[本編] 藍建 仁 編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【ハク】
「藍建さん、今日会社に来てましたよね」
【藍建】
「まさか……キミ、見て……」
【ハク】
「偶然、会議室で打ち合わせだったんです」
【ハク】
「会議が終わると二人の姿が見えて、それで……」
【ハク】
「すいません、二人の会話を聞いてしまったんです」
そう告げると、藍建さんは諦めたように溜め息を吐いた。
【藍建】
「そっか……俺と銀の関係を知ってしまったのか」
俺はそれを聞いて…素直に謝った。
【ハク】
「ごめんなさい……」
すると藍建さんは、静かに口を開く。
【藍建】
「いや、いいんだ」
【藍建】
「ずっと隠しておくわけにも行かないし」
【藍建】
「そうだ。せっかくだから、聞いてもらっていいかい?」
【ハク】
「藍建さんが良いなら、聞きたい、です……」
【藍建】
「……わかった」
そして、藍建さんは彼自身の過去のことを語り始めた。
【藍建】
「あれは今から2年前のことだった…」
……そのとき俺は、連続詐欺事件を起こした犯人の居場所を突き止めたところだった。
だが、どうにかそいつを追い詰め、ついに逮捕というその時にそいつは諦め悪く逃走を図る。
ヤツを追って走ると、いつのまにか汚い路地裏だった。
【藍建】
「そこにいるのはわかってるんだ!」
【藍建】
「……すぐに応援もやって来る。観念して出てこい!」
やっとのことで路地裏まで再び追い詰め、細く狭い路地の向こうにいるはずの犯人に聞こえるように怒鳴る。
だが、犯人の男はなかなか出てこなかった。
【藍建】
「……おい、いい加減に」
【藍建】
「……!?」
そのとき、カンカンカンと金属の床を足で叩く音がする。
音のする方向に目を向ければ、ちょうど犯人が雑居ビルの外階段を上る音だった。
【藍建】
「くっ……無駄なことを!」
すぐに俺もその後を追って階段を上る。
犯人は階段を駆け上り、屋上まで一直線だ。
【藍建】
(まぁ良い、どうせ逃げ場はないさ……)
俺が雑居ビルの屋上に辿り着いた時、ヤツは既にフェンス際に立っていた。
【藍建】
「どうする。もう逃げ場はないぞ!」
それほど広くもない屋上だ。俺は犯人に向かってジリジリと距離を詰めた。
だが犯人まであと数メートル……と言う時、手すりに手を置いてヤツが喚く。
【犯人】
「来るな!……それ以上近づいたら、飛び降りて死ぬ」
【藍建】
「何を言ってる。バカなことは止せ」
ビルの屋上を囲むフェンスは低く、大人の腰あたりまでの高さしかない。
おまけにろくに手入れもされていないらしく、ところどころ錆びているのが見て取れた。
このままでは、飛び降りる前にフェンスが崩れて落ちてしまう可能性もある。
【藍建】
「良いか、フェンスから手を離せ。そうして、ゆっくりと床に手を付け」
言いながら少しずつ、少しずつ奴との距離を縮めてゆく。
だが、ヤツがオレに従うことはなかった。
【藍建】
「……っ」
だがそんなことは関係ない。確実に距離は近づいてゆく。
あと5メートル……あと3メートル……。
間近に迫り、体でヤツを止めようとしたそのときだった。
【藍建】
「おい、よせ、止めろ!!」
【犯人】
「へっ、テメーに掴まるくらいなら死んだ方がマシだぜ」
ヤツはひらりと体をかわし、空へと躍り出た。
どうにか捕まえようとした俺の腕は空を切る。
【藍建】
「なっ……」
フェンスの下を見ると、落ちて行くヤツの姿。
その唇が、ニヤリと弧を描いているように見えた。
【藍建】
「なんてこった……」
ずるずると屋上の床に座り込み、俺は途方に暮れる。
遠くでサイレンの音が聞こえてきた。たぶん、俺が呼んだ応援のパトカーだろう。
【藍建】
(上になんて報告すりゃいいんだ……)
【藍建】
(いや、それよりも……)
