絶大な人気を誇るカリスマDJ。音楽と踊ることが好きでアイドルはひそかに憧れていたが、
葛城を見て自分もやってみようとポラリスの門を叩いた。
飄々とした態度で煙に巻くが、実は負けず嫌いな一面も持ち合わせる。
【榎本 公志郎】
「篤人、説明したけど…」
【平川 篤人】
「あ、はい。この方がプロデューサーですよね。……いい声ですね、黒田さん」
【榎本 公志郎】
「ふふ、この子ね!音に関する知識と表現力はほんと素晴らしいわよ!
いい子が入ってきてくれて嬉しいわぁ!」
榎本は上機嫌で置いてあったティーカップを持ち、口をつけた。
なんとも言えない不思議そうな顔をしてこちらを見上げる平川を
政親はそのまま見つめ返す。
アイドルが好き…とは縁の遠そうな経歴と外見だが
今までいた地位を捨ててまで来るとなれば、本気以外の何物でもないだろう。
政親はそう思い、挨拶を終えて一段落ついていた平川を連れ、レッスン場へと足を向けた。
《本番》
一通りのレッスンを見て、政親は確信する。
リズムの取り方は完璧、音の調律も取れている。加えて、このビジュアル。
いいアイドルの原石となりうる…と政親が値踏みしていると平川から声がかかった。
【平川 篤人】
「―…はぁ。…どうですかね?俺大丈夫そうです?」
【政親】
「聞き及んではいましたが、動いていても音が外れませんね」
【平川 篤人】
「…音がちょっとでもズレると、なんだか音に申し訳なくて」
そういうと平川は息を吐いてその場に座り込んだ。
踊るのが好き、音楽が好き…音が好き…と言うのは趣味の範囲を超えているようだった。
目下の目的は平川のスタミナをつけることだろうか。
【政親】
「誰が座る許可を与えましたか?」
政親は座ったまま動かない平川の顎を掴み、上へ引き上げた。
少し眠たそうな瞳が驚いたように少しだけ見開かれる。
しかしその表情に嫌悪感は見ることはなく、むしろ輝いて見えた。
【政親】
「?篤人…」
【平川 篤人】
「……黒田さん、やっぱいい声…」
うっとりしたような顔つきでそう零す平川に、政親は怪しく微笑む。
【政親】
「…篤人はアイドルになりたいのですね?」
【平川 篤人】
「……はい」
小さいながらも力強く頷いた平川を見て、政親は彼に手を差し出した。
【政親】
「では、行って頂きたい所があります。…初仕事ですよ」
《絶頂》
【政親】
「…どうでしたか?」
【平川 篤人】
「……っ…喉が、痛い…かなあ…はは、かすっかす…」
そっと喉に指を宛がい、持っていたペットボトルの蓋を取ろうとするが
平川の指は小さく震えており、上手く開ける事が出来ないようだった。
政親はペットボトルを取り上げ、蓋を開けると机の上に置いてやる。
渡そうと思ったのだが、いつの間にか平川はソファに倒れこんでいた。
【政親】
「いかがでしたか、初仕事は」
【平川 篤人】
「…思ったよりも、ヘビィ……でした」
頬を紅潮させ、ソファに身を預ける平川は本当に疲れたようで
全身の骨が抜かれたようにぐったりとしていた。
ところどころに見える紅い跡が目に飛び込んでくる。
【平川 篤人】
「こういうの、慣れないとダメですか」
【政親】
「こういう事も、あるんですよ」
虚ろな目をして問うてくる平川に政親は笑って答えてやる。
【平川 篤人】
「新人に仕事は選べない…」
【政親】
「そういう事です。続けていれば、貴方はこの体に沢山の音を浴びることが出来る…」
【平川 篤人】
「っ、ぁ……ッ」
ツ……と平川の体の上を政親の指先がなぞっていく。
目を閉じると、政親の触れた指先に音が落ちてくるような…ゾクゾクした感覚に襲われ
平川の体は思わず身震いをした。
政親は再度ペットボトルを手に取り口をつける。
【平川 篤人】
「…俺の」
―俺のペットボトル、と言う言葉は政親の労いによって掻き消えてしまった。
横になっていた所為で直接流れ込んでくる水は、口の端から毀れていく。
【平川 篤人】
「ん…ぅう…ッ」
与えられてゴクリ、と飲み干した後、不意に政親の顔が目に飛び込む。
何故だか平川は、先ほどまでの疲れを一瞬だけ忘れてしまいそうになった。