本編
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《兆し》
いよいよ『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』当日となった。
最大級のアイドルイベントは土日の二日間に渡って開催され、今日はそのイベント1日目だ。
トーナメント方式でアイドル・ユニット同士がぶつかり、観客の投票や審査員の評価で総合的に決まる。
1回戦を勝ち抜けば、ポラリスメンバーはトップ16となる。
リハーサルは前日までに全て終了していた。
政親は、その時のことを思い返していた―
政親たちはポラリスのリハが終わっても尚、会場に残っていた。
リハの順番の最後は冴島事務所から出ている『VIRTUE』だったからだ。
リハの順番から見ても、大手スポンサーである冴島事務所は優遇されている。
だが、『VIRTUE』の実力は事務所トップということもあり中々のものであった。
【政親】
「………なるほどな」
一通りパフォーマンスを見届けそろそろ帰ろうかというとき、
舞台上にいた冴島と目が合った。
勝利は確信している―とでも言いたげな自信に溢れている目だ。
政親は何もアクションはせずにそのまま踵を返そうと思ったその時―
『VIRTUE』のメンバーがステージから降りてきた。
『VIRTUE』。冴島エンターテイメント所属の新人アイドル―
デビューして僅か3ヶ月だが新人アイドルという枠には収まりきらないほどの
今取り飛ぶ落とす勢いの男性3人組ユニット。
リーダーのシンは、俺様な性格なだけありダンス・歌ともに
新人ながら既にトップクラスの域に達しているとの評判がある。
可愛い顔とは裏腹に毒舌なトークが売りのユージ、
硬派で海外モデルの経験があるほどのスタイルを持つタツ。
リハーサルを堂々と終え、ステージから降りてまっすぐに政親たちの前までやってきた。
【シン】
「お前らが、ポラリスってしょっぼいとこの事務所の人たち?
アー…それと、アンタが政親ってやつだよな?
こんにちは、『VIRTUE』です」
《本番》
全ての出場者がリハーサルを追え、最後の順番だった『VIRTUE』とポラリスメンバーは対峙していた。
【シン】
「なんつーか……こんなにアイドルいるのに、パッとしねーのな、マジで」
【ユージ】
「芋くさ。大丈夫?田舎から出てきたの??帰りの地下鉄わかる?」
【タツ】
「……おい、絡むな。面倒だろ」
【日月 梓乃】
「なっ……黙って聞いてりゃおめーら…っ」
【政親】
「………」
怒りに我を忘れ殴りかかろうとする梓乃を、政親は黙って止める。
梓乃は唇を強く噛み締めながらしぶしぶ拳を下ろした。
【シン】
「おー怖。タツの言うとおりめんどくさそ」
【ユージ】
「しょうがないよ。エンジェル営業だっけぇ?
ちまちまやってないと仕事取れないような人たちなんだし」
【タツ】
「………」
【シン】
「見境なく大変だよな~俺らはふっとい客のババアの話相手してりゃそれでいーんだわ。
大変だよな、涙ぐましいよなァ」
【ユージ】
「ちょっとぉ…かわいそうだって……ぷぷっ」
泣きまねをするシンをわざとらしく笑いを堪えながら否定するユージ。
タツは一つため息をついて何も言わずに明後日の方向を向いている。
政親に制され手を出せない梓乃はきつく拳を握り耐えている。
そんな様子が面白いのか、シンはにやついた顔を止めない。
【シン】
「なんか、梓乃チャンだっけ?怒ってる顔かわいーのな。
おっさんの気持ちもわかるかもしれねーわ、俺もエンジェル営業してもらおっかなァ~」
【日月 梓乃】
「はぁ!?」
【ユージ】
「げ、シン趣味わる……。僕は……んー…。
あのオジサンとか好みかなー」
【二條 榛貴】
「あ、俺か?」
ユージの目線の先にいた二條は、目が合い驚きながら己を指差した。
その姿を見届けるとユージは微笑み一つウインクを送る。
シンは投げられたウインクを奪い取るようなジェスチャーをすると、
そのまま腰に手を当てて言葉を続ける。
【シン】
「まあさ、穢れた天使の羽根が舞う姿っての?見れるの楽しみにしてるわ」
【ユージ】
「せいぜい頑張ってアピールしてね~ダンスできなくなるほど腰使っちゃだめだよ?」
【シン】
「ぎゃは、ユージそれナイス。
じゃーな梓乃チャン?」
【タツ】
「………、アホらし」
【壱川 咲十郎】
「……」
タツは何度目かになるため息を吐き出しながら先に戻ろうと足を進めたとき、
壱川は目が合ったような感覚になりその後ろ姿を見つめる。
タツの後を追うように下品な笑いを携え、『VIRTUE』の二人も去っていった。
《絶頂》
【笹生 清明】
「なんなんだあいつ等は!
あんなに失礼な奴がアイドルをやっているなんて……信じられない!」
【大須賀 侑生】
「あんな人達が期待のアイドル……、なんですね」
【本村 果凛】
「かわいい枠、果凛と被ってるし……っ…、お肌ピチピチだし……っ」
【壱川 咲十郎】
「果凛さん、そこなんですね」
楽屋に戻ると、一斉に『VIRTUE』に対しての文句で溢れ返った。
アイドル達は思いのたけを吐き出している。
【二條 榛貴】
「あそこまで言われちゃあ、ま―目に物見せてやりたくなるのが人情だな」
【芦沢 由臣】
「地獄の業火を見せてやる…ッ」
【墨代 睡蓮】
「僕、むかむかして、おなか空いちゃいました…」
一同が口々に話していると、梓乃は政親の目の前へと立つ。
【日月 梓乃】
「黒田さん…何であの時、止めたんですか」
【政親】
「あの場で下手に言い争いになり目立って何になるんですか」
【日月 梓乃】
「だけど……っ」
【葛城 雄眞】
「そこまで悔しいのなら、ステージの上で…実力で見返せばいい」
見ていられないのか、葛城が口を挟む。
【日月 梓乃】
「……チッ……」
【日月 梓乃】
「……当然だ!」
梓乃が納得した様子を見せると、政親は何も言わず楽屋を後にする。
楽屋には、アイドル達だけが残っていた。
【日月 梓乃】
「…………畜生ッ!
俺、明日は全力でステージに出て『VIRTUE』をぶっつぶす!」
【二條 榛貴】
「そうこなくちゃな」
【大須賀 侑生】
「明日のステージ、頑張ろうねっ!」
梓乃が気合が入ったように叫ぶと、アイドル達が集まり背中を叩く。
全員の気持ちは同じ方向に向いていた。
最大級のアイドルイベントが、今、始まろうとしていた―