[本編] 藍建 仁 編
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【藍建】
「申し訳ないけど、雑魚寝っちゅーか」
【藍建】
「……オレと一緒でもいい?」
【ハク】
「そんな、泊めて頂けるだけで有難いので、俺はなんでも……」
【藍建】
「はは、悪いな」
成り行きで、結局この日は藍建さんと同じ布団で寝ることになった……。
ちゃぶ台を片づけ、慣れた手つきで藍建さんは、一組の布団を床に敷く。
布団を敷くのを手伝おうとはしたが、ハクくんは客人だからと窘められ、
そのまま部屋の隅で布団が敷かれるのを眺めていた。
男二人で寝るには決して広くはなかったが、家が焼けてしまった俺には、ありがたい環境だった。
雑魚寝には違いなかったが、落ち着かない場所で眠るよりはよっぽど安心だ。
藍建さんは一通り準備を終えると、俺達は二人そろって布団の中へと潜り込んだ。
だが俺は布団に入ってからも、緊張しているのかなかなか寝付くことはできなかった。
隣に藍建さんがいるという理由からではない。
失業のこと、突然の自宅の火災……そして、明日からのこと。
いろんなことが頭をよぎる。
【ハク】
(なんだか明日が来るのが怖いな)
【ハク】
(とりあえず明日は、何をしよう……)
だが、なにしろ突然のことなので今すべきことが何なのかもよくわからない。
いろいろなことが頭に浮かぶが、どれも深く考えることができずに消えてゆく。
【ハク】
(まずは仕事、だよなぁ……寮付きのバイトでも探すか)
【ハク】
(何日も藍建さんにお世話になるわけにもいかないし)
ちらりと隣に目をやると、さっき布団に入ったばかりだと言うのに既にぐっすり寝入っている藍建さんが見えた。
【ハク】
(でも、成り行きとはいえ昨日知り合ったような奴を泊めてくれるなんて、お人好しというか……)
【ハク】
(……とにかく、早くこの恩を返せるようにしないと)
いつの間にか俺は体の向きを変え、藍建さんの寝顔を眺めていた。
まだ出会って二日しか経っていないのにそれ以上に親しい仲であるかのように錯覚するのは、藍建さんの人柄もあるのだろう。
昨日のバーではにこにこしていたけど、今朝は刑事さんらしい険しい顔を見せていた。
【ハク】
(でも、寝顔は案外幼いんだな……)
【藍建】
「…………っ」
【ハク】
(……!?)
そのとき、何事もなく寝ていたはずの藍建さんの顔が急に歪む。
【ハク】
(魘されてる、のか……?)
【藍建】
「……っく、……」
先ほどまで穏やかに寝ていたのが嘘のように、藍建さんの眉間にひどく皺が寄っている。
それに、苦しそうに歯を噛み締めて息も荒い。
【ハク】
(そうか……刑事って言っても、俺と同じように人間なんだもんな)
【ハク】
(誰にだって、いろいろあるよな……)
もしかして、この人は毎晩こんな風に眠るんだろうか。
そう考えると、とにかく起こそうと伸ばしかけた手が止まる。
【藍建】
「…………」
【ハク】
(あ、戻った……)
俺が何をするべきかを迷っているうちに、彼の寝顔は元の安らかな顔になった。
【ハク】
(でも、一体何にこんなに魘されて……)
そこで俺は、昨日バーで藍建さんに初めて出会った時のことを思い出す。
【ハク】
(そういえば昨日も、自棄酒だって言ってたっけ)
自棄酒をあおる俺に向かって、『オレも自棄酒なんだ』。そう言って笑っていた。
だが、その笑顔の裏ではこんな風に苦しんでいたのかもしれない。
【ハク】
(藍建さんは、昨日今日知り合ったような俺を家に泊めてくれるほどに優しいから……きっと、つらいことも山ほどあるんだろう)
結局、その後も俺が眠りに落ちるまで藍建さんは断続的に魘されているようだった。
俺は何もできずに、いつしか自分も眠りに落ちていた……。
【ハク】
(あれ……朝……?)
