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コップの中に食器用洗剤を少しとお水をたっぷり。
先端に等間隔に切り込みを入れて広げたストローでかき混ぜる。
できあがったしゃぼん液は空気を含んで泡をぷくぷく作った。
永遠に君を
窓際に座って外に向かってしゃぼん玉を作る。
洗剤の量が足りなかったのか、生まれてはすぐに消えていく。
「子どものようなことをしているな」
隣にセルが腰掛けた。
差し出した手には 幾つかの梅のつぼみができた枝。
しゃぼん液を置いて受け取った。
「なんで梅?」
「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿……という言葉があるそうだ。
だから切ってきてやったのだ」
どこから切ってきたかは知らないけど余計なお世話だろうに。
「アリガトウ、セルサン」
枝をゆらゆら揺らして裏声で喋る。
馬鹿か、とでも言いたげにセルは鼻を鳴らして苦笑した。
「しかしなぜしゃぼん玉なのだ」
「春だから」
セルは首を傾げた。
「春だから、桜も梅も咲くでしょ?
だけどすぐに散っちゃうから、しゃぼん玉に似てると思って」
それで久しぶりにやってみようかと思ったから。
だから、しゃぼん玉。
「ちょっと違うな」
今度は私が首を傾げる番だった。
いったいなにが違うというのか。
「しゃぼん玉はふとした拍子に消えてしまう。
しゃぼん玉に似ているものは……人間だな」
ふとした拍子に消えてしまう。
セルからしたら人間なんてそんなものなんだろう。
「私が死んだらどうする?」
セルは私の顔を見た。
そして『なにも考えずに言い放った言葉』だと察したようだった。
だから彼は落ち着き払って、
「……墓に花を供えてやろう」
そう言った。
『後を追う』なんて馬鹿げたセリフが彼の口から出るわけがない。
そんなの至極当然のことだ。
だからこそ何というかを聞きたかった。
「わたしに寿命はないだろう。
だから永遠に、***に花を供えてやる」
私にとってそれは『満足』としか言いようのない言葉だった。
なんてロマンチックな供養。
「どんな花を供えてくれる?」
「***の好きな花を。なにがいい?」
そう言って切なげに無理やり笑うセルの顔を、私はきっと死ぬまで忘れないんだと思う。
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