[本編] 銀 夏生 編
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【ハク】
(……まさか!そんなはずは………)
――ない、とは言い切れない。俺はそう思っていた。
だとすれば、俺が会社をクビになったことも………まさか、決められていたとでもいうのか……?
俺の中に、疑念がふくらんだ。
偶然だと思っていたことすべてが、もしも……偶然なんかじゃなかったとしたら……?
【ハク】
(……っ!)
【ハク】
(まて……まてよ、落ち着けって俺……!じゃあナツを疑うのかよ?ナツが俺を騙してるとでもいうのか?)
俺は自問自答した。
ナツを疑ってみては、まさかそんなはずはないと否定する。それの繰り返しだ。
そうこうしている間に応接スペースの片づけも終わり、俺は自分のデスクにどたっと座り込んだ。
【ハク】
「ナツ…………」
【ハク】
(そう言えば……)
俺は、ナツのことを考えていた。
ナツはそんなことをするようなやつじゃない――そんなふうに悶々と考えるうちに、なんとなく昔のことを思い出す。
俺が最初にナツと出会ったときのこと………そう、高校時代のことだ。
【ハク】
「高校のときは……あんなことがあったっけ………」
高校時代……俺とナツの、出会いは――――。
ナツは一言で言えば校内の有名人で、銀夏生といえば大体誰でも知っていた。
ナツと学年の違う俺が、入学したてだというのにその名前を知っていたほどだから、多分知らない人なんていなかっただろう。
【男子生徒1】
「あいかわらず銀ってすげぇなぁ。まぁた学年トップかよ」
【男子生徒2】
「ほんとになー。入学してからずっと成績首位なんだろ?」
【男子生徒1】
「らしいな。で、スポーツ系もイケるもんだから女が騒ぎまくっててさぁ」
【男子生徒2】
「あーわかる!次の球技大会もどうせご活躍だろ?ウチの女子も騒いでたわ」
【男子生徒1】
「あ~あ、銀みたいに何でもデキるやつはいいよなぁ」
【男子生徒2】
「ホントホント!ああいうやつって、今まで誰かに負けたことなんかねーんだろーなー」
生徒会長を務めていたナツは、スポーツ万能、成績優秀の、いわゆる文武両道の“完璧な生徒”だった。
会社でもそうであるように周囲の生徒たちから慕われていた。
そんなナツと、俺が知り合いになるなんてこと………俺はもちろん考えてなかった。
けれど――――球技大会の、あの日………。
【ハク】
(球技大会か……しかもクラス対抗とか、面倒くさいよな……)
ある日のホームルームの時間。
迫ってきた球技大会で、誰がどの種目に出るかをクラスで話し合っていた。
高校時代から、地味で物事に無関心な人間だった俺は、もちろん球技大会にも興味なんて無かった。
そんな俺に割り振られたのは―――。
【女子生徒1】
「ええっと……じゃ、ハク君はテニスのシングルス戦ね!」
【ハク】
「は……?テニス……?しかもシングルス戦って……」
【女子生徒1】
「別に適当にやればいいからさぁ。まぁハク君がテニスで負けても、うちら他の種目で勝つから問題ないしー」
【ハク】
「はぁ……」
テニスなんていかにも洗練されたスポーツという感じがして、地味な俺にはよほど似合わない。
その上、シングルス戦なんて目立って仕方ない………正直、やりたくない。
―――そう思ったけれど、クラスの決定に反論する余地などなく、俺は結局そのままテニスのシングルス戦に出ることになった。
【ハク】
(まぁ、適当にやればいいって言ってたしな。それでいっか……)
俺は気軽にそう思っていた。
でも、対戦相手が決まると、そうも言っていられなくなってしまった。
なにしろ対戦相手は―――生徒会長の、銀夏生。
【女子生徒1】
「ちょっと!ハク君、すごーいぃ!応援しにいくからぁ!」
【ハク】
「はぁ……どうも」
俺のシングルス戦は捨て試合だったのに、相手がナツだというだけで注目度がグンと上がってしまった。
クラスの女子も、ナツの名前を見た瞬間にコロッと態度を変えてきて……。
【ハク】
「はぁ……すごいのは俺じゃなくって対戦相手の方だっての…。つか、応援って絶対、銀先輩の方の応援だよな……」
