[本編] 藍建 仁 編
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焼け跡のアパートから二人で近くの喫茶店に移動する。
まだランチには少し早いくらいの時間で、店内の客もそう多くなかった。
先に席に着いた藍建さんの向かいに、俺も腰かける。
すぐにやって来た店員に二人して適当なセットメニューを注文し、一息ついたところで俺はずっと気になっていたことを切り出した。
【ハク】
「あの……」
【藍建】
「ん?」
【ハク】
「昨日の夜のことなんですけど、俺、ほとんど覚えてなくて……」
【ハク】
「もしかして藍建さんにご迷惑をおかけしたんじゃないかと……」
言っているうちに語尾が小さくなってしまう。
……今朝、俺は一人入った記憶のないビジネスホテルで目を覚ました。それも、衣服を身にまとっていない状態で。
昨夜のことで覚えていることと言えば、バーで待ちぼうけを食らい、その場で知り合った藍建さんと意気投合したところまでだ。
だが、藍建さんはなんでもないように笑った。
【藍建】
「平気平気、気にすることないよ」
【ハク】
「でも!」
【藍建】
「いや、実をいうとオレも良くは覚えてなくて……」
藍建さんは苦笑して口をひらく。
……彼の語るところによると、昨夜は二人してあのままバーで愚痴を言い合いながら相当酔っ払ってしまったようだ。
べろべろになった俺をこのまま帰すのは危険だと判断した藍建さんは、ホテルに連れて行って介抱してくれたらしい。
そして今朝方のアパートの火事……。
この一件で藍建さんは呼び出され、俺が一人で目覚めるに至る、というわけだ。
【ハク】
「そんな……やっぱり俺、迷惑かけたんじゃないですか。本当に、すみません」
【藍建】
「いやいや、いいんだって」
俺が申し訳ない思いで頭を下げていると、ちょうど注文していた料理がテーブルへと運ばれてきた。
【藍建】
「ほら、料理もきたことだし食べよう」
【ハク】
「……はい」
藍建さんに促され、会話を中断し料理を口に運ぶ。
喫茶店のモーニングメニューなのでホットサンドとサラダ程度だが、意外に具沢山で空腹にも満足できる量だった。
【藍建】
「うん、美味いじゃないか。キミ、いいとこ知ってるな」
【ハク】
「お口にあったのなら、よかったです」
その後は、俺を落ち着かせるためなのか藍建さんも事件の話よりも普通の世間話をしていたように思う。
さて、腹が満たされたところで、そろそろ席を立つかというときだ。
【藍建】
「じゃあ宣言通り、ここはオレが出すよ」
先ほど言った言葉の通り、藍建さんが伝票を持ってレジに向かおうとする。
だが俺はそれを引きとめた。
【ハク】
「そんな、ホテルの代金も藍建さんが支払ってくれてたんですよね?」
【ハク】
「せめてここは、俺に出させてください」
そう言って財布を取り出す。
だが、中身を見た俺は今置かれている状況を思い出した。
【ハク】
(千円札が何枚かと、小銭が少し……)
ここの支払いをする程度の金額は入っている。だが、逆を言えばその程度しかない。
今の俺は家を焼け出されて、事実無一文で放り出されている状態だ。
何せ、会社をクビになった直後だったのだ。
【ハク】
(クレジットカードはあるけど……そんなには使えないよな)
失業保険が下りるまでしばらくかかるし、銀行口座にも蓄えと呼べるほどのものはない。
【ハク】
(それどころか、俺は今日寝る場所すらないじゃないか……)
冷静に頭が回り始めると、ぞっとする現実が再び俺にのしかかる。
気が付けば、俺は財布を持った姿勢のまま動けずにいた。
すると固まったままの俺を気遣ってくれたのか、藍建さんがぽんと肩を叩いてくる。
【藍建】
「これから何かと大変だろうし、やっぱりここはおじさんにカッコつけさせてくれよ」
【ハク】
「これから……」
家財道具はアパートの火事で一切合財燃えてしまったし、仕事もない上に住む場所もなくなった。
就職活動をしようにも、スーツもない。とにかく、衣食住すべてが足りないのだ。
【ハク】
「これから、どうやって生きて行けば……」
この先のことを考えると、なんだか目の前が真っ暗になったようで、めまいすら感じる。
【藍建】
「……これも何かの縁だ。しばらくウチに来るか?」
突然の、願ってもない申し出だった。
俺は…藍建さんに悪いと思った。
【ハク】
(えっ……)
しかし、いくら藍建さんが刑事だからって、昨日知り合ったばかりの奴にこんなことまでする義理はないはずだ。
【ハク】
「でも、ご家族も困るでしょうし」
【藍建】
「平気平気。オレは一人者だから」
【藍建】
「困ったときはお互い様って言うだろ?きれいなとこじゃないけどさ」
もし俺が藍建さんの立場だったら、こうはいかないだろう。
