[本編] 赤屋 竜次 編
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リュウがアクセルを踏み込み、車は再び走り出す。
今度はシートベルトも忘れてない。
今朝リュウの家を出てから、もう半日が過ぎていた。
何も知らない俺がアパートに帰ると部屋が火事に遭っていて、しかも放火犯の仕業で。
それからリュウの名刺の住所に行って、リュウの仕事の事やそうなったきっかけを聞いて、警察署で藍建さんにアリバイの証明をして、犯人のことを考えて……。
本当に、今日だけでいろいろなことがありすぎた。
どれもこれも、今まで俺に縁のなかったことばっかりだ。
窓の外をぼんやりと見つめながら俺がそんなことを考えていると、何気ないトーンでぼそっと、リュウが言った。
【赤屋】
「これから、どうする」
リュウはただこれからの行先を尋ねただけかもしれなかったが、今日の目まぐるしさに気を取られて特に何も考えていなかった俺は、やっとそのことに気付かされた。
【ハク】
(これから、だって……?)
これから。
そうだ、これで終わりじゃない。
俺はこれから、どうしようもない。
【ハク】
(どうしよう。アパートの部屋は燃えてしまって住むところもない)
【ハク】
(仕事もないし、当面の生活費だって……)
ホテルに泊まるにしても、すぐに金は底をつくだろう。
職を探すのだって、住所不定のままじゃ雇ってくれるところなんてあるはずない。
【ハク】
(明日からの生活、俺はどうしていけばいいんだ……)
【ハク】
「…………」
答えに困った俺はつい黙りこくってしまう。
恥ずかしながら、何も考えていなかった。
リュウも俺の返事を待っているのか、少しの間互いに無言が続いた。
口火を切ったのは、リュウだった。
【赤屋】
「じゃあ……その……」
【赤屋】
「とりあえず、ウチに来るか」
なにやら口ごもりながら、リュウが提案した。
目線は逸らすように前を向いたままだが、口調は明るかった。
【ハク】
「えっ……?」
その言葉は俺が予想していなかったものだった。
とりあえず……っていうのは、今から一旦リュウの家に行って休憩するということなんだろうか。
それとも、これからしばらくリュウの家で世話になっても良いということなんだろうか。
……いや、これはいくらなんでも俺が都合よく考えすぎか。
ともかく、言葉の意味を測りかねて、俺は曖昧に訊き返してしまう。
【赤屋】
「あー……ハクのアパートはあんなことになっちまったし、どっか行くアテがあるわけでもないんだろ?」
【赤屋】
「だから……しばらくウチのマンションにいたらどうだ」
もう一度、リュウが言い直す。
言葉は少しそっけないけれど、優しい。
【ハク】
「それって……」
【赤屋】
「俺は見ての通り一人暮らしだし、遠慮はいらねえ」
【赤屋】
「駅も近いし、そう不便でもないだろ」
確かに、今朝見たリュウのマンションは俺のアパートよりもずっと広かったし、立地も良い。
行くところもない俺が住まわせてもらうには、申し分ないはずだ。
だが、あることが気になって俺はうんと即答することができなかった。
それは先ほど知ってしまったリュウの仕事のこと。
リュウは何も心配要らないという顔をしているが……。
リュウのこと、信用してないわけじゃない。
でも、俺はリュウが一体どんなことをしているのか具体的には何も知らない。
正直言うと、何か危険なことに巻き込まれてしまうんじゃないかと不安だったのだ。
【ハク】
(今の俺にとって、このリュウの申し出はすごく有難い)
【ハク】
(だけど……)
俺はまた迷ってる。
そんな俺の様子を感じ取ったのか、リュウはそのまま話を続ける。
【赤屋】
「……そんな心配そうな顔すんな」
【赤屋】
「確かに俺はヤクザだが、お前みたいなカタギの人間に手を出すような真似は絶対にしない」
【ハク】
「…………」
わかってる。リュウが俺に危害が及ぶようなことするわけないってことぐらい。
