[本編] 桃島 光彦 編
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【赤屋】
「……今日はあんまりいい雰囲気じゃないかもしれないから気を付けろよ」
【ハク】
「わかった、ありがとう!」
【赤屋】
「また今度、ゆっくり話そうな」
【ハク】
「うん、助かったよ、赤屋!」
俺は赤屋に礼を言い、あのバーへ走って行った。
地下に降りていきドアを開けると、ドアベルがカランと鳴った。
【和久井】
「いらっしゃいませ……」
【ハク】
「すみません、人を探しているんです!」
俺がそう叫ぶと、ウイスキーのグラスを持った桃島さんがこちらを振り向いた。
【桃島】
「……ハクさん、なんで……」
【ハク】
「桃島さん、帰りましょう」
【ハク】
「何やってるんですか、こんなところで!」
【桃島】
「……何だっていいだろ、別に。アンタにはカンケーないし」
【ハク】
「ありますよ!」
【桃島】
「……ねぇよ」
【ハク】
「……っ……!」
桃島さんの声は低く、怒っていることが見て取れる。
【ハク】
「桃島さんが店から出てくなんて今までなかったじゃないですか」
【桃島】
「……もう、辞めたくなったんだよ」
【ハク】
「どうして……桃島さんは大人気のホストじゃないですか!」
【ハク】
「みんなにも認められてて、お店にも貢献してて、それでどうして……」
【桃島】
「……どうして?」
嘲るように桃島さんは言った。
【桃島】
「どうしても何も、俺なんかが頑張る意味なんかない」
【ハク】
「そんな言い方しないでくださいっ」
【桃島】
「……お前だって俺のこと軽蔑してんだろ?」
【ハク】
「それは……」
あの日の……香月さんとのことを言っているのはわかった。
【ハク】
「桃島さんを見る目は変わりません」
桃島さんのことを軽蔑する気持ちなんか微塵もない。
けれど、あの日の話をするのは躊躇われて目をそらしてしまう。
【桃島】
「役立たずだし、生きてる意味ないし」
【桃島】
「なーんか、もう全部ヤんなっちゃったんだよねぇ」
【ハク】
「桃島さん……」
【桃島】
「お前はいいよな」
【ハク】
「俺なんかより桃島さんのがずっとすごいじゃないですか」
【桃島】
「でもお前は先輩に認められてるだろ?」
【ハク】
「先輩?」
【桃島】
「……緑川さん」
【桃島】
「先輩って呼んでたら、呼ぶなって言われてんだよ」
【ハク】
「そう、なんですか」
【桃島】
「どうせ俺は……」
【桃島】
「俺は……先輩を好きになる資格すらないんだよ……」
【ハク】
「どうしてそんなこと言うんですか……」
【桃島】
「どうもこうもない。お前だって知ってるくせに」
【桃島】
「俺はあーゆー人間なの」
【桃島】
「身体で借金返して、身体売って金稼いで、その程度」
【桃島】
「自分を切り売りするしか能のない人間なんだよ」
【ハク】
「そんなことないです!」
【桃島】
「だから先輩……緑川さんだって俺のこと……」
【ハク】
「緑川さんは桃島さんを軽蔑なんかしていません!」
俺は必死になって言う。
緑川さんは……桃島さんのことをちゃんと認めていたはずだ。
【桃島】
「……『俺にあんまり感情向けるな』って言われたんだよ」
【桃島】
「俺みたいな汚いのに好かれて、イヤになったんだろーね」
【ハク】
「そんなことないです!」
【桃島】
「……そんなことあるんだよ」
【桃島】
「お前が……言うから」
【ハク】
「えっ……」
【桃島】
「ハクさんがしゃべったから、先輩に知られたんだ」
【桃島】
「俺のキタナイとこ、全部」
【ハク】
(俺のせいで……)
緑川さんに相談してしまったことを反省する。
でも、それで救われることもあったはずだと思ったのに……。
【桃島】
「……香月、まだ俺のこと呼ぶよ?」
【ハク】
「そうなんですか!?」
てっきり、自分も終わったから桃島さんへの辱めも終わっていると思ったのに。
【桃島】
「ハクさんは逃げられたかもしれないけど……俺は相変わらず」
【桃島】
「アンタのこと助けたつもりが、こうなるとはね」
【ハク】
「それは……すみません……」
【ハク】
「でもなんで桃島さんは香月さんに……?」
【ハク】
