[本編] 藍建 仁 編
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【ハク】
(ここか……)
先ほど藍建さんに見せられた証拠写真を掴み、俺が向かった先はナツの家だった。
見上げれば、燃えてしまった俺のアパートとは大違いの、立派なタワーマンションだ。
……俺が帰宅すると藍建さんが待っていて、この写真を見せてくれた。
ナツと、前の会社で俺の上司だった男が密会している写真だ。
そして俺の不当解雇にナツが関わっていることも知ることになる。
【ハク】
「…………」
一呼吸置いてエントランスのインターフォンを使うと、応答したのはナツ本人だった。
【銀】
「はい」
【ハク】
「ナツ、俺だけど……」
【銀】
「ハクか。めずらしいな。どうした?」
【銀】
「……いいぞ、入れ。話は中で聞いてやる」
あっさりとセキュリティが外され、エントランスの自動ドアが開く。
エレベーターに乗ってナツの住む部屋まで行くと、玄関でナツが出迎えた。
【銀】
「よく来たな」
社長室での一件の時とは違い、どちらかと言えばナツの表情は柔らかい。
自宅だからリラックスしているのだろうか。
【銀】
「まぁ、そこに座れ。茶を淹れてくる」
【ハク】
「うん……」
玄関を抜け、リビングに通される。
ナツに言われるままにソファに腰掛けた。
俺はすぐにでも話をしたかったが、思ったよりも穏やかな対応にペースを崩されてしまう。
【ハク】
(ここに来るのは初めてだな……)
見回してみた銀の部屋は広くてきれいだが、どこか生活感に欠けている印象だった。
そうしているとナツは先ほど言ったとおり、すぐにカップを持ってやって来る。
【銀】
「ほら、飲むと良い」
【ハク】
「いただきます……」
とりあえずは一息つこうと、ローテーブルに置かれたカップを手に取る。
ナツはその様子を、手を組んで眺めていた。
【ハク】
「うっ……!?」
俺に異変が起きたのは、一口目を嚥下した瞬間だった。
ガクッと体がソファに崩れ落ちる。
【ハク】
(なんだ……これ、力が入らない……)
それどころか、頭の中に靄がかかるように意識が遠のいてゆく。
薄暗く霞む視界の中……それでもナツがこちらに近づいてくるのはわかった。
【ハク】
「くっ……」
はっきりしない意識で、せめてもの抵抗とナツを睨みつける。
だがナツは俺の顎をすくい上げ、にやりと笑った。
【銀】
「ここまで来るのに、計画よりも随分と時間がかかったな」
【銀】
「全く……最初からオレを頼ればよかったものを」
【ハク】
(ナツは、何を言っているんだ……?)
だんだんと目蓋までもが重くなり、ナツを睨みつけることさえできなくなる。
ずるずると倒れ込む俺の体を抱きかかえながら、ナツはしゃべり続けた。
【銀】
「まず会社でのお前の居場所を失くし、解雇させ、そして家まで奪ったのに……」
【銀】
「それでもお前はオレを必要としなかった」
朦朧とした意識の中、ナツの声だけが響いていた。
既に頭が上手く働かず、言葉の意味が今はもうよく理解できない。
【銀】
「いくら俺でも、お前が藍建の家に行くことは予想できなかったよ」
【銀】
「でも今日、お前は俺の所へと飛び込んできた……」
ナツの手は俺の体を撫でまわす。既に俺の体は自由を失っている。
不快な感覚はあるが、嫌だ、やめろと言葉にするのも億劫だ。
【銀】
「俺は、やっとお前を手に入れたんだ」
【銀】
「ハク、お前はこれから俺だけのものだ……」
ナツが何事かを呟き続ける間、俺の心の中はただ一つの思いでいっぱいだった。
【ハク】
(助けて…藍建さん)
意識を手放す寸前、心の中で藍建さんに助けを求めたのは、きっと無意識だったんだろう。
そして俺の意識は闇に包まれた……。
【ハク】
「…………」
【ハク】
「ん……?」
次に目を覚ました時、俺は先ほど倒れたリビングとは違う部屋にいた。
どうやらベッドに寝かされているらしい。
……藍建さんから、俺が解雇された件にナツが絡んでいると聞かされた時、
俺は我慢できずにその証拠写真を持ってナツの家にやってきた。
そして話を切り出そうとしたとき、ナツからもらったお茶を飲んで昏倒してしまったのだ。
今思えば、そのお茶に何か入っていたのだろう。
だが俺は、ただ気を失っただけではなかった……。
【ハク】
(なんだよ、これ……)
いつのまにか俺の両腕と両足はきつく縛られていて、おまけに口には猿轡を噛まされており身動きが取れない。
ここまでされて一切気が付かないなんて、一体どれくらい気を失っていたと言うのだろう。
【ハク】
(何のためにこんな……)
【ハク】
(そういえば、意識を失う前にナツが何か言っていたような……)
お茶を口にした瞬間、体中の力が抜けて意識も遠のいた。ナツが何か呟いていたのはそのときだ。
なんとかナツの言葉を思い出そうとしていると、俺は隣の部屋から何やら言い争う声が聞こえることに気付いた。
壁の向こうにいるのは、どうやらナツだけではない。
【ハク】
(ナツ以外にも誰かいるのか……!?)