俺は別に、それを悔しいと思っていたわけじゃなかった。ただ、面倒だった。
だって………相手が生徒会長だということは、クラスの女子だけじゃなく学校中の注目の的になることを示していたから。
【ハク】
(銀先輩はスポーツ万能だから、まあどうせ俺が負けるし……さっさと負けて終わらす方が絶対楽だよな………)
【ハク】
(………そんなことより………)
――――試合当日。
俺は軽くウォーミングアップをして、コートにやってきたナツに挨拶をした。
ナツはさわやかに笑いかけてくると、握手のために手を差し伸べてくる。
【銀】
「ハク君か、初めまして。球技大会とはいえ、手は抜くなよ。本気でやろう。よろしくな」
【ハク】
「あ……あの」
【銀】
「うん?何かあるか?」
【ハク】
「あ……いえ。よろしくお願いします」
変に緊張していた俺は、そのあっさりした様子に拍子ぬけしてしまった。
それに…………もしかしたら覚えてくれているかも、と思っていたから………。
【ハク】
(だよな……覚えてるわけ、ないか……俺のことなんか)
実のところ俺には、ナツと話した記憶が一度だけあったのだ。
俺はあの時以来、ナツのことを少し意識するようになっていた。でも、学年も違うし、ナツは有名人で……俺なんて目に留まるはずがない。
予想通り、ナツは俺のことなんて覚えていなかった……。
【ハク】
(にしても……適当にやれば良いと思ってたけど、そういうわけにもいかなそうだな………)
本気でやっても、勝てっこない。
それは分っているけど、ナツと話したら、最初から手を抜くわけにはいかないような気がした。
【ハク】
(負けて笑われるのはどうせ一緒だし……まぁ、やるか)
俺は、本気で挑むことにした。テニスコートの向こう側でラケットを構えていたナツは、さすがに自信満々に見えた。
【女子生徒1】
「きゃあ~!銀先輩ぃぃ~~!!!」
【女子生徒2】
「頑張ってぇ~~!!!」
外野からは黄色い声が響いていた。
全校女子が集まっているのかと思うくらいの女子が、ナツを応援している。
試合は思った通り、ナツの優勢で進んだ。
テニスのことは授業でやったくらいのことしか知らないけれど、ナツがボールを打つ姿はすごく様になっていた。
男からみてもカッコいいと思う。
【ハク】
(じゃあ俺は……どうせだったらカッコよく負けようか)
試合の途中から、俺はそんなことを考えていた。
カッコいい負け方なんて、一体どんなんだかわからないけど……俺は必死にボールを追いかけていた。
受けて、返して――それを繰り返して。
【男子生徒3】
「試合終了――――!」
俺はいつの間にか必死になっていて、時間がたつのを忘れていた。
勝ちたいだなんて微塵も思わなかったから、点数だって気にしていなかった。
―――それなのに。
【生徒1】
「勝者は…………1年、ハク君です!」
【ハク】
「は………?」
【ハク】
(な…んだって……!?)
俺は審判役の生徒の言葉に、口をぽかんと開けてしまった。
見ると、大勢いた女子生徒も同じような顔をして驚いている。
【ハク】
「え…?おれ……」
【銀】
「――――良い試合だったよ、ハク君」
【ハク】
「え、あ…はい……ありがとうございました……」
【ハク】
(俺が、あの銀先輩に勝ったなんて―――――)
【銀】
「ハク君」
【ハク】
「は、はい?」
俺は、ナツに握手を求められて差し出した手を、グッと引っ張られた。
うわっ!と短く声を上げて、よろめく。
その瞬間、ナツが俺の耳元で囁いて…………そして、笑う。
思わず俺はドキン、としてしまった。
【銀】
「一生懸命な姿に心を打たれたよ……お前みたいな奴、初めてだ」
―――あれ以来、ナツは気軽に俺に話しかけてくるようになった。
そして俺は、ナツからハクと呼ばれるくらいになった。
【銀】
「ハク、ちょっといいか」
【ハク】
「ああ、うん」
思えばそれが、俺とナツとの始まりだった………。
続く…
(……まさか!そんなはずは………)
――ない、とは言い切れない。俺はそう思っていた。
だとすれば、俺が会社をクビになったことも………まさか、決められていたとでもいうのか……?
