二階堂 シン
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夕食を済ませ書斎で仕事の書類に向き合っていると―
コンコン。
【二階堂】
「お、おつ…かれさま、です…ご主人様」
二階堂が頼んでいた珈琲を持ってきた。
【万里】
「二階堂。有難う」
【二階堂】
「い、いいえ…」
【万里】
「二階堂、少し休んでいけ。俺も休憩にする」
【二階堂】
「い……いいんです、か……?」
【万里】
「ああ。俺の話し相手になれ」
【二階堂】
「わ……わかりました…!」
嬉しそうに笑う二階堂。俺はノートパソコンを閉じた。
【万里】
「二階堂。お前は学生時代どんな奴だった?」
【二階堂】
「え……どんな、って……」
【万里】
「クラスの奴とは馴染めていたのか。中学、高校とか…」
【二階堂】
「い―いえ……ぜん、ぜん…誰とも…あまり」
【万里】
(だろうな。)
【二階堂】
「だから…俺、いつも…、ショッピング、モールに、いました…」
【二階堂】
「あそこ……家族も……こいびと、同士も……色々な、人がいて…見てて、飽きなかった…」
【万里】
「ああ、お前ショッピングモール作りたいっつってたよな…。」
【万里】
「それが建築家になった最初の動機か」
【二階堂】
「はい……」
【二階堂】
「あ、でも…もう1つ…理由、あります」
【万里】
「へえ」
【二階堂】
「俺……クラスで、一人だけ話してくれる、人が…いて……」
【二階堂】
「その人、が…建築家、向いてるって…言った…」
【万里】
「お前にも話せる友達がいたんだな」
【二階堂】
「………。その人は…俺のこと、いつも、クズ…とか…死ね…って言ってました…けど」
【万里】
「ああ?ただの苛めだな…そりゃ」
【二階堂】
「そう、なんですか…ね……。俺は…それでも、うれし…かった、です…友達、みたいで……」
【二階堂】
「たまに……俺が…、靴、とか体操着、隠されたりした、時……見つけて……くれ、たり…して」
【万里】
「…たまに?」
【二階堂】
「あ……いつもは、その人が、隠して、たの、で……たまに…違う人が、やった時…です」
【万里】
「……………。」
自分がやるのはいいが、他の奴には苛めさせたくないって感じか?
解らなくもねぇが……。
【万里】
「暴力はふるわれなかったのか?」
【二階堂】
「と……ときどき、俺のこと……殴って…ました」
【万里】
「…………殴る?」
【二階堂】
「はい………、……時々、ですけど…」
暴力をふるってくる相手を友達―と呼べる二階堂。その顔は穏やかなものに見えた。
【万里】
「どこが友達だ?お前よく耐えたな」
【二階堂】
「でも―関口君、は……殴った後、……優しかった、し……」
【二階堂】
「あと……他の人が俺…を、沢山で囲ん、で…殴ろう、とした、ときは…止めてくれました…から」
関口っつーのかその自己中は。
行きすぎた独占欲―まるで女を殴る男みたいな図だな…
【万里】
「は、お前……おかしいと思わなかったのか?そいつのこと」
【二階堂】
「おかしい……いえ、そんな……おかしいとは思い、ませんでした…」
【二階堂】
「あ、でも………」
【万里】
「でも?」
【二階堂】
「い、いえ………!やっぱり何でもない、です……」
【万里】
「ああ?言えよ。気になるだろうが」
【二階堂】
「だ…、大丈夫です……っ、大したこと、では……」
【万里】
「俺が大丈夫じゃねえんだよ。仕事に集中できなくなったら誰のせいだ?」
【万里】