「桃島さんはたくさん売上出してるから借金ってわけじゃ……」
【桃島】
「……なんにも知らねえんだな、アンタ」
【ハク】
「え……」
【桃島】
「俺の借金はホストでちょっと稼いだくらいで返せる額じゃない」
【桃島】
「こないだのハクさんの借金なんか、子供の小遣いかって思えるぐらい」
【桃島】
「……俺には返さなきゃなんない借金と……借りがあるんだよ……」
そう話す桃島さんは……なんだか今にも泣きだしそうだった。
【ハク】
「桃島さん……」
【桃島】
「……この話、聞きたいのか?」
俺は何も言わず、頷いた。
……桃島さんの闇は、思った以上に深いみたいだ。
【桃島】
「アンタもよくやるよ。こないだあんなトコ見てまだ俺とつるもうなんて」
【桃島】
「……ま、あれで引かなかったら、聞くくらいはできるかもね」
【桃島】
「俺がどんなにクズな人間かってことと、呆れるくらい最低な過去」
【桃島】
「これ聞いたら、さすがのハクさんも俺のこと見捨てたくなると思うよ」
【桃島】
「あの緑川さんでさえ……引いてんだから」
【ハク】
「桃島さん……」
引いたりなんかしない。軽蔑なんてもってのほか。
そんなことを言われても、俺は桃島さんの話を聞きたいと思った。
聞かなくちゃとも思っていた。
ここまで桃島さんに関わって、聞かないのもそれこそ彼を見捨てることになる。
そして……誰より桃島さんが、話を聞いてほしいと思ってるんじゃないか……。
そんな風に見えたからだ。
【ハク】
「……教えてください、桃島さん」
【桃島】
「……物好きだな」
言葉こそ悪かったが、桃島さんは話し始めてくれた。
彼の……
誰も知らない、知る由もなかった秘密を。
【桃島】
「俺の家には父親ってのがいなかった」
【桃島】
「俺が生まれる前には離婚してたらしい。親父の顔なんて一度も見たことなくて」
【桃島】
「ま、貧乏だったけど俺末っ子だったし、姉ちゃんも母さんも、俺のこと可愛がってくれた」
【桃島】
「それで……もう2年前。高校卒業して……俺、大学落ちてさ」
【桃島】
「浪人することになって、……行くはずだった家族旅行に行けなくて」
【桃島】
「あの日から……俺の人生は変わっちまったんだ……」
続く…
「……今日はあんまりいい雰囲気じゃないかもしれないから気を付けろよ」
【ハク】
「わかった、ありがとう!」
【赤屋】
「また今度、ゆっくり話そうな」
【ハク】
「うん、助かったよ、赤屋!」
俺は赤屋に礼を言い、あのバーへ走って行った。
地下に降りていきドアを開けると、ドアベルがカランと鳴った。
【和久井】
「いらっしゃいませ……」
【ハク】
「すみません、人を探しているんです!」
俺がそう叫ぶと、ウイスキーのグラスを持った桃島さんがこちらを振り向いた。
【桃島】
「……ハクさん、なんで……」
【ハク】
「桃島さん、帰りましょう」
【ハク】
「何やってるんですか、こんなところで!」
【桃島】
「……何だっていいだろ、別に。アンタにはカンケーないし」
【ハク】
「ありますよ!」
【桃島】
「……ねぇよ」
【ハク】
「……っ……!」
桃島さんの声は低く、怒っていることが見て取れる。
【ハク】
「桃島さんが店から出てくなんて今までなかったじゃないですか」
【桃島】
「……もう、辞めたくなったんだよ」
【ハク】
「どうして……桃島さんは大人気のホストじゃないですか!」
【ハク】
「みんなにも認められてて、お店にも貢献してて、それでどうして……」
【桃島】
「……どうして?」
嘲るように桃島さんは言った。
【桃島】
「どうしても何も、俺なんかが頑張る意味なんかない」
【ハク】
「そんな言い方しないでくださいっ」
【桃島】
「……お前だって俺のこと軽蔑してんだろ?」
【ハク】
「それは……」
あの日の……香月さんとのことを言っているのはわかった。
【ハク】
「桃島さんを見る目は変わりません」
桃島さんのことを軽蔑する気持ちなんか微塵もない。
けれど、あの日の話をするのは躊躇われて目をそらしてしまう。
【桃島】
「役立たずだし、生きてる意味ないし」
【桃島】
「なーんか、もう全部ヤんなっちゃったんだよねぇ」
【ハク】
「桃島さん……」
【桃島】
「お前はいいよな」
【ハク】
