[本編] 赤屋 竜次 編
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俺たちは車を駐車場に残し、警察署に入った。
さすがは警察署だ。街の交番とは違い、署内はものものしい雰囲気につつまれている。
俺はその空気に気圧されつつも、まずは正面の受付に向かって要件を伝える。
【ハク】
「すみません、ハクと言います。藍建……刑事はいらっしゃいますか」
「はい、お待ちしていました。奥の応接室へどうぞ」
思ったよりもすんなりと、俺たちは応接室に通された。
そこは、平たい机とソファがあるばかりで、もちろん刑事ドラマで見るような取調室ほど殺
風景ではないが、応接室と呼ぶほど立派ではないように思えた。
ソファに腰をおろし、出されたお茶を飲みながら待つ。
【赤屋】
「藍建ってのは?」
【ハク】
「俺がアパートに帰った時に捜査してた刑事さんだよ。……放火のこととか、説明してくれた」
【ハク】
「それで、一応決まりだから昨晩どこで何をしてたかって……」
【赤屋】
「……そうか」
ほどなく、すまなそうな苦笑いで藍建さんが現れた。
俺が会ったときと同じ、少々くたびれたスーツ姿だ。
【藍建】
「いやぁ、わざわざご足労いただいて申し訳なかったね」
【藍建】
「それは……なんと言っていいか」
藍建さんは先ほどの申し訳ないという顔の眉をさらに下げた。そんな顔をされると、こっちも恐縮してしまう。
【ハク】
「あ、もう職に対しては未練とかないですし」
【ハク】
「でも、恨まれることと言ったらそれくらいしか……」
【藍建】
「だけど、それだと会社をクビにした上放火ってことか」
藍建さんは首をひねる。
【藍建】
「そうなると、相当恨まれてるんじゃないか?キミ一体何やったんだ?」
【ハク】
「さぁ、恨まれてる詳しい理由は俺も思い当たらなくて……でも、放火される理由はそれなのかなって」
そこまで話したところで、それまで黙って話を聞いていたリュウが、激昂して口を開いた。
【赤屋】
「なんだそれ……なんだその理不尽なヤツは!」
【赤屋】
「濡れ衣でクビにした上に、今度は家に放火だと!?」
ダン!リュウが握った拳をテーブルに叩きつけ、中身のない湯呑が揺れる。
【ハク】
「ま、まぁ……証拠もなかったし、相手は役職付きでこっちはただのヒラだったし」
【ハク】
「周りを固められてこっちはどうにいかなかったんだよ」
【赤屋】
「でも俺は、そんなヤツ許せねぇ……」
【ハク】
「俺は……気にしてないわけじゃないけど、今となってはしょうがないと思ってるし……」
【ハク】
「それに放火の件はそうと決まったわけじゃ……」
【赤屋】
「……ハクがそう言うなら……」
リュウが落ち着いたようで俺はほっとする。
藍建さんもこれ以上訊くことはないと言ったふうに手帳を閉じた。
【藍建】
「それでは、その辺りも踏まえて捜査をしてみるから」
【ハク】
「あの、俺のアリバイは証明できたってことでいいんですよね……?」
【藍建】
「ああ。その点は大丈夫だよ」
【藍建】
「昨夜バーにいたのは俺も見ていたようだし、この彼がしっかり証言してくれたからね」
藍建さんがリュウを示して力強く頷いた。
「ようだ」の部分が少し引っ掛かるが……まぁいいだろう。
【赤屋】
「よかったな、ハク」
【ハク】
「リュウのおかげだよ……ありがとう」
俺たちは顔を見合わせて笑いあった。よかった……これでとりあえず、俺の疑いは晴れたんだ。
もちろん犯人が捕まっていないのは不安だが……。
その後、警察署を後にする俺たちを藍建さんも入口まで見送ってくれた。
リュウは一足先に駐車場に行っている。
【藍建】
「それじゃ、今日はわざわざありがとう。ご協力、感謝するよ」
【ハク】
「は、はい」
……こういう時は、一体なんて言ったらいいんだろう。
「お世話になりました」じゃ出所する犯人みたいだし、まだ解決してないんだから「ありがとうございます」も変だよな。
「捜査がんばってください」か?いや、俺は被害者なんだから……。
俺が変な方向に頭を悩ませていると、藍建さんが再び声をかけてきた。
【藍建】
「ああ、それと……」
【ハク】
「は、はい!なんでしょう」
【藍建】
「何か思い出したり、何かあったりしたらここに連絡をくれ」
【藍建】
「どんなことでもかまわないから」
【ハク】
「あ……はい」
手渡されたのは、藍建さんの携帯電話の番号が書かれたメモだった。
俺はそれを受け取り、迷った末に結局何も言わず会釈をして警察署を出た。
入口の前までリュウがもう車をまわしてくれていたので、俺は再び助手席に乗り込んでドアを閉めた。
【ハク】
(どんなことでもかまわない……か)
【ハク】
(本当に、一体誰がこんなことを……)
【赤屋】
「ほら、シートベルト」
ぼーっと考え事をしていた俺に、赤屋がシートベルトを指差して声をかける。
【ハク】
「あ、ああ」
俺はシートベルトを受け取ると、しっかりと装着した。
赤屋の運転で車がゆっくりと発進する。
車は警察署を離れ、元来た道を走り始める。
俺はそのことに気づかないぐらいに、誰が何のためにこんなことをしたのかをひたすら考え続けていた。
しかしその答えは、考えても考えても見出すことはできなかった…。