【ハク】
(ここは……)
目を覚ました俺は、まるで昨日と同じ様な思考回路を辿る。
畳敷きの部屋を見回して、やっとここがどこかを認識した。
【ハク】
(そうだ、昨日は藍建さんの家に……)
昨夜は上手く寝付けずにいろいろと考え事をしていたが、いつのまにか寝ていたようだ。
慌てて体を起こすが、隣には既に藍建さんの姿はない。
代わりに、キッチンの方からいい匂いがするのに気付く。
そろそろと起き上がって覗いてみると、そこには台所に立つ藍建さんの姿があった。
【ハク】
「あ、あの……」
【藍建】
「お、起きたか。おはよう」
なんと声をかけていいのかわからずに曖昧な声を出すと、藍建さんが振り返ってくれた。
昨夜魘されていたとは思えないほど、朝からすがすがしい表情だ。
【ハク】
「おはようございます」
【藍建】
「よく眠れたか?……って、そんなわけないよな、ごめん」
【ハク】
「いえ俺の方こそ、こんな……遅くまで寝ててすみません。藍建さん、お仕事とかありますよね」
【藍建】
「いや、今日は非番だから一日休みだよ」
【ハク】
「そうなんですか?」
【藍建】
「……って言っても、昨日みたいに呼び出されたら出勤しなきゃならないんだけどね」
藍建さんは料理を皿に移しながらいたずらっぽい笑みを浮かべた。
どうやら俺の分まで用意してくれたみたいだ。
【藍建】
「さて、ちょうど準備もできたところだし。朝飯、食うだろ?」
【ハク】
「は、はい。いただきます」
【藍建】
「簡単なもので悪いけどさ」
【ハク】
「そんなことないです」
首を振りながら言ったこの言葉は本心だった。
食卓に並んでいるのはご飯と味噌汁と納豆。
それに少々形は崩れているが、たった今できたばかりの目玉焼き。
どれも美味しそうなものばかりだ。
俺自身も朝はパンよりご飯派なので有難い。
テーブルに移動しながら、俺は昨日気になったことをなんとなく口に出していた。
【ハク】
「藍建さん、そういえば……」
【藍建】
「ん?」
【ハク】
「昨日の夜、魘されてたみたいでしたけど……その、大丈夫、ですか?」
【藍建】
「え?あぁ~……そうか。うん、まぁ……」
【藍建】
「そんなことより、座って座って」
藍建さんは一瞬焦ったような表情のあと、すぐに普段の顔に戻った。
それにしても、歯切れの悪い返答だ。
あまり触れられたくない話題だったのかもしれない。
俺も目の前の朝食に頭をを切り替えることにした。
【ハク】
「じゃあ、失礼します」
【ハク】
「あ、この目玉焼き、藍建さんの手作りですか?」
【藍建】
「はは、ちょっと形が崩れちゃったけどね」
【ハク】
「いえ、おいしそうです。いただきます」
誰かに作ってもらう朝食は久しぶりだ。
そのまま二人で朝食を食べている最中、不意に藍建さんに切り出された。
【藍建】
「ハクくんは、これからどうするつもりなんだ?」
それは今日の天気を話題にするような何気ない口調だった。
だが、聞かれた内容は昨夜俺が考えても答えの出なかったことについてだ。
そりゃ、昨日今日知り合ったような奴がいつまでも家にいたら迷惑だ。
【ハク】
「そう、ですね。とりあえず住み込みか、寮付きのバイトでも探そうかと……」
俺は昨夜考えたことをそのまま伝える。
住まいを確保しながら働ける環境は、これぐらいしか思いつかなかった。
しかし、次の言葉は俺の予想とは少し違っていた。
俺が思う以上に、藍建さんは優しい人だったのだ。
【藍建】
「いや、別に早く出て行ってくれって言うわけじゃないよ」
【藍建】
「というか……もし行く当てがないなら、しばらくウチにいてもいいんだぞ?」
【ハク】
「でも、そういうわけにも行きません」
すると藍建さんは優しい口調でこう言った。
【藍建】
「見ての通り男の一人暮らしだし、広くはないけど二部屋あるし……」
【藍建】
「こういう時は遠慮するな。出世払いでいいから、な?」
にこにこ笑ってそう言う藍建さんを見ると、甘えていいんだと錯覚してしまう。
藍建さんが俺にそこまでする義理はない……断らなければ。
しかし、俺の口から出たのは別の言葉だった。
【ハク】
「……本当に、良いんですか?」
【藍建】
「ああ。……オレも、一人でいるより気が楽だ」
【ハク】
「えっ……?」
一瞬だけ、藍建さんが表情に陰りを見せる。
【ハク】
(一人でいるより……?どういう意味だろう)
【ハク】
