[本編] 桃島 光彦 編
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【ハク】
「……2年前、ですか」
【桃島】
「……そ。もうね、どこから恨めばいいかわかんない」
【ハク】
(桃島さん……)
桃島さんの過去―――。
また……あの日のようにきっと桃島さんの痛々しい一面を知ることになると思う。
けれど俺は、桃島さんの言葉を聞き逃してはいけないと思った。
表情も、瞳の色も……桃島さんの伝えてくれるものをすべて受取ろうと必死に話を聞いた。
【桃島】
「一応俺の高校卒業祝い……ってことで、姉ちゃんが家族旅行を計画してくれたんだ」
【桃島】
「だけど俺はちょうどその日に予備校の模試が入っちゃってさ」
【桃島】
「浪人するなんて俺もみんなも思ってなかったし、せっかくだからってことで」
【桃島】
「俺は留守番で、姉ちゃんと母さんには旅行に行ってもらうことにした」
【ハク】
「……そこまで聞くといいお話ですけど」
【桃島】
「だろ? でもまあ、ここから凹むよ?」
【桃島】
「旅行先で、姉ちゃんや母さんたちを乗せたバスが峠を越える山道でスリップ」
【ハク】
「えっ……」
【桃島】
「ツアー客全員絶望的。俺の姉ちゃんも母さんも例外じゃなくて……」
【桃島】
「次に会ったときはふたりとも、死んでた」
【ハク】
「……!」
思わず息を飲んだ。
桃島さんは乾いた表情で話を続ける。
【桃島】
「うちには貯金もなかったし、俺も働いてなかったし」
【桃島】
「親戚に援助してもらって葬式を出すのもやっとだった」
【ハク】
「そんなことが……」
【桃島】
「俺はこんなだから、あんまり親友とかいなくて。やっぱり家族は大事だったから、ショックだったよ」
【桃島】
「……でも、そこにたかるハエみたいな人間もいるんだ」
【ハク】
「……?」
【桃島】
「……葬式に、親父が来た」
【ハク】
「えっ……」
【桃島】
「顔も見たことない、養育費だって一円も出してない、俺たちを捨ててどっか行った親父が」
【桃島】
「二十年ぶりに……ノコノコと葬式に顔出しやがった」
【ハク】
「なんで……」
【桃島】
「……ホント、こればっかりは気づいてやれなくて母さんに申し訳ないって思うんだけど」
【桃島】
「親父……二十年間ずっと母さんにタカってたらしい」
【ハク】
「タカってたって……お金……?」
【桃島】
「そ。毎月何万。ひどい時は十何万とかせがんでて、全部ギャンブルに消えて」
【桃島】
「しかも……その時は本当に最悪で」
【桃島】
「儲かるからって騙されて起こした会社も潰れて、借金まみれ」
【桃島】
「本当は俺たちに会いたがってたらしいんだけど」
【桃島】
「会ったら会ったで俺たちのことコキ使うつもりだったらしいから」
【桃島】
「母さんはそれをわかってて、金と引き換えに俺たちを親父に会わせないようにしてた」
【桃島】
「思えば……母さんが全部背負ってたんだよな」
【ハク】
「……そんな……」
桃島さんの乾いた笑いの意味が、少しずつ見えてくる。
【桃島】
「だけど、……浅はかだったのは俺だった」
【桃島】
「ひとりぼっちになって、俺は家族が恋しくてたまらなかった」
【桃島】
「普通に考えればこんな時に顔出してくる親父なんてロクな人間じゃないってわかるはずなのに」
【桃島】
「俺は……父親に乗せられて、一緒に暮らすことになった。それからが大変だった」
【ハク】
(それって……)
絵に描いたような不幸のレールがあちこちに敷かれている様子が目に浮かぶ。
【桃島】
「大学受験はあきらめてバイトしてたんだけど、その給料も全部親父に取られて」
【桃島】
「一緒に住み始めたから、印鑑の場所も知ってた。借金は全部俺名義に書き換えられて」
【桃島】
「気づけば……親父は帰ってこなくなった。安アパートに、借金と俺だけ残して」
【ハク】
「なっ……!?」
【ハク】
(借金まで背負わされたのか!?)
