[本編] 桃島 光彦 編
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【桃島】
「香月が全部借金肩代わりして、俺は香月の言いなりになった」
「そんな……」
【桃島】
「断るなんてできなかった。今思えばハメられたのかな……ハクさんがそうだったみたいに」
【桃島】
「それで俺は1回10万で香月に買われてる。あれから、ずっと……」
【ハク】
「そんな……」
【桃島】
「アイツの性欲にもびっくりするよ。三日に一度は俺のこと呼び出すしね」
【桃島】
「……ここのところは週に4、多いときは5回行ってたかな」
【ハク】
「5回って……!」
(ほとんど毎日の時期もあったってことか……!?)
【桃島】
「アイツ、ゲイなんだけど本当はタチらしいんだわ」
【桃島】
「だけど俺には食指が動かねえとか言われて、俺にタチやらせて」
【桃島】
「食指が動かねぇんだったらなんでそんな呼び出すんだって話だよな」
【桃島】
「……で、俺はゲイの自覚もなかったから、最初はすげえ辛くて」
【桃島】
「本当にもう、死にたいって本気で考えてた」
【ハク】
「それは……そうですよね……」
もう俺はだいぶ参ってて……
解決するには死ぬしかないんだって思ってた。
―――その日も香月を抱いて……
確か、三日連続で抱いてたんじゃねぇかな。
好きでもない男を喘がせて、金もらって。
ほとんど会ったこともないくせに置くだけ置いて行った親父の借金にあてて。
そんな自分が本当にみじめで、馬鹿らしくて、汚れているように感じた―――。
【桃島】
「……」
その日は口で香月を喜ばせてたから、俺は顔も汚れてたと思う。
本当に嫌で、苦しくて、……泣きたくても、泣けなくて。
裸足で香月のマンションを飛び出して行った。
……もう死ぬんだから、靴なんかいらない。
車に飛び込んで死んでやろうって思ってた。
【桃島】
「……もう、いいや……」
死んだらせめて、今より楽になれる。
そう思って国道に飛び込もうとした俺を……
止めた男がいた。
【緑川】
「……目の前で死なれたら、気分悪いんだけど?」
【桃島】
「……!」
なんてきれいな顔してるんだろうって思った。
あんな美形、生まれてこの方見たことなかった。
それに、その時の俺はだいぶ汚れてたから……。
まるで、緑川さんが……神様みたいにきらきらして見えた―――。
【緑川】
「死のうとしてるの?」
【桃島】
「……関係ないじゃないッスか」
【緑川】
「関係ないから、話してよ」
【桃島】
「……は?」
【緑川】
「死にたい? それとも……逃げたい?」
【桃島】
「……!」
緑川さんの言葉にハッとさせられた。
【緑川】
「逃げたいだけなら、いいトコロがあるよ。お前みたいなのは多分成功する」
緑川さんが俺の顔を見てそう言ったのがわかった。
【緑川】
「お前みたいな……キレイなヤツならうまくやれる世界」
そう言って緑川さんは俺の顔にこびりついた香月の体液を指で拭い取ってくれる。
【桃島】
「キレイ? ……俺が?」
【緑川】
「そう。小さいころから言われてきたんじゃないの?」
【桃島】
「……どうだかな」
末っ子だったから、姉ちゃんや母さんは可愛い可愛いと言ってくれた。
でも愛想がある方じゃないし、そんなにモテた記憶もない。
【緑川】
「ツンツンしてるところも、魅力だよ。子どもにはわからないけど、大人なら虜になる」
【桃島】
「何、それ……」
【緑川】
「ホスト」
【桃島】
「はっ!?」
【緑川】
「うちのホストクラブにスカウトしてんの。
【緑川】
「寮有り、ノルマナシ、プライベートの詮索ナシ」
【緑川】
「けっこういい条件じゃない?」
【桃島】
「ホストなんて……俺には……」
あんなキラキラした金持ちの遊び場、俺には足を踏み入れる権利さえないような世界だ。
【緑川】
「深く考えなくて大丈夫。影があるのも……武器だよ」
緑川さんは俺の腕を引いて、近くのマンションに連れて行ってくれた。
雨は止まなかったけれど……
とりあえず俺は屋根のあるところに行くことが出来た―――。
【桃島】
「……すげー部屋」
緑川さんの部屋はめちゃくちゃ広かった。
