告白編 -梶井の場合-
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―プロローグ―
―思えば
俺と梶井さんの関係は…
この日から始まったのだ
―ある日の夕方
【宮沢】
(梶井さん、遅いなあ…。
急な仕事でも入ったのかな…)
受付の時計を確認すると、既に16時22分を回っている
この日は…毎週夕方16時に、梶井さんが個人レッスンに来る日で…
梶井さんは今まで、決して時間に遅れることがなかった。
―なのに
【宮沢】
(ひょっとして…、途中で事故に巻き込まれてたりとか……)
時間が経つにつれて不安が募る
【宮沢】
(梶井さんは、俺なんかよりずっと大人で…しっかりしてるから、
心配する必要ないかもだけど…)
【宮沢】
(でも………)
梶井さんは、初めて会ったときから不思議な雰囲気を持った人だった…
穏やかで、柔らかくて、知的で―
そしてどこか、最後の1歩を踏み込ませない空気を纏っていて…
【宮沢】
(男性を例えるのは変かもしれないけど…、凛とした、百合の花みたいな人だなって…)
そんな姿に…俺は一種、憧れのような感情を抱いていた
【宮沢】
(お仕事中かもしれないけど、メールくらいなら大丈夫かな……)
そう思って、スマホを取り出そうとした―矢先
ピピルピルピル……
【宮沢】
「うわっ!」
あまりにもタイミングの良い着信に、思わずスマホを取り落しそうになる
【宮沢】
「あー、びっくりした。
………!」
【宮沢】
(着信、梶井さんからだ!)
慌てて通話ボタンを押して電話に出る
【宮沢】
「あの…、もしもし。
梶井さん―ですよね?
もしかして事故でも―!?」
【梶井】
『……………宮沢さん
ご連絡が遅くなりまして…、申し訳ありません』
……受話口から聞こえる梶井さんの声は、いつもと違って…暗く、沈んで聞こえた
【宮沢】
「いえそんな…!事故に遭われてたらって心配してたので…。
…ご連絡ありがとうございます」
ひとまず声が聴けて安心したけれど……
【宮沢】
(でも……、こんな沈んだ声の梶井さん……初めてだ)
【梶井】
『……すみません、貴方にご迷惑をお掛けしてしまって…。今日は、個人レッスンのお約束でしたのに…』
梶井さんの声が、更に1トーン下がったように聞こえて……
【宮沢】
「そんなのいいんです!
梶井さんのお身体が最優先なんですから!」
【宮沢】
「俺…!今からそちらに伺いますから…!
ご自宅にいらっしゃいますか!?」
―自分でも、どうしてそこまで言ってしまったのか分からない
でも……
何故だが、今の梶井さんを絶対に1人にしておけない…そう感じた
…しばしの沈黙の後
………ク、ク、クと、
受話口の向こうから、弱々しい笑い声が響く
【梶井】
『……貴方が、私にそこまで声を荒げたのは………初めてですね』
【宮沢】
「ご…ごめんなさい。
どうしても梶井さんのことが心配で…」
【宮沢】
「…押し付けがましいこと言ってしまって……
本当に…申し訳ないです」
具合が悪いときほど、そっとしておいて欲しい人だっているのに…『行きます!』なんて怒鳴っちゃって……
(―どうかお大事に、困りごとがありましたらいつでも連絡を)
……そう言って、通話を終えようとした時だった
【梶井】
『…………本当に、いらしていただけるのですか?』
今すぐ消え入りそうなほど微かに…
でも、確かに通話口から…そう聞こえた
【宮沢】
「勿論です!…その、ご迷惑じゃなければ…ですけど」
先程までのテンションを恥じて、遠慮がちに答える俺に……
梶井さんは小さな声で、自宅マンションの住所と…、セキュリティロックの暗証番号を告げた
―プロローグ終了
―第1話―
『穴と糸』
―今にして思えば
何故あのとき、あんなことを言ってしまったのか…
………
……だけどあの日が
私たちの本当の始まりだったのだ
―私の中心に、大きな空洞ができている
【梶井】
(―今回は、随分と久しぶりですね)
カーテンを閉め切ったベッドルームで、ぼんやりと薄目を開く
動かない身体で、目線だけをサイドテーブルの時計に移すと―
時刻は15:47を示していた
そして、日付表示は……………
【梶井】
(…………よりにもよって、この日…ですか)
頭の中で、深く溜息を吐く
―今日は
毎週1度の……
彼との個人レッスンの日
―彼、宮沢宮沢との出会いは、ほんの偶然だった
私のマンションから、それ程遠くないところに、全国でも評判のフィットネスクラブがある
そう聞いたのは、たまたま一緒に飲んでいた、知人との会話の中だった
当時通っていた、別のフィットネスクラブで、行き過ぎたファンからのストーカー行為に悩まされていた私は…
―それならばと、足を運んでみたのだった
【宮沢】
「ご新規の方ですか
あっ、水泳お好きなんですね!」
……初めて会ったとき、なんて純粋で、無垢な表情をするのだろうと…深い興味を抱いたのを覚えている
まるで、積りたての雪のような笑顔をする青年だと……
………そして、
【宮沢】
「この指導、ですか…?
