[本編] 藍建 仁 編
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【藍建】
「平気平気。えーっと……」
【ハク】
「メシ、行きましょう」
【藍建】
「そうだな……」
入口のところの案内板を見て、俺達は昼食をとる場所を屋上にあるフードコートに決めた。
最上階から階段で上がると、そこには簡単なテーブルとイスの周りにいくつか店があり、
好きなものを買って食べるスタイルだ。
少し離れた場所には子供用の遊具やクレーンゲームなんかも見える。
俺達は二人ともラーメンを選んでパラソルのあるテーブルの下で食べていた。
その頃には藍建さんもすっかり元通りになっていたので、
俺は藍建さんとナツの関係について尋ねることができないでいた。
【ハク】
「えっと……この後はどうしますか?」
【藍建】
「そうだな、買うものは買ったし、荷物も多いし……食い終わったら帰るか?」
【ハク】
「はい。……あっ」
そのとき、それまで近くの遊具で遊んでいた一人の男の子が俺たちのテーブルの横を走ってゆくのが見えた。
年齢は小学校に上がらないくらいだろうか。
どうやら、持っていた風船を手から離してしまって追いかけているようだった。
それだけなら微笑ましい光景なのだが……。
【藍建】
「危ないっ!」
藍建さんが急に立ち上がったかと思うと、大きな声を出す。
その声に驚いて振り返ると、その子の向かっている先は屋上の端の柵の方だった。
それも、ちょうど柵の低くなっているあたりだ。
少年の目線は頭上の風船に固定されていて、柵の存在など見えていないようだ。
柵にぶつかるだけならまだ良いが、どうかすると柵の外へ放り出されてしまうかもしれない。
藍建さんに続いて俺も席を立つ。二人で助けに向かおうと思った。
だが、藍建さんはその場に立ったまま動かない。
【藍建】
「…………」
【ハク】
(藍建さん、一体どうしたんだ……?)
【ハク】
「藍建さん!」
名前を呼んでみるが、返事がない。
だが、そうしているあいだにも少年は柵の方へと向かっている。
俺は咄嗟に走って少年の駆けて行った方へと向かった。
【ハク】
「ほら、危ないよ」
【少年】
「きゃっ」
なんとか柵の手前で、少年が怪我をしないように両手でその体を止める。
【少年】
「あれぇ、お兄ちゃん、なぁに?」
その子は自分が柵へ向かって走っていたことにたった今気づいたようで、目をぱちくりさせている。
【ハク】
「ここで走ると危ないから、ほどほどにね」
【少年】
「うん!」
言葉で言うことにどれほどの効力があるのかわからないが、男の子は素直に頷いた。
ほどなく、母親らしき女性が小走りでやって来る。
【少年の母親】
「ほらちゃん!急に走ったら危ないでしょ!」
【少年】
「……?」
母親の言葉にも少年は何がいけなかったのかがよくわからないらしく、首を傾げている。
それがなんだか微笑ましく、先ほど事故が起きようとしていたことなど忘れてしまいそうだ。
【少年の母親】
「どうもすみません、息子がご迷惑を……」
【ハク】
「いいえ、何事もなくて良かったです」
【少年の母親】
「お兄ちゃん、ばいばーい」
少年は母親に手を引かれて元いた遊具の方へと戻ってゆく。
もう風船のことなど忘れてしまったのか、無邪気に手を振って去ってゆく姿に俺も手を振り返した。
【ハク】
「……藍建さん?」
少年の姿が見えなくなって、真っ先に立ち上がったはずの藍建さんがこの場にいないことに俺はやっと気づいた。
見回してみれば、藍建さんは俺のいる場所よりも数メートル手前で、まだ立ち竦んでいた。
【ハク】
「藍建さん……どうしたんですか?まさか、具合でも悪いんじゃ……?」
【藍建】
「……いや、俺は平気だ。男の子が無事でよかったよ」
【ハク】
「そう、ですか……」
そう言う彼の顔色は悪い。
青白く、血の気が引いてしまっている色だ。
【ハク】
(何かあったのかな…)
【ハク】
(さっきから俺に見せないよう隠しているけど…)
【ハク】
