[本編] 藍建 仁 編
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これからしばらく藍建さんの家にお世話になることが決まった俺だが、
とりあえずは日用品を揃えようという藍建さんの提案で午前中から駅前のデパートへとやって来た。
藍建さんの家から徒歩で行けるそこは、百貨店と呼べるほど立派なところではないが、
リーズナブルな値段でだいたいのものは手に入る。
俺もデパート内の量販店で安く一通りの下着や服を仕入れ。
地下にあるスーパーで歯ブラシなどの日用品を揃えることができた。
袋をいくつも抱えて、デパート内のベンチで一旦休憩だ。
【藍建】
「まぁ、こんなもんで良いかな」
【ハク】
「はい、ありがとうございます。……これでやっと人並みの生活ができます」
【藍建】
「はは、ハク君は大袈裟だなぁ」
【ハク】
「大袈裟なんかじゃないですよ」
だって、ちょうど丸一日前に自宅のアパートが俺の部屋を中心に焼けてしまったお陰で
家財道具一式が一緒に燃えてしまい、本当に着の身着のままだったのだ。
衣食住がほぼ確保された今、俺は大きな袋を抱えてやっと一息ついた気分だ。
【藍建】
「それじゃ、そろそろお昼だしメシでも食ってくか」
【ハク】
「いいですね」
どこか座って食べられるところへ入ろう、と歩き出してすぐだった。
俺の前方を歩いていた藍建さんが急に歩みを止める。
【藍建】
「…………」
【ハク】
「…………?」
不思議に思い藍建さんの視線の先を辿ると、そこには一人の男性がいた。
すらっとした立ち姿で細身のスーツを着こなし、神経質そうにメガネを触っている銀色の髪の男だ。
【ハク】
(あの人……どこかで見たことあるような……)
頭にぽんと浮かんだその疑問は、男性がこちらを振り返ったことで確信に変わった。
【ハク】
(……思い出した、ナツだ)
ナツこと銀夏生は、俺が通っていた高校時代の生徒会長を務めていた人だ。
また、俺とはテニス部の先輩後輩という仲でもあった。
卒業以来連絡は取っていないが…。
ナツには、帰り道が同じ方向だったこともあり、頻繁に一緒に帰ったりして結構仲良くしてもらっていたように思う。
すると、俺に気付いたのかナツがこっちに向かって歩いてきた。
しかしナツを見つめている藍建さんの視線には気付いていない風で、まっすぐ俺の方へやって来る。
【銀】
「もしかして……ハクか?」
【ハク】
「やっぱりナツ……だよな?」
【銀】
「……あぁ。久しぶりだな」
【ハク】
「ほんと、久しぶり。ナツの卒業以来だ」
クールな目元に、僅かに口元を引き上げる笑い。やはりナツに間違いない。
あの頃は制服だったけど、今は代わりにスーツをビシッと着こなしている。
その姿は十年以上経っている今でもそれほど変わっていないように見えた。
【銀】
「何してるんだ?こんな所で」
【ハク】
「うん。ちょっと、買い物」
俺は抱えている大きな袋を示して見せる。
ナツはその説明で納得したように軽く頷いた。
【ハク】
「ナツはどうしたの?」
【銀】
「オレはちょっとした用事だ」
見たところ、ナツは買い物袋を持っている様子もない。
ナツがデパートに何をしに来たか少し気になったが、久し振りの再会なので些細なことを気にするのは止めた。
【ハク】
「でも俺、ナツのスーツ姿なんて初めて見た。ナツってスーツも似合うんだな」
【銀】
「なんだそれは。褒めても何も出ないぞ」
【銀】
「……ハクの方はあまり変わってないな」
【ハク】
「十年以上も経ってるのに、それはないだろ」
【銀】
「若く見えるって言ってるんだ。喜べ」
【ハク】
「……俺だってちゃんと仕事とかしてたんだからな」
……先日クビになったとは言えないが。
【銀】
「……仕事、ね。ところで、ハクは元気にしてるのか?」
何気ないようで、有無を言わさず近況を尋ねる口調だ。
だが俺の近況はあまりに話しづらい状況で、つい誤魔化そうとしてしまう。
【ハク】
「うーん、まぁ、なんとか……」
【銀】
「どうした、何かあったのか?」
思わず口ごもる俺にナツが顔をしかめる。
……俺がナツ相手に誤魔化し通せるはずがない。
【ハク】
「……やっぱり、ナツにはわかっちゃうか」
