clap
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
セルが料理を覚えた。
パーフェクトな彼はやっぱり完ぺき主義で、覚えたての料理は絶品フルコースばかり。
おかげで私の体重は今日も増加の一途をたどっている。
……ダイエット、しなきゃなあ。
マスターピース
ちなみにここ最近はお菓子作りにハマっている。
私のエプロンを付けてキッチンに立つ姿は見慣れてしまったものの、ちょっとおかしい。
だってどう考えてもあの姿は裸エプロンじゃないか。
未知の生命体の裸エプロン。
それを見られるのは私だけの特権だと喜ぶべきか、それとも……
……なんとも微妙な心境である。
女の子だったら小躍りしてるのに。
「なにか用でも?」
穴が開くほど後ろ姿を眺めていると彼が振り返った。
「いや……なんで?」
「***から邪な気を感じてな」
「セルじゃあるまいし!」
にやりと笑って作業を再開する。
その笑顔の方が『邪な気』を感じるんですけど。
……ところで、今日はなにを作ってるんだろう。
「ねぇセル、今日のおやつはなあに?」
後ろから覗き込む。
ふんわりとした色とりどりのメレンゲが入ったボウルがいくつか並んでいる。
メルヘンな色のメレンゲとセルの風貌は対極なんだけど、どこか調和がとれているような。
「出来上がってのお楽しみだ。
それまで おとなしく座って待っているんだな」
ここで見てちゃだめなの? と思ったけど、諭されて頭を撫でられたら従わなくちゃいけない気がして。
渋々そっと彼から離れる。
「お利口さんだ」
褒められたって嬉しくないもん。
ーーー微かな甘い香りが部屋に満ちている。
今現在、セルは仕上げに取り掛かっているようだった。
集中するとだんまりしてしまうので普段と違って家は静か。
いつもくだらない会話ばっかりだけど……やっぱりそれがないと少し寂しいかも。
「できたぞ、***。バレンタインのお返しだ」
もう一度 様子を見に行こうかとそわそわしている私の目の前に置かれたものは五段のマカロンタワーだった。
パステルカラーのグリーン、ピンク、ベージュのマカロン。
デコレーションのアラザンが宝石みたいにきらきらしていて とっても綺麗。
ご丁寧にリボンまで結ばれている。
お菓子というよりもむしろ『作品』じゃないか。
飾っておきたい。
「すごい。パティシエみたい。
セルってば、なんでもできるんだ……」
「***のためなら なんだってやってやるさ」
またそうやって私を喜ばせるようなことを言って。
「どうぞ、召し上がれ」
「可愛くて食べるのもったいないよ」
だって、どこからどう見てもオブジェにしか見えない。
恋人の贔屓目 抜きにしても、だ。
「お前のために作ったのだ、食わんでどうする」
「飾る」
「馬鹿か」
躊躇いつつも目の前のマカロンに手を伸ばそうか迷って、ふと。
呆れたように笑うセルに視線を移した。
「? ……どうした?」
「いやあ……美味しいご飯やお菓子ばっかり作られたら、ダイエットなんかできないなーと思って」
そう言うとセルはふんわりと、まるでメレンゲみたいに笑った。
「わたしが『創った』その身体が不満か?」
「え? ……あ」
……そうか、そういうことか。
『増えた』と思っていた体重は『増やされた』ものだった。
知らぬ間に私は、彼によって『創られて』いたのだ。
「ばっ……ばーか!」
嬉しいだろう、と言わんばかりのその顔に向かって精一杯の悪態をつく。
が、セルはそんなこと意にも介さず てっぺんのマカロンをひとつ取った。
「素直に嬉しいと言えばいいものを……不器用なやつだ」
「もー! そーゆーわけじゃ……っ」
言い返すために開いた口にはマカロンを入れられてしまったから、結局 次の言葉は出てこなくなった。
仕方なく咀嚼していると、生地が砕ける小気味のいい音とともに可笑しそうに笑うセルの声が聞こえてきた。
.