(あからさまに動揺しているのが見ていてわかる)
疑問に思った俺は、藍建さんに声をかけた。
【ハク】
「具合悪そうですけど…」
【藍建】
「……ちょっと立ちくらみをしてな…」
俺は、平気だと言い張る藍建さんにそれ以上のことは言えなかった。
デパートの屋上での昼食を終えて、大荷物なこともありそのまま真っ直ぐ藍建さんの家に帰る途中だ。
買い物疲れか、先ほどからとくに会話はない。
だが、ナツと再会したあたりからどうも藍建さんの様子がおかしいのを感じている。
それに、先ほどの屋上での一件も……。
どうやら、それは疲労のせいだけではなさそうだ。
そんなとき、藍建さんが不意に口を開く。
【藍建】
「ハクくんは、銀……さんと知り合いなのか?」
【ハク】
「えっ……?」
それまで無言だった藍建さんから、ぽつんと呟くようにその質問が降ってきた。
一瞬意味がわからず、思わず聞き返してしまう。
【ハク】
「あ、あぁ……」
しかし聞き返した瞬間に意味を理解し、取り繕うように早口で話す。
【ハク】
「ナツ……銀さんは、高校の時にお世話になった先輩なんです」
【藍建】
「先輩……」
【ハク】
「はい。同じテニス部で、彼は生徒会長もやっていて」
【藍建】
「はは、そうか。なんだ、先輩かぁ……」
理由はわからないが、俺とナツの間柄について話すと藍建さんはそれまでの不安げな表情から一転してほっとした顔をした。
その表情をさせたのが、俺ではないことにどうしてだかちくりと胸が痛む。
それを無視して、俺は話を広げようと会話を続けた。
【ハク】
「藍建さんは、彼とお知り合いなんですか?」
【藍建】
「俺は……まぁ、ね」
しかし、俺の問いへの藍建さんの返答は歯切れが悪いものだった。
【ハク】
(……でも2人の間に、さっきは何も会話はなかった…)
【ハク】
(たしかに藍建さんはナツを見つめていたけど…)
【ハク】
(ナツは藍建さんを見向きもしていなかった…)
【ハク】
(やはり……あまり深く聞かない方がいいのかな)
一緒に暮らすことになったものの、俺と藍建さんはまだ知り合って間もない。
これから少しずつお互いのことを知っていけば良いと思った俺は、それ以上のことを聞かなかった。
続く…
「平気平気。えーっと……」
【ハク】
「メシ、行きましょう」
【藍建】
「そうだな……」
入口のところの案内板を見て、俺達は昼食をとる場所を屋上にあるフードコートに決めた。
最上階から階段で上がると、そこには簡単なテーブルとイスの周りにいくつか店があり、
好きなものを買って食べるスタイルだ。
少し離れた場所には子供用の遊具やクレーンゲームなんかも見える。
俺達は二人ともラーメンを選んでパラソルのあるテーブルの下で食べていた。
その頃には藍建さんもすっかり元通りになっていたので、
俺は藍建さんとナツの関係について尋ねることができないでいた。
【ハク】
「えっと……この後はどうしますか?」
【藍建】
「そうだな、買うものは買ったし、荷物も多いし……食い終わったら帰るか?」
【ハク】
「はい。……あっ」
そのとき、それまで近くの遊具で遊んでいた一人の男の子が俺たちのテーブルの横を走ってゆくのが見えた。
年齢は小学校に上がらないくらいだろうか。
どうやら、持っていた風船を手から離してしまって追いかけているようだった。
それだけなら微笑ましい光景なのだが……。
【藍建】
「危ないっ!」
藍建さんが急に立ち上がったかと思うと、大きな声を出す。
その声に驚いて振り返ると、その子の向かっている先は屋上の端の柵の方だった。
それも、ちょうど柵の低くなっているあたりだ。
少年の目線は頭上の風船に固定されていて、柵の存在など見えていないようだ。
柵にぶつかるだけならまだ良いが、どうかすると柵の外へ放り出されてしまうかもしれない。
藍建さんに続いて俺も席を立つ。二人で助けに向かおうと思った。
だが、藍建さんはその場に立ったまま動かない。
【藍建】
「…………」
【ハク】
(藍建さん、一体どうしたんだ……?)