(もしかしたら、この人は俺が考えている以上に闇を抱えているのかもしれない……)
だが、藍建さんがそんな表情を見せたのは本当にその一瞬だけだった。
【藍建】
「さあ、そうと決まれば買い物だ。キミ、服だってろくにないだろう」
【ハク】
「あ……」
確かに藍建さんの言うとおり、服や下着、ほかの日用品も火事で燃えてしまった。
今の俺の全財産は一揃いの服と、バーに行くときに持って出た鞄とその中身だけだ。
【藍建】
「ま、駅前のデパートに行けばだいたい揃うだろう」
こうして俺は、藍建さんに連れられて駅前のデパートへと出発した。
そこでも新たな再会が待っているとなんて、考えもせずに……。
続く…
「申し訳ないけど、雑魚寝っちゅーか」
【藍建】
「……オレと一緒でもいい?」
【ハク】
「そんな、泊めて頂けるだけで有難いので、俺はなんでも……」
【藍建】
「はは、悪いな」
成り行きで、結局この日は藍建さんと同じ布団で寝ることになった……。
ちゃぶ台を片づけ、慣れた手つきで藍建さんは、一組の布団を床に敷く。
布団を敷くのを手伝おうとはしたが、ハクくんは客人だからと窘められ、
そのまま部屋の隅で布団が敷かれるのを眺めていた。
男二人で寝るには決して広くはなかったが、家が焼けてしまった俺には、ありがたい環境だった。
雑魚寝には違いなかったが、落ち着かない場所で眠るよりはよっぽど安心だ。
藍建さんは一通り準備を終えると、俺達は二人そろって布団の中へと潜り込んだ。
だが俺は布団に入ってからも、緊張しているのかなかなか寝付くことはできなかった。
隣に藍建さんがいるという理由からではない。
失業のこと、突然の自宅の火災……そして、明日からのこと。
いろんなことが頭をよぎる。
【ハク】
(なんだか明日が来るのが怖いな)
【ハク】
(とりあえず明日は、何をしよう……)
だが、なにしろ突然のことなので今すべきことが何なのかもよくわからない。
いろいろなことが頭に浮かぶが、どれも深く考えることができずに消えてゆく。
【ハク】
(まずは仕事、だよなぁ……寮付きのバイトでも探すか)
【ハク】
(何日も藍建さんにお世話になるわけにもいかないし)
ちらりと隣に目をやると、さっき布団に入ったばかりだと言うのに既にぐっすり寝入っている藍建さんが見えた。
【ハク】
(でも、成り行きとはいえ昨日知り合ったような奴を泊めてくれるなんて、お人好しというか……)
【ハク】
(……とにかく、早くこの恩を返せるようにしないと)
いつの間にか俺は体の向きを変え、藍建さんの寝顔を眺めていた。
まだ出会って二日しか経っていないのにそれ以上に親しい仲であるかのように錯覚するのは、藍建さんの人柄もあるのだろう。
昨日のバーではにこにこしていたけど、今朝は刑事さんらしい険しい顔を見せていた。
【ハク】
(でも、寝顔は案外幼いんだな……)
【藍建】
「…………っ」
【ハク】
(……!?)
そのとき、何事もなく寝ていたはずの藍建さんの顔が急に歪む。
【ハク】
(魘されてる、のか……?)
【藍建】
「……っく、……」
先ほどまで穏やかに寝ていたのが嘘のように、藍建さんの眉間にひどく皺が寄っている。
それに、苦しそうに歯を噛み締めて息も荒い。
【ハク】
(そうか……刑事って言っても、俺と同じように人間なんだもんな)
【ハク】
(誰にだって、いろいろあるよな……)
もしかして、この人は毎晩こんな風に眠るんだろうか。
そう考えると、とにかく起こそうと伸ばしかけた手が止まる。
【藍建】
「…………」
【ハク】
(あ、戻った……)
俺が何をするべきかを迷っているうちに、彼の寝顔は元の安らかな顔になった。
【ハク】
(でも、一体何にこんなに魘されて……)
そこで俺は、昨日バーで藍建さんに初めて出会った時のことを思い出す。
【ハク】
(そういえば昨日も、自棄酒だって言ってたっけ)
自棄酒をあおる俺に向かって、『オレも自棄酒なんだ』。そう言って笑っていた。
だが、その笑顔の裏ではこんな風に苦しんでいたのかもしれない。
【ハク】
(藍建さんは、昨日今日知り合ったような俺を家に泊めてくれるほどに優しいから……きっと、つらいことも山ほどあるんだろう)
結局、その後も俺が眠りに落ちるまで藍建さんは断続的に魘されているようだった。
俺は何もできずに、いつしか自分も眠りに落ちていた……。
【ハク】
(あれ……朝……?)