俺の中に、疑念がふくらんだ。
偶然だと思っていたことすべてが、もしも……偶然なんかじゃなかったとしたら……?
【ハク】
(……っ!)
【ハク】
(まて……まてよ、落ち着けって俺……!じゃあナツを疑うのかよ?ナツが俺を騙してるとでもいうのか?)
俺は自問自答した。
ナツを疑ってみては、まさかそんなはずはないと否定する。それの繰り返しだ。
そうこうしている間に応接スペースの片づけも終わり、俺は自分のデスクにどたっと座り込んだ。
【ハク】
「ナツ…………」
【ハク】
(そう言えば……)
俺は、ナツのことを考えていた。
ナツはそんなことをするようなやつじゃない――そんなふうに悶々と考えるうちに、なんとなく昔のことを思い出す。
俺が最初にナツと出会ったときのこと………そう、高校時代のことだ。
【ハク】
「高校のときは……あんなことがあったっけ………」
高校時代……俺とナツの、出会いは――――。
ナツは一言で言えば校内の有名人で、銀夏生といえば大体誰でも知っていた。
ナツと学年の違う俺が、入学したてだというのにその名前を知っていたほどだから、多分知らない人なんていなかっただろう。
【男子生徒1】
「あいかわらず銀ってすげぇなぁ。まぁた学年トップかよ」
【男子生徒2】
「ほんとになー。入学してからずっと成績首位なんだろ?」
【男子生徒1】
「らしいな。で、スポーツ系もイケるもんだから女が騒ぎまくっててさぁ」
【男子生徒2】
「あーわかる!次の球技大会もどうせご活躍だろ?ウチの女子も騒いでたわ」
【男子生徒1】
「あ~あ、銀みたいに何でもデキるやつはいいよなぁ」
【男子生徒2】
「ホントホント!ああいうやつって、今まで誰かに負けたことなんかねーんだろーなー」
生徒会長を務めていたナツは、スポーツ万能、成績優秀の、いわゆる文武両道の“完璧な生徒”だった。
会社でもそうであるように周囲の生徒たちから慕われていた。
そんなナツと、俺が知り合いになるなんてこと………俺はもちろん考えてなかった。
けれど――――球技大会の、あの日………。
【ハク】
(球技大会か……しかもクラス対抗とか、面倒くさいよな……)
ある日のホームルームの時間。
迫ってきた球技大会で、誰がどの種目に出るかをクラスで話し合っていた。
高校時代から、地味で物事に無関心な人間だった俺は、もちろん球技大会にも興味なんて無かった。
そんな俺に割り振られたのは―――。
【女子生徒1】
「ええっと……じゃ、ハク君はテニスのシングルス戦ね!」
【ハク】
「は……?テニス……?しかもシングルス戦って……」
【女子生徒1】
「別に適当にやればいいからさぁ。まぁハク君がテニスで負けても、うちら他の種目で勝つから問題ないしー」
【ハク】
「はぁ……」
テニスなんていかにも洗練されたスポーツという感じがして、地味な俺にはよほど似合わない。
その上、シングルス戦なんて目立って仕方ない………正直、やりたくない。
―――そう思ったけれど、クラスの決定に反論する余地などなく、俺は結局そのままテニスのシングルス戦に出ることになった。
【ハク】
(まぁ、適当にやればいいって言ってたしな。それでいっか……)
俺は気軽にそう思っていた。
でも、対戦相手が決まると、そうも言っていられなくなってしまった。
なにしろ対戦相手は―――生徒会長の、銀夏生。
【女子生徒1】
「ちょっと!ハク君、すごーいぃ!応援しにいくからぁ!」
【ハク】
「はぁ……どうも」
俺のシングルス戦は捨て試合だったのに、相手がナツだというだけで注目度がグンと上がってしまった。
クラスの女子も、ナツの名前を見た瞬間にコロッと態度を変えてきて……。
【ハク】
「はぁ……すごいのは俺じゃなくって対戦相手の方だっての…。つか、応援って絶対、銀先輩の方の応援だよな……」
俺は別に、それを悔しいと思っていたわけじゃなかった。ただ、面倒だった。