死体なら仕事柄、今までも見る機会はあった。
もっと酷い死体の写真も見たことがある。
だが、目の前で犯人が死んだのは初めてだ。
俺は情けないことに、初めて目にする死の瞬間と言うものにひどく取り乱していた。
【藍建】
「それ以来、ビルの屋上ってものがダメになっちまってね」
【藍建】
「下が見えると、どうしても足がすくんでしまうんだ」
藍建さんは自嘲するように少し笑いながら言う。
今まで大した事件に直面することもなく生きてきた俺には、想像を絶する話だ。
【ハク】
「そんな……ことが……」
軽々しく聞きたいなんて言ってはいけなかったのかもしれない。
どんな言葉をかけて良いのかわからない俺に、藍建さんは言葉を重ねる。
【藍建】
「……まぁ、これは前置きだ」
【藍建】
「俺と銀が出会った時のこと、話してもいいかな」
【ハク】
「はい……」
……それまでのオレは、自分で言うのもなんだが順風満帆な人生を歩んでいた。
警視庁のいわゆるエリートコースをまっすぐ歩んでいたし、
学生時代から恋愛に不自由したこともなかった。
だが、ただ一度の失敗でその立場を失うことになった。
連続詐欺事件の犯人を単独で追い詰めたところまでは良かった。
だが、あと一歩で逮捕というところで犯人は一瞬の隙をついて逃走……。
再度追い詰めた雑居ビルの屋上で、「お前に掴まるくらいなら死ぬ」
と言い残して犯人は飛び降り自殺をしてしまった。
署に戻ったオレはもちろん上司にこっぴどく叱られたが、それだけでは済まなかった。
謹慎明けのオレに言い渡されたのは、本部のエリートから所轄のヒラまで落とされると言う降格人事だった。
それからと言うもの、自棄になったオレは酒におぼれる日々を送った。
当時付き合っていた恋人に当たり散らすこともあり、当然とも言えるが恋人もオレから離れて行った。
絵に描いたような転落人生。
オレはもはや、人生というものすべてに対してやる気がなくなりかけていた。
そして、そんなオレの前に現れたのが銀だった……。
続く…
「藍建さん、今日会社に来てましたよね」
【藍建】
「まさか……キミ、見て……」
【ハク】
「偶然、会議室で打ち合わせだったんです」
【ハク】
「会議が終わると二人の姿が見えて、それで……」
【ハク】
「すいません、二人の会話を聞いてしまったんです」
そう告げると、藍建さんは諦めたように溜め息を吐いた。
【藍建】
「そっか……俺と銀の関係を知ってしまったのか」
俺はそれを聞いて…素直に謝った。
【ハク】
「ごめんなさい……」
すると藍建さんは、静かに口を開く。
【藍建】
「いや、いいんだ」
【藍建】
「ずっと隠しておくわけにも行かないし」
【藍建】
「そうだ。せっかくだから、聞いてもらっていいかい?」
【ハク】
「藍建さんが良いなら、聞きたい、です……」
【藍建】
「……わかった」
そして、藍建さんは彼自身の過去のことを語り始めた。
【藍建】
「あれは今から2年前のことだった…」
……そのとき俺は、連続詐欺事件を起こした犯人の居場所を突き止めたところだった。
だが、どうにかそいつを追い詰め、ついに逮捕というその時にそいつは諦め悪く逃走を図る。
ヤツを追って走ると、いつのまにか汚い路地裏だった。
【藍建】
「そこにいるのはわかってるんだ!」
【藍建】
「……すぐに応援もやって来る。観念して出てこい!」
やっとのことで路地裏まで再び追い詰め、細く狭い路地の向こうにいるはずの犯人に聞こえるように怒鳴る。
だが、犯人の男はなかなか出てこなかった。
【藍建】
「……おい、いい加減に」
【藍建】
「……!?」
そのとき、カンカンカンと金属の床を足で叩く音がする。
音のする方向に目を向ければ、ちょうど犯人が雑居ビルの外階段を上る音だった。
【藍建】
「くっ……無駄なことを!」
すぐに俺もその後を追って階段を上る。
犯人は階段を駆け上り、屋上まで一直線だ。
