[本編] 緑川 彰一 編
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【ハク】
(今の緑川さんが王子様みたいな振る舞いは、その頃に学んだ礼儀の賜物なんだ)
傍から見ててもわかる緑川さんの麗しい所作は、一朝一夕で作られたものではない。
【緑川】
「学校もね、そういう子たちが集まるところに入れられたんだけど」
【緑川】
「それでも俺とみんなは違ってた」
【緑川】
「徹底的に緑川家の御曹司として教育された俺と、普通のみんな」
【緑川】
「寄り道なんかも厳禁だったよ。緑川家に恥じることをするな、ってね」
【緑川】
「……ま、そもそも友達と遊んでる時間もなかったんだけどね」
【緑川】
「ピアノにヴァイオリン、塾に家庭教師……ずっと親に縛られて」
【緑川】
「話し方も考え方も、時間の使い方も、24時間ずっと緑川家の御曹司でいることを強いられてた」
子ども時代の緑川さんに一切の自由がなかったことをうかがわせる。
【ハク】
「そう、だったんですか……」
【緑川】
「信じられないだろう?」
【ハク】
「そうですね……俺は本当に、普通の家で育ってきたので……」
【緑川】
「……非行に走る暇もなかったよ。良い子でいることに慣れて、良い子の仮面を被り続けて」
【緑川】
「……それで、大学も卒業して、緑川グループの関連会社に就職が決まって」
【緑川】
「おいおい会社を継ぐことも決まってて……あぁ、俺の人生、ずっとこうなんだなって思ったら」
【緑川】
「……壊れたんだ」
【ハク】
「!」
簡単な、緑川さんの言葉。
けれどその一言にどれだけの葛藤があって、緑川さんがどれだけつらかったのかが込められていた。
【緑川】
「大学の卒業式の後さ、……俺はもう人生のレールから外れることさえ許されないんだって思ったら」
【緑川】
「逃げてた。お金も荷物も何もなしに、身体ひとつで」
【ハク】
「逃げたって……」
【緑川】
「実家は音信不通になってすぐ、捜索願を出してきた」
【緑川】
「……俺はもう緑川の家には帰らない、捜索願を取り消してくれ」
【緑川】
「それだけ父親に電話して……それっきり」
【緑川】
「勘当状態だったよ。大事に育てた息子が何やってんだって」
【緑川】
「でも……それは俺じゃなくてもよかったんだよ」
【緑川】
「緑川家の長男なら、誰でも型にはめられて、同じように育てられたんだからさ」
【ハク】
「……!」
【ハク】
(壮絶な人生……)
庶民の俺からは想像もつかない。
【緑川】
「逃げついた先でこの店のオーナーに拾われてさ」
【緑川】
「皮肉だよね、あんなボロボロな状態でも、所作がまるで『王子様』だなんて言われてさ」
【緑川】
「あの厳しいしつけもこうやって役に立つなら悪くないって……ホストになった」
【緑川】
「俺の意思で笑って暮らせるって……すごく幸せだったよ」
【緑川】
「……緑川の家から逃げたのは、今でも後悔してるけど」
【ハク】
「後悔、してるんですか?」
【緑川】
「俺は自由になった、でもそれだけだろう?」
緑川さんは自嘲的な笑みを浮かべる。
【緑川】
「俺が勝手に苦しんだだけ。緑川の家でやっていけなかったのは、全部俺のせい」
【緑川】
「だって周りはちゃんとやれてるしね」
【緑川】
「……こんな、何一つ不自由ない暮らしをさせてもらったのに逃げ出すような最低の息子が」
【緑川】
「夜の街で働いてるなんて……ただでさえ親の顔汚してるのに、これ以上迷惑かけられない」
【ハク】
「最低なんて……そんなことないです!」
【緑川】
「最低だよ。……少なくとも、緑川の家では最低だった」
【緑川】
「でも感謝してる。……たとえどんな状況でも笑顔でいられるしつけをしてくれた、緑川の家には」
