本編
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《兆し》
【葛城 雄眞】
「ん………?」
葛城はこの猥雑な喧騒に相応しくない人物を見つけ、
目を疑った。
【壱川 咲十郎】
「―――」
【葛城 雄眞】
(…………)
同じ事務所のアイドル―壱川 咲十郎が、見知らぬ男に肩を抱かれて佇んでいた。
歌舞役者出身の壱川は凡そアイドルに似つかわしくない上品さを讃えた男。
おっとりとした仕草と裏のない笑顔から筋金入りの箱入り息子、という生い立ちが想起され
――葛城からしてみれば、この業界に適性があるのか怪しい、と思われる人物だった。
【葛城 雄眞】
(しかし、あの連れは……)
連れだっている男を見て連想する言葉はいわゆる「チンピラ」「ゴロツキ」。
エンジェル営業の相手とも思えない―、そう、優所得者の持つ匂いがしないのだ。
壱川の隣に立っている事があまりにも不自然に思われる男だった。
【葛城 雄眞】
(オイオイ、借金か―それとも脅しか?)
葛城は様子を伺おうと彼らに近づこうとしたその時―
壱川と男は共に出口へ向かい、やがて見えなくなってしまった。
【葛城 雄眞】
(御曹司アイドル、な。…問題起こしてねえといいが)
《本番》
葛城は今夜の営業相手と共に―ホテルの部屋へ入室するところだった。
―すると、前方から……
【壱川 咲十郎】
「あっ………」
【葛城 雄眞】
「え、……壱川、さん」
葛城と同様に―男と連れだって歩く壱川と、ばったり鉢合わせてしまう。
連れている人間は……先日クラブで見かけた男と別人だったが、
明らかに「同じ種類の人間」―つまり、壱川と共に居る事が不自然な人種、だった。
【葛城 雄眞】
(――やっぱりこの手の奴らにつきまとわれてんのか?)
葛城はそんな心配と、―それからほんの少しの好奇心で以て、壱川に声をかける。
【葛城 雄眞】
「すげぇ偶然。プライベート?」
【壱川 咲十郎】
「―――」
【男】
「ああ?咲、知り合いかよ」
何故こんな気まずい状況で、普通に話しかけてくるんだろう……
壱川の全身からそんな戸惑いがうかがえる。
世間慣れしていないその様子が葛城にとっては新鮮で、
ついつい、もっと話しかけてしまいたくなる、が…
【壱川 咲十郎】
「……あの、……人違い、です。……失礼します!」
【葛城 雄眞】
「………は?」
突然、壱川はか細い声をあげて―男と共に葛城の前から去っていってしまう。
【葛城 雄眞】
(人違い、って……なあ)
一つも上手くない言い訳に、葛城は思わず笑みを零すのだった。
《絶頂》
【葛城 雄眞】
「ふぁあ~あ」
葛城はエンジェル営業帰りの、気だるい体を引き摺りながら家路についていた。
――営業相手からベッドの中で聞いた話を反芻する。
壱川咲十郎は男狂いで。様々な自分から男を誘い、カラダだけの関係を愉しんでいる、…という噂を。
【葛城 雄眞】
(……ちっと、信じられねえ話だよな)
元々一部の人間しか知らない情報で―かつ、壱川の家柄も家柄だ。
何か問題が起きる前にすべて揉み消されているのだろう…という話だった。
【葛城 雄眞】
(クラブにいた男とも……今日一緒に居た野郎とも?)
途端に。壱川咲十郎の乱れた姿態が脳内で映像として生成される。
普段は完璧なまでに品が良く、そういった行為から縁遠いように思われる壱川が乱れる姿。
――それは、元々女好きで、経験も豊富な葛城にとってさえ。確かな興奮を覚えさせるものだった…。