「いいから言え」
【二階堂】
「わっ……う……!」
俺は二階堂を押さえつけ、床へ四つん這いの体勢にさせる。
【万里】
「二階堂…そんなに会話が面白くねぇならお前本当にテーブルんなっちまうか」
【二階堂】
「っ……い、嫌…です……!」
【万里】
「今日もちょうど珈琲があるしな…しっかりテーブルの役目を果たせよ?」
【二階堂】
「ごめん、な、さ……っ…!言い、ます…からぁ……!」
【万里】
「……ふ…、主人に隠し事なんか出来ると思うな」
【万里】
「お前らは職務柄、俺に身の上を話す義務があるからな…」
【二階堂】
「はい……」
二階堂は少しうっとりしているようにも見える表情で床に座り直す。
【万里】
「で?何があったんだ」
【二階堂】
「そ―、その……、関口くんの…殴り方…が、少し―変、な気がして……」
【万里】
「どう変なんだ」
【二階堂】
「たまに誰もいない、倉庫、に……呼ば、れ…て、…何故か……」
【万里】
「何故か?」
【二階堂】
「お……お尻を叩かれ…ました……」
【万里】
「はあ?」
【二階堂】
「…その、ズボンを…脱げ、と…言われ、たので…そうした、ら……」
【万里】
「何で尻を叩かれたんだ」
【二階堂】
「え……と、……粛正、だ……て言われ、てました…」
【万里】
「粛正?」
【二階堂】
「俺が…よくない、態度とったり、とか……」
【二階堂】
「他の…人に…殴られ…ると、俺が…鈍い、から…だって…」
【万里】
「……………………」
【二階堂】
「今……になる、と…変、じゃないかって気がして…」
【二階堂】
「普通、殴るとき、って…お尻じゃなくて…お腹とか…顔とか、って思…て……」
【万里】
「お前、そんな事何で許してたんだよ?痛くなかったのか」
【二階堂】
「い、痛かった…です……何度も…される、ので……」
【二階堂】
「でも、おれ、は…関口君の事…尊敬、していた、から…我慢、しました」
【万里】
「なぜ」
【二階堂】
「俺…に、建築家になれ、って、言ってくれた、の…関口くん、だった…から」
【二階堂】
「…俺…が……、設計の……真似、みたいなのしてるの…見て、凄い、って言ってくれて…」
【万里】
「―じゃあお前、そいつの言いつけを守って建築家になったのか?」
【二階堂】
「…………。」
【二階堂】
「そう……、かもしれません」
【万里】
「……………………」
無性に腹が立った…
二階堂が建築家になった理由―つまり生きる糧、が全てそいつに因るものだった事に対して。
特定の誰かに目を向け続けたままこの俺の下についているなんて―許せるわけがない。
【万里】
「その…関口って男とは今も連絡をとってるのか?」
【二階堂】
「あ、それが―」
【二階堂】
「高3、の時に……死んだん…です」
【万里】
「!」
【二階堂】
「今、でも……信じられ…ない、こと…あります……もう、居ない……なんて」
【万里】
「―――」
死んだクセにまだ二階堂を捕えている男。
忘れられない要因はいくつかあるにしても、
一番はその尻を叩かれた出来事があまりに衝撃的だったから、だろう。
大きな負の感情を引き起こす出来事を頻繁に繰り返されれば習慣に組み込まれ…
無意識に同じ状況を求めてしまう。それがトラウマの仕組みだ。
―ということはつまり、
二階堂はやはりソウイッタコトに悦びを感じるよう根づいている可能性が高い…。
【二階堂】
「あっ………」
二階堂は思い出話のせいで呆けていたのか、立ちあがりしなよろけてデスクにぶつかった―
ガチャン!