家具も高そうなやつばっかりで、水だってなんかお洒落な瓶に入ってて。
世界が違うって一目見てわかった。
【緑川】
「ほら、拭いて」
真っ白なふわふわのタオルを手渡される。
【桃島】
「……」
俺は呆然としてしまって、動けなかった。
ほとんど年だって変わんないのに、世の中にはこんなに違う人間がいるんだって思ったら愕然とした……。
【緑川】
「拭かないと風邪ひくよ? この時期の風邪は長引くから」
そう言って緑川さんは俺の代わりに、髪を拭いてくれて……
顔や服の汚れもきれいに拭き取ってくれた。
【桃島】
「余計なことすんなよ」
【緑川】
「名前は?」
構わず緑川さんは尋ねた。
【桃島】
「質問するときはそっちから名乗るのが礼儀なんじゃねーの?」
俺はなんだか悔しくて、そう悪態をついてしまう。
【緑川】
「ハハ、そうだね。俺は緑川彰一。お前は?」
【桃島】
「……桃島、光彦」
【緑川】
「へえ、じゃあテルって呼ばせてもらおうかな」
【緑川】
「源氏名はモモかな。可愛いし」
【桃島】
「ちょっと待て! 俺はまだホストやるなんて……」
【緑川】
「逃げるにはうってつけの場所だと思うけどなぁ」
【桃島】
「逃げたいんじゃねえよ」
【桃島】
「俺は……死にたいんだよ……」
【緑川】
「死にたいやつはね、死にたいなんて言う前に死んじゃうんだよ」
【緑川】
「見ず知らずの他人の引きとめなんかかまわないでね」
【桃島】
「っ……」
止めたくせに。
俺は舌打ちした。
【桃島】
「俺なんか死んだ方がマシな人間なんだからほっとけよ」
【桃島】
「誰も悲しまない、俺が楽になるだけいいんだから」
【緑川】
「死んで誰も悲しまない人なんていないよ」
【桃島】
「だからっ」
【緑川】
「たとえばあの状況で死なれたら、俺は目の前で人が死んだ―――って悲しくなるね」
【緑川】
「それが全然知らないお前のような人でも」
【桃島】
「ああ言えばこう言うっ……」
【緑川】
「俺、何か間違ってるか?」
【桃島】
「……クソッ……」
思わず汚い言葉を吐いた。
―――思えばあの時からもうすでに、俺は緑川さんの手のひらの上で転がされてたんだ―――。
続く…
「香月が全部借金肩代わりして、俺は香月の言いなりになった」
「そんな……」
【桃島】
「断るなんてできなかった。今思えばハメられたのかな……ハクさんがそうだったみたいに」
【桃島】
「それで俺は1回10万で香月に買われてる。あれから、ずっと……」
【ハク】
「そんな……」
【桃島】
「アイツの性欲にもびっくりするよ。三日に一度は俺のこと呼び出すしね」
【桃島】
「……ここのところは週に4、多いときは5回行ってたかな」
【ハク】
「5回って……!」
(ほとんど毎日の時期もあったってことか……!?)
【桃島】
「アイツ、ゲイなんだけど本当はタチらしいんだわ」
【桃島】
「だけど俺には食指が動かねえとか言われて、俺にタチやらせて」
【桃島】
「食指が動かねぇんだったらなんでそんな呼び出すんだって話だよな」
【桃島】
「……で、俺はゲイの自覚もなかったから、最初はすげえ辛くて」
【桃島】
「本当にもう、死にたいって本気で考えてた」
【ハク】
「それは……そうですよね……」
もう俺はだいぶ参ってて……
解決するには死ぬしかないんだって思ってた。
―――その日も香月を抱いて……
確か、三日連続で抱いてたんじゃねぇかな。
好きでもない男を喘がせて、金もらって。
ほとんど会ったこともないくせに置くだけ置いて行った親父の借金にあてて。
そんな自分が本当にみじめで、馬鹿らしくて、汚れているように感じた―――。
【桃島】
「……」
その日は口で香月を喜ばせてたから、俺は顔も汚れてたと思う。
本当に嫌で、苦しくて、……泣きたくても、泣けなくて。
裸足で香月のマンションを飛び出して行った。
……もう死ぬんだから、靴なんかいらない。
車に飛び込んで死んでやろうって思ってた。
【桃島】
「……もう、いいや……」
死んだらせめて、今より楽になれる。
そう思って国道に飛び込もうとした俺を……
止めた男がいた。
【緑川】
「……目の前で死なれたら、気分悪いんだけど?」
【桃島】
「……!」
