clap
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼がいない間を見計らって作ったチョコレートを綺麗にラッピングして、真っ赤なリボンを結ぶ。
喜んでくれるかなぁなんて考えはたぶん無駄。
だってセルは、いつだって憎まれ口を叩きながら嬉しそうにしてくれるんだもん。
チョコレートの魔法
「帰ったぞ、***」
「おかえりなさーいぃ!」
修練から帰ったセルは玄関から私に声をかけた。
思わずテンションが上がって大きな声で返事をしてしまう。
「どうした? 今日はやけにご機嫌じゃないか」
「ふふ……おかえり、セル」
私の隣に立ったセルをぎゅう、と抱きしめる。
人造人間って汗かいても匂いとかしないのかな?
汗の匂いなんてしないし。
だったら、ちょっと羨ましいなぁ。
「***、これはバレンタインのチョコレートか?」
セルが手に持っているものは、今しがたラッピングが終わったチョコレート。
「あ、ばれちゃった?」
「こいつめ、隠すつもりもなかったくせに」
おでこを軽く小突かれる。
にひひっと笑うと、セルは肩を竦めた。
「まあいいだろう。さっそくいただいてもいいかな?」
「もちろん!」
嬉しそうに私の顔を見つめながら、手を取ってエスコートしてくれる。
ソファに掛けたセルは自分の膝に私を導いて。
「おいで、わたしのお姫様」
……!!
そんな言葉をかけられて、一気に顔が熱くなる。
……うわ、照れる。
私はらしくもなく そわそわしながら、彼の膝に腰を下ろした。
ねぇ、いつもみたいに憎まれ口のひとつでも叩いてみせてよ。
照れくさくて目も合わせられない。
しゅるしゅるとラッピングを丁寧に解いていくセルの指を見つめる。
華奢ではないけど、しなやかな指。
格闘家なのにどうしてこんな、うつくしい所作ができるんだろう。
「ほう、トリュフか」
箱を開けたセルは感嘆の声を洩らした。
粉砂糖とココアパウダーでコーティングしただけの生チョコトリュフ。
もちろん、味は最高。レシピ通りだし。
丸めるのに失敗してちょっと形がいびつになっちゃったけど……
「なにを不安そうな顔をしている?
嬉しいよ、***。こんな可愛らしいチョコレートはちょっと見たことがないな」
「……よかった」
頑張ったときにはいつも褒めてくれる。
髪を撫でられて優しい瞳に見つめられて、なんだかこそばゆくて目を細めた。
「もちろん、***が食べさせてくれるんだろう?」
トリュフの入った箱を差し出される。
有無を言わさぬ言葉に押されて、そっとひとつ摘んだ。
力を入れたら壊れてしまいそうに やわらかいチョコレート。
持ち上げると粉砂糖がはらりと落ちた。
どうか、美味しいって言ってほしい。
そんな願いを込めて、どきどきしながらセルの口に運んで食べてもらう。
いびつなトリュフは完ぺきな彼の唇に包まれて消えていった。
手首を掴まれて、指についた粉砂糖まで舐め取られる。
くすぐったいような、ぞくぞくするような、変な気分。
「……ふむ、絶品だ」
満足気にセルは微笑んだ。
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
ひとことで私を安心させる彼は、まるで魔法使い。
「せ、セルのために頑張った、から」
いつもと違う優しいだけのセルに、どぎまぎしながらつぶやく。
と、自分の小指に巻かれたリボンが目に留まった。
「いつの間に……」
「ふふ……素晴らしいプレゼントをふたつも貰えるとは、バレンタインとは最高の日だな」
セルはいたずらっぽく笑ってその手を取り、甲にキスを落とした。
見上げる彼の瞳に心臓が高鳴る。
「……味見しても?」
「う……っ、……ど、どうぞ……」
とろけてしまいそうに優しいくちづけ。
……けれど『甘いだけのチョコレート』じゃないセルだけは、私の一生もの。
「ありがとう、***」
.