その衝撃で、珈琲が零れてしまった。しかも、ノートパソコンに思い切りかかった。
電源を入れようと試みるがビクともしない。
―最高だ。状況が揃いすぎている。俺は…この状況はふってわいた贈り物としか思えなかった。
丁度いい。苛々していたところだ。しばらくこのネタで遊ぶことにした。
【二階堂】
「ご…!ごめんなさ、い…!俺………っ、弁償します…!」
【万里】
「弁償?てめぇ、状況が解ってないみたいだな」
【万里】
「お前、三宮の重要データ吹っ飛ばして生きてられる訳ねぇだろ。」
【万里】
「何億の損失になると思ってんだよ」
【二階堂】
「ひっ…!!ご…、ごめ……んなさ……」
【万里】
「謝るだけなら意味ねえな。何人の人間に迷惑かかると思ってんだ?」
【万里】
「同じ失敗を繰り返すんじゃねえ!このグズ!!」
大袈裟に怒鳴ると早くも委縮しまくって涙目になる二階堂。
まぁ…前回零れたのは俺の所為だけどな。
大体重要データつっても、会社のデスクトップにデータは転送済みだから、大した問題ではない。
【万里】
「お前…、どうやって償う気なんだよ?ああ?言ってみろ」
【二階堂】
「う……、俺………何、でも……しま、す…………っ」
【万里】
「馬鹿かお前…自分に一体どれだけの価値があると思ってんだよ」
【二階堂】
「ご……ごめん、なさい……っ!ごめんなさい………っ」
【二階堂】
「俺に出来る、こと……全部、します……、から……っ」
【万里】
「誠意ってものを感じねぇなあ…じゃあ手始めに土下座してみせろよ。」
【二階堂】
「はっ……はい!!」
俺が睨むと二階堂はテーブルの件が余程恐ろしかったのか、
そそくさと四つん這いになり頭を下げる。
もはやグズグズに泣きだしている二階堂が滑稽で可愛かった。
【万里】
「あー、なんか足りねぇんだよな…全然伝わんねーよ」
【二階堂】
「あ……っ、う………、何が……足りない、……でしょう、か……」
【万里】
「ふざけんな!自分で考えろ!」
【二階堂】
「ヒっ……、ごめんなさい……!!」
【万里】
「ほら、考案しろよ。俺をなだめる策を」
【二階堂】
「ぅうう………ッ、……て、くださ…」
【万里】
「はぁ?」
【二階堂】
「俺の……お尻、を―叩いて……、ください……っ」
【万里】
「―――」
驚いた。当然二階堂のトラウマはいずれ俺が上書きしてやるつもりだったが。
まさか本人から言い出すとは…。恐怖で錯乱しているんだろうか。
【万里】
「何で俺がてめぇの尻なんか殴る必要があんだよ?なんでそう思ったんだ?」
【二階堂】
「あう、…ぅ、だって……関口く……は、お尻、叩いた後……優しかった、から……」
【二階堂】
「怒って、た…後、も……優しく、なっ……」
【万里】
「……………」
とんでもない提案に驚きつつも関口の名前が出て、
瞬時に苛々が再燃した俺は―一歩二階堂に近づく。
少し距離が縮まっただけで二階堂は大袈裟にビクン!と驚く。
【万里】
「そんなにお望みならば―」
恐怖心をあおる為、まずは背後から軽く撫でる。
途端にガタガタと震え始めている二階堂―最高の眺めだ。
【万里】
「お前が自分でやれ。」
【二階堂】
「え……?」
【万里】
「何故俺がお前の指図を受けなければならない?そんなに殴られたければ自分でやれ」
【二階堂】
「…っ、そ…んなの……無理、です……ッ」
【万里】
「はぁ?!てめぇから提案したんだろうが。責任持って早くやれ!!」
【二階堂】
「ッ、はっ…、はい……っ」
二階堂は戸惑いながらも―
バチン!
【二階堂】
「………っイぐ…ッ…」
言われた通りに自らの臀部を平手する。
【万里】
「もっと強くしろ。加減したらやり直しだ」
【二階堂】
「ひっ………」
バチン!バチン!