とにかく俺は耳を澄ませ、その声を聞きとることに集中した。
ナツの部屋のベッドルーム……両手足を縛られた状態で目を覚ました俺は、隣の部屋から聞こえてくる会話に耳をそばだてる。
【銀】
「だから、もうお前には十分すぎる報酬をやったはずだ」
【黒木】
「まだわからないの?……俺が欲しいのは金なんかじゃないんだよ」
【銀】
「ほう……これ以上、何を望む……?」
聞こえてくる声はナツの他にもう一人……二人の男の会話だ。
【ハク】
(ナツに協力者がいたって言うことか……?)
ナツが俺の解雇の件に関わっていることが明らかになり、その話を聞くために俺はナツの家までやってきた。
だが逆に飲み物に一服盛られ、今まで昏倒していたのだった……。
……話を聞く限り、ナツとその協力者らしい男性は仲違いを起こしかけているらしい。
【黒木】
「俺が欲しいもの、それは……」
【黒木】
「……ハク……ハク」
【銀】
「なんだと……!?黒木、お前……」
【ハク】
(……!?)
【ハク】
(「黒木」だって……?)
その黒木と言う名前を、俺は知っていた。
そういえば、俺のことをハクと呼ぶその声音にも聞き覚えがある。
今ナツと隣の部屋にいるのは、きっと俺の高校時代のクラスメイトである黒木忠生だ。
俺のショックをよそに、会話は続いてゆく。
【黒木】
「銀がハクの上司に賄賂を贈ってハクを解雇させたこと、俺が知らないとでも思ってた?」
(ここか……)
先ほど藍建さんに見せられた証拠写真を掴み、俺が向かった先はナツの家だった。
見上げれば、燃えてしまった俺のアパートとは大違いの、立派なタワーマンションだ。
……俺が帰宅すると藍建さんが待っていて、この写真を見せてくれた。
ナツと、前の会社で俺の上司だった男が密会している写真だ。
そして俺の不当解雇にナツが関わっていることも知ることになる。
【ハク】
「…………」
一呼吸置いてエントランスのインターフォンを使うと、応答したのはナツ本人だった。
【銀】
「はい」
【ハク】
「ナツ、俺だけど……」
【銀】
「ハクか。めずらしいな。どうした?」
【銀】
「……いいぞ、入れ。話は中で聞いてやる」
あっさりとセキュリティが外され、エントランスの自動ドアが開く。
エレベーターに乗ってナツの住む部屋まで行くと、玄関でナツが出迎えた。
【銀】
「よく来たな」
社長室での一件の時とは違い、どちらかと言えばナツの表情は柔らかい。
自宅だからリラックスしているのだろうか。
【銀】
「まぁ、そこに座れ。茶を淹れてくる」
【ハク】
「うん……」
玄関を抜け、リビングに通される。
ナツに言われるままにソファに腰掛けた。
俺はすぐにでも話をしたかったが、思ったよりも穏やかな対応にペースを崩されてしまう。
【ハク】
(ここに来るのは初めてだな……)
見回してみた銀の部屋は広くてきれいだが、どこか生活感に欠けている印象だった。
そうしているとナツは先ほど言ったとおり、すぐにカップを持ってやって来る。
【銀】
「ほら、飲むと良い」
【ハク】
「いただきます……」
とりあえずは一息つこうと、ローテーブルに置かれたカップを手に取る。
ナツはその様子を、手を組んで眺めていた。
【ハク】
「うっ……!?」
俺に異変が起きたのは、一口目を嚥下した瞬間だった。
ガクッと体がソファに崩れ落ちる。
【ハク】
(なんだ……これ、力が入らない……)
それどころか、頭の中に靄がかかるように意識が遠のいてゆく。
薄暗く霞む視界の中……それでもナツがこちらに近づいてくるのはわかった。
【ハク】
「くっ……」
はっきりしない意識で、せめてもの抵抗とナツを睨みつける。
だがナツは俺の顎をすくい上げ、にやりと笑った。
【銀】
「ここまで来るのに、計画よりも随分と時間がかかったな」
【銀】
「全く……最初からオレを頼ればよかったものを」
【ハク】
(ナツは、何を言っているんだ……?)