知り合ったばかりの男を泊めるなんて、面倒なことに違いない。
それなのに、藍建さんはまるでなんでもない風に笑う。
なぜだかその笑顔に、俺はいま縋っていいのだと思えた。
【ハク】
「あの、知り合ったばかりなのに、ずうずうしいですけど……」
【ハク】
「藍建さんがよければ、お願いします……!」
思い切って、俺は頭を下げる。
そんな俺を、藍建さんは受け入れてくれた。
【藍建】
「よしっ、それじゃ決まりだな」
【藍建】
「えーっと、俺はこの後また仕事が残ってるから、夕方に待ち合わせでどうだ」
【ハク】
「わかりました」
【藍建】
「頃合いを見て連絡する。ここの会計は済ませとくから、ゆっくりしていきなよ」
そう言うと藍建さんは先ほど掴んだ伝票とともにレジへと向かい、清算を済ませると店を出て行った。
【ハク】
(藍建さん、優しい人なんだな……)
こうして俺は今夜、藍建さんの家にお世話になることになったのだった。
藍建さんの言ったとおり、昼過ぎに携帯に電話があった。
伝えられたのは夜になる前には仕事が終わりそうだと言うことと、待ち合わせの場所と時間。
火事で住むところも失くした俺に、藍建さんは親切にもしばらくウチへ来ないかと言ってくれた。
どこにも行くあてのない俺は、彼のその言葉に甘えることにしたのだ。
……そして俺は現在、その待ち合わせ場所に居た。
【ハク】
(待ち合わせの時間まであと10分か……)
待ち合わせの場所は、とある駅の出口だ。
聞いたところ、藍建さんの家の最寄駅らしい。
ここはそれほど大きい駅ではないので誰かが来たらすぐにわかるはずなのだが、今のところ彼の姿はない。
それどころか、俺は藍建さんを探してキョロキョロ辺りを見回すうちに思いもよらない人物と再会してしまった。
【赤屋】
「お前……ハクか?」
急に目の前の男性に声をかけられる。
【ハク】
「えっ?」
ハク、というのは高校時代の俺の呼び名だ。
こんなところで聞く思いもよらない単語に、俺はその言葉を発した目の前の人物をまじまじと見つめてしまう。
赤い髪に、俺より20センチほど高い長身。体格が良く、少し威圧感がある。
いかつい見た目だが、その優しげな目には見覚えがあった。
【ハク】
「……もしかして、リュウ?」
【赤屋】
「ああ。久しぶりだな、ハク」
リュウ……赤屋竜次は、高校時代の仲間の一人だ。
学年は違うが兄貴肌なリュウに、俺は弟のように可愛がってもらっていた。
だが、こうして会うのは10年以上ぶりだ。
まだランチには少し早いくらいの時間で、店内の客もそう多くなかった。
先に席に着いた藍建さんの向かいに、俺も腰かける。
すぐにやって来た店員に二人して適当なセットメニューを注文し、一息ついたところで俺はずっと気になっていたことを切り出した。
【ハク】
「あの……」
【藍建】
「ん?」
【ハク】
「昨日の夜のことなんですけど、俺、ほとんど覚えてなくて……」
【ハク】
「もしかして藍建さんにご迷惑をおかけしたんじゃないかと……」
言っているうちに語尾が小さくなってしまう。
……今朝、俺は一人入った記憶のないビジネスホテルで目を覚ました。それも、衣服を身にまとっていない状態で。
昨夜のことで覚えていることと言えば、バーで待ちぼうけを食らい、その場で知り合った藍建さんと意気投合したところまでだ。
だが、藍建さんはなんでもないように笑った。
【藍建】
「平気平気、気にすることないよ」
【ハク】
「でも!」
【藍建】
「いや、実をいうとオレも良くは覚えてなくて……」
藍建さんは苦笑して口をひらく。
……彼の語るところによると、昨夜は二人してあのままバーで愚痴を言い合いながら相当酔っ払ってしまったようだ。
べろべろになった俺をこのまま帰すのは危険だと判断した藍建さんは、ホテルに連れて行って介抱してくれたらしい。
そして今朝方のアパートの火事……。
この一件で藍建さんは呼び出され、俺が一人で目覚めるに至る、というわけだ。
【ハク】
「そんな……やっぱり俺、迷惑かけたんじゃないですか。本当に、すみません」
【藍建】
「いやいや、いいんだって」
俺が申し訳ない思いで頭を下げていると、ちょうど注文していた料理がテーブルへと運ばれてきた。
【藍建】
「ほら、料理もきたことだし食べよう」
【ハク】
「……はい」
藍建さんに促され、会話を中断し料理を口に運ぶ。
喫茶店のモーニングメニューなのでホットサンドとサラダ程度だが、意外に具沢山で空腹にも満足できる量だった。
【藍建】
「うん、美味いじゃないか。キミ、いいとこ知ってるな」
【ハク】
「お口にあったのなら、よかったです」
その後は、俺を落ち着かせるためなのか藍建さんも事件の話よりも普通の世間話をしていたように思う。
さて、腹が満たされたところで、そろそろ席を立つかというときだ。