俺、シンクロのコーチ目指してて……」
【宮沢】
「―えっ!?梶井さんも参加して下さるんですか?
すごいや…、すごく嬉しいです」
彼の指導する姿を、もっと間近で見てみたい…。その思いから、シンクロチームに参加した
そんな不純な動機で始めたシンクロだったが―
彼の周りに集まるメンバーは……
皆―、私の周りには居たことのない
本当の意味での『良い人』たちばかりで……
居心地の良さと同時に―
どこか落ち着かなさも感じて、1歩引いてしまう自分が居た
……でも、そんな私に対しても、彼は………
そこまで思いを巡らせたところで、ハッと我に返る
【梶井】
(…いけない、約束の時間を過ぎてしまった……)
―時計の表示は、16:25を回っている
【梶井】
(……正直、この状態の時は、誰とも話したくないし……話すべきではない)
―思えば
俺と梶井さんの関係は…
この日から始まったのだ
―ある日の夕方
【宮沢】
(梶井さん、遅いなあ…。
急な仕事でも入ったのかな…)
受付の時計を確認すると、既に16時22分を回っている
この日は…毎週夕方16時に、梶井さんが個人レッスンに来る日で…
梶井さんは今まで、決して時間に遅れることがなかった。
―なのに
【宮沢】
(ひょっとして…、途中で事故に巻き込まれてたりとか……)
時間が経つにつれて不安が募る
【宮沢】
(梶井さんは、俺なんかよりずっと大人で…しっかりしてるから、
心配する必要ないかもだけど…)
【宮沢】
(でも………)
梶井さんは、初めて会ったときから不思議な雰囲気を持った人だった…
穏やかで、柔らかくて、知的で―
そしてどこか、最後の1歩を踏み込ませない空気を纏っていて…
【宮沢】
(男性を例えるのは変かもしれないけど…、凛とした、百合の花みたいな人だなって…)
そんな姿に…俺は一種、憧れのような感情を抱いていた
【宮沢】
(お仕事中かもしれないけど、メールくらいなら大丈夫かな……)
そう思って、スマホを取り出そうとした―矢先
ピピルピルピル……
【宮沢】
「うわっ!」
あまりにもタイミングの良い着信に、思わずスマホを取り落しそうになる
【宮沢】
「あー、びっくりした。
………!」
【宮沢】
(着信、梶井さんからだ!)
慌てて通話ボタンを押して電話に出る
【宮沢】
「あの…、もしもし。
梶井さん―ですよね?
