[本編] 桃島 光彦 編
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【桃島】
「……モモ……」
俺は自分の源氏名を自分で呼んでみた。
【緑川】
「傷つきやすくて柔らかいけど、一皮剥けばその甘さは中毒になる」
【緑川】
「ホストにぴったりじゃない?」
初めての接客はさんざんだった。
おしぼりの渡し方が上目線だとか、ワインのボトルの上下もわからないとか。
でもそんなミスをしでかすたびに、先輩……緑川さんがそっとフォローしてくれた。
【緑川】
「お姉さん、俺のことそんなに待たせて楽しい?」
「待たせてるのはどっちよぉ~」
「ねえ、たまにはこっちも向いてよ」
【緑川】
「えー、どうしようかなあ。こっちのお姉さんは俺に優しくしてくれるの?」
「もちろんよ」
【緑川】
「嘘、俺に冷たくして楽しんでる目をしてる」
「バレちゃった?」
【緑川】
「お見通しですよ」
【桃島】
(緑川さん、すげーな……)
客のニーズを絶妙につかんで、トークまで変えている。
優しくされたいのか、ちょっと突き放してから迫ってきてほしいのか、甘やかしてほしいのか。
ウィットに富んだトークもお手の物。動揺したって酒を間違えることは絶対にない。
細やかな人間観察と、求めるものの再現性。
近くにいればいるほどわかる。
正直、初対面であんなことを言ってしまって今は猛反省している。
先輩、……緑川さんには、見習うところしかない。
【緑川】
「お疲れ様、テル」
仕事が終わって、源氏名ではなく本名で緑川さんがねぎらってくれた。
【桃島】
「お疲れ様です」
【緑川】
「才能、やっぱりあるね」
【桃島】
「……は?」
【緑川】
「ホストの才能。テルには絶対あるよ」
【桃島】
「そんな……アンタに言われたら嫌味でしかない……」
【緑川】
「素直に受け取ってほしいな。俺、嘘は言わないよ?」
【桃島】
「……」
……そんな風に言われて、嬉しくなかったと言ったら嘘だ。
生きている意味さえ感じられない日々から……こんなに希望を掬い出してくれる。
【桃島】
「……」
【緑川】
「テルが必要なんだ、一緒に頑張ってみない?」
―――『必要』と言ってくれた。
絶望の淵にいた俺が、何より求めていた言葉。
居場所を作ってくれて、俺を必要としてくれる……。
【桃島】
「……よろしくお願いします」
【緑川】
「よろしくね。……テルなら、すぐに一流のホストになれるよ」
【ハク】
「…………」
【ハク】
「そんなことが……」
【ハク】
「素敵な出会いですね」
【桃島】
「……ま、俺は懐くととことんだから、それからは先輩……緑川さんにベッタリ」
【桃島】
「……だってあんな近くにあんな人がいたら……好きにならないわけ、ないでしょ」
【ハク】
「確かに……緑川さんは素敵な人です」
俺だって緑川さんに命を救われた身だ。
【桃島】
「……好きにならない方が、無理なんだよ」
苦しそうに、切ない声で桃島さんがそう言った。
【桃島】
「……普通に緑川さんのことを好きになっただけなら良かったんだけどな」
【ハク】
「桃島さん……」
そうだ……。
桃島さんは結局ずっと……逃れられなかったのだ。
【ハク】
「どうして香月さんと、今でも……」
【桃島】
「ほんっと、こればっかりは運命から逃れらんないなって思ったよ」
【桃島】
「まさかうちのホストクラブが久々津組の傘下だなんて」
【ハク】
「再会、してしまったんですね」
【桃島】
「あぁ。香月は久々津組のナンバー2の息子だ」
【桃島】
「あのホストクラブもオーナーは香月ってことになってる」
【桃島】
「俺がホストになったことはあっという間に香月にバレた」
【ハク】
(なんて皮肉な……)
俺は言葉もなかった。
一からやり直そうとした桃島さんを、また絶望の淵に引きずり戻す香月さんの存在に……。
【桃島】
「……俺、思ってること顔に出やすいんだろーね」
【桃島】
「あっとゆー間に香月にバレたよ。緑川さんのこと好きなんだろ、って」
【桃島】
「見つかったら当然借金もチャラになんかなるわけなくて……」
【桃島】
「結局今でも、緑川さんを盾されてアイツを抱き続けてる」
【ハク】
「桃島さん……!」
【桃島】
「抱きたくなんかない。緑川さんが好きなのに……」
【桃島】
「好きでいるためにアイツを抱いてるんだ」
【桃島】
「俺って何なんだろーな」
【桃島】
「……そんなことしてる限り、緑川さんが俺を好きになってくれることなんかないのに!」
【ハク】
(俺……それを緑川さんに……)
桃島さんが文字通り身体を張って緑川さんに隠してきた秘密を、俺がバラしてしまったと言うことに気付いた。
【桃島】
「なんで言っちまうんだよ……俺、嫌われただろ?」
【桃島】
「緑川さんにまで嫌われてたら俺……どうすればいいんだよっ……」
【ハク】
(だから桃島さん、ここのところ自暴自棄だったんだ……)
―――そこまで聞いて、俺は思った。
確かに桃島さんと香月さんのことを黙って緑川さんに相談してしまったことについては申し訳ないと思う。