【二階堂】
「……ああぅ、あッ…」
【万里】
「は…叩いてる手が痛そうだな…。今度専用の道具、買ってきてやるよ」
【二階堂】
「いっ、嫌で、す……」
【万里】
「ばーか、拒否権なんてねえんだよ。逆らった罰だ。もう一度やれ。」
【二階堂】
「…う…っ、……っ、あぐうぅううっ」
言われた通りに従う二階堂。それどころか、立て続けに何度も手を振りおろし始めている。
怪訝に思いふと見れば―体に驚くべき異変が起きていた。
【万里】
「オイ…何楽しんでんだ」
【二階堂】
「!!!」
【二階堂】
「ち、が………、ちがい、ますっ……」
二階堂自身も無意識だったらしく、俺が指し示すと顔を真っ赤にして静止してしまう。
【万里】
「お前……どうしようもねぇなぁ。てめぇでやってる癖に、呆れるぜ」
【二階堂】
「……!ごめん、なさ……っ」
【万里】
「喜ばせる為にやってんじゃねえんだよ!」
【二階堂】
「……あ、ぐ……ッ」
…願ったりの状況だ。関口との過去よりも今日のショックの方が明らかに大きく残るだろう。
俺色に塗り潰した二階堂を満足げに見下ろし、それからもう一度―
fin
コンコン。
【二階堂】
「お、おつ…かれさま、です…ご主人様」
二階堂が頼んでいた珈琲を持ってきた。
【万里】
「二階堂。有難う」
【二階堂】
「い、いいえ…」
【万里】
「二階堂、少し休んでいけ。俺も休憩にする」
【二階堂】
「い……いいんです、か……?」
【万里】
「ああ。俺の話し相手になれ」
【二階堂】
「わ……わかりました…!」
嬉しそうに笑う二階堂。俺はノートパソコンを閉じた。
【万里】
「二階堂。お前は学生時代どんな奴だった?」
【二階堂】
「え……どんな、って……」
【万里】
「クラスの奴とは馴染めていたのか。中学、高校とか…」
【二階堂】
「い―いえ……ぜん、ぜん…誰とも…あまり」
【万里】
(だろうな。)
【二階堂】
「だから…俺、いつも…、ショッピング、モールに、いました…」
【二階堂】
「あそこ……家族も……こいびと、同士も……色々な、人がいて…見てて、飽きなかった…」
【万里】
「ああ、お前ショッピングモール作りたいっつってたよな…。」
【万里】
「それが建築家になった最初の動機か」
【二階堂】
「はい……」
【二階堂】
「あ、でも…もう1つ…理由、あります」
【万里】
「へえ」
【二階堂】
「俺……クラスで、一人だけ話してくれる、人が…いて……」
【二階堂】
「その人、が…建築家、向いてるって…言った…」
【万里】
「お前にも話せる友達がいたんだな」
【二階堂】
「………。その人は…俺のこと、いつも、クズ…とか…死ね…って言ってました…けど」
【万里】
「ああ?ただの苛めだな…そりゃ」
【二階堂】
「そう、なんですか…ね……。俺は…それでも、うれし…かった、です…友達、みたいで……」
【二階堂】
「たまに……俺が…、靴、とか体操着、隠されたりした、時……見つけて……くれ、たり…して」
【万里】
「…たまに?」
【二階堂】
「あ……いつもは、その人が、隠して、たの、で……たまに…違う人が、やった時…です」
【万里】
「……………。」
自分がやるのはいいが、他の奴には苛めさせたくないって感じか?
解らなくもねぇが……。
【万里】
「暴力はふるわれなかったのか?」
【二階堂】
「と……ときどき、俺のこと……殴って…ました」
【万里】
「…………殴る?」
【二階堂】
「はい………、……時々、ですけど…」
暴力をふるってくる相手を友達―と呼べる二階堂。その顔は穏やかなものに見えた。
【万里】
「どこが友達だ?お前よく耐えたな」
【二階堂】
「でも―関口君、は……殴った後、……優しかった、し……」
【二階堂】
「あと……他の人が俺…を、沢山で囲ん、で…殴ろう、とした、ときは…止めてくれました…から」
関口っつーのかその自己中は。
行きすぎた独占欲―まるで女を殴る男みたいな図だな…
【万里】
「は、お前……おかしいと思わなかったのか?そいつのこと」
