[本編] 藍建 仁 編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【ハク】
「…………」
俺は会議室の壁にぴったりと耳をつけて、どうにか隣の部屋の音を聴き取ろうと試みる。
……先ほど打ち合わせを終えてオフィスに帰ろうとした俺は、偶然にも会議室に入ってゆく藍建さんとナツを目撃した。
なぜ、ここに藍建さんが?なぜ二人きりで……?
そう思うと、俺の体は咄嗟にその隣の空き室へと入り込んでいた。
【銀】
「…………だ」
【藍建】
「……で、……と……」
会議室の壁は決して薄いわけではない。
音を拾うのは困難だ。
それでも集中して耳を澄ませていると、だんだんと隣の部屋から会話らしい声が聞こえてきた。
【ハク】
(仕事の話……じゃなさそうだな)
何の話をしているのかはわからないが、声のトーンからしてビジネスの話題ではなさそうだ。
そのとき、それまで静かに話していた声が荒っぽくなる。
【銀】
「だから、この関係はこれで終わりにすると言っている」
【藍建】
「なんでだよ!おかしいだろ!」
【ハク】
(関係……?なんの話だ?)
だんだんと、二人の会話は言い争うようなものへと変わってゆく。
……いや、言い争うと言うよりは、藍建さんがナツに一方的に食ってかかっている感じだ。
俺は会話の内容を掴みたくて、より耳に神経を集中させた。
【銀】
「何もおかしいことはないさ。お前との関係は所詮、ただの暇つぶしに過ぎない」
【藍建】
「なっ……!」
【銀】
「それとも、あんな抱かれ方で情でも移ったか?」
【銀】
「お前がそれほど女々しい奴だとは知らなかったな」
【ハク】
(……!?)
【藍建】
「そんな……」
【銀】
「オレはもう行くぞ。……まぁ、もうお前と会うこともないだろうがな」
【藍建】
「…………」
隣の部屋の会話は、それっきり途切れた。
すぐに会議室の扉が開く音がして、廊下を早足で歩き去る足音がする。
……これはたぶん、ナツの足音だ。
足音が一人分だけだと言うことは、藍建さんはまだ隣の部屋にいるのだろう。
あんな言い方をされて、きっと藍建さんは傷ついている。
だが、ショックで動けなかったのは俺も同じだった。
【ハク】
(抱……く……?)
【ハク】
(抱かれ方、ってなんだ?誰が、誰を……?)
考えれば考えるほど混乱して、頭が先へ進まない。
【ハク】
(関係って、ナツと藍建さんがそんな関係だったって言うのか……?)
高校時代からよく知っているナツが……と言うよりも、
藍建さんがナツと関係を持っていたということの方が俺にはショックだった。
【ハク】
(しかも、まるで藍建さんんの方が離れたくないようなそぶりで……)
頭を鈍器でガンと殴りつけられたようだ。
頭痛すら感じる。
……知らなかった。予想もしていなかった。
ナツはもちろん、藍建さんだって俺にそんな風なことを言ったことも、そんな態度を示したこともない。そのはずだった。
【ハク】
(……そうだ、あのとき)
不意に、ナツとデパートで再会した日のことを思い出す。
藍建さんの熱のこもった視線の先を追うと、そこにナツがいたのだ。
そして、その帰り道に藍建さんが不安そうな表情で俺にナツとの関係を尋ねてきたことも思い出す。
【ハク】
(そうか……だから、あんなことを訊いてきたのか)
高校の先輩後輩同士だと告げると、藍建さんは目に見えてほっとした表情をしていた。
【ハク】
(藍建さんは、ナツのことを……)
結局俺は、藍建さんが隣の会議室から出て行くのを待ってから会議室を抜け出し、オフィスに戻った。
……当初の予定だった休憩は取れなかったが、俺にとっては忙しく仕事をしているほうが有難かった。
少しでも手が止まると、ナツと藍建さんのことを考えてしまいそうだったから……。
ナツと藍建さんが関係を持っていると言うことを会議室で盗み聞きした後、
俺はもやもやした気持ちを抑えながらひたすら仕事をこなした。
だが、帰宅すれば当然ながら今の家主でもある藍建さんと顔を合わせてしまう。
【藍建】
「あ、ハクくんおかえり」
藍建さんの家に帰ると、笑顔の藍建さんが俺を迎えてくれた。
藍建さんの帰宅時間としては、いつもよりもだいぶ早い。
……帰宅してから考える時間があると思っていた分、内心少しうろたえてしまう。
【ハク】
「藍建さん……早かったんですね」
【藍建】
「今日はそんなに忙しくなかったからね」
……だから会社に来たんですか、とはとても訊けなかった。
【ハク】
「……そうですか」
そう返しながら、今朝と比べてどうしても藍建さんへの態度がぎこちなくなってしまうのを自覚する。
だが、あんなことを聞いたあとで平静な気持ちでもいられない。
【藍建】
「メシ、まだだろ?帰りに買ってきたから一緒に食おう」
【ハク】
「…………」
俺の肩を叩いて、テーブルの上にある袋に入ったままの惣菜を示す。
その明るい言い方に驚いて、思わず肩にかかった手を見つめてしまった。
【藍建】
「……?どうした?」
藍建さんはいつも通り明るい態度を取っているが、その姿がどうしても今日の会議室での姿と重ならない。
……無理をしているのではないか?本当は辛いんじゃないのか?