【ハク】
「緑川さん……!」
同じ日本で起きたことだとは思えない。
まるで遠く離れた国の王子様みたいな苦しみ。
それを緑川さんは味わってきたんだ……。
【ハク】
(でも……そんな思いをしても……)
緑川さんは実家に傷をつけないように、法外な強請りに応じたりしている。
【ハク】
(良い息子だと思うのに、最低な息子だって……)
緑川の家にいるのが苦しくて逃げ出した緑川さん。
でも……いま、その家のために苦しんでいる。
【ハク】
「そんなの……緑川さんがつらいだけじゃないですか……おかしいです!」
【緑川】
「おかしくないよ」
【緑川】
「全部、愚かで弱い俺がダメだっただけだよ」
愚かで弱い……緑川さんには似つかわしくない言葉だ。
【ハク】
(でも……だから)
俺も和久井さんや桃島さんの態度から察していた。
別にうちの店はホストが足りてないなんて状況じゃない。
寮だっていっぱいだし、人気店だからやっていけているけれど、ホストは余っているぐらいだ。
【ハク】
(それで俺に優しくしてくれたんだ……)
家がなくなった俺を放っておけなかったんだろうなと推測する。
どこまでも優しい『王子様』の緑川さんは、家も職も失った可哀そうな俺を放っておくなんてできない。
不可抗力とはいえ、同じくすべてを失った俺に、逃げ出した日の自分自身を重ねたのかもしれない。
【ハク】
(逃げても……まだ縛られてるんだ……)
そんな緑川さんのことを思うと、胸が苦しくなる。
緑川さんは自由になっていい人なのに。
この世に、そんな風に縛られて生きるべき人なんていないのに。
【ハク】
(だから……うなされてたんだ……)
寝言でも謝っていた。
あれは……幼いころのしつけの記憶だろう。
【緑川】
「……可哀そうなんて思わないでほしいんだ、ユキ」
【ハク】
「どうしてですか?」
【緑川】
「幸せっていうのは、何かと引き換えになるべきなんだよ」
(今の緑川さんが王子様みたいな振る舞いは、その頃に学んだ礼儀の賜物なんだ)
傍から見ててもわかる緑川さんの麗しい所作は、一朝一夕で作られたものではない。
【緑川】
「学校もね、そういう子たちが集まるところに入れられたんだけど」
【緑川】
「それでも俺とみんなは違ってた」
【緑川】
「徹底的に緑川家の御曹司として教育された俺と、普通のみんな」
【緑川】
「寄り道なんかも厳禁だったよ。緑川家に恥じることをするな、ってね」
【緑川】
「……ま、そもそも友達と遊んでる時間もなかったんだけどね」
【緑川】
「ピアノにヴァイオリン、塾に家庭教師……ずっと親に縛られて」
【緑川】
「話し方も考え方も、時間の使い方も、24時間ずっと緑川家の御曹司でいることを強いられてた」
子ども時代の緑川さんに一切の自由がなかったことをうかがわせる。
【ハク】
「そう、だったんですか……」
【緑川】
「信じられないだろう?」
【ハク】
「そうですね……俺は本当に、普通の家で育ってきたので……」
【緑川】
「……非行に走る暇もなかったよ。良い子でいることに慣れて、良い子の仮面を被り続けて」
【緑川】
「……それで、大学も卒業して、緑川グループの関連会社に就職が決まって」
【緑川】
「おいおい会社を継ぐことも決まってて……あぁ、俺の人生、ずっとこうなんだなって思ったら」
【緑川】
「……壊れたんだ」
【ハク】
「!」
簡単な、緑川さんの言葉。
けれどその一言にどれだけの葛藤があって、緑川さんがどれだけつらかったのかが込められていた。
【緑川】
「大学の卒業式の後さ、……俺はもう人生のレールから外れることさえ許されないんだって思ったら」
【緑川】
「逃げてた。お金も荷物も何もなしに、身体ひとつで」
【ハク】