「俺なんかより桃島さんのがずっとすごいじゃないですか」
【桃島】
「でもお前は先輩に認められてるだろ?」
【ハク】
「先輩?」
【桃島】
「……緑川さん」
【桃島】
「先輩って呼んでたら、呼ぶなって言われてんだよ」
【ハク】
「そう、なんですか」
【桃島】
「どうせ俺は……」
【桃島】
「俺は……先輩を好きになる資格すらないんだよ……」
【ハク】
「どうしてそんなこと言うんですか……」
【桃島】
「どうもこうもない。お前だって知ってるくせに」
【桃島】
「俺はあーゆー人間なの」
【桃島】
「身体で借金返して、身体売って金稼いで、その程度」
【桃島】
「自分を切り売りするしか能のない人間なんだよ」
【ハク】
「そんなことないです!」
【桃島】
「だから先輩……緑川さんだって俺のこと……」
【ハク】
「緑川さんは桃島さんを軽蔑なんかしていません!」
俺は必死になって言う。
緑川さんは……桃島さんのことをちゃんと認めていたはずだ。
【桃島】
「……『俺にあんまり感情向けるな』って言われたんだよ」
【桃島】
「俺みたいな汚いのに好かれて、イヤになったんだろーね」
【ハク】
「そんなことないです!」
【桃島】
「……そんなことあるんだよ」
【桃島】
「お前が……言うから」
【ハク】
「えっ……」
【桃島】
「ハクさんがしゃべったから、先輩に知られたんだ」
【桃島】
「俺のキタナイとこ、全部」
【ハク】
(俺のせいで……)
緑川さんに相談してしまったことを反省する。
でも、それで救われることもあったはずだと思ったのに……。
【桃島】
「……香月、まだ俺のこと呼ぶよ?」
【ハク】
「そうなんですか!?」
てっきり、自分も終わったから桃島さんへの辱めも終わっていると思ったのに。
【桃島】
「ハクさんは逃げられたかもしれないけど……俺は相変わらず」
【桃島】
「アンタのこと助けたつもりが、こうなるとはね」
【ハク】
「それは……すみません……」
【ハク】
「でもなんで桃島さんは香月さんに……?」
【ハク】
「桃島さんはたくさん売上出してるから借金ってわけじゃ……」
【桃島】
「……なんにも知らねえんだな、アンタ」
【ハク】
「え……」
【桃島】
「俺の借金はホストでちょっと稼いだくらいで返せる額じゃない」
【桃島】
「こないだのハクさんの借金なんか、子供の小遣いかって思えるぐらい」
【桃島】
「……俺には返さなきゃなんない借金と……借りがあるんだよ……」
そう話す桃島さんは……なんだか今にも泣きだしそうだった。
【ハク】
「桃島さん……」
【桃島】
「……この話、聞きたいのか?」
俺は何も言わず、頷いた。
……桃島さんの闇は、思った以上に深いみたいだ。
【桃島】
「アンタもよくやるよ。こないだあんなトコ見てまだ俺とつるもうなんて」
【桃島】
「……ま、あれで引かなかったら、聞くくらいはできるかもね」
【桃島】
「俺がどんなにクズな人間かってことと、呆れるくらい最低な過去」
【桃島】
「これ聞いたら、さすがのハクさんも俺のこと見捨てたくなると思うよ」
【桃島】
「あの緑川さんでさえ……引いてんだから」
【ハク】
「桃島さん……」
引いたりなんかしない。軽蔑なんてもってのほか。
そんなことを言われても、俺は桃島さんの話を聞きたいと思った。
聞かなくちゃとも思っていた。
ここまで桃島さんに関わって、聞かないのもそれこそ彼を見捨てることになる。
そして……誰より桃島さんが、話を聞いてほしいと思ってるんじゃないか……。
そんな風に見えたからだ。
【ハク】
「……教えてください、桃島さん」
【桃島】
「……物好きだな」
言葉こそ悪かったが、桃島さんは話し始めてくれた。
彼の……
誰も知らない、知る由もなかった秘密を。
【桃島】
「俺の家には父親ってのがいなかった」
【桃島】
「俺が生まれる前には離婚してたらしい。親父の顔なんて一度も見たことなくて」
【桃島】
「ま、貧乏だったけど俺末っ子だったし、姉ちゃんも母さんも、俺のこと可愛がってくれた」
【桃島】
「それで……もう2年前。高校卒業して……俺、大学落ちてさ」
【桃島】
「浪人することになって、……行くはずだった家族旅行に行けなくて」
【桃島】
「あの日から……俺の人生は変わっちまったんだ……」
続く…