[本編] 桃島 光彦 編
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―――1年後。
【上司】
「ハクくん、これコピーお願い」
【ハク】
「はいっ!」
俺は再就職先の食品メーカーで平凡なサラリーマン生活を送っている。
【上司】
「どうだい、今度の新商品は売れそうかね?」
【ハク】
「はい、お肌に良い成分を含んでいて女性にも大人気です」
【上司】
「キミには期待しているからね~。ぜひ成功してもらいたいね」
【ハク】
「ありがとうございます、頑張ります!」
びっくりするぐらい、まともな毎日だ。
ホストクラブで働いていたことも、刃傷沙汰になったことも……まるで夢の中の出来事みたいで。
―――あの後。
【ハク】
「桃島さんが……いなくなった!?」
【緑川】
「ああ……深夜に病院から抜け出したらしい」
【緑川】
「寮にも戻っていないだろう?」
【ハク】
「荷物も全部そのままでした……」
【緑川】
「身体ひとつで逃げたか……」
桃島さんは行方不明になってしまった。
幸いにも傷は浅く、後もほとんど残らないとはいえ縫合手術までしたのに。
【ハク】
「なんで、逃げて……」
【緑川】
「……耐えられなかったんだろう」
【ハク】
「……」
桃島さんの気持ちは複雑なものだった。
【ハク】
(緑川さんに知られたくない気持ちと、あんなことをしてくる香月さん……)
【ハク】
(しかも自分を想っていたなんて……恩人であることは確かだし、邪険にはできなかったのか……)
桃島さんの心の闇は俺たちが思っている以上に深く、暗いものだった。
【緑川】
「それから……こういうことは重なるものでね」
緑川さんは一冊の週刊誌を見せてくれる。
そこには……あの日、血まみれになってしゃがみこむ桃島さんの姿があった。
ご丁寧に『久々津組御用達ホストクラブ・恋の刃傷沙汰!』なんて見出しまで入っている。
【ハク】
「何ですか、これ!」
【緑川】
「あの時のお客にどうやら記者がいたらしい」
【緑川】
「テルはこの記事が出る前に、こうなることを知っていたらしいんだ」
【緑川】
「……ユキには申し訳ないけど、こうなったらあの店はもう営業できない」
【ハク】
「え……!?」
【緑川】
「……店が潰れるのも自分のせいだって思い込んで、テルは逃げたんだろう」
【ハク】
「そんな……!」
【緑川】
「……難しいよ。人間の気持ちは……わからない」
【ハク】
「……」
【ハク】
(桃島さんは見つからない……)
【ハク】
(まるで彼の存在が幻だったみたいだ……)
【上司】
「ハクくん!」
【ハク】
「は、はい! 何でしょう?」
【上司】
「いやあ、キミのプレゼン資料は本当によく出来ていると思ってね」
【上司】
「ハクくんはここに来る前、どこで働いていたんだい?」
【ハク】
「……!」
【ハク】
(ホストクラブ、だなんて……言えるわけない……)
俺は逡巡したのち、その前に勤めていた会社の名前を言った。
【上司】
「へえ、さすがだな」
【ハク】
「ありがとうございます……」
そうやって経歴を偽ってしまえば……もう本当に、あんな時間などなかったように。
【ハク】
(夢でも見ていたのかな……)
―――後日、赤屋から連絡が入っていた。
取り乱していた香月はしばらく久々津組に捕らわれていたらしいが、ある日起きたら姿を消していた……と。
誰も……桃島さんや香月さんの行方は知らないそうだ。
【ハク】
(離れ離れ、か……)
―――でも、確かにそこにあったのだ。
桃島さんや……他のみんなと過ごした、あの日々は。
俺だけしか知らない思い出の中で、桃島さんはいつまでも……
いつまでも……
笑っているのだ。
完
【上司】
「ハクくん、これコピーお願い」
【ハク】
「はいっ!」
俺は再就職先の食品メーカーで平凡なサラリーマン生活を送っている。
【上司】
「どうだい、今度の新商品は売れそうかね?」
【ハク】
「はい、お肌に良い成分を含んでいて女性にも大人気です」
【上司】
「キミには期待しているからね~。ぜひ成功してもらいたいね」
【ハク】
「ありがとうございます、頑張ります!」
びっくりするぐらい、まともな毎日だ。
ホストクラブで働いていたことも、刃傷沙汰になったことも……まるで夢の中の出来事みたいで。
―――あの後。
【ハク】
「桃島さんが……いなくなった!?」
【緑川】
「ああ……深夜に病院から抜け出したらしい」
【緑川】
「寮にも戻っていないだろう?」
【ハク】
「荷物も全部そのままでした……」
【緑川】
「身体ひとつで逃げたか……」
桃島さんは行方不明になってしまった。
幸いにも傷は浅く、後もほとんど残らないとはいえ縫合手術までしたのに。
【ハク】
「なんで、逃げて……」
【緑川】
「……耐えられなかったんだろう」
【ハク】
「……」
桃島さんの気持ちは複雑なものだった。
【ハク】
(緑川さんに知られたくない気持ちと、あんなことをしてくる香月さん……)
【ハク】
(しかも自分を想っていたなんて……恩人であることは確かだし、邪険にはできなかったのか……)
桃島さんの心の闇は俺たちが思っている以上に深く、暗いものだった。
【緑川】
「それから……こういうことは重なるものでね」
緑川さんは一冊の週刊誌を見せてくれる。
そこには……あの日、血まみれになってしゃがみこむ桃島さんの姿があった。
ご丁寧に『久々津組御用達ホストクラブ・恋の刃傷沙汰!』なんて見出しまで入っている。
【ハク】
「何ですか、これ!」
【緑川】
「あの時のお客にどうやら記者がいたらしい」
【緑川】
「テルはこの記事が出る前に、こうなることを知っていたらしいんだ」
【緑川】
「……ユキには申し訳ないけど、こうなったらあの店はもう営業できない」
【ハク】
「え……!?」
【緑川】
「……店が潰れるのも自分のせいだって思い込んで、テルは逃げたんだろう」
【ハク】
「そんな……!」
【緑川】
「……難しいよ。人間の気持ちは……わからない」
【ハク】
「……」
【ハク】
(桃島さんは見つからない……)
【ハク】
(まるで彼の存在が幻だったみたいだ……)
【上司】
「ハクくん!」
【ハク】
「は、はい! 何でしょう?」
【上司】
「いやあ、キミのプレゼン資料は本当によく出来ていると思ってね」
【上司】
「ハクくんはここに来る前、どこで働いていたんだい?」
【ハク】
「……!」
【ハク】
(ホストクラブ、だなんて……言えるわけない……)
俺は逡巡したのち、その前に勤めていた会社の名前を言った。
【上司】
「へえ、さすがだな」
【ハク】
「ありがとうございます……」
そうやって経歴を偽ってしまえば……もう本当に、あんな時間などなかったように。
【ハク】
(夢でも見ていたのかな……)
―――後日、赤屋から連絡が入っていた。
取り乱していた香月はしばらく久々津組に捕らわれていたらしいが、ある日起きたら姿を消していた……と。
誰も……桃島さんや香月さんの行方は知らないそうだ。
【ハク】
(離れ離れ、か……)
―――でも、確かにそこにあったのだ。
桃島さんや……他のみんなと過ごした、あの日々は。
俺だけしか知らない思い出の中で、桃島さんはいつまでも……
いつまでも……
笑っているのだ。
完