思わず、そう問い詰めたくなってしまう。
だが、何も知らないはずの俺がそんなことをするのもおかしい。
俺はどうにかその感情を押し込めた。
【ハク】
「準備は俺がしますから、藍建さんは座っててください」
【藍建】
「でも、ハクくんだって帰ってきたばかりだろう?」
【ハク】
「俺も、今日はそんなに忙しくなかったんで」
藍建さんは腑に落ちないような顔をしながらも、大人しく座ってくれた。
その間に俺が食器等を用意して、二人で夕食を摂る。
黙々と箸を動かしていると、食事が始まってからは静かだった藍建さんが口を開いた。
【藍建】
「なぁ、何か悩みでもあるのか?今日、会社で何かあったとか」
【ハク】
「……」
あなたがそれを言うのか、と思った。
悩みがあるのはむしろ藍建さんの方だろう。
【ハク】
「……どうしてですか」
【藍建】
「いや、何か帰って来てからのキミ、様子がおかしいし……」
【藍建】
「頼りにならないかもしれないけど、オレでよければ相談に乗るぞ?」
藍建さんは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
……そんな彼には、ウソはつけない気がした。
ただでさえ藍建さんには返しきれないくらいお世話になっているのに……。
【ハク】
「実は……」
俺は一呼吸置いて、帰ってからずっと言いたかったことを打ち明けた。
【ハク】
「俺が働いてる会社って、ナツ……銀の会社なんです」
【藍建】
「えっ……」
……働き始めてからも、藍建さんには伏せていたことだ。
俺は絶句している藍建さんをよそに話を進める。
「…………」
俺は会議室の壁にぴったりと耳をつけて、どうにか隣の部屋の音を聴き取ろうと試みる。
……先ほど打ち合わせを終えてオフィスに帰ろうとした俺は、偶然にも会議室に入ってゆく藍建さんとナツを目撃した。
なぜ、ここに藍建さんが?なぜ二人きりで……?
そう思うと、俺の体は咄嗟にその隣の空き室へと入り込んでいた。
【銀】
「…………だ」
【藍建】
「……で、……と……」
会議室の壁は決して薄いわけではない。
音を拾うのは困難だ。
それでも集中して耳を澄ませていると、だんだんと隣の部屋から会話らしい声が聞こえてきた。
【ハク】
(仕事の話……じゃなさそうだな)
何の話をしているのかはわからないが、声のトーンからしてビジネスの話題ではなさそうだ。
そのとき、それまで静かに話していた声が荒っぽくなる。
【銀】
「だから、この関係はこれで終わりにすると言っている」
【藍建】
「なんでだよ!おかしいだろ!」
【ハク】
(関係……?なんの話だ?)
だんだんと、二人の会話は言い争うようなものへと変わってゆく。
……いや、言い争うと言うよりは、藍建さんがナツに一方的に食ってかかっている感じだ。
俺は会話の内容を掴みたくて、より耳に神経を集中させた。
【銀】
「何もおかしいことはないさ。お前との関係は所詮、ただの暇つぶしに過ぎない」
【藍建】
「なっ……!」
【銀】
「それとも、あんな抱かれ方で情でも移ったか?」
【銀】
「お前がそれほど女々しい奴だとは知らなかったな」
【ハク】
(……!?)
【藍建】
「そんな……」
【銀】
「オレはもう行くぞ。……まぁ、もうお前と会うこともないだろうがな」
【藍建】
「…………」
隣の部屋の会話は、それっきり途切れた。
すぐに会議室の扉が開く音がして、廊下を早足で歩き去る足音がする。
……これはたぶん、ナツの足音だ。
足音が一人分だけだと言うことは、藍建さんはまだ隣の部屋にいるのだろう。
あんな言い方をされて、きっと藍建さんは傷ついている。
だが、ショックで動けなかったのは俺も同じだった。
【ハク】
(抱……く……?)