リュウはそんな性格じゃないのは、ずっと前から知ってる。
ただ、俺が勝手に怖がってるだけなんだ。
でも、ここで頷くことが良いことなのかが俺にはわからない……。
【赤屋】
「家のモンもあらかた燃えちまったんだろ?」
【赤屋】
「新しい家探すにしても、家具だの電化製品だのいろいろ金かかるんだから、使う金は少ない方がいい」
【ハク】
「…………うん」
リュウは俺の葛藤を知ってか知らずかしゃべり続けている。
ちょうど交差点の信号に引っかかって車が停まると、リュウは顔を横に向けて俺を見た。
【赤屋】
「それに、食うもんだって食わなきゃ死んじまうんだぞ」
【ハク】
「そんな、大袈裟だってば」
そして俺の目を見て一瞬、リュウがすごく真剣な顔になった。
【赤屋】
「ハクがそんなことになったら、俺は嫌だからな」
すぐに信号は替わり、車は走り出す。
流れてゆく景色と一緒に俺の意識も置いて行かれたみたいに思考が追い付かない。
そんなことあるわけないだろって、笑えばいいのに。
【ハク】
「えっ……?」
俺がやっと出した声は、言葉にならない。
だけど、リュウはもうなんでもないみたいに笑っていた。
【赤屋】
「だから、頼れるうちは頼っとけ。な?」
【ハク】
「リュウ…………」
さっきのは一体なんだったんだろう。
あんな顔して言わなくてもいいのに。
【ハク】
「やっぱり、これ以上赤屋の世話にはなれない」
やっぱり赤屋は優しい。
だがこれ以上赤屋の世話にはなれない、と断ることにした。
【ハク】
「うん、うれしいよ」
リュウが本気で俺のこと心配してくれて、なんとかしたいと思ってくれていることはわかった。
でも、だからと言って昨日久しぶりの再会を果たしたばかりの相手の家に転がり込むわけにもいかない。
【ハク】
「……だけど、リュウにそこまで迷惑はかけられない」
【ハク】
「俺、もう少し自分でどうにかしてみようと思う」
だって、リュウにはリュウの生活があるんだ。
いくらリュウが優しいからって、それに甘えてばかりもいられない。
俺がリュウの世話にはなれないと告げると、リュウは少しだけ悲しそうな顔をした。
【赤屋】
「…………そうか」
【赤屋】
「それでも、何か困ったことがあったら俺を頼れよ」
【ハク】
「うん……そうする。ありがと」
すぐにいつもの表情に戻ったが、少し傷ついたような顔のリュウを見ると胸が痛んだ。
違うんだ。リュウの好意を無下にしたいわけじゃない。
ただ……俺だって一応子供じゃないんだから、このくらい自分でなんとかしないといけないと思う。
そう伝えたかったが、今は何も言わないリュウに俺も言葉をかけることができず、無言のまま車は元来た道を走り続ける。
【ハク】
(なんか……寂しいな)
子供の頃、友達と集まって遊んだときの別れ際の気分だ。暗くなるまでみんなといたから、帰るのが寂しい。もっと一緒にいたい。
別れたあとの帰り道はいつも、心に小さな穴が開いたような気持ちがした。
ふと、リュウとまた長いあいだ会えなくなるんじゃないかと考える。
今度はシートベルトも忘れてない。
今朝リュウの家を出てから、もう半日が過ぎていた。
何も知らない俺がアパートに帰ると部屋が火事に遭っていて、しかも放火犯の仕業で。
それからリュウの名刺の住所に行って、リュウの仕事の事やそうなったきっかけを聞いて、警察署で藍建さんにアリバイの証明をして、犯人のことを考えて……。
本当に、今日だけでいろいろなことがありすぎた。
どれもこれも、今まで俺に縁のなかったことばっかりだ。
窓の外をぼんやりと見つめながら俺がそんなことを考えていると、何気ないトーンでぼそっと、リュウが言った。
【赤屋】
「これから、どうする」
リュウはただこれからの行先を尋ねただけかもしれなかったが、今日の目まぐるしさに気を取られて特に何も考えていなかった俺は、やっとそのことに気付かされた。
【ハク】
(これから、だって……?)