【二階堂】
「おかしい……いえ、そんな……おかしいとは思い、ませんでした…」
【二階堂】
「あ、でも………」
【万里】
「でも?」
【二階堂】
「い、いえ………!やっぱり何でもない、です……」
【万里】
「ああ?言えよ。気になるだろうが」
【二階堂】
「だ…、大丈夫です……っ、大したこと、では……」
【万里】
「俺が大丈夫じゃねえんだよ。仕事に集中できなくなったら誰のせいだ?」
【万里】
「いいから言え」
【二階堂】
「わっ……う……!」
俺は二階堂を押さえつけ、床へ四つん這いの体勢にさせる。
【万里】
「二階堂…そんなに会話が面白くねぇならお前本当にテーブルんなっちまうか」
【二階堂】
「っ……い、嫌…です……!」
【万里】
「今日もちょうど珈琲があるしな…しっかりテーブルの役目を果たせよ?」
【二階堂】
「ごめん、な、さ……っ…!言い、ます…からぁ……!」
【万里】
「……ふ…、主人に隠し事なんか出来ると思うな」
【万里】
「お前らは職務柄、俺に身の上を話す義務があるからな…」
【二階堂】
「はい……」
二階堂は少しうっとりしているようにも見える表情で床に座り直す。
【万里】
「で?何があったんだ」
【二階堂】
「そ―、その……、関口くんの…殴り方…が、少し―変、な気がして……」
【万里】
「どう変なんだ」
【二階堂】
「たまに誰もいない、倉庫、に……呼ば、れ…て、…何故か……」
【万里】
「何故か?」
【二階堂】
「お……お尻を叩かれ…ました……」
【万里】
「はあ?」
【二階堂】
「…その、ズボンを…脱げ、と…言われ、たので…そうした、ら……」
【万里】
「何で尻を叩かれたんだ」
【二階堂】
「え……と、……粛正、だ……て言われ、てました…」
【万里】
「粛正?」
【二階堂】
「俺が…よくない、態度とったり、とか……」
【二階堂】
「他の…人に…殴られ…ると、俺が…鈍い、から…だって…」
【万里】
「……………………」
【二階堂】
「今……になる、と…変、じゃないかって気がして…」
【二階堂】
「普通、殴るとき、って…お尻じゃなくて…お腹とか…顔とか、って思…て……」
【万里】
「お前、そんな事何で許してたんだよ?痛くなかったのか」
【二階堂】
「い、痛かった…です……何度も…される、ので……」
【二階堂】
「でも、おれ、は…関口君の事…尊敬、していた、から…我慢、しました」
【万里】
「なぜ」
【二階堂】
「俺…に、建築家になれ、って、言ってくれた、の…関口くん、だった…から」
【二階堂】
「…俺…が……、設計の……真似、みたいなのしてるの…見て、凄い、って言ってくれて…」
【万里】
「―じゃあお前、そいつの言いつけを守って建築家になったのか?」
【二階堂】
「…………。」
【二階堂】
「そう……、かもしれません」
【万里】
「……………………」
無性に腹が立った…
二階堂が建築家になった理由―つまり生きる糧、が全てそいつに因るものだった事に対して。
特定の誰かに目を向け続けたままこの俺の下についているなんて―許せるわけがない。
【万里】
「その…関口って男とは今も連絡をとってるのか?」
【二階堂】
「あ、それが―」
【二階堂】
「高3、の時に……死んだん…です」
【万里】
「!」
【二階堂】
「今、でも……信じられ…ない、こと…あります……もう、居ない……なんて」
【万里】
「―――」
死んだクセにまだ二階堂を捕えている男。
忘れられない要因はいくつかあるにしても、
一番はその尻を叩かれた出来事があまりに衝撃的だったから、だろう。
大きな負の感情を引き起こす出来事を頻繁に繰り返されれば習慣に組み込まれ…
無意識に同じ状況を求めてしまう。それがトラウマの仕組みだ。
―ということはつまり、
二階堂はやはりソウイッタコトに悦びを感じるよう根づいている可能性が高い…。
【二階堂】
「あっ………」
二階堂は思い出話のせいで呆けていたのか、立ちあがりしなよろけてデスクにぶつかった―
ガチャン!
