本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《兆し》
興奮気味に電話対応をしていた榎本が、電話を切ってからテンション高く政親に詰め寄った。
【榎本 公志郎】
「やったわよぉ!!政親っ、アレ取ってくるとはアンタさすがね!!!!」
【政親】
「ああ、『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』ですか」
ガタッ
【山口 遼太】
「えぇぇぇぇぇ!!!あの!JIF!憧れの!JIF!!大事あので2度いいます!!」
山口は顔を赤くし声を張り上げ、興奮から転げ落ちそうになりながら椅子を張り倒して立ち上げる。
【榎本 公志郎】
「ちょっとぉ、椅子倒れたじゃない!!高いのよ、それっ」
【山口 遼太】
「だだだだだだだだってぇぇぇぇ!!!JIFでっすよ!!!」
【政親】
「――、口を閉じろ」
【山口 遼太】
「………、…!っ…はい」
あまりの煩わしさに政親は眉をひそめた。そうしてからおもむろに切り出す。
【政親】
「先日の営業先がJIEのスポンサーになるニッコウ飲料の専務でして」
【榎本 公志郎】
「なにさらっとすごい事いってるのよ…ニッコウの専務っていったら人嫌いで有名なのに、どういうツテよ」
【政親】
「昔お世話になりまして。それだけですよ」
【榎本 公志郎】
「んもぉ~驚かせないでよ。ホント、前からあんたのツテ不思議だったのよね?まあイイケド、結果オーライ!」
さすがの榎本も突然の出演依頼に驚きを隠せない。
そんな中山口が真剣な顔でつぶやき始めた。
【山口 遼太】
「JIF…それはアイドルたちの頂点を競い合う、世界も注目するイベント…」
【山口 遼太】
「それが『JAPAN IDOL FESTIVAL 20XX』。JIFでトップになったアイドルは」
【山口 遼太】
「輝かしい未来が約束されているといっても過言ではない。銀河の星々ほど多くいる」
【山口 遼太】
「銀河の星々ほど多くいるアイドルたちが、まず出演のチャンスを」
【山口 遼太】
「アイドルたちが、勝ち取ることすら難しいイベント。1位になると全国ツアーはもちろん、」
【山口 遼太】
「海外の主要なジャパンカルチャーイベントにも出演でき、ニッコウ飲料協賛の人気音楽番組」
【山口 遼太】
「『MOON LIGHT MUSIC』に常設コーナーがもて、CM曲のタイアップも」
【山口 遼太】
「さらにはニッコウ飲料から10年分のツアードリンクが保証されるという……」
【榎本 公志郎】
「うるさいわよ、山口」
【山口 遼太】
「は、はい!」
今度こそ懲りたのか、山口は口元に両手を当てて押し黙る。
【榎本 公志郎】
「ともかくま、あのコたちに伝えつつ、予選出場の準備をしないとね。
せっかくだから衣装も新調したいわね……あぁ、出るだけでもお金がかかるわねぇ……」
言葉とは裏腹に、榎本の表情は満面の笑みが浮かんでいる。
それほど、業界でもトップクラスの大きなイベントに出られることはチャンスだった。
【政親】
「今以上に忙しくなります。
丁度新曲も出たところですし、決勝出場も見据えて新曲とタイアップをつけます」
【榎本 公志郎】
「無茶いうわねぇ~、カスリもしないかもしれないじゃない。
でもまあ、夢はあったほうがいいわね。任せるわ」
【政親】
「安心してお任せください」
政親の目には、何をすべきか全て見えていた―。
《本番》
―JIF出演依頼の連絡から1週間後
政親が事務所でイベントへ向けた準備をしていると、
部屋の奥の電灯が何度か点滅をし始め、切れた。
陰鬱な気分になっているところに、事務所の電話が鳴る。
嫌な予感がする―だが、ワンコール目で電話を取った。
ジリリリリリ
ガチャッ
【政親】
「お電話ありがとうございます、ポラリス・プロダクション政親です」
【男】
「ああ、政親くん、良かった……ニッコウ飲料の豊原だよ。夜分遅くすまないね」
【政親】
「いえ、JIF出演の準備がまだ残っておりまして、しばらくは10時くらまでは在席しておりますよ」
【ニッコウ飲料・豊原】
「そう!そのJIFなんだが…それがね……」
政親は、ますます嫌な予感を深めたが先を促す。
【政親】
「いかが致しましたか?」
【ニッコウ飲料・豊原】
「たいっへん申し訳ないのだが……出演を……辞退してもらえないだろうか」
【政親】
「……といいますと。なにか事情があるのでしょうか」
【ニッコウ飲料・豊原】
「それがねぇ……本当に申しわけないんだけど、詳しくは言えないのだが…
うちの大型スポンサーがごねてね、ここでの取引がなくなるとうちは大赤字になってしまうんだよ。