これから。
そうだ、これで終わりじゃない。
俺はこれから、どうしようもない。
【ハク】
(どうしよう。アパートの部屋は燃えてしまって住むところもない)
【ハク】
(仕事もないし、当面の生活費だって……)
ホテルに泊まるにしても、すぐに金は底をつくだろう。
職を探すのだって、住所不定のままじゃ雇ってくれるところなんてあるはずない。
【ハク】
(明日からの生活、俺はどうしていけばいいんだ……)
【ハク】
「…………」
答えに困った俺はつい黙りこくってしまう。
恥ずかしながら、何も考えていなかった。
リュウも俺の返事を待っているのか、少しの間互いに無言が続いた。
口火を切ったのは、リュウだった。
【赤屋】
「じゃあ……その……」
【赤屋】
「とりあえず、ウチに来るか」
なにやら口ごもりながら、リュウが提案した。
目線は逸らすように前を向いたままだが、口調は明るかった。
【ハク】
「えっ……?」
その言葉は俺が予想していなかったものだった。
とりあえず……っていうのは、今から一旦リュウの家に行って休憩するということなんだろうか。
それとも、これからしばらくリュウの家で世話になっても良いということなんだろうか。
……いや、これはいくらなんでも俺が都合よく考えすぎか。
ともかく、言葉の意味を測りかねて、俺は曖昧に訊き返してしまう。
【赤屋】
「あー……ハクのアパートはあんなことになっちまったし、どっか行くアテがあるわけでもないんだろ?」
【赤屋】
「だから……しばらくウチのマンションにいたらどうだ」
もう一度、リュウが言い直す。
言葉は少しそっけないけれど、優しい。
【ハク】
「それって……」
【赤屋】
「俺は見ての通り一人暮らしだし、遠慮はいらねえ」
【赤屋】
「駅も近いし、そう不便でもないだろ」
確かに、今朝見たリュウのマンションは俺のアパートよりもずっと広かったし、立地も良い。
行くところもない俺が住まわせてもらうには、申し分ないはずだ。
だが、あることが気になって俺はうんと即答することができなかった。
それは先ほど知ってしまったリュウの仕事のこと。
リュウは何も心配要らないという顔をしているが……。
リュウのこと、信用してないわけじゃない。
でも、俺はリュウが一体どんなことをしているのか具体的には何も知らない。
正直言うと、何か危険なことに巻き込まれてしまうんじゃないかと不安だったのだ。
【ハク】
(今の俺にとって、このリュウの申し出はすごく有難い)
【ハク】
(だけど……)
俺はまた迷ってる。
そんな俺の様子を感じ取ったのか、リュウはそのまま話を続ける。
【赤屋】
「……そんな心配そうな顔すんな」
【赤屋】
「確かに俺はヤクザだが、お前みたいなカタギの人間に手を出すような真似は絶対にしない」
【ハク】
「…………」
わかってる。リュウが俺に危害が及ぶようなことするわけないってことぐらい。
リュウはそんな性格じゃないのは、ずっと前から知ってる。
ただ、俺が勝手に怖がってるだけなんだ。
でも、ここで頷くことが良いことなのかが俺にはわからない……。
【赤屋】
「家のモンもあらかた燃えちまったんだろ?」
【赤屋】
「新しい家探すにしても、家具だの電化製品だのいろいろ金かかるんだから、使う金は少ない方がいい」
【ハク】
「…………うん」
リュウは俺の葛藤を知ってか知らずかしゃべり続けている。
ちょうど交差点の信号に引っかかって車が停まると、リュウは顔を横に向けて俺を見た。
【赤屋】
「それに、食うもんだって食わなきゃ死んじまうんだぞ」
【ハク】
「そんな、大袈裟だってば」
そして俺の目を見て一瞬、リュウがすごく真剣な顔になった。
【赤屋】
「ハクがそんなことになったら、俺は嫌だからな」
すぐに信号は替わり、車は走り出す。
流れてゆく景色と一緒に俺の意識も置いて行かれたみたいに思考が追い付かない。
そんなことあるわけないだろって、笑えばいいのに。
【ハク】
「えっ……?」
俺がやっと出した声は、言葉にならない。
だけど、リュウはもうなんでもないみたいに笑っていた。
【赤屋】
「だから、頼れるうちは頼っとけ。な?」
【ハク】
「リュウ…………」
さっきのは一体なんだったんだろう。
あんな顔して言わなくてもいいのに。
【ハク】
「やっぱり、これ以上赤屋の世話にはなれない」
やっぱり赤屋は優しい。
だがこれ以上赤屋の世話にはなれない、と断ることにした。
【ハク】
「うん、うれしいよ」
リュウが本気で俺のこと心配してくれて、なんとかしたいと思ってくれていることはわかった。
でも、だからと言って昨日久しぶりの再会を果たしたばかりの相手の家に転がり込むわけにもいかない。
【ハク】
「……だけど、リュウにそこまで迷惑はかけられない」
【ハク】
「俺、もう少し自分でどうにかしてみようと思う」
だって、リュウにはリュウの生活があるんだ。
いくらリュウが優しいからって、それに甘えてばかりもいられない。
俺がリュウの世話にはなれないと告げると、リュウは少しだけ悲しそうな顔をした。
【赤屋】
「…………そうか」
【赤屋】
「それでも、何か困ったことがあったら俺を頼れよ」
【ハク】
「うん……そうする。ありがと」
すぐにいつもの表情に戻ったが、少し傷ついたような顔のリュウを見ると胸が痛んだ。
違うんだ。リュウの好意を無下にしたいわけじゃない。
ただ……俺だって一応子供じゃないんだから、このくらい自分でなんとかしないといけないと思う。
そう伝えたかったが、今は何も言わないリュウに俺も言葉をかけることができず、無言のまま車は元来た道を走り続ける。
【ハク】
(なんか……寂しいな)
子供の頃、友達と集まって遊んだときの別れ際の気分だ。暗くなるまでみんなといたから、帰るのが寂しい。もっと一緒にいたい。
別れたあとの帰り道はいつも、心に小さな穴が開いたような気持ちがした。
ふと、リュウとまた長いあいだ会えなくなるんじゃないかと考える。