[本編] 赤屋 竜次 編
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突然の大きな音に振り向くと、散らばったガラスが見える。
【黒木】
「チッ……面倒なことになったな……」
【ハク】
「んぁ……はぁ、は……げほ、」
黒木は乱暴に俺の口から自身を離した。
急な解放に、俺は酸素を求めて咳き込む。
黒木は気がそがれた様子で、でも素早く衣服を整えていた。
すっかり何もなかったかのようだ。
しかし俺の身体は拘束されたままで、どうにもならない。
裸のまま、身体を折り曲げてぜえぜえと息を吸い込む。
そして、部屋に押し入った人影……そこに入ってきたのは、リュウだった。
夢じゃないかと思った。
【赤屋】
「ハク!」
俺を見つけて、声をかけるリュウ。夢じゃないってことがわかって涙が出そうだった。
だが、俺に近づいたリュウのその顔が赤くなって歪む。
【ハク】
「あ……」
その反応を見て気が付いた。そうだ、俺は……。
身に着けていると言えるのはただ両手に嵌められた手錠のみで、それは天井の鎖に繋げられていてこの身体をを隠すこともできない。
おまけに口からだらしなくよだれを零し、たった今まで黒木に口で奉仕を続けていたのだ。
【赤屋】
「て、てめえ!」
リュウは部屋から出て行こうとする黒木に向き直ると、普段は撃たないはずの拳銃を取り出した。
【ハク】
「リュウ……」
俺の声は届かない。
リュウはそのままセイフティを押し込み、黒木に向けて引き金をひく。
パァンと乾いた音がして発射された銃弾は黒木の頬の皮一枚を掠り、壁に命中した。
黒木の頬から鮮血が飛び散る。
俺はそれを、映画でも見ているような感覚で見つめていた。
【黒木】
「とんだ邪魔がはいっちゃったなぁ」
黒木は未だ銃が向けられているというのに緩慢な仕草で親指で傷口をなぞり血を拭うと、舌なめずりしながら残念そうに呟く。
【黒木】
「ま、ハクの身体にはすっかり俺の「やり方」が沁み付いちゃってるけど」
【黒木】
「それじゃあしばらくお別れだ……またね、ハク」
チャリ……と何かが投げられる。
最後の言葉は俺に向けられていた。
茫然とする俺と、銃を向けたままのリュウを残して黒木は部屋の扉から立ち去った。
結局リュウは二度目の引き金をひくことはなく、銃を下ろす。
黒木が完全にいなくなったのを確認して、リュウが駆け寄ってくる。
【赤屋】
「ハク!助けに来たぞ」
出て行く間際に黒木が投げたものは、手錠の鍵だった。
リュウがそれを拾い、繋がれた俺の両手を自由にしてくれた。
【ハク】
「リュウ……」
あの日、リュウの家を飛び出した日。俺はあんなに酷いことを言ったのに、リュウはこんなにも優しい。
リュウが来てくれた嬉しさ……安堵……あの日の後悔……黒木にされたこと……いろんな感情が混ざって、不意に涙が零れる。
【ハク】
「リュウ……ぅっ……」
【赤屋】
「ハク……っ!?」
思わずリュウに縋りつくと、驚いた声を出しながらも抱き留めてくれた。
【赤屋】
「ハク、落ち着け。もう大丈夫だ……」
【赤屋】
「っ、……これ、羽織ってろ」
リュウは着ていたジャケットを俺の肩に掛け、宥めるように背中を二、三度撫でた後、周りに設置された大量のビデオカメラに目を向けた。
【赤屋】
「っ……」
【赤屋】
「こんなもの……!」
ガシャーン!
