本編
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《兆し》
―ちゅ……、ちゅう……
歓楽街の路地裏で―卑猥な音が響いている。
【壱川 咲十郎】
「あ……っ……堪忍…こんな、場所で―」
【男】
「ああ?自分から腰動かしといて何言ってやがる」
【壱川 咲十郎】
「んっ……う…ぅふ……っ」
いつも―熱が欲しくてたまらなくなった時呼びつける男。
今日は逆に、待ち伏せをされてしまって、人目を避けきれない場所で、
乱暴に扱われてしまっていた。
それでも……壱川のカラダは嫌悪感よりも、悦びが走り始め…
【壱川 咲十郎】
(……ダメ、もう何も考えられなく―)
――ガタっ……
【壱川 咲十郎】
(………え?!)
その時。不穏な音が響く。ゴミ箱が倒れたような―。
ふと、我に返り。音のする方を見た。
【壱川 咲十郎】
(……あ…れは……)
ゴミ箱を倒した人物はそそくさと立ち去っていく。見ないフリをしてくれたかのように。
―しかし、大きな問題があった。壱川は顔を青ざめさせる。
何故ならその人物は―同じ事務所に所属するアイドル、笹雨 清明によく似ていたからだ……。
《本番》
【壱川 咲十郎】
「っ―お疲れ様です……」
レッスンを終えて事務所に戻れば何人かのアイドルが雑談をしている。
―その輪の中には……
【笹雨 清明】
「……お疲れ様、です……」
【壱川 咲十郎】
(…………っ)
昨日、―とんでもない場面を見られてしまったかもしれない相手―笹雨 清明も居た。
【壱川 咲十郎】
(………どうしよう)
―先日は同僚の葛城にも知られてしまった。
頻繁に男を呼び出して、熱を放出しなければ焦燥感から夜も眠れず食事も喉を通らず…
仕舞には気が狂いそうになってしまう……その頻度は確実に―以前よりも上がってしまい
こうして、身近な人間にまで露見し始めている。
その頻度が上がったキッカケは―前の事務所を無理やりに辞めさせられた事だろう。
歌舞伎役者としての人生を全うしろ、と、父からの命令。
―圧力によって、大手の事務所を除籍させられた。
歌舞伎役者にこだわる理由は、血筋を守りたいから―という以外にも存在している。
壱川の『特異体質』―トラウマによる『放蕩』を隠し通す為には
歌舞伎の世界に置いておいた方が……父にとって都合がいい、のだ。
――元々芸能界は閉鎖された世界ではあるが、歌舞伎の世界は一層暗く閉ざされ
スキャンダル等、一切表沙汰にはならない。
【笹雨 清明】
「………あの」
【壱川 咲十郎】
「………っ」
不意に。笹雨が壱川に声をかけてきた。
壱川、何を言われるのかと怯え……、思わず、事務所を飛び出してしまうのだった。
《絶頂》
エンジェル営業の帰り。家に帰るのも辛くて、珍しく飲食店で食事をとる壱川。
普段は自炊がほとんどたけれど―今日は正しい段取りで料理が出来る自信等なかった。
【壱川 咲十郎】
(……葛城さんにも…笹雨さんにも……)
【壱川 咲十郎】
(私の、馬鹿な行為が……知られてしまった)
笹雨清明は壱川によく話しかけてくれる青年だった。
口数はそう多くないが―真面目で、心根の優しい清明―と、
ささやかな友情ような、穏やかな関係が築かれつつあったのに。
きっと、気味が悪いと思われ―そして、一緒に働きたくはないと思われただろう。
【笹雨 清明】
「壱川さん」
【壱川 咲十郎】
「……笹雨…さん…!?」
不意に。今まさに想い浮かべていた人物から声をかけられ、壱川は飛び上がりそうな程驚く。
【笹雨 清明】
「良かった。やっぱり壱川さんだった」
【壱川 咲十郎】
「………………はい」
動揺のあまり、かみ合わない返事をしてしまう壱川。
【笹雨 清明】
「えっと………、……もしご都合よかったら、一緒に、食べませんか」
【壱川 咲十郎】
「え………?」
【笹雨 清明】
「………あー……っと…その………すみません。
この間の……俺だったって、……分かってると思うんですけど」
【壱川 咲十郎】
「………………」
【笹雨 清明】
「お……俺、誰にも言いませんから。だから……」
【壱川 咲十郎】
「……だから?」
【笹雨 清明】
「今まで通り、……色々、お話とか。させて、…ください」
【壱川 咲十郎】
「――――」
何故か礼儀正しく、頭を下げられてしまい、混乱する。
壱川はどう答えていいか分からずやはりまた―「はい」とだけ紡いでしまうのだった。