なんてきれいな顔してるんだろうって思った。
あんな美形、生まれてこの方見たことなかった。
それに、その時の俺はだいぶ汚れてたから……。
まるで、緑川さんが……神様みたいにきらきらして見えた―――。
【緑川】
「死のうとしてるの?」
【桃島】
「……関係ないじゃないッスか」
【緑川】
「関係ないから、話してよ」
【桃島】
「……は?」
【緑川】
「死にたい? それとも……逃げたい?」
【桃島】
「……!」
緑川さんの言葉にハッとさせられた。
【緑川】
「逃げたいだけなら、いいトコロがあるよ。お前みたいなのは多分成功する」
緑川さんが俺の顔を見てそう言ったのがわかった。
【緑川】
「お前みたいな……キレイなヤツならうまくやれる世界」
そう言って緑川さんは俺の顔にこびりついた香月の体液を指で拭い取ってくれる。
【桃島】
「キレイ? ……俺が?」
【緑川】
「そう。小さいころから言われてきたんじゃないの?」
【桃島】
「……どうだかな」
末っ子だったから、姉ちゃんや母さんは可愛い可愛いと言ってくれた。
でも愛想がある方じゃないし、そんなにモテた記憶もない。
【緑川】
「ツンツンしてるところも、魅力だよ。子どもにはわからないけど、大人なら虜になる」
【桃島】
「何、それ……」
【緑川】
「ホスト」
【桃島】
「はっ!?」
【緑川】
「うちのホストクラブにスカウトしてんの。
【緑川】
「寮有り、ノルマナシ、プライベートの詮索ナシ」
【緑川】
「けっこういい条件じゃない?」
【桃島】
「ホストなんて……俺には……」
あんなキラキラした金持ちの遊び場、俺には足を踏み入れる権利さえないような世界だ。
【緑川】
「深く考えなくて大丈夫。影があるのも……武器だよ」
緑川さんは俺の腕を引いて、近くのマンションに連れて行ってくれた。
雨は止まなかったけれど……
とりあえず俺は屋根のあるところに行くことが出来た―――。
【桃島】
「……すげー部屋」
緑川さんの部屋はめちゃくちゃ広かった。
家具も高そうなやつばっかりで、水だってなんかお洒落な瓶に入ってて。
世界が違うって一目見てわかった。
【緑川】
「ほら、拭いて」
真っ白なふわふわのタオルを手渡される。
【桃島】
「……」
俺は呆然としてしまって、動けなかった。
ほとんど年だって変わんないのに、世の中にはこんなに違う人間がいるんだって思ったら愕然とした……。
【緑川】
「拭かないと風邪ひくよ? この時期の風邪は長引くから」
そう言って緑川さんは俺の代わりに、髪を拭いてくれて……
顔や服の汚れもきれいに拭き取ってくれた。
【桃島】
「余計なことすんなよ」
【緑川】
「名前は?」
構わず緑川さんは尋ねた。
【桃島】
「質問するときはそっちから名乗るのが礼儀なんじゃねーの?」
俺はなんだか悔しくて、そう悪態をついてしまう。
【緑川】
「ハハ、そうだね。俺は緑川彰一。お前は?」
【桃島】
「……桃島、光彦」
【緑川】
「へえ、じゃあテルって呼ばせてもらおうかな」
【緑川】
「源氏名はモモかな。可愛いし」
【桃島】
「ちょっと待て! 俺はまだホストやるなんて……」
【緑川】
「逃げるにはうってつけの場所だと思うけどなぁ」
【桃島】
「逃げたいんじゃねえよ」
【桃島】
「俺は……死にたいんだよ……」
【緑川】
「死にたいやつはね、死にたいなんて言う前に死んじゃうんだよ」
【緑川】
「見ず知らずの他人の引きとめなんかかまわないでね」
【桃島】
「っ……」
止めたくせに。
俺は舌打ちした。
【桃島】
「俺なんか死んだ方がマシな人間なんだからほっとけよ」
【桃島】
「誰も悲しまない、俺が楽になるだけいいんだから」
【緑川】
「死んで誰も悲しまない人なんていないよ」
【桃島】
「だからっ」
【緑川】
「たとえばあの状況で死なれたら、俺は目の前で人が死んだ―――って悲しくなるね」
【緑川】
「それが全然知らないお前のような人でも」
【桃島】
「ああ言えばこう言うっ……」
【緑川】
「俺、何か間違ってるか?」
【桃島】
「……クソッ……」
思わず汚い言葉を吐いた。
―――思えばあの時からもうすでに、俺は緑川さんの手のひらの上で転がされてたんだ―――。
続く…