ナツはガラの悪い奴らが集まる俺の母校ではめずらしいくらいに優秀な生徒で、
そんな学生たちをまとめ上げる生徒会長だった。
その手腕は教師も一目置くほどで、ナツは当時から切れ者で評判だったのだ。
【ハク】
「実は……」
俺はナツに会社をクビになってしまったこと、自宅が火事に遭ったことを告白した。
火事から丸一日が過ぎて、俺もだんだんと人にも落ち着いて話せるようになってきたような気がする。
【銀】
「そうか。そんなことが……大変だったな」
【ハク】
「うん……でも、とりあえず落ち着く先も決まってさ。それで……」
俺は藍建さんのこともナツに話そうと思ったが、会話の途中でナツは腕の時計を気にする仕草をする。
【銀】
「……悪いな、もう時間だ」
【ハク】
「あ、ごめん……引き留めちゃって」
俺達が立っていたのはデパートのエントランス近くだ。
ナツはきっとデパートを出るところだったに違いない。
【銀】
「いや、いい。……そうだ、これを持っていろ」
【ハク】
「名刺……?あ、ごめん。俺、今名刺とかなくって」
【銀】
「いいんだ。今は時間がないが、もしかすると力になれるかもしれない。それじゃ」
【ハク】
「うん……ありがとう」
ナツは俺の額を手の甲で軽く小突くようにしてそう言うと、
そのまま振り返ることなくまっすぐにデパートのエントランスを出て行った。
……俺と話している間もずっとナツを見ていた藍建さんの横を、まるで気付かずにすり抜けて。
【藍建】
「…………」
【ハク】
(藍建さん……)
目線だけでナツを見送る藍建さんは、理由はわからないがひどく悲しそうな目をしていた。
【ハク】
(ずっとナツの方見てたけど…)
【ハク】
(一体何が、彼にこんな顔をさせているんだろう……)
俺は藍建さんと買い物に来たデパートで、偶然にも高校時代の友人の一人であるナツと再会した。
ナツと別れて振り返ると、藍建さんは、なぜだかはわからないがナツを見つめてとても悲しげな表情をしていた。
【ハク】
「藍建さん」
【藍建】
「……あ、あぁ」
俺はナツの後姿を見送りながら茫然としていた藍建さんに声をかける。
藍建さんは、俺に今初めて気づいたような返答をしたが、俺はそのことに気付かないふりをした……。
【ハク】
「すみません、話し込んじゃって」
とりあえずは日用品を揃えようという藍建さんの提案で午前中から駅前のデパートへとやって来た。
藍建さんの家から徒歩で行けるそこは、百貨店と呼べるほど立派なところではないが、
リーズナブルな値段でだいたいのものは手に入る。
俺もデパート内の量販店で安く一通りの下着や服を仕入れ。
地下にあるスーパーで歯ブラシなどの日用品を揃えることができた。
袋をいくつも抱えて、デパート内のベンチで一旦休憩だ。
【藍建】
「まぁ、こんなもんで良いかな」
【ハク】
「はい、ありがとうございます。……これでやっと人並みの生活ができます」
【藍建】
「はは、ハク君は大袈裟だなぁ」
【ハク】
「大袈裟なんかじゃないですよ」
だって、ちょうど丸一日前に自宅のアパートが俺の部屋を中心に焼けてしまったお陰で
家財道具一式が一緒に燃えてしまい、本当に着の身着のままだったのだ。
衣食住がほぼ確保された今、俺は大きな袋を抱えてやっと一息ついた気分だ。
【藍建】
「それじゃ、そろそろお昼だしメシでも食ってくか」
【ハク】
「いいですね」
どこか座って食べられるところへ入ろう、と歩き出してすぐだった。
俺の前方を歩いていた藍建さんが急に歩みを止める。
【藍建】
「…………」
【ハク】
「…………?」
不思議に思い藍建さんの視線の先を辿ると、そこには一人の男性がいた。
すらっとした立ち姿で細身のスーツを着こなし、神経質そうにメガネを触っている銀色の髪の男だ。
【ハク】
(あの人……どこかで見たことあるような……)
頭にぽんと浮かんだその疑問は、男性がこちらを振り返ったことで確信に変わった。
【ハク】
(……思い出した、ナツだ)
ナツこと銀夏生は、俺が通っていた高校時代の生徒会長を務めていた人だ。
また、俺とはテニス部の先輩後輩という仲でもあった。
卒業以来連絡は取っていないが…。
ナツには、帰り道が同じ方向だったこともあり、頻繁に一緒に帰ったりして結構仲良くしてもらっていたように思う。
