[本編] 桃島 光彦 編
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【ハク】
「はい」
矢追さんは連日のようにクラブに訪れては、俺にダーツを買ってくれていた。
チケットも財布に入りきらず、ロッカーに入れておくほど貯まってしまった。
【桃島】
「すごいね。……っつーかあの客、何やってる人?」
【ハク】
「さあ……趣味でパチンコはされるみたいですけどね。たまに勝ったとか負けたとか言ってますし」
【桃島】
「パチだってそんな儲かんないだろ……カタギじゃないとか?」
【ハク】
「よくわからないんです。……素性も、俺のことを気に入ってくれる理由も」
【ハク】
「でも俺にできることは、彼に精一杯感謝の気持ちを込めて接客することですから」
【桃島】
「……ふうん。ま、いーけど」
―――そうこうしているうちに1週間が経った。
イベントは大盛況。
俺もトップにはならないまでも、手持ちのチケット枚数がTOP5を下回ることはなかった。
【ハク】
「矢追さん! 今日もいらしてくださったんですか」
【矢追】
「最近ユキくんが恋しくてたまらないのよ」
【矢追】
「……いよいよ本気で恋に落ちちゃったかしら、アタシ。うふっ」
【ハク】
「またまた」
【矢追】
「ところであのイベントはまだやってるの?」
【ハク】
「はい、今日が最終日です」
【矢追】
「あら。……ねえ、そこのあなた」
ふと、矢追さんが桃島さんを呼び止める。
【桃島】
「俺のこと、呼びました?」
【矢追】
「そォよ」
【桃島】
「何ですか? あなたが俺を呼ぶなんて珍しい」
【矢追】
「やーね、指名はもちろんユキくんよ」
【矢追】
「……あなた、ユキくんよりランク、上なのよね?」
【桃島】
「そりゃ、まあ」
【矢追】
「このダーツもきっとランキングに入るんでしょ?」
【矢追】
「あとどれくらい買えばユキくんはあなたに勝てるの?」
【ハク】
「そんなっ……桃島さんに勝つなんて無理です……!」
【桃島】
「答えてやりなよ、ユキ。……まあ、俺が思うには100本くらい?」
【ハク】
「100本って……」
【ハク】
(100万円だぞ……!?)
さすがの矢追さんも、一晩で7ケタの額を使ったことはない。
【矢追】
「本当に? 100本だけでいいの?」
【桃島】
「だけ、って……あんた、ユキにそーとーつぎ込んでんね」
【矢追】
「……買うわ」
【ハク】
「えっ!?」
【矢追】
「ユキくんに100本、買わせてちょうだい!」
【ハク】
「あっ……ありがとうございます……!」
あわててダーツの矢を渡す。
ストックは100本もなくて、引き換えチケットを渡す形になった。
【ハク】
「いいんですか……?」
【矢追】
「いいのよ、ユキくんのためだもの」
その日はゆっくり酒を飲んで語らう間もなく、俺は腕が痛くなるまでダーツを投げ続けた。
今日が最終日だから、今日中に的を射なければ無効になってしまう。
【ハク】
「……98、……99、……100」
【矢追】
「や~ん、おつかれさま、ユキくんっ!」
【ハク】
「遅くなっちゃってすみません……まだ時間、大丈夫ですか?」
矢を投げ続けたせいで肩が震えている。
【矢追】
「アラいけない、もうこんな時間だわ。じゃあおあいそ」
【ハク】
「はい……えっと、今日の伝票は……」
ろくに話も出来なかったが、仕方がない。
俺は会計の準備をする。
【矢追】
「……きゃ! やだ、どうしましょっ!?」
その時、矢追さんが今まで聞いたこともない悲鳴のような声を上げた。
【ハク】
「どうかしましたか?」
【矢追】
「お財布にお金が入ってないの。カードも……」
【ハク】
「えっ!?」
【矢追】
「ごめんなさい、ユキくん! 家に帰ればあるんだけど……」
【矢追】
「やだもう、アタシったら」
【矢追】
「きっとテーブルかなんかの上に置いてきちゃったんだわ」
【ハク】
「矢追さん……」
【矢追】
「ここって、ツケはできるの?」
【ハク】
「えっ」
一瞬、緑川さんや桃島さんの言葉が頭をよぎった。
【ハク】
(ツケはしちゃいけない、って……でも……信頼できるお客さんなら……)
矢追さんは今まできちんと払ってくれていたし、お金だってうっかりして置いてきてしまっただけだ。
【ハク】
「できなくはない、ですけど……」
俺はそう答えていた。
【矢追】
「じゃあツケてもらっていいかしら? もちろん、お色つけて払うから」
【ハク】
「そう……ですか、かえってすみません……」
【矢追】
「じゃあその手続き、してもらっていいかしら?」
【ハク】
「はい……」
【ハク】
(信頼してれば、いいんだよな……?)