だって………相手が生徒会長だということは、クラスの女子だけじゃなく学校中の注目の的になることを示していたから。
【ハク】
(銀先輩はスポーツ万能だから、まあどうせ俺が負けるし……さっさと負けて終わらす方が絶対楽だよな………)
【ハク】
(………そんなことより………)
――――試合当日。
俺は軽くウォーミングアップをして、コートにやってきたナツに挨拶をした。
ナツはさわやかに笑いかけてくると、握手のために手を差し伸べてくる。
【銀】
「ハク君か、初めまして。球技大会とはいえ、手は抜くなよ。本気でやろう。よろしくな」
【ハク】
「あ……あの」
【銀】
「うん?何かあるか?」
【ハク】
「あ……いえ。よろしくお願いします」
変に緊張していた俺は、そのあっさりした様子に拍子ぬけしてしまった。
それに…………もしかしたら覚えてくれているかも、と思っていたから………。
【ハク】
(だよな……覚えてるわけ、ないか……俺のことなんか)
実のところ俺には、ナツと話した記憶が一度だけあったのだ。
俺はあの時以来、ナツのことを少し意識するようになっていた。でも、学年も違うし、ナツは有名人で……俺なんて目に留まるはずがない。
予想通り、ナツは俺のことなんて覚えていなかった……。
【ハク】
(にしても……適当にやれば良いと思ってたけど、そういうわけにもいかなそうだな………)
本気でやっても、勝てっこない。
それは分っているけど、ナツと話したら、最初から手を抜くわけにはいかないような気がした。
【ハク】
(負けて笑われるのはどうせ一緒だし……まぁ、やるか)
俺は、本気で挑むことにした。テニスコートの向こう側でラケットを構えていたナツは、さすがに自信満々に見えた。
【女子生徒1】
「きゃあ~!銀先輩ぃぃ~~!!!」
【女子生徒2】
「頑張ってぇ~~!!!」
外野からは黄色い声が響いていた。
全校女子が集まっているのかと思うくらいの女子が、ナツを応援している。
試合は思った通り、ナツの優勢で進んだ。
テニスのことは授業でやったくらいのことしか知らないけれど、ナツがボールを打つ姿はすごく様になっていた。
男からみてもカッコいいと思う。
【ハク】
(じゃあ俺は……どうせだったらカッコよく負けようか)
試合の途中から、俺はそんなことを考えていた。
カッコいい負け方なんて、一体どんなんだかわからないけど……俺は必死にボールを追いかけていた。
受けて、返して――それを繰り返して。
【男子生徒3】
「試合終了――――!」
俺はいつの間にか必死になっていて、時間がたつのを忘れていた。
勝ちたいだなんて微塵も思わなかったから、点数だって気にしていなかった。
―――それなのに。
【生徒1】
「勝者は…………1年、ハク君です!」
【ハク】
「は………?」
【ハク】
(な…んだって……!?)
俺は審判役の生徒の言葉に、口をぽかんと開けてしまった。
見ると、大勢いた女子生徒も同じような顔をして驚いている。
【ハク】
「え…?おれ……」
【銀】
「――――良い試合だったよ、ハク君」
【ハク】
「え、あ…はい……ありがとうございました……」
【ハク】
(俺が、あの銀先輩に勝ったなんて―――――)
【銀】
「ハク君」
【ハク】
「は、はい?」
俺は、ナツに握手を求められて差し出した手を、グッと引っ張られた。
うわっ!と短く声を上げて、よろめく。
その瞬間、ナツが俺の耳元で囁いて…………そして、笑う。
思わず俺はドキン、としてしまった。
【銀】
「一生懸命な姿に心を打たれたよ……お前みたいな奴、初めてだ」
―――あれ以来、ナツは気軽に俺に話しかけてくるようになった。
そして俺は、ナツからハクと呼ばれるくらいになった。
【銀】
「ハク、ちょっといいか」
【ハク】
「ああ、うん」
思えばそれが、俺とナツとの始まりだった………。
続く…