すると、俺に気付いたのかナツがこっちに向かって歩いてきた。
しかしナツを見つめている藍建さんの視線には気付いていない風で、まっすぐ俺の方へやって来る。
【銀】
「もしかして……ハクか?」
【ハク】
「やっぱりナツ……だよな?」
【銀】
「……あぁ。久しぶりだな」
【ハク】
「ほんと、久しぶり。ナツの卒業以来だ」
クールな目元に、僅かに口元を引き上げる笑い。やはりナツに間違いない。
あの頃は制服だったけど、今は代わりにスーツをビシッと着こなしている。
その姿は十年以上経っている今でもそれほど変わっていないように見えた。
【銀】
「何してるんだ?こんな所で」
【ハク】
「うん。ちょっと、買い物」
俺は抱えている大きな袋を示して見せる。
ナツはその説明で納得したように軽く頷いた。
【ハク】
「ナツはどうしたの?」
【銀】
「オレはちょっとした用事だ」
見たところ、ナツは買い物袋を持っている様子もない。
ナツがデパートに何をしに来たか少し気になったが、久し振りの再会なので些細なことを気にするのは止めた。
【ハク】
「でも俺、ナツのスーツ姿なんて初めて見た。ナツってスーツも似合うんだな」
【銀】
「なんだそれは。褒めても何も出ないぞ」
【銀】
「……ハクの方はあまり変わってないな」
【ハク】
「十年以上も経ってるのに、それはないだろ」
【銀】
「若く見えるって言ってるんだ。喜べ」
【ハク】
「……俺だってちゃんと仕事とかしてたんだからな」
……先日クビになったとは言えないが。
【銀】
「……仕事、ね。ところで、ハクは元気にしてるのか?」
何気ないようで、有無を言わさず近況を尋ねる口調だ。
だが俺の近況はあまりに話しづらい状況で、つい誤魔化そうとしてしまう。
【ハク】
「うーん、まぁ、なんとか……」
【銀】
「どうした、何かあったのか?」
思わず口ごもる俺にナツが顔をしかめる。
……俺がナツ相手に誤魔化し通せるはずがない。
【ハク】
「……やっぱり、ナツにはわかっちゃうか」
ナツはガラの悪い奴らが集まる俺の母校ではめずらしいくらいに優秀な生徒で、
そんな学生たちをまとめ上げる生徒会長だった。
その手腕は教師も一目置くほどで、ナツは当時から切れ者で評判だったのだ。
【ハク】
「実は……」
俺はナツに会社をクビになってしまったこと、自宅が火事に遭ったことを告白した。
火事から丸一日が過ぎて、俺もだんだんと人にも落ち着いて話せるようになってきたような気がする。
【銀】
「そうか。そんなことが……大変だったな」
【ハク】
「うん……でも、とりあえず落ち着く先も決まってさ。それで……」
俺は藍建さんのこともナツに話そうと思ったが、会話の途中でナツは腕の時計を気にする仕草をする。
【銀】
「……悪いな、もう時間だ」
【ハク】
「あ、ごめん……引き留めちゃって」
俺達が立っていたのはデパートのエントランス近くだ。
ナツはきっとデパートを出るところだったに違いない。
【銀】
「いや、いい。……そうだ、これを持っていろ」
【ハク】
「名刺……?あ、ごめん。俺、今名刺とかなくって」
【銀】
「いいんだ。今は時間がないが、もしかすると力になれるかもしれない。それじゃ」
【ハク】
「うん……ありがとう」
ナツは俺の額を手の甲で軽く小突くようにしてそう言うと、
そのまま振り返ることなくまっすぐにデパートのエントランスを出て行った。
……俺と話している間もずっとナツを見ていた藍建さんの横を、まるで気付かずにすり抜けて。
【藍建】
「…………」
【ハク】
(藍建さん……)
目線だけでナツを見送る藍建さんは、理由はわからないがひどく悲しそうな目をしていた。
【ハク】
(ずっとナツの方見てたけど…)
【ハク】
(一体何が、彼にこんな顔をさせているんだろう……)
俺は藍建さんと買い物に来たデパートで、偶然にも高校時代の友人の一人であるナツと再会した。
ナツと別れて振り返ると、藍建さんは、なぜだかはわからないがナツを見つめてとても悲しげな表情をしていた。
【ハク】
「藍建さん」
【藍建】
「……あ、あぁ」
俺はナツの後姿を見送りながら茫然としていた藍建さんに声をかける。
藍建さんは、俺に今初めて気づいたような返答をしたが、俺はそのことに気付かないふりをした……。
【ハク】
「すみません、話し込んじゃって」