だんだんと目蓋までもが重くなり、ナツを睨みつけることさえできなくなる。
ずるずると倒れ込む俺の体を抱きかかえながら、ナツはしゃべり続けた。
【銀】
「まず会社でのお前の居場所を失くし、解雇させ、そして家まで奪ったのに……」
【銀】
「それでもお前はオレを必要としなかった」
朦朧とした意識の中、ナツの声だけが響いていた。
既に頭が上手く働かず、言葉の意味が今はもうよく理解できない。
【銀】
「いくら俺でも、お前が藍建の家に行くことは予想できなかったよ」
【銀】
「でも今日、お前は俺の所へと飛び込んできた……」
ナツの手は俺の体を撫でまわす。既に俺の体は自由を失っている。
不快な感覚はあるが、嫌だ、やめろと言葉にするのも億劫だ。
【銀】
「俺は、やっとお前を手に入れたんだ」
【銀】
「ハク、お前はこれから俺だけのものだ……」
ナツが何事かを呟き続ける間、俺の心の中はただ一つの思いでいっぱいだった。
【ハク】
(助けて…藍建さん)
意識を手放す寸前、心の中で藍建さんに助けを求めたのは、きっと無意識だったんだろう。
そして俺の意識は闇に包まれた……。
【ハク】
「…………」
【ハク】
「ん……?」
次に目を覚ました時、俺は先ほど倒れたリビングとは違う部屋にいた。
どうやらベッドに寝かされているらしい。
……藍建さんから、俺が解雇された件にナツが絡んでいると聞かされた時、
俺は我慢できずにその証拠写真を持ってナツの家にやってきた。
そして話を切り出そうとしたとき、ナツからもらったお茶を飲んで昏倒してしまったのだ。
今思えば、そのお茶に何か入っていたのだろう。
だが俺は、ただ気を失っただけではなかった……。
【ハク】
(なんだよ、これ……)
いつのまにか俺の両腕と両足はきつく縛られていて、おまけに口には猿轡を噛まされており身動きが取れない。
ここまでされて一切気が付かないなんて、一体どれくらい気を失っていたと言うのだろう。
【ハク】
(何のためにこんな……)
【ハク】
(そういえば、意識を失う前にナツが何か言っていたような……)
お茶を口にした瞬間、体中の力が抜けて意識も遠のいた。ナツが何か呟いていたのはそのときだ。
なんとかナツの言葉を思い出そうとしていると、俺は隣の部屋から何やら言い争う声が聞こえることに気付いた。
壁の向こうにいるのは、どうやらナツだけではない。
【ハク】
(ナツ以外にも誰かいるのか……!?)
とにかく俺は耳を澄ませ、その声を聞きとることに集中した。
ナツの部屋のベッドルーム……両手足を縛られた状態で目を覚ました俺は、隣の部屋から聞こえてくる会話に耳をそばだてる。
【銀】
「だから、もうお前には十分すぎる報酬をやったはずだ」
【黒木】
「まだわからないの?……俺が欲しいのは金なんかじゃないんだよ」
【銀】
「ほう……これ以上、何を望む……?」
聞こえてくる声はナツの他にもう一人……二人の男の会話だ。
【ハク】
(ナツに協力者がいたって言うことか……?)
ナツが俺の解雇の件に関わっていることが明らかになり、その話を聞くために俺はナツの家までやってきた。
だが逆に飲み物に一服盛られ、今まで昏倒していたのだった……。
……話を聞く限り、ナツとその協力者らしい男性は仲違いを起こしかけているらしい。
【黒木】
「俺が欲しいもの、それは……」
【黒木】
「……ハク……ハク」
【銀】
「なんだと……!?黒木、お前……」
【ハク】
(……!?)
【ハク】
(「黒木」だって……?)
その黒木と言う名前を、俺は知っていた。
そういえば、俺のことをハクと呼ぶその声音にも聞き覚えがある。
今ナツと隣の部屋にいるのは、きっと俺の高校時代のクラスメイトである黒木忠生だ。
俺のショックをよそに、会話は続いてゆく。
【黒木】
「銀がハクの上司に賄賂を贈ってハクを解雇させたこと、俺が知らないとでも思ってた?」