【ハク】
(抱かれ方、ってなんだ?誰が、誰を……?)
考えれば考えるほど混乱して、頭が先へ進まない。
【ハク】
(関係って、ナツと藍建さんがそんな関係だったって言うのか……?)
高校時代からよく知っているナツが……と言うよりも、
藍建さんがナツと関係を持っていたということの方が俺にはショックだった。
【ハク】
(しかも、まるで藍建さんんの方が離れたくないようなそぶりで……)
頭を鈍器でガンと殴りつけられたようだ。
頭痛すら感じる。
……知らなかった。予想もしていなかった。
ナツはもちろん、藍建さんだって俺にそんな風なことを言ったことも、そんな態度を示したこともない。そのはずだった。
【ハク】
(……そうだ、あのとき)
不意に、ナツとデパートで再会した日のことを思い出す。
藍建さんの熱のこもった視線の先を追うと、そこにナツがいたのだ。
そして、その帰り道に藍建さんが不安そうな表情で俺にナツとの関係を尋ねてきたことも思い出す。
【ハク】
(そうか……だから、あんなことを訊いてきたのか)
高校の先輩後輩同士だと告げると、藍建さんは目に見えてほっとした表情をしていた。
【ハク】
(藍建さんは、ナツのことを……)
結局俺は、藍建さんが隣の会議室から出て行くのを待ってから会議室を抜け出し、オフィスに戻った。
……当初の予定だった休憩は取れなかったが、俺にとっては忙しく仕事をしているほうが有難かった。
少しでも手が止まると、ナツと藍建さんのことを考えてしまいそうだったから……。
ナツと藍建さんが関係を持っていると言うことを会議室で盗み聞きした後、
俺はもやもやした気持ちを抑えながらひたすら仕事をこなした。
だが、帰宅すれば当然ながら今の家主でもある藍建さんと顔を合わせてしまう。
【藍建】
「あ、ハクくんおかえり」
藍建さんの家に帰ると、笑顔の藍建さんが俺を迎えてくれた。
藍建さんの帰宅時間としては、いつもよりもだいぶ早い。
……帰宅してから考える時間があると思っていた分、内心少しうろたえてしまう。
【ハク】
「藍建さん……早かったんですね」
【藍建】
「今日はそんなに忙しくなかったからね」
……だから会社に来たんですか、とはとても訊けなかった。
【ハク】
「……そうですか」
そう返しながら、今朝と比べてどうしても藍建さんへの態度がぎこちなくなってしまうのを自覚する。
だが、あんなことを聞いたあとで平静な気持ちでもいられない。
【藍建】
「メシ、まだだろ?帰りに買ってきたから一緒に食おう」
【ハク】
「…………」
俺の肩を叩いて、テーブルの上にある袋に入ったままの惣菜を示す。
その明るい言い方に驚いて、思わず肩にかかった手を見つめてしまった。
【藍建】
「……?どうした?」
藍建さんはいつも通り明るい態度を取っているが、その姿がどうしても今日の会議室での姿と重ならない。
……無理をしているのではないか?本当は辛いんじゃないのか?
思わず、そう問い詰めたくなってしまう。
だが、何も知らないはずの俺がそんなことをするのもおかしい。
俺はどうにかその感情を押し込めた。
【ハク】
「準備は俺がしますから、藍建さんは座っててください」
【藍建】
「でも、ハクくんだって帰ってきたばかりだろう?」
【ハク】
「俺も、今日はそんなに忙しくなかったんで」
藍建さんは腑に落ちないような顔をしながらも、大人しく座ってくれた。
その間に俺が食器等を用意して、二人で夕食を摂る。
黙々と箸を動かしていると、食事が始まってからは静かだった藍建さんが口を開いた。
【藍建】
「なぁ、何か悩みでもあるのか?今日、会社で何かあったとか」
【ハク】
「……」
あなたがそれを言うのか、と思った。
悩みがあるのはむしろ藍建さんの方だろう。
【ハク】
「……どうしてですか」
【藍建】
「いや、何か帰って来てからのキミ、様子がおかしいし……」
【藍建】
「頼りにならないかもしれないけど、オレでよければ相談に乗るぞ?」
藍建さんは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
……そんな彼には、ウソはつけない気がした。
ただでさえ藍建さんには返しきれないくらいお世話になっているのに……。
【ハク】
「実は……」
俺は一呼吸置いて、帰ってからずっと言いたかったことを打ち明けた。
【ハク】
「俺が働いてる会社って、ナツ……銀の会社なんです」
【藍建】
「えっ……」
……働き始めてからも、藍建さんには伏せていたことだ。
俺は絶句している藍建さんをよそに話を進める。