【藍建】
(まぁ良い、どうせ逃げ場はないさ……)
俺が雑居ビルの屋上に辿り着いた時、ヤツは既にフェンス際に立っていた。
【藍建】
「どうする。もう逃げ場はないぞ!」
それほど広くもない屋上だ。俺は犯人に向かってジリジリと距離を詰めた。
だが犯人まであと数メートル……と言う時、手すりに手を置いてヤツが喚く。
【犯人】
「来るな!……それ以上近づいたら、飛び降りて死ぬ」
【藍建】
「何を言ってる。バカなことは止せ」
ビルの屋上を囲むフェンスは低く、大人の腰あたりまでの高さしかない。
おまけにろくに手入れもされていないらしく、ところどころ錆びているのが見て取れた。
このままでは、飛び降りる前にフェンスが崩れて落ちてしまう可能性もある。
【藍建】
「良いか、フェンスから手を離せ。そうして、ゆっくりと床に手を付け」
言いながら少しずつ、少しずつ奴との距離を縮めてゆく。
だが、ヤツがオレに従うことはなかった。
【藍建】
「……っ」
だがそんなことは関係ない。確実に距離は近づいてゆく。
あと5メートル……あと3メートル……。
間近に迫り、体でヤツを止めようとしたそのときだった。
【藍建】
「おい、よせ、止めろ!!」
【犯人】
「へっ、テメーに掴まるくらいなら死んだ方がマシだぜ」
ヤツはひらりと体をかわし、空へと躍り出た。
どうにか捕まえようとした俺の腕は空を切る。
【藍建】
「なっ……」
フェンスの下を見ると、落ちて行くヤツの姿。
その唇が、ニヤリと弧を描いているように見えた。
【藍建】
「なんてこった……」
ずるずると屋上の床に座り込み、俺は途方に暮れる。
遠くでサイレンの音が聞こえてきた。たぶん、俺が呼んだ応援のパトカーだろう。
【藍建】
(上になんて報告すりゃいいんだ……)
【藍建】
(いや、それよりも……)
死体なら仕事柄、今までも見る機会はあった。
もっと酷い死体の写真も見たことがある。
だが、目の前で犯人が死んだのは初めてだ。
俺は情けないことに、初めて目にする死の瞬間と言うものにひどく取り乱していた。
【藍建】
「それ以来、ビルの屋上ってものがダメになっちまってね」
【藍建】
「下が見えると、どうしても足がすくんでしまうんだ」
藍建さんは自嘲するように少し笑いながら言う。
今まで大した事件に直面することもなく生きてきた俺には、想像を絶する話だ。
【ハク】
「そんな……ことが……」
軽々しく聞きたいなんて言ってはいけなかったのかもしれない。
どんな言葉をかけて良いのかわからない俺に、藍建さんは言葉を重ねる。
【藍建】
「……まぁ、これは前置きだ」
【藍建】
「俺と銀が出会った時のこと、話してもいいかな」
【ハク】
「はい……」
……それまでのオレは、自分で言うのもなんだが順風満帆な人生を歩んでいた。
警視庁のいわゆるエリートコースをまっすぐ歩んでいたし、
学生時代から恋愛に不自由したこともなかった。
だが、ただ一度の失敗でその立場を失うことになった。
連続詐欺事件の犯人を単独で追い詰めたところまでは良かった。
だが、あと一歩で逮捕というところで犯人は一瞬の隙をついて逃走……。
再度追い詰めた雑居ビルの屋上で、「お前に掴まるくらいなら死ぬ」
と言い残して犯人は飛び降り自殺をしてしまった。
署に戻ったオレはもちろん上司にこっぴどく叱られたが、それだけでは済まなかった。
謹慎明けのオレに言い渡されたのは、本部のエリートから所轄のヒラまで落とされると言う降格人事だった。
それからと言うもの、自棄になったオレは酒におぼれる日々を送った。
当時付き合っていた恋人に当たり散らすこともあり、当然とも言えるが恋人もオレから離れて行った。
絵に描いたような転落人生。
オレはもはや、人生というものすべてに対してやる気がなくなりかけていた。
そして、そんなオレの前に現れたのが銀だった……。
続く…