【ハク】
「藍建さん!」
名前を呼んでみるが、返事がない。
だが、そうしているあいだにも少年は柵の方へと向かっている。
俺は咄嗟に走って少年の駆けて行った方へと向かった。
【ハク】
「ほら、危ないよ」
【少年】
「きゃっ」
なんとか柵の手前で、少年が怪我をしないように両手でその体を止める。
【少年】
「あれぇ、お兄ちゃん、なぁに?」
その子は自分が柵へ向かって走っていたことにたった今気づいたようで、目をぱちくりさせている。
【ハク】
「ここで走ると危ないから、ほどほどにね」
【少年】
「うん!」
言葉で言うことにどれほどの効力があるのかわからないが、男の子は素直に頷いた。
ほどなく、母親らしき女性が小走りでやって来る。
【少年の母親】
「ほらちゃん!急に走ったら危ないでしょ!」
【少年】
「……?」
母親の言葉にも少年は何がいけなかったのかがよくわからないらしく、首を傾げている。
それがなんだか微笑ましく、先ほど事故が起きようとしていたことなど忘れてしまいそうだ。
【少年の母親】
「どうもすみません、息子がご迷惑を……」
【ハク】
「いいえ、何事もなくて良かったです」
【少年の母親】
「お兄ちゃん、ばいばーい」
少年は母親に手を引かれて元いた遊具の方へと戻ってゆく。
もう風船のことなど忘れてしまったのか、無邪気に手を振って去ってゆく姿に俺も手を振り返した。
【ハク】
「……藍建さん?」
少年の姿が見えなくなって、真っ先に立ち上がったはずの藍建さんがこの場にいないことに俺はやっと気づいた。
見回してみれば、藍建さんは俺のいる場所よりも数メートル手前で、まだ立ち竦んでいた。
【ハク】
「藍建さん……どうしたんですか?まさか、具合でも悪いんじゃ……?」
【藍建】
「……いや、俺は平気だ。男の子が無事でよかったよ」
【ハク】
「そう、ですか……」
そう言う彼の顔色は悪い。
青白く、血の気が引いてしまっている色だ。
【ハク】
(何かあったのかな…)
【ハク】
(さっきから俺に見せないよう隠しているけど…)
【ハク】
(あからさまに動揺しているのが見ていてわかる)
疑問に思った俺は、藍建さんに声をかけた。
【ハク】
「具合悪そうですけど…」
【藍建】
「……ちょっと立ちくらみをしてな…」
俺は、平気だと言い張る藍建さんにそれ以上のことは言えなかった。
デパートの屋上での昼食を終えて、大荷物なこともありそのまま真っ直ぐ藍建さんの家に帰る途中だ。
買い物疲れか、先ほどからとくに会話はない。
だが、ナツと再会したあたりからどうも藍建さんの様子がおかしいのを感じている。
それに、先ほどの屋上での一件も……。
どうやら、それは疲労のせいだけではなさそうだ。
そんなとき、藍建さんが不意に口を開く。
【藍建】
「ハクくんは、銀……さんと知り合いなのか?」
【ハク】
「えっ……?」
それまで無言だった藍建さんから、ぽつんと呟くようにその質問が降ってきた。
一瞬意味がわからず、思わず聞き返してしまう。
【ハク】
「あ、あぁ……」
しかし聞き返した瞬間に意味を理解し、取り繕うように早口で話す。
【ハク】
「ナツ……銀さんは、高校の時にお世話になった先輩なんです」
【藍建】
「先輩……」
【ハク】
「はい。同じテニス部で、彼は生徒会長もやっていて」
【藍建】
「はは、そうか。なんだ、先輩かぁ……」
理由はわからないが、俺とナツの間柄について話すと藍建さんはそれまでの不安げな表情から一転してほっとした顔をした。
その表情をさせたのが、俺ではないことにどうしてだかちくりと胸が痛む。
それを無視して、俺は話を広げようと会話を続けた。
【ハク】
「藍建さんは、彼とお知り合いなんですか?」
【藍建】
「俺は……まぁ、ね」
しかし、俺の問いへの藍建さんの返答は歯切れが悪いものだった。
【ハク】
(……でも2人の間に、さっきは何も会話はなかった…)
【ハク】
(たしかに藍建さんはナツを見つめていたけど…)
【ハク】
(ナツは藍建さんを見向きもしていなかった…)
【ハク】
(やはり……あまり深く聞かない方がいいのかな)
一緒に暮らすことになったものの、俺と藍建さんはまだ知り合って間もない。
これから少しずつお互いのことを知っていけば良いと思った俺は、それ以上のことを聞かなかった。
続く…