もしかして事故でも―!?」
【梶井】
『……………宮沢さん
ご連絡が遅くなりまして…、申し訳ありません』
……受話口から聞こえる梶井さんの声は、いつもと違って…暗く、沈んで聞こえた
【宮沢】
「いえそんな…!事故に遭われてたらって心配してたので…。
…ご連絡ありがとうございます」
ひとまず声が聴けて安心したけれど……
【宮沢】
(でも……、こんな沈んだ声の梶井さん……初めてだ)
【梶井】
『……すみません、貴方にご迷惑をお掛けしてしまって…。今日は、個人レッスンのお約束でしたのに…』
梶井さんの声が、更に1トーン下がったように聞こえて……
【宮沢】
「そんなのいいんです!
梶井さんのお身体が最優先なんですから!」
【宮沢】
「俺…!今からそちらに伺いますから…!
ご自宅にいらっしゃいますか!?」
―自分でも、どうしてそこまで言ってしまったのか分からない
でも……
何故だが、今の梶井さんを絶対に1人にしておけない…そう感じた
…しばしの沈黙の後
………ク、ク、クと、
受話口の向こうから、弱々しい笑い声が響く
【梶井】
『……貴方が、私にそこまで声を荒げたのは………初めてですね』
【宮沢】
「ご…ごめんなさい。
どうしても梶井さんのことが心配で…」
【宮沢】
「…押し付けがましいこと言ってしまって……
本当に…申し訳ないです」
具合が悪いときほど、そっとしておいて欲しい人だっているのに…『行きます!』なんて怒鳴っちゃって……
(―どうかお大事に、困りごとがありましたらいつでも連絡を)
……そう言って、通話を終えようとした時だった
【梶井】
『…………本当に、いらしていただけるのですか?』
今すぐ消え入りそうなほど微かに…
でも、確かに通話口から…そう聞こえた
【宮沢】
「勿論です!…その、ご迷惑じゃなければ…ですけど」
先程までのテンションを恥じて、遠慮がちに答える俺に……
梶井さんは小さな声で、自宅マンションの住所と…、セキュリティロックの暗証番号を告げた
―プロローグ終了
―第1話―
『穴と糸』
―今にして思えば
何故あのとき、あんなことを言ってしまったのか…
………
……だけどあの日が
私たちの本当の始まりだったのだ
―私の中心に、大きな空洞ができている
【梶井】
(―今回は、随分と久しぶりですね)
カーテンを閉め切ったベッドルームで、ぼんやりと薄目を開く
動かない身体で、目線だけをサイドテーブルの時計に移すと―
時刻は15:47を示していた
そして、日付表示は……………
【梶井】
(…………よりにもよって、この日…ですか)
頭の中で、深く溜息を吐く
―今日は
毎週1度の……
彼との個人レッスンの日
―彼、宮沢宮沢との出会いは、ほんの偶然だった
私のマンションから、それ程遠くないところに、全国でも評判のフィットネスクラブがある
そう聞いたのは、たまたま一緒に飲んでいた、知人との会話の中だった
当時通っていた、別のフィットネスクラブで、行き過ぎたファンからのストーカー行為に悩まされていた私は…
―それならばと、足を運んでみたのだった
【宮沢】
「ご新規の方ですか
あっ、水泳お好きなんですね!」
……初めて会ったとき、なんて純粋で、無垢な表情をするのだろうと…深い興味を抱いたのを覚えている
まるで、積りたての雪のような笑顔をする青年だと……
………そして、
【宮沢】
「この指導、ですか…?
俺、シンクロのコーチ目指してて……」
【宮沢】
「―えっ!?梶井さんも参加して下さるんですか?
すごいや…、すごく嬉しいです」
彼の指導する姿を、もっと間近で見てみたい…。その思いから、シンクロチームに参加した
そんな不純な動機で始めたシンクロだったが―
彼の周りに集まるメンバーは……
皆―、私の周りには居たことのない
本当の意味での『良い人』たちばかりで……
居心地の良さと同時に―
どこか落ち着かなさも感じて、1歩引いてしまう自分が居た
……でも、そんな私に対しても、彼は………
そこまで思いを巡らせたところで、ハッと我に返る
【梶井】
(…いけない、約束の時間を過ぎてしまった……)
―時計の表示は、16:25を回っている
【梶井】
(……正直、この状態の時は、誰とも話したくないし……話すべきではない)
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