リュウはビデオカメラとモニターを音を立てて蹴り倒す。
その内のひとつをギリギリと靴で踏み潰しながらリュウは携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
【赤屋】
「ああ……俺だ…」
【赤屋】
「そうだ……いいぞ、やれ」
どこに電話しているのかはわからないが、リュウは今まで俺が見たことのないような冷たい表情をしていた。
リュウは、仕事中はいつもこの表情をしているのだろうか……。
【赤屋】
「……アイツのことはもう心配しなくていい」
通話を終え、俺に向き直った顔は、俺の知っている穏やかなリュウだった。
アイツとは、黒木のことだろうか。
内容はよくわからなかったが、とにかくこくんと頷けばリュウは俺の頭に手をおいて撫でてくれる。
あんなに焦がれた、リュウの暖かな手だった。
【赤屋】
「そろそろ行くぞ、ハク」
長期間の監禁のせいで歩くのさえままならない俺を、リュウは抱きかかえて車に乗せてくれた。
何をしても無駄だったあの場所から、こんなにも簡単に脱出できたことがなんだか不思議だった。
懐かしいリュウの車。
リュウの匂いがする。少しほっとすると同時に、俺はまた怖くなった。
がくがくと身体が震える。寒いわけじゃない、怖いんだ。
リュウはこんなどうしようもない俺のことを助けに来てくれた。
だが、こんなに汚れてしまった俺は、果たしてリュウに優しくされる資格があるのだろうか……。
【ハク】
「おれ……リュウに……」
【ハク】
「また、迷惑かけてばっかり……」
好きではないと言っていた拳銃も使わせてしまった。
絶望と動揺で、またポロポロ涙がこぼれる。
だめだ。止めなくちゃ……リュウを余計困らせてしまう。
【赤屋】
「ハク……」
【赤屋】
「もう、大丈夫だ」
リュウの両腕が俺を包み込む。
一度ギュッときつく抱き締められると、嘘みたいにぴたりと震えが止まった。
まるで、あたたかい何かで胸が満たされてくみたいだ。
【ハク】
「リュウ……?」
【赤屋】
「じゃあ、帰るぞ」
そう言って俺から離れてシートベルトを締めると、リュウは車を発進させた。
【ハク】
(帰るんだ……帰れるんだ、リュウの家に)
車の窓を見ると、流れていく景色。あの場所では見ることのできなかったものだ。
なぜだか、いろいろなことを思い出す。
リュウと再会したときのことや、もっとずっと前のことも……。
【ハク】
「リュウに助けられたのは……これで三度目だな」
しばしの沈黙の後、俺は自分から口を開いた。
【赤屋】
「……ああ」
【ハク】
「リュウ…覚えてる?俺が最初に助けてもらったときのこと…」
それは高校へ入学してすぐの、一年生の時の出来事だった。
俺は授業をサボって屋上で暖かい春の陽気の中、昼寝をしていた。
柄の悪い奴らばかりの高校で、サボりなんてめずらしくない。
俺はタバコを吸っていたわけでもないし、まだ学校に来ているだけマシなほうだった。
そこで俺は三人の上級生に絡まれることになる。
【二年生1】
「おい、テメー」
【二年生2】
「オイ、お前だよ」
【二年生3】
「お前一年か?誰に断ってここに来てんだ、ああ?」
俺の微睡みの邪魔をする騒々しい声だった。
【ハク】
「は?」
思わず寝起きの不機嫌さでそう返してしまう。
普段ならもう少し社交的な返事ができただろう。
渋々俺は寝転んでいた身体を起こす。
【黒木】
「チッ……面倒なことになったな……」
【ハク】
「んぁ……はぁ、は……げほ、」
黒木は乱暴に俺の口から自身を離した。
急な解放に、俺は酸素を求めて咳き込む。
黒木は気がそがれた様子で、でも素早く衣服を整えていた。
すっかり何もなかったかのようだ。
しかし俺の身体は拘束されたままで、どうにもならない。
裸のまま、身体を折り曲げてぜえぜえと息を吸い込む。
そして、部屋に押し入った人影……そこに入ってきたのは、リュウだった。
夢じゃないかと思った。
【赤屋】
「ハク!」
俺を見つけて、声をかけるリュウ。夢じゃないってことがわかって涙が出そうだった。
だが、俺に近づいたリュウのその顔が赤くなって歪む。
【ハク】
「あ……」
その反応を見て気が付いた。そうだ、俺は……。
身に着けていると言えるのはただ両手に嵌められた手錠のみで、それは天井の鎖に繋げられていてこの身体をを隠すこともできない。
おまけに口からだらしなくよだれを零し、たった今まで黒木に口で奉仕を続けていたのだ。
【赤屋】
「て、てめえ!」
リュウは部屋から出て行こうとする黒木に向き直ると、普段は撃たないはずの拳銃を取り出した。
【ハク】
「リュウ……」
俺の声は届かない。
リュウはそのままセイフティを押し込み、黒木に向けて引き金をひく。
パァンと乾いた音がして発射された銃弾は黒木の頬の皮一枚を掠り、壁に命中した。
黒木の頬から鮮血が飛び散る。
俺はそれを、映画でも見ているような感覚で見つめていた。
【黒木】
「とんだ邪魔がはいっちゃったなぁ」
黒木は未だ銃が向けられているというのに緩慢な仕草で親指で傷口をなぞり血を拭うと、舌なめずりしながら残念そうに呟く。
【黒木】
「ま、ハクの身体にはすっかり俺の「やり方」が沁み付いちゃってるけど」
【黒木】
「それじゃあしばらくお別れだ……またね、ハク」
チャリ……と何かが投げられる。
最後の言葉は俺に向けられていた。
茫然とする俺と、銃を向けたままのリュウを残して黒木は部屋の扉から立ち去った。
結局リュウは二度目の引き金をひくことはなく、銃を下ろす。
黒木が完全にいなくなったのを確認して、リュウが駆け寄ってくる。
【赤屋】
「ハク!助けに来たぞ」
出て行く間際に黒木が投げたものは、手錠の鍵だった。
リュウがそれを拾い、繋がれた俺の両手を自由にしてくれた。
【ハク】
「リュウ……」
あの日、リュウの家を飛び出した日。俺はあんなに酷いことを言ったのに、リュウはこんなにも優しい。
リュウが来てくれた嬉しさ……安堵……あの日の後悔……黒木にされたこと……いろんな感情が混ざって、不意に涙が零れる。
【ハク】
「リュウ……ぅっ……」
【赤屋】
「ハク……っ!?」
思わずリュウに縋りつくと、驚いた声を出しながらも抱き留めてくれた。
【赤屋】
「ハク、落ち着け。もう大丈夫だ……」
【赤屋】
「っ、……これ、羽織ってろ」
リュウは着ていたジャケットを俺の肩に掛け、宥めるように背中を二、三度撫でた後、周りに設置された大量のビデオカメラに目を向けた。
【赤屋】
「っ……」
【赤屋】
「こんなもの……!」
ガシャーン!