かすかな罪悪感にかられながら、ツケの準備をする。
「はい」
矢追さんは連日のようにクラブに訪れては、俺にダーツを買ってくれていた。
チケットも財布に入りきらず、ロッカーに入れておくほど貯まってしまった。
【桃島】
「すごいね。……っつーかあの客、何やってる人?」
【ハク】
「さあ……趣味でパチンコはされるみたいですけどね。たまに勝ったとか負けたとか言ってますし」
【桃島】
「パチだってそんな儲かんないだろ……カタギじゃないとか?」
【ハク】
「よくわからないんです。……素性も、俺のことを気に入ってくれる理由も」
【ハク】
「でも俺にできることは、彼に精一杯感謝の気持ちを込めて接客することですから」
【桃島】
「……ふうん。ま、いーけど」
―――そうこうしているうちに1週間が経った。
イベントは大盛況。
俺もトップにはならないまでも、手持ちのチケット枚数がTOP5を下回ることはなかった。
【ハク】
「矢追さん! 今日もいらしてくださったんですか」
【矢追】
「最近ユキくんが恋しくてたまらないのよ」
【矢追】
「……いよいよ本気で恋に落ちちゃったかしら、アタシ。うふっ」
【ハク】
「またまた」
【矢追】
「ところであのイベントはまだやってるの?」
【ハク】
「はい、今日が最終日です」
【矢追】
「あら。……ねえ、そこのあなた」
ふと、矢追さんが桃島さんを呼び止める。
【桃島】
「俺のこと、呼びました?」
【矢追】
「そォよ」
【桃島】
「何ですか? あなたが俺を呼ぶなんて珍しい」
【矢追】
「やーね、指名はもちろんユキくんよ」
【矢追】
「……あなた、ユキくんよりランク、上なのよね?」
【桃島】
「そりゃ、まあ」
【矢追】
「このダーツもきっとランキングに入るんでしょ?」
【矢追】
「あとどれくらい買えばユキくんはあなたに勝てるの?」
【ハク】
「そんなっ……桃島さんに勝つなんて無理です……!」
【桃島】
「答えてやりなよ、ユキ。……まあ、俺が思うには100本くらい?」
【ハク】
「100本って……」
【ハク】
(100万円だぞ……!?)
さすがの矢追さんも、一晩で7ケタの額を使ったことはない。
【矢追】
「本当に? 100本だけでいいの?」
【桃島】
「だけ、って……あんた、ユキにそーとーつぎ込んでんね」
【矢追】
「……買うわ」
【ハク】
「えっ!?」
【矢追】
「ユキくんに100本、買わせてちょうだい!」
【ハク】
「あっ……ありがとうございます……!」
あわててダーツの矢を渡す。
ストックは100本もなくて、引き換えチケットを渡す形になった。
【ハク】
「いいんですか……?」
【矢追】
「いいのよ、ユキくんのためだもの」
その日はゆっくり酒を飲んで語らう間もなく、俺は腕が痛くなるまでダーツを投げ続けた。
今日が最終日だから、今日中に的を射なければ無効になってしまう。
【ハク】
「……98、……99、……100」
【矢追】
「や~ん、おつかれさま、ユキくんっ!」
【ハク】
「遅くなっちゃってすみません……まだ時間、大丈夫ですか?」
矢を投げ続けたせいで肩が震えている。
【矢追】
「アラいけない、もうこんな時間だわ。じゃあおあいそ」
【ハク】
「はい……えっと、今日の伝票は……」
ろくに話も出来なかったが、仕方がない。
俺は会計の準備をする。
【矢追】
「……きゃ! やだ、どうしましょっ!?」
その時、矢追さんが今まで聞いたこともない悲鳴のような声を上げた。
【ハク】
「どうかしましたか?」
【矢追】
「お財布にお金が入ってないの。カードも……」
【ハク】
「えっ!?」
【矢追】
「ごめんなさい、ユキくん! 家に帰ればあるんだけど……」
【矢追】
「やだもう、アタシったら」
【矢追】
「きっとテーブルかなんかの上に置いてきちゃったんだわ」
【ハク】
「矢追さん……」
【矢追】
「ここって、ツケはできるの?」
【ハク】
「えっ」
一瞬、緑川さんや桃島さんの言葉が頭をよぎった。
【ハク】
(ツケはしちゃいけない、って……でも……信頼できるお客さんなら……)
矢追さんは今まできちんと払ってくれていたし、お金だってうっかりして置いてきてしまっただけだ。
【ハク】
「できなくはない、ですけど……」
俺はそう答えていた。
【矢追】
「じゃあツケてもらっていいかしら? もちろん、お色つけて払うから」
【ハク】
「そう……ですか、かえってすみません……」
【矢追】
「じゃあその手続き、してもらっていいかしら?」
【ハク】
「はい……」
【ハク】
(信頼してれば、いいんだよな……?)
かすかな罪悪感にかられながら、ツケの準備をする。