【桃島】
「…まだあるよ。引いてない?ハクさん」
【ハク】
「ちょっと引いてます。でも…」
【桃島】
「ほんっと、物好きだね。こんな話聞きたがるなんて」
……桃島さんはまだ若い。
ホストとしては先輩でも、年齢は俺より8つも下だ。
そんな桃島さんがこんな過去を背負っていることがつらい。
……でも、胸がざわつくのはそのせいじゃない。
まだこれは……きっと桃島さんの不幸の“始まり”に過ぎないことが、わかるからだ―――。
【桃島】
「……ま、そういうわけでハタチで、フリーター、借金まみれになった俺。しかも天涯孤独ね」
【桃島】
「これだけでも笑っちゃうぐらい可哀そうなんだけど」
【桃島】
「世の中なんて、無慈悲なモンなんだよね」
【桃島】
「親父が借金してたのはヤクザの絡んだサラ金」
【桃島】
「あっという間に黒服の怖そうなヤツらが俺ん家に押し掛けてきた」
【桃島】
「あんな……身一つの俺から搾れる金なんて大したことないのにさ」
【桃島】
「……俺はヤクザに呼び出されて……ま、それが久々津組なんだけど」
【ハク】
「まさか……」
ここであの事実につながるのではないか。
そんなはずがない、そう思うのに……桃島さんは俺の最悪の予想を裏切ってはくれなかった。
【桃島】
「……そうだよ。そこにいたのが、香月だ」
【ハク】
「……!!」
【桃島】
「自由になりたかったら言うこと聞けって……ほんと、ありえねえけど」
「……2年前、ですか」
【桃島】
「……そ。もうね、どこから恨めばいいかわかんない」
【ハク】
(桃島さん……)
桃島さんの過去―――。
また……あの日のようにきっと桃島さんの痛々しい一面を知ることになると思う。
けれど俺は、桃島さんの言葉を聞き逃してはいけないと思った。
表情も、瞳の色も……桃島さんの伝えてくれるものをすべて受取ろうと必死に話を聞いた。
【桃島】
「一応俺の高校卒業祝い……ってことで、姉ちゃんが家族旅行を計画してくれたんだ」
【桃島】
「だけど俺はちょうどその日に予備校の模試が入っちゃってさ」
【桃島】
「浪人するなんて俺もみんなも思ってなかったし、せっかくだからってことで」
【桃島】
「俺は留守番で、姉ちゃんと母さんには旅行に行ってもらうことにした」
【ハク】
「……そこまで聞くといいお話ですけど」
【桃島】
「だろ? でもまあ、ここから凹むよ?」
【桃島】
「旅行先で、姉ちゃんや母さんたちを乗せたバスが峠を越える山道でスリップ」
【ハク】
「えっ……」
【桃島】
「ツアー客全員絶望的。俺の姉ちゃんも母さんも例外じゃなくて……」
【桃島】
「次に会ったときはふたりとも、死んでた」
【ハク】
「……!」
思わず息を飲んだ。
桃島さんは乾いた表情で話を続ける。
【桃島】
「うちには貯金もなかったし、俺も働いてなかったし」
【桃島】
「親戚に援助してもらって葬式を出すのもやっとだった」
【ハク】
「そんなことが……」
【桃島】
「俺はこんなだから、あんまり親友とかいなくて。やっぱり家族は大事だったから、ショックだったよ」
【桃島】
「……でも、そこにたかるハエみたいな人間もいるんだ」
【ハク】
「……?」
【桃島】
「……葬式に、親父が来た」
【ハク】
「えっ……」
【桃島】
「顔も見たことない、養育費だって一円も出してない、俺たちを捨ててどっか行った親父が」
【桃島】
「二十年ぶりに……ノコノコと葬式に顔出しやがった」
【ハク】
「なんで……」
【桃島】
「……ホント、こればっかりは気づいてやれなくて母さんに申し訳ないって思うんだけど」
【桃島】
「親父……二十年間ずっと母さんにタカってたらしい」
【ハク】
「タカってたって……お金……?」
【桃島】
「そ。毎月何万。ひどい時は十何万とかせがんでて、全部ギャンブルに消えて」
【桃島】
「しかも……その時は本当に最悪で」
【桃島】
「儲かるからって騙されて起こした会社も潰れて、借金まみれ」
【桃島】
「本当は俺たちに会いたがってたらしいんだけど」
【桃島】
「会ったら会ったで俺たちのことコキ使うつもりだったらしいから」
【桃島】
「母さんはそれをわかってて、金と引き換えに俺たちを親父に会わせないようにしてた」
【桃島】
「思えば……母さんが全部背負ってたんだよな」
【ハク】
「……そんな……」
桃島さんの乾いた笑いの意味が、少しずつ見えてくる。
【桃島】
「だけど、……浅はかだったのは俺だった」
【桃島】
「ひとりぼっちになって、俺は家族が恋しくてたまらなかった」
【桃島】
「普通に考えればこんな時に顔出してくる親父なんてロクな人間じゃないってわかるはずなのに」
【桃島】
「俺は……父親に乗せられて、一緒に暮らすことになった。それからが大変だった」
【ハク】
(それって……)
絵に描いたような不幸のレールがあちこちに敷かれている様子が目に浮かぶ。
【桃島】
「大学受験はあきらめてバイトしてたんだけど、その給料も全部親父に取られて」
【桃島】
「一緒に住み始めたから、印鑑の場所も知ってた。借金は全部俺名義に書き換えられて」
【桃島】
「気づけば……親父は帰ってこなくなった。安アパートに、借金と俺だけ残して」
【ハク】
「なっ……!?」
【ハク】
(借金まで背負わされたのか!?)
【桃島】
「…まだあるよ。引いてない?ハクさん」
【ハク】
「ちょっと引いてます。でも…」
【桃島】
「ほんっと、物好きだね。こんな話聞きたがるなんて」
……桃島さんはまだ若い。
ホストとしては先輩でも、年齢は俺より8つも下だ。
そんな桃島さんがこんな過去を背負っていることがつらい。
……でも、胸がざわつくのはそのせいじゃない。
まだこれは……きっと桃島さんの不幸の“始まり”に過ぎないことが、わかるからだ―――。
【桃島】
「……ま、そういうわけでハタチで、フリーター、借金まみれになった俺。しかも天涯孤独ね」
【桃島】
「これだけでも笑っちゃうぐらい可哀そうなんだけど」
【桃島】
「世の中なんて、無慈悲なモンなんだよね」
【桃島】
「親父が借金してたのはヤクザの絡んだサラ金」
【桃島】
「あっという間に黒服の怖そうなヤツらが俺ん家に押し掛けてきた」
【桃島】
「あんな……身一つの俺から搾れる金なんて大したことないのにさ」
【桃島】
「……俺はヤクザに呼び出されて……ま、それが久々津組なんだけど」
【ハク】
「まさか……」
ここであの事実につながるのではないか。
そんなはずがない、そう思うのに……桃島さんは俺の最悪の予想を裏切ってはくれなかった。
【桃島】
「……そうだよ。そこにいたのが、香月だ」
【ハク】
「……!!」
【桃島】
「自由になりたかったら言うこと聞けって……ほんと、ありえねえけど」