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まったくどこで覚えてくるのか甚だ疑問ではあるが、セルはチェスを嗜むようだった。
英国紳士か、と思ったが彼はただの変態紳士である。
ちょいと、とんでもなく頭脳戦も肉弾戦もお強いだけの。
一寸あたしと賭けしやう
彼に教わって少しは私もできるようにはなったけど、それでもまだまだ初心者レベル。
いつもはなんだかんだで甘やかしてくれる彼は勝負事になると一切甘やかしてくれないので勝ったことがない。
チェスはおろか、トランプもオセロも麻雀も、将棋だって。
しかし私には運だけはあるようで、花札だけは唯一勝てる『勝負』だった。
それがセルにとってもやりがいがあるようで、最近はもっぱら二人して花札に凝っていた。
少ない手数で揃った『雨四光』を自慢気に見せびらかして、
「『こいこい』!!」
「むむ、こいこいか……一体他になにを狙っているのだ」
「へへ、教えないよーっだ!」
『桜に幕』は取られちゃったから『五光』は揃わない。
私が次に狙うは『萩に猪』。
手札に猪がいるからその他の萩が出るのを待てばいいだけ。
これで『猪鹿蝶』の完成だ!
「にひひ、セルが勝ったら今日一日なんでも言うこと聞いてあげるよ~」
調子に乗ると大口を叩いてしまうのが私の悪い癖。
けどそう言ってしまうのは自信があるからであって、負けそうなときは間違ってもそんなことは言わない。
彼の『役』は未だ なにも揃ってない。
勝てる。
「……言ったな? 絶対だぞ」
「嘘つかないもーん」
ポーカーフェイスならぬ『花札顔』で私を見るセル。
私はへらへら笑いながらゲーム続行。
「『タン』だ、こいこい」
やっとセルの役が揃った。
けど、これは一点。
私の七点には遠く及ばない。
「また『タン』だ、二点目……追いついてきたぞ」
追いついたって……まだ あと五点も差があるし。
早く萩来ないかなぁ……
場に取れる札がないので仕方なく『菊に盃』を出す。
しかし彼は私が出したそれを見てニヤリと笑った。
「はっはっは……残念だったな、***。
『花見酒』、そして『カス』だ。
これで八点……わたしは上がらせてもらうぞ」
「な!?」
自爆した……!!
というかこんなに早く逆転されるなんてあり?
御都合主義すぎやしませんかい?
「というわけで、***は今日一日わたしの奴隷……いや、下僕ということだ」
訂正しきれていない訂正がなんとも不愉快である。
「せ、セルさん? あの、あれは言葉の綾といいますか……」
「***、お前は今この瞬間から本日23時59分59秒99までわたしのメイドだ。
セルではない、『ご主人様』と呼べ」
時間の指定が細かすぎる!!
しかも、ご、ご、ごしゅ……
「そんなのやだ! 恥ずかしい!!」
「お前が『なんでも言うことを聞く』と言い出したんじゃないか。
無理やりそう言わせた覚えはないぞ」
「ぐぬぬぅ……」
そりゃそうですが。
ごしゅ……は無理やりじゃないか。
「ではメイドよ、早速 茶を淹れろ」
「……かし、かしこまりました、ごしゅ、ご、ご主人様……」
顔が火照ってくるのがわかる。
私は今、馬鹿みたいに真っ赤な顔をしてるに違いない。
なのに『ご主人様』はそれに気づかない振りをしていた。
「まだあまり恥じらいが見えんな……よし、語尾に『にゃー』とつけてみろ」
「絶対嫌だ!!」
「そうか……***がそう気安く約束を破る女だとは知らなかった」
奴は少し悲しそうな顔をする。
そんなこと言われたら従うしかないじゃん……!
「か……かしこまりました、にゃあ……ご主人様……っ」
「よし。さっさと動け、コンマ01秒たりとも無駄にするな」
さっきのしおらしい顔はどこへやら、奴はころっと態度を変えてニヤけた顔で命令してくる。
花札に負けたというだけでなぜこんな羞恥プレイを受けねばならんのだろうか。
お茶を淹れるためキッチンに移動すると、ぼそっと、とんでもない呟きが聞こえてきた。
「……裸エプロンもいいかもしれん」
「勘弁してくださいにゃーーー!!!」
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