clap
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バレンタイン当日、やっと長き戦いに決着がついた。
「ふ、ふはは……私の、勝ちだ……!」
チョコレートでコーティングした つやつやのザッハトルテを眺めつつ呟いた。
……あ、今のセリフ悪役っぽいかも。
うわ恥ずかし。
チョコレートの魔法
この日のためだけに購入したケーキカバーを被せてフォークも持って、そっとお皿を持ち上げる。
もちろん、修行中の彼に届けるためだ。
肘で玄関ドアを押し開けると ひんやりとした空気が室内に流れ込んできた。
そして目の前には緑、緑、緑。
半ば無理やり連れて来られた、このパオズ山の風景にも もうすっかり慣れてしまった。
どこもかしこも木しかないので視力もなんとなく良くなった気がする。
たぶん10とか。そりゃないか。
「悟空! どこにいるのーっ!?」
さくさくと足元の草むらの感触を楽しみながら彼の姿を探す。
「悟空ー!? 悟空ってば!!」
名前を呼んでも出てこないってことは、疲れてどこかで昼寝でもしてるのかな?
山でいちばん大きな木の下にたどり着いて、ふと見上げると……
……いた。
大きな枝に寝そべっている尋ね人を。
「悟空! ねぇ起きて、ケーキ作ったから!」
「んあ? ケーキ!? 食う食う……って
うおわあああああ!!?」
「ちょ!?」
空を飛べる人がまさかの転落。
しかも頭から。
『猿も木から落ちる』ってやつ?
……なんて言ってる場合じゃない。
「だっ、大丈夫!? ごめんね、いきなり声かけて……」
「お、おう、でぇしょぶだ!」
慌てて駆け寄るとへらりと笑って頭を押さえながら悟空は上体を起こした。
「それより めちゃくちゃ うまそーじゃねぇか! 早く食わせてくれよー!」
それよりって……私はケーキよりあなたの怪我の方が気になるんだけど……
当の本人はきらきらと目を輝かせてザッハトルテをプラスチック越しに眺めている。
……この調子なら大丈夫か。
とりあえず、隣に腰を下ろした。
「焦らなくても逃げないから!」
「ま、逃げたら追いかけっけどな!」
「そういう意味じゃなくってさあ……」
天然な発言にツッコミを入れつつ、カバーを外したザッハトルテとフォークを渡す。
ニコニコ笑顔で『いっただっきまーす!』と ほぼ同時に食べ始める悟空。
サイヤ人とやらは食べっぷりがいいので見ていて気持ちがいいなぁ。
「うめーな、コレ!!
***は料理上手だよなー!!」
「へへ、ありがと」
本当はチョコレートを上手く塗れなくて失敗しちゃったやつも冷蔵庫に置いてあるんだけど。
乙女の努力は大好きな彼には知られたくない。なんて。
「あ、チョコレートのプレート乗っけるの忘れてた!」
「いいよ、そんなもん!」
「そんなもんじゃないのー!
ちょっと取りに帰ってくる!」
もうすでにザッハトルテはほとんど残ってないけど。
悟空の道着のマークを作った大切なプレートだもん。
それを忘れるなんて……不覚。
急いで取りに帰らなきゃ。
と、立ち上がると悟空に腕を掴まれた。
「そんなに大切ならオラが取りに帰ってやるよ!」
「や、でも」
「***が行くよりオラが行く方が早えだろ?」
間違いない。
でも冷蔵庫開けたら失敗作も見つかっちゃうし……
なんて考えてるうちに私に空になってしまったお皿を押しつけて、悟空は飛んで行った。
ああ、失敗作が……
~~~
「***!
悪ぃな、ひとりにしちまってよ!」
戻ってきた悟空の手にはプレートの乗っかった失敗作。
ところどころ塗りムラがあるし、側面なんか濡れてないところもあるし……
必死の努力の跡がこの、大好きな彼によって白日の下にさらされるとは。
「いやー! すっげえな、お前こんなもんまで作れんのか!」
ミルクチョコレートとホワイトチョコレートで作った『悟』マークのプレートを眺めながら目を丸くする悟空。
それはいいとして、なぜ失敗作まで持ってきたのか。
「もういっこあったから持ってきてやったぞ!
せっかくだから一緒に食おーぜ!」
「うあ、いや、それは失敗したやつで……」
「こんなにうまそうなのにか?」
よっこいせと隣に腰を下ろした悟空はその失敗作を眺め回す。
そ、そんなに見ないで……!!
「ちょ、ちょっとチョコレート塗るのに失敗しちゃって……
べ、別に味は問題ないんだけど、やっぱほら、バレンタインだからさ……」
綺麗な方しか見せたくなかったのに……
それでも悟空は不思議そうな顔をして。
「失敗でもバレンタインでもなんでもいいじゃねぇか!
***が作ったなら食うに決まってんだろ?」
「悟空……」
「オラはそんなの気にしねぇからさ!
ほれ、口開けろよ」
悟空はザッハトルテを少し大きめに一口ぶん取って、私に差し出す。
何気に初めての『あーん』に戸惑いつつも おとなしく口にすると……
「……うん、普通においしい」
「なーんだ、焼くのに失敗したんじゃねぇんだな!」
けろっと笑って悟空はそう言った。
まさか
「私を毒味係にしたんじゃ……」
「いや、まぁ……ははははっ!」
「笑ってごまかさないでっ!!」
またさっきのようにぱくぱくと食べ始めた悟空。
うまいうまいと言いながら食べるその姿に、もう怒る気も失せてしまった。
「はぁ……ま、いっか」
「***のそーゆーなんでも許してくれるとこ、オラは好きだぞ!」
天然に見えて意外と計算高い?
そんな彼を好きになってしまった私はこれからも悟空に振り回され続けるんだろうか。
……それもそれでいいかもしれない。
「私も悟空の そーゆーなんでも笑い飛ばすとこ、好きだよ」
「へへっ、サンキュー!」
私のその言葉に にかっと笑った悟空は太陽みたいに眩しい。
これからもずっと、正直なその笑顔で振り回し続けてね?
「ふいー! ごちそうさん!
……さて、まだハラも膨れねぇし、けえって***をいただくとするかな!」
「はい!?」
「さ、帰るぞ***!」
「ちょ、ちょっと待ってーーー!!」
……振り回されるのもいいけど、とりあえずは もうちょっと彼の考えを読めるようになろう。
そう考えた今年のバレンタインだった。
.