「逃げたって……」
【緑川】
「実家は音信不通になってすぐ、捜索願を出してきた」
【緑川】
「……俺はもう緑川の家には帰らない、捜索願を取り消してくれ」
【緑川】
「それだけ父親に電話して……それっきり」
【緑川】
「勘当状態だったよ。大事に育てた息子が何やってんだって」
【緑川】
「でも……それは俺じゃなくてもよかったんだよ」
【緑川】
「緑川家の長男なら、誰でも型にはめられて、同じように育てられたんだからさ」
【ハク】
「……!」
【ハク】
(壮絶な人生……)
庶民の俺からは想像もつかない。
【緑川】
「逃げついた先でこの店のオーナーに拾われてさ」
【緑川】
「皮肉だよね、あんなボロボロな状態でも、所作がまるで『王子様』だなんて言われてさ」
【緑川】
「あの厳しいしつけもこうやって役に立つなら悪くないって……ホストになった」
【緑川】
「俺の意思で笑って暮らせるって……すごく幸せだったよ」
【緑川】
「……緑川の家から逃げたのは、今でも後悔してるけど」
【ハク】
「後悔、してるんですか?」
【緑川】
「俺は自由になった、でもそれだけだろう?」
緑川さんは自嘲的な笑みを浮かべる。
【緑川】
「俺が勝手に苦しんだだけ。緑川の家でやっていけなかったのは、全部俺のせい」
【緑川】
「だって周りはちゃんとやれてるしね」
【緑川】
「……こんな、何一つ不自由ない暮らしをさせてもらったのに逃げ出すような最低の息子が」
【緑川】
「夜の街で働いてるなんて……ただでさえ親の顔汚してるのに、これ以上迷惑かけられない」
【ハク】
「最低なんて……そんなことないです!」
【緑川】
「最低だよ。……少なくとも、緑川の家では最低だった」
【緑川】
「でも感謝してる。……たとえどんな状況でも笑顔でいられるしつけをしてくれた、緑川の家には」
【ハク】
「緑川さん……!」
同じ日本で起きたことだとは思えない。
まるで遠く離れた国の王子様みたいな苦しみ。
それを緑川さんは味わってきたんだ……。
【ハク】
(でも……そんな思いをしても……)
緑川さんは実家に傷をつけないように、法外な強請りに応じたりしている。
【ハク】
(良い息子だと思うのに、最低な息子だって……)
緑川の家にいるのが苦しくて逃げ出した緑川さん。
でも……いま、その家のために苦しんでいる。
【ハク】
「そんなの……緑川さんがつらいだけじゃないですか……おかしいです!」
【緑川】
「おかしくないよ」
【緑川】
「全部、愚かで弱い俺がダメだっただけだよ」
愚かで弱い……緑川さんには似つかわしくない言葉だ。
【ハク】
(でも……だから)
俺も和久井さんや桃島さんの態度から察していた。
別にうちの店はホストが足りてないなんて状況じゃない。
寮だっていっぱいだし、人気店だからやっていけているけれど、ホストは余っているぐらいだ。
【ハク】
(それで俺に優しくしてくれたんだ……)
家がなくなった俺を放っておけなかったんだろうなと推測する。
どこまでも優しい『王子様』の緑川さんは、家も職も失った可哀そうな俺を放っておくなんてできない。
不可抗力とはいえ、同じくすべてを失った俺に、逃げ出した日の自分自身を重ねたのかもしれない。
【ハク】
(逃げても……まだ縛られてるんだ……)
そんな緑川さんのことを思うと、胸が苦しくなる。
緑川さんは自由になっていい人なのに。
この世に、そんな風に縛られて生きるべき人なんていないのに。
【ハク】
(だから……うなされてたんだ……)
寝言でも謝っていた。
あれは……幼いころのしつけの記憶だろう。
【緑川】
「……可哀そうなんて思わないでほしいんだ、ユキ」
【ハク】
「どうしてですか?」
【緑川】
「幸せっていうのは、何かと引き換えになるべきなんだよ」