その衝撃で、珈琲が零れてしまった。しかも、ノートパソコンに思い切りかかった。
電源を入れようと試みるがビクともしない。
―最高だ。状況が揃いすぎている。俺は…この状況はふってわいた贈り物としか思えなかった。
丁度いい。苛々していたところだ。しばらくこのネタで遊ぶことにした。
【二階堂】
「ご…!ごめんなさ、い…!俺………っ、弁償します…!」
【万里】
「弁償?てめぇ、状況が解ってないみたいだな」
【万里】
「お前、三宮の重要データ吹っ飛ばして生きてられる訳ねぇだろ。」
【万里】
「何億の損失になると思ってんだよ」
【二階堂】
「ひっ…!!ご…、ごめ……んなさ……」
【万里】
「謝るだけなら意味ねえな。何人の人間に迷惑かかると思ってんだ?」
【万里】
「同じ失敗を繰り返すんじゃねえ!このグズ!!」
大袈裟に怒鳴ると早くも委縮しまくって涙目になる二階堂。
まぁ…前回零れたのは俺の所為だけどな。
大体重要データつっても、会社のデスクトップにデータは転送済みだから、大した問題ではない。
【万里】
「お前…、どうやって償う気なんだよ?ああ?言ってみろ」
【二階堂】
「う……、俺………何、でも……しま、す…………っ」
【万里】
「馬鹿かお前…自分に一体どれだけの価値があると思ってんだよ」
【二階堂】
「ご……ごめん、なさい……っ!ごめんなさい………っ」
【二階堂】
「俺に出来る、こと……全部、します……、から……っ」
【万里】
「誠意ってものを感じねぇなあ…じゃあ手始めに土下座してみせろよ。」
【二階堂】
「はっ……はい!!」
俺が睨むと二階堂はテーブルの件が余程恐ろしかったのか、
そそくさと四つん這いになり頭を下げる。
もはやグズグズに泣きだしている二階堂が滑稽で可愛かった。
【万里】
「あー、なんか足りねぇんだよな…全然伝わんねーよ」
【二階堂】
「あ……っ、う………、何が……足りない、……でしょう、か……」
【万里】
「ふざけんな!自分で考えろ!」
【二階堂】
「ヒっ……、ごめんなさい……!!」
【万里】
「ほら、考案しろよ。俺をなだめる策を」
【二階堂】
「ぅうう………ッ、……て、くださ…」
【万里】
「はぁ?」
【二階堂】
「俺の……お尻、を―叩いて……、ください……っ」
【万里】
「―――」
驚いた。当然二階堂のトラウマはいずれ俺が上書きしてやるつもりだったが。
まさか本人から言い出すとは…。恐怖で錯乱しているんだろうか。
【万里】
「何で俺がてめぇの尻なんか殴る必要があんだよ?なんでそう思ったんだ?」
【二階堂】
「あう、…ぅ、だって……関口く……は、お尻、叩いた後……優しかった、から……」
【二階堂】
「怒って、た…後、も……優しく、なっ……」
【万里】
「……………」
とんでもない提案に驚きつつも関口の名前が出て、
瞬時に苛々が再燃した俺は―一歩二階堂に近づく。
少し距離が縮まっただけで二階堂は大袈裟にビクン!と驚く。
【万里】
「そんなにお望みならば―」
恐怖心をあおる為、まずは背後から軽く撫でる。
途端にガタガタと震え始めている二階堂―最高の眺めだ。
【万里】
「お前が自分でやれ。」
【二階堂】
「え……?」
【万里】
「何故俺がお前の指図を受けなければならない?そんなに殴られたければ自分でやれ」
【二階堂】
「…っ、そ…んなの……無理、です……ッ」
【万里】
「はぁ?!てめぇから提案したんだろうが。責任持って早くやれ!!」
【二階堂】
「ッ、はっ…、はい……っ」
二階堂は戸惑いながらも―
バチン!
【二階堂】
「………っイぐ…ッ…」
言われた通りに自らの臀部を平手する。
【万里】
「もっと強くしろ。加減したらやり直しだ」
【二階堂】
「ひっ………」
バチン!バチン!
【二階堂】
「……ああぅ、あッ…」
【万里】
「は…叩いてる手が痛そうだな…。今度専用の道具、買ってきてやるよ」
【二階堂】
「いっ、嫌で、す……」
【万里】
「ばーか、拒否権なんてねえんだよ。逆らった罰だ。もう一度やれ。」
【二階堂】
「…う…っ、……っ、あぐうぅううっ」
言われた通りに従う二階堂。それどころか、立て続けに何度も手を振りおろし始めている。
怪訝に思いふと見れば―体に驚くべき異変が起きていた。
【万里】
「オイ…何楽しんでんだ」
【二階堂】
「!!!」
【二階堂】
「ち、が………、ちがい、ますっ……」
二階堂自身も無意識だったらしく、俺が指し示すと顔を真っ赤にして静止してしまう。
【万里】
「お前……どうしようもねぇなぁ。てめぇでやってる癖に、呆れるぜ」
【二階堂】
「……!ごめん、なさ……っ」
【万里】
「喜ばせる為にやってんじゃねえんだよ!」
【二階堂】
「……あ、ぐ……ッ」
…願ったりの状況だ。関口との過去よりも今日のショックの方が明らかに大きく残るだろう。
俺色に塗り潰した二階堂を満足げに見下ろし、それからもう一度―
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