【ハク】
(ここは……)
目を覚ました俺は、まるで昨日と同じ様な思考回路を辿る。
畳敷きの部屋を見回して、やっとここがどこかを認識した。
【ハク】
(そうだ、昨日は藍建さんの家に……)
昨夜は上手く寝付けずにいろいろと考え事をしていたが、いつのまにか寝ていたようだ。
慌てて体を起こすが、隣には既に藍建さんの姿はない。
代わりに、キッチンの方からいい匂いがするのに気付く。
そろそろと起き上がって覗いてみると、そこには台所に立つ藍建さんの姿があった。
【ハク】
「あ、あの……」
【藍建】
「お、起きたか。おはよう」
なんと声をかけていいのかわからずに曖昧な声を出すと、藍建さんが振り返ってくれた。
昨夜魘されていたとは思えないほど、朝からすがすがしい表情だ。
【ハク】
「おはようございます」
【藍建】
「よく眠れたか?……って、そんなわけないよな、ごめん」
【ハク】
「いえ俺の方こそ、こんな……遅くまで寝ててすみません。藍建さん、お仕事とかありますよね」
【藍建】
「いや、今日は非番だから一日休みだよ」
【ハク】
「そうなんですか?」
【藍建】
「……って言っても、昨日みたいに呼び出されたら出勤しなきゃならないんだけどね」
藍建さんは料理を皿に移しながらいたずらっぽい笑みを浮かべた。
どうやら俺の分まで用意してくれたみたいだ。
【藍建】
「さて、ちょうど準備もできたところだし。朝飯、食うだろ?」
【ハク】
「は、はい。いただきます」
【藍建】
「簡単なもので悪いけどさ」
【ハク】
「そんなことないです」
首を振りながら言ったこの言葉は本心だった。
食卓に並んでいるのはご飯と味噌汁と納豆。
それに少々形は崩れているが、たった今できたばかりの目玉焼き。
どれも美味しそうなものばかりだ。
俺自身も朝はパンよりご飯派なので有難い。
テーブルに移動しながら、俺は昨日気になったことをなんとなく口に出していた。
【ハク】
「藍建さん、そういえば……」
【藍建】
「ん?」
【ハク】
「昨日の夜、魘されてたみたいでしたけど……その、大丈夫、ですか?」
【藍建】
「え?あぁ~……そうか。うん、まぁ……」
【藍建】
「そんなことより、座って座って」
藍建さんは一瞬焦ったような表情のあと、すぐに普段の顔に戻った。
それにしても、歯切れの悪い返答だ。
あまり触れられたくない話題だったのかもしれない。
俺も目の前の朝食に頭をを切り替えることにした。
【ハク】
「じゃあ、失礼します」
【ハク】
「あ、この目玉焼き、藍建さんの手作りですか?」
【藍建】
「はは、ちょっと形が崩れちゃったけどね」
【ハク】
「いえ、おいしそうです。いただきます」
誰かに作ってもらう朝食は久しぶりだ。
そのまま二人で朝食を食べている最中、不意に藍建さんに切り出された。
【藍建】
「ハクくんは、これからどうするつもりなんだ?」
それは今日の天気を話題にするような何気ない口調だった。
だが、聞かれた内容は昨夜俺が考えても答えの出なかったことについてだ。
そりゃ、昨日今日知り合ったような奴がいつまでも家にいたら迷惑だ。
【ハク】
「そう、ですね。とりあえず住み込みか、寮付きのバイトでも探そうかと……」
俺は昨夜考えたことをそのまま伝える。
住まいを確保しながら働ける環境は、これぐらいしか思いつかなかった。
しかし、次の言葉は俺の予想とは少し違っていた。
俺が思う以上に、藍建さんは優しい人だったのだ。
【藍建】
「いや、別に早く出て行ってくれって言うわけじゃないよ」
【藍建】
「というか……もし行く当てがないなら、しばらくウチにいてもいいんだぞ?」
【ハク】
「でも、そういうわけにも行きません」
すると藍建さんは優しい口調でこう言った。
【藍建】
「見ての通り男の一人暮らしだし、広くはないけど二部屋あるし……」
【藍建】
「こういう時は遠慮するな。出世払いでいいから、な?」
にこにこ笑ってそう言う藍建さんを見ると、甘えていいんだと錯覚してしまう。
藍建さんが俺にそこまでする義理はない……断らなければ。
しかし、俺の口から出たのは別の言葉だった。
【ハク】
「……本当に、良いんですか?」
【藍建】
「ああ。……オレも、一人でいるより気が楽だ」
【ハク】
「えっ……?」
一瞬だけ、藍建さんが表情に陰りを見せる。
【ハク】
(一人でいるより……?どういう意味だろう)
【ハク】
(もしかしたら、この人は俺が考えている以上に闇を抱えているのかもしれない……)
だが、藍建さんがそんな表情を見せたのは本当にその一瞬だけだった。
【藍建】
「さあ、そうと決まれば買い物だ。キミ、服だってろくにないだろう」
【ハク】
「あ……」
確かに藍建さんの言うとおり、服や下着、ほかの日用品も火事で燃えてしまった。
今の俺の全財産は一揃いの服と、バーに行くときに持って出た鞄とその中身だけだ。
【藍建】
「ま、駅前のデパートに行けばだいたい揃うだろう」
こうして俺は、藍建さんに連れられて駅前のデパートへと出発した。
そこでも新たな再会が待っているとなんて、考えもせずに……。
続く…