その代わりといっちゃなんだが、うちからそれなりのフォローはさせてもらう予定だよ」
何者かが、うちに噛み付いてきた。
こんな分かり易い手口の犯人は否応にも予想が付く。
とりあえずは事実確認に走らなければならない。
【政親】
「榎本に確認してから折り返させていただきます。詳細はメールでもいただけますでしょうか」
【ニッコウ飲料・豊原】
「もちろんだよ!本当にすまないね…まずは連絡しておこうかと思ってね」
【政親】
「承知いたしました。またこちらからご連絡さしあげます」
政親は丁寧に電話を切ると、苛立ちに顔を歪ませた。
【政親】
(チッ、……余計な仕事を増やしてくれる)
心の中で舌打ちを打つと、政親は携帯電話を取り出しコールしようと思ったところで
その相手が事務所に帰ってきた。
【榎本 公志郎】
「ただいま帰ったわよぉ~あら、そんな顔してどうしたの?」
外出先から帰ってきた榎本に経緯を手短に報告する。
【榎本 公志郎】
「そう……ま、それで損害があるわけではないから仕方ないわね。
でもあの子たちもすごく喜んでたのにがっかりするでしょうね……
モチベーション下がらなければいいけど。
それにしてもどうしてなのかしら……て、あ!!!」
突如大声をあげた榎本に、政親は顔をしかめた。
【政親】
「どうしたんです?」
【榎本 公志郎】
「ちょっと待って……嫌なこと思い出したんだけど。
ニッコウの豊原さんて、冴島と遠縁だったような……。
昔あいつんちに来たことあったのよ、その時紹介されたわ。
あとニッコウの一番人気の清涼飲料水のCM出演してるEXTREMEのPIROて冴島エンターテインメント所属よ」
【政親】
「知っていますよ。社長と話してから、直接お伺いしようと思っていたところです」
【冴島 享正】
「久しぶりですね、2年ぶりでしょうか。古巣はいかがですか?」
【政親】
「今更そのような仰々しい話し方しなくて結構です」
【冴島 享正】
「ふ、変わらないな。お前こそその慇懃無礼な口調どうにかしたほうがいいぞ」
くだらないやり取りに興味の無い政親は、直ぐに本題に入る。
【政親】
「率直にお聞きします。ニッコウに圧力かけたのは貴方ですね」
【冴島 享正】
「早いな」
【政親】
「隠すつもりもないのに、よくおっしゃいますね。
そんなにうちの事務所のファンでいてくださるとは思いませんでしたよ。
芸能界のトップに君臨する貴方がたに認められていると知って喜びが隠せません」
冴島の好きな嫌味で言葉を返してやる。
それに気づいた冴島はさも嬉しいと口元を歪め笑う。
【政親】
「手を出してきたということは、何かご要望なんでしょう」
【冴島 享正】
「流石、政親だな。よく俺の考えを分かっている」
【政親】
「……ハッ、冴島さんは本当にご冗談がお好きで」
昔、同じオフィスで働いていた時と同じく下の名前で呼ばれた政親は
虫唾が走るとでも言いたげに遠慮なく眉根を寄せ鼻で笑う。
それを気にすることなく冴島は続けた。
【冴島 享正】
「冴島事務所主催のライブイベントがある。
是非、お前の可愛い…新人アイドル達を招待をしたくてね」
【政親】
「……飲めば、ニッコウにかけた圧力を取り消す、というのか」
【冴島 享正】
「ああ、約束しようじゃないか。
ただし、条件がある。イベントでも物販ブースと場を設けているんだが…
そこのシングルの売上げ―提示した額を超えなければ―」
――ニッコウへの圧力は取り消さない。そう、笑みが答えていた。
【政親】
「喜んでお受けしましょう。楽しみですよ」
政親は、間髪いれずに答える。
【冴島 享正】
「―…………」
冴島はピクリと眉を動かし、政親の笑みを観察していた。
《絶頂》
【政親】
「今回は、素敵なイベントにお招き頂きありがとうございました。
おかげで物販も売り切れ続出、ネット通販をすることが決定致しました」
【冴島 享正】
「……ふん…」
まぁ、お前なら当然だろう……と冴島が笑う。
【冴島 享正】
「出場は許してやる。だが、今回は新人だったがうちからはトップの『VIRTUE』が出場する。
足元にも及ばないだろうし、他の事務所のアイドルたちもそうとうな強敵となるぞ」
【政親】
「もちろん、存じ上げておりますよ。それでも、優勝は見えています」
【冴島 享正】
「お前の自信が再び粉々に砕け散る日……楽しみにしている」
【政親】
「その言葉、そっくりお返しします」
【冴島 享正】
「ふん……もうJIFまで日もない。どんな悪足掻き見せてくれるのか、
楽しみにしている」
【政親】
「……ええ。新人らしく―せいぜい足掻かせてもらいますよ」