リュウはビデオカメラとモニターを音を立てて蹴り倒す。
その内のひとつをギリギリと靴で踏み潰しながらリュウは携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
【赤屋】
「ああ……俺だ…」
【赤屋】
「そうだ……いいぞ、やれ」
どこに電話しているのかはわからないが、リュウは今まで俺が見たことのないような冷たい表情をしていた。
リュウは、仕事中はいつもこの表情をしているのだろうか……。
【赤屋】
「……アイツのことはもう心配しなくていい」
通話を終え、俺に向き直った顔は、俺の知っている穏やかなリュウだった。
アイツとは、黒木のことだろうか。
内容はよくわからなかったが、とにかくこくんと頷けばリュウは俺の頭に手をおいて撫でてくれる。
あんなに焦がれた、リュウの暖かな手だった。
【赤屋】
「そろそろ行くぞ、ハク」
長期間の監禁のせいで歩くのさえままならない俺を、リュウは抱きかかえて車に乗せてくれた。
何をしても無駄だったあの場所から、こんなにも簡単に脱出できたことがなんだか不思議だった。
懐かしいリュウの車。
リュウの匂いがする。少しほっとすると同時に、俺はまた怖くなった。
がくがくと身体が震える。寒いわけじゃない、怖いんだ。
リュウはこんなどうしようもない俺のことを助けに来てくれた。
だが、こんなに汚れてしまった俺は、果たしてリュウに優しくされる資格があるのだろうか……。
【ハク】
「おれ……リュウに……」
【ハク】
「また、迷惑かけてばっかり……」
好きではないと言っていた拳銃も使わせてしまった。
絶望と動揺で、またポロポロ涙がこぼれる。
だめだ。止めなくちゃ……リュウを余計困らせてしまう。
【赤屋】
「ハク……」
【赤屋】
「もう、大丈夫だ」
リュウの両腕が俺を包み込む。
一度ギュッときつく抱き締められると、嘘みたいにぴたりと震えが止まった。
まるで、あたたかい何かで胸が満たされてくみたいだ。
【ハク】
「リュウ……?」
【赤屋】
「じゃあ、帰るぞ」
そう言って俺から離れてシートベルトを締めると、リュウは車を発進させた。
【ハク】
(帰るんだ……帰れるんだ、リュウの家に)
車の窓を見ると、流れていく景色。あの場所では見ることのできなかったものだ。
なぜだか、いろいろなことを思い出す。
リュウと再会したときのことや、もっとずっと前のことも……。
【ハク】
「リュウに助けられたのは……これで三度目だな」
しばしの沈黙の後、俺は自分から口を開いた。
【赤屋】
「……ああ」
【ハク】
「リュウ…覚えてる?俺が最初に助けてもらったときのこと…」
それは高校へ入学してすぐの、一年生の時の出来事だった。
俺は授業をサボって屋上で暖かい春の陽気の中、昼寝をしていた。
柄の悪い奴らばかりの高校で、サボりなんてめずらしくない。
俺はタバコを吸っていたわけでもないし、まだ学校に来ているだけマシなほうだった。
そこで俺は三人の上級生に絡まれることになる。
【二年生1】
「おい、テメー」
【二年生2】
「オイ、お前だよ」
【二年生3】
「お前一年か?誰に断ってここに来てんだ、ああ?」
俺の微睡みの邪魔をする騒々しい声だった。
【ハク】
「は?」
思わず寝起きの不機嫌さでそう返してしまう。
普段ならもう少し社交的な返事ができただろう。
渋々俺は寝転んでいた身体を起こす。