でも……改めて、間違ってはいなかったと思うのだ。
「……モモ……」
俺は自分の源氏名を自分で呼んでみた。
【緑川】
「傷つきやすくて柔らかいけど、一皮剥けばその甘さは中毒になる」
【緑川】
「ホストにぴったりじゃない?」
初めての接客はさんざんだった。
おしぼりの渡し方が上目線だとか、ワインのボトルの上下もわからないとか。
でもそんなミスをしでかすたびに、先輩……緑川さんがそっとフォローしてくれた。
【緑川】
「お姉さん、俺のことそんなに待たせて楽しい?」
「待たせてるのはどっちよぉ~」
「ねえ、たまにはこっちも向いてよ」
【緑川】
「えー、どうしようかなあ。こっちのお姉さんは俺に優しくしてくれるの?」
「もちろんよ」
【緑川】
「嘘、俺に冷たくして楽しんでる目をしてる」
「バレちゃった?」
【緑川】
「お見通しですよ」
【桃島】
(緑川さん、すげーな……)
客のニーズを絶妙につかんで、トークまで変えている。
優しくされたいのか、ちょっと突き放してから迫ってきてほしいのか、甘やかしてほしいのか。
ウィットに富んだトークもお手の物。動揺したって酒を間違えることは絶対にない。
細やかな人間観察と、求めるものの再現性。
近くにいればいるほどわかる。
正直、初対面であんなことを言ってしまって今は猛反省している。
先輩、……緑川さんには、見習うところしかない。
【緑川】
「お疲れ様、テル」
仕事が終わって、源氏名ではなく本名で緑川さんがねぎらってくれた。
【桃島】
「お疲れ様です」
【緑川】
「才能、やっぱりあるね」
【桃島】
「……は?」
【緑川】
「ホストの才能。テルには絶対あるよ」
【桃島】
「そんな……アンタに言われたら嫌味でしかない……」
【緑川】
「素直に受け取ってほしいな。俺、嘘は言わないよ?」
【桃島】
「……」
……そんな風に言われて、嬉しくなかったと言ったら嘘だ。
生きている意味さえ感じられない日々から……こんなに希望を掬い出してくれる。
【桃島】
「……」
【緑川】
「テルが必要なんだ、一緒に頑張ってみない?」
―――『必要』と言ってくれた。
絶望の淵にいた俺が、何より求めていた言葉。
居場所を作ってくれて、俺を必要としてくれる……。
【桃島】
「……よろしくお願いします」
【緑川】
「よろしくね。……テルなら、すぐに一流のホストになれるよ」
【ハク】
「…………」
【ハク】
「そんなことが……」
【ハク】
「素敵な出会いですね」
【桃島】
「……ま、俺は懐くととことんだから、それからは先輩……緑川さんにベッタリ」
【桃島】
「……だってあんな近くにあんな人がいたら……好きにならないわけ、ないでしょ」
【ハク】
「確かに……緑川さんは素敵な人です」
俺だって緑川さんに命を救われた身だ。
【桃島】
「……好きにならない方が、無理なんだよ」
苦しそうに、切ない声で桃島さんがそう言った。
【桃島】
「……普通に緑川さんのことを好きになっただけなら良かったんだけどな」
【ハク】
「桃島さん……」
そうだ……。
桃島さんは結局ずっと……逃れられなかったのだ。
【ハク】
「どうして香月さんと、今でも……」
【桃島】
「ほんっと、こればっかりは運命から逃れらんないなって思ったよ」
【桃島】
「まさかうちのホストクラブが久々津組の傘下だなんて」
【ハク】
「再会、してしまったんですね」
【桃島】
「あぁ。香月は久々津組のナンバー2の息子だ」
【桃島】
「あのホストクラブもオーナーは香月ってことになってる」
【桃島】
「俺がホストになったことはあっという間に香月にバレた」
【ハク】
(なんて皮肉な……)
俺は言葉もなかった。
一からやり直そうとした桃島さんを、また絶望の淵に引きずり戻す香月さんの存在に……。
【桃島】
「……俺、思ってること顔に出やすいんだろーね」
【桃島】
「あっとゆー間に香月にバレたよ。緑川さんのこと好きなんだろ、って」
【桃島】
「見つかったら当然借金もチャラになんかなるわけなくて……」
【桃島】
「結局今でも、緑川さんを盾されてアイツを抱き続けてる」
【ハク】
「桃島さん……!」
【桃島】
「抱きたくなんかない。緑川さんが好きなのに……」
【桃島】
「好きでいるためにアイツを抱いてるんだ」
【桃島】
「俺って何なんだろーな」
【桃島】
「……そんなことしてる限り、緑川さんが俺を好きになってくれることなんかないのに!」
【ハク】
(俺……それを緑川さんに……)
桃島さんが文字通り身体を張って緑川さんに隠してきた秘密を、俺がバラしてしまったと言うことに気付いた。
【桃島】
「なんで言っちまうんだよ……俺、嫌われただろ?」
【桃島】
「緑川さんにまで嫌われてたら俺……どうすればいいんだよっ……」
【ハク】
(だから桃島さん、ここのところ自暴自棄だったんだ……)
―――そこまで聞いて、俺は思った。
確かに桃島さんと香月さんのことを黙って緑川さんに相談してしまったことについては申し訳ないと思う。
でも……改めて、間違ってはいなかったと思うのだ。