そして、それより自分にはもっと直接的に困ったことが起こる問題に、俺自身気付いていなかった。
続く…
さすがは警察署だ。街の交番とは違い、署内はものものしい雰囲気につつまれている。
俺はその空気に気圧されつつも、まずは正面の受付に向かって要件を伝える。
【ハク】
「すみません、ハクと言います。藍建……刑事はいらっしゃいますか」
「はい、お待ちしていました。奥の応接室へどうぞ」
思ったよりもすんなりと、俺たちは応接室に通された。
そこは、平たい机とソファがあるばかりで、もちろん刑事ドラマで見るような取調室ほど殺
風景ではないが、応接室と呼ぶほど立派ではないように思えた。
ソファに腰をおろし、出されたお茶を飲みながら待つ。
【赤屋】
「藍建ってのは?」
【ハク】
「俺がアパートに帰った時に捜査してた刑事さんだよ。……放火のこととか、説明してくれた」
【ハク】
「それで、一応決まりだから昨晩どこで何をしてたかって……」
【赤屋】
「……そうか」
ほどなく、すまなそうな苦笑いで藍建さんが現れた。
俺が会ったときと同じ、少々くたびれたスーツ姿だ。
【藍建】
「いやぁ、わざわざご足労いただいて申し訳なかったね」
【藍建】
「それは……なんと言っていいか」
藍建さんは先ほどの申し訳ないという顔の眉をさらに下げた。そんな顔をされると、こっちも恐縮してしまう。
【ハク】
「あ、もう職に対しては未練とかないですし」
【ハク】
「でも、恨まれることと言ったらそれくらいしか……」
【藍建】
「だけど、それだと会社をクビにした上放火ってことか」
藍建さんは首をひねる。
【藍建】
「そうなると、相当恨まれてるんじゃないか?キミ一体何やったんだ?」
【ハク】
「さぁ、恨まれてる詳しい理由は俺も思い当たらなくて……でも、放火される理由はそれなのかなって」
そこまで話したところで、それまで黙って話を聞いていたリュウが、激昂して口を開いた。
【赤屋】
「なんだそれ……なんだその理不尽なヤツは!」
【赤屋】
「濡れ衣でクビにした上に、今度は家に放火だと!?」
ダン!リュウが握った拳をテーブルに叩きつけ、中身のない湯呑が揺れる。
【ハク】
「ま、まぁ……証拠もなかったし、相手は役職付きでこっちはただのヒラだったし」
【ハク】
「周りを固められてこっちはどうにいかなかったんだよ」
【赤屋】
「でも俺は、そんなヤツ許せねぇ……」
【ハク】
「俺は……気にしてないわけじゃないけど、今となってはしょうがないと思ってるし……」
【ハク】
「それに放火の件はそうと決まったわけじゃ……」
【赤屋】
「……ハクがそう言うなら……」
リュウが落ち着いたようで俺はほっとする。
藍建さんもこれ以上訊くことはないと言ったふうに手帳を閉じた。
【藍建】
「それでは、その辺りも踏まえて捜査をしてみるから」
【ハク】
「あの、俺のアリバイは証明できたってことでいいんですよね……?」
【藍建】
「ああ。その点は大丈夫だよ」
【藍建】
「昨夜バーにいたのは俺も見ていたようだし、この彼がしっかり証言してくれたからね」
藍建さんがリュウを示して力強く頷いた。
「ようだ」の部分が少し引っ掛かるが……まぁいいだろう。
【赤屋】
「よかったな、ハク」
【ハク】
「リュウのおかげだよ……ありがとう」
俺たちは顔を見合わせて笑いあった。よかった……これでとりあえず、俺の疑いは晴れたんだ。
もちろん犯人が捕まっていないのは不安だが……。
その後、警察署を後にする俺たちを藍建さんも入口まで見送ってくれた。
リュウは一足先に駐車場に行っている。
【藍建】
「それじゃ、今日はわざわざありがとう。ご協力、感謝するよ」
【ハク】
「は、はい」
……こういう時は、一体なんて言ったらいいんだろう。
「お世話になりました」じゃ出所する犯人みたいだし、まだ解決してないんだから「ありがとうございます」も変だよな。
「捜査がんばってください」か?いや、俺は被害者なんだから……。
俺が変な方向に頭を悩ませていると、藍建さんが再び声をかけてきた。
【藍建】
「ああ、それと……」
【ハク】
「は、はい!なんでしょう」
【藍建】
「何か思い出したり、何かあったりしたらここに連絡をくれ」
【藍建】
「どんなことでもかまわないから」
【ハク】
「あ……はい」
手渡されたのは、藍建さんの携帯電話の番号が書かれたメモだった。
俺はそれを受け取り、迷った末に結局何も言わず会釈をして警察署を出た。
入口の前までリュウがもう車をまわしてくれていたので、俺は再び助手席に乗り込んでドアを閉めた。
【ハク】
(どんなことでもかまわない……か)
【ハク】
(本当に、一体誰がこんなことを……)
【赤屋】
「ほら、シートベルト」
ぼーっと考え事をしていた俺に、赤屋がシートベルトを指差して声をかける。
【ハク】
「あ、ああ」
俺はシートベルトを受け取ると、しっかりと装着した。
赤屋の運転で車がゆっくりと発進する。
車は警察署を離れ、元来た道を走り始める。
俺はそのことに気づかないぐらいに、誰が何のためにこんなことをしたのかをひたすら考え続けていた。
しかしその答えは、考えても考えても見出すことはできなかった…。
そして、それより自分にはもっと直接的に困ったことが起こる問題に、俺自身気付いていなかった。
続く…