本編
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《兆し》
【政親】
「どうぞ」
【芦沢 由臣】
「―――」
芦沢は政親から手渡された―『我が子』を受け取り、
上目づかいに睨んだ。
【芦沢 由臣】
(ああ―やはり、俺の……)
『我が子』とは―芦沢がアーティスト時代に描いた、絵画である。
―その絵画が…オークションに出されていたのだ。
学生時代、展示会場のオーナーに贈与したものだったが、
オーナーが没してしまった後―見ず知らずの人間の手に渡ってしまった。
しかもその人物がオークションに出品するという悪辣な行為に及んでいた…
そうして、芦沢が事態に気が付き、取り返そうと思い立った時には既に政親が高額で競り落としていたようだ。
【芦沢 由臣】
「………フン」
芦沢はどんな顔をしていいか分らず―誤魔化すようにレッスンへと向かった。
自身の絵画の額縁を、大事そうに抱えながら。
《本番》
レッスンを終え―ようやく気分が落ち着いた頃。
偶然…また、政親と顔を突き合わせた。
【芦沢 由臣】
「貴様が俺に媚びを売った事実。未だに笑いが禁じ得んぞ」
【政親】
「フ。随分と発想が貧困のようですね」
今度は勝ち誇ったように笑う芦沢。
【芦沢 由臣】
「根底に貴様の下卑た本性が座している事も否定できまい」
【政親】
「―ええ。私は俗世間に媚び諂う事が仕事ですから
そして―貴方の仕事もまた、同様ですよ」
【芦沢 由臣】
「俺は貴様とは違う!」
【政親】
「ふ……、…認識を改めて頂く必要があるようですね。
貴方は、貴方が軽視するこの業界に跪く事でしか生きていけない
酷く、脆弱な存在なのですよ」
――ス…
【芦沢 由臣】
「……っ?!」
―がたん!
強い力で押さえつけられて床にはいつくばらされる。
【政親】
「――さあ、可愛らしく足元に縋りついてご覧なさい
私で練習させて差し上げますよ。
今日は特別に、フルコースでお付き合い申し上げます」
【芦沢 由臣】
「ふ、……ふざけるなっ!」
芦沢の抵抗の声が空しく響いた―。
《絶頂》
―大須賀侑生と共に営業相手と会食をすること。
それが、今夜の芦沢に与えられた仕事、だった。
【営業相手】
「芦沢くんにコレを見せたかったんだよ」
【芦沢 由臣】
「な……?!」
【営業相手】
「コレ、君が描いた絵だろう。オークションで競り落としてしまったんだ」
芦沢が以前寄贈した絵画……に、酷似したレプリカ、だった。
芦沢がアーティストとして表に出てこなくなったタイミングを見計らって
レプリカが出回るよういなっていたのだ。
【大須賀 侑生】
「うわあ!凄い、芦沢さん!こんな絵を描かれていたんですね」
【芦沢 由臣】
「……………」
大須賀は無邪気に芦沢の絵を讃える。
【営業相手】
「こんなものに何十万も市民が支払うなんて可哀想だったからね
私が事前に買い取っておいたんだよ」
【芦沢 由臣】
「な……っ」
言いながら、絵画をポイ、と投げる営業相手。
その口調から、芦沢をアーティストとして認めてはいない事が知れる。
【大須賀 侑生】
「あ…………」
侑生はごめなんなさい、という目で芦沢を見ている。
【営業相手】
「さあ、大須賀くん。私の膝の上においで。
こんなレベルの低いゴミの事を忘れさせて欲しい………」
大須賀 侑生とセットで…なんておかしいと思ったのだ。
自分とあのいかにも素直で疑う事を知らない少年とではタイプが違い過ぎる。
【芦沢 由臣】
(……俗物が……)
―ふと、……この男と……政親は、確かに人間としてのレベルが違う
そういえば会が始まる頃、大須賀 侑生は政親を崇拝していたな……。
等と。余計な考えが頭をよぎってしまい、芦沢は猪口の日本酒に口をつけ、思考を溶かすのだった。