【藍建】
「じゃあ宣言通り、ここはオレが出すよ」
先ほど言った言葉の通り、藍建さんが伝票を持ってレジに向かおうとする。
だが俺はそれを引きとめた。
【ハク】
「そんな、ホテルの代金も藍建さんが支払ってくれてたんですよね?」
【ハク】
「せめてここは、俺に出させてください」
そう言って財布を取り出す。
だが、中身を見た俺は今置かれている状況を思い出した。
【ハク】
(千円札が何枚かと、小銭が少し……)
ここの支払いをする程度の金額は入っている。だが、逆を言えばその程度しかない。
今の俺は家を焼け出されて、事実無一文で放り出されている状態だ。
何せ、会社をクビになった直後だったのだ。
【ハク】
(クレジットカードはあるけど……そんなには使えないよな)
失業保険が下りるまでしばらくかかるし、銀行口座にも蓄えと呼べるほどのものはない。
【ハク】
(それどころか、俺は今日寝る場所すらないじゃないか……)
冷静に頭が回り始めると、ぞっとする現実が再び俺にのしかかる。
気が付けば、俺は財布を持った姿勢のまま動けずにいた。
すると固まったままの俺を気遣ってくれたのか、藍建さんがぽんと肩を叩いてくる。
【藍建】
「これから何かと大変だろうし、やっぱりここはおじさんにカッコつけさせてくれよ」
【ハク】
「これから……」
家財道具はアパートの火事で一切合財燃えてしまったし、仕事もない上に住む場所もなくなった。
就職活動をしようにも、スーツもない。とにかく、衣食住すべてが足りないのだ。
【ハク】
「これから、どうやって生きて行けば……」
この先のことを考えると、なんだか目の前が真っ暗になったようで、めまいすら感じる。
【藍建】
「……これも何かの縁だ。しばらくウチに来るか?」
突然の、願ってもない申し出だった。
俺は…藍建さんに悪いと思った。
【ハク】
(えっ……)
しかし、いくら藍建さんが刑事だからって、昨日知り合ったばかりの奴にこんなことまでする義理はないはずだ。
【ハク】
「でも、ご家族も困るでしょうし」
【藍建】
「平気平気。オレは一人者だから」
【藍建】
「困ったときはお互い様って言うだろ?きれいなとこじゃないけどさ」
もし俺が藍建さんの立場だったら、こうはいかないだろう。
知り合ったばかりの男を泊めるなんて、面倒なことに違いない。
それなのに、藍建さんはまるでなんでもない風に笑う。
なぜだかその笑顔に、俺はいま縋っていいのだと思えた。
【ハク】
「あの、知り合ったばかりなのに、ずうずうしいですけど……」
【ハク】
「藍建さんがよければ、お願いします……!」
思い切って、俺は頭を下げる。
そんな俺を、藍建さんは受け入れてくれた。
【藍建】
「よしっ、それじゃ決まりだな」
【藍建】
「えーっと、俺はこの後また仕事が残ってるから、夕方に待ち合わせでどうだ」
【ハク】
「わかりました」
【藍建】
「頃合いを見て連絡する。ここの会計は済ませとくから、ゆっくりしていきなよ」
そう言うと藍建さんは先ほど掴んだ伝票とともにレジへと向かい、清算を済ませると店を出て行った。
【ハク】
(藍建さん、優しい人なんだな……)
こうして俺は今夜、藍建さんの家にお世話になることになったのだった。
藍建さんの言ったとおり、昼過ぎに携帯に電話があった。
伝えられたのは夜になる前には仕事が終わりそうだと言うことと、待ち合わせの場所と時間。
火事で住むところも失くした俺に、藍建さんは親切にもしばらくウチへ来ないかと言ってくれた。
どこにも行くあてのない俺は、彼のその言葉に甘えることにしたのだ。
……そして俺は現在、その待ち合わせ場所に居た。
【ハク】
(待ち合わせの時間まであと10分か……)
待ち合わせの場所は、とある駅の出口だ。
聞いたところ、藍建さんの家の最寄駅らしい。
ここはそれほど大きい駅ではないので誰かが来たらすぐにわかるはずなのだが、今のところ彼の姿はない。
それどころか、俺は藍建さんを探してキョロキョロ辺りを見回すうちに思いもよらない人物と再会してしまった。
【赤屋】
「お前……ハクか?」
急に目の前の男性に声をかけられる。
【ハク】
「えっ?」
ハク、というのは高校時代の俺の呼び名だ。
こんなところで聞く思いもよらない単語に、俺はその言葉を発した目の前の人物をまじまじと見つめてしまう。
赤い髪に、俺より20センチほど高い長身。体格が良く、少し威圧感がある。
いかつい見た目だが、その優しげな目には見覚えがあった。
【ハク】
「……もしかして、リュウ?」
【赤屋】
「ああ。久しぶりだな、ハク」
リュウ……赤屋竜次は、高校時代の仲間の一人だ。
学年は違うが兄貴肌なリュウに、俺は弟のように可愛がってもらっていた。
だが、こうして会うのは10年以上ぶりだ。