曼珠沙華の花束を貴方に
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「フリーザ様!セルとリコリスは生前、ただならぬ関係だったようです!」
セルジュニアどもに連れ去られたリコリスを追いかけていった特戦隊 隊長、ギニューは帰ってくるなり開口一番そう言った。
「ほう、あのセルと……」
「はい。しかしリコリスは記憶喪失らしく奴を覚えておらず、珍しくセルが動揺していました」
「セルのあの雰囲気から察するに、恋人のような関係だったのではないか、と」
ギニューに続きジースが補足をする。
あの緑の怪人の恋人か……ならばその『記憶喪失』は都合がいい。
……そのまま忘れていればいいんだ。
「リコリスさんは今、どこに?」
「今度は突然現れたバーダックの息子が連れ去りました」
突然現れた、ということはラディッツではない。
確か孫悟空は瞬間移動を使える、と以前聞いたような気がする。
「そうですか……下がっていいですよ」
「はっ!」
あてもなくリコリスを探して飛び続ける。
ギニューたちに探させればよかったかとも思ったが、それじゃ意味がないような気がして。
この宇宙の帝王だったフリーザ様がひとりの女を自ら探して飛び回るだなんて、昔のボクが知ったら聞いて呆れるだろう。
それでもボクはどうしてもリコリスの姿が、笑顔が、瞳が見たくなって飛び続けていた。
そんな時、遠くの方にあのむさ苦しい髪型を発見した。
兄弟だし、孫悟空の居場所くらい知ってるだろう。
聞いてみることにしてスピードを上げた。
……まぁ、ボクはいくら兄弟でも兄さんの居場所なんか知らないし、知りたいとも思わないけどね。
「お待ちなさい、ラディッツ」
「げっ」
げっ、とは何だ。げっ、とは。
しかし奴の前に回ってやっと気づいた。
……見つけた。
「フリーザさん?」
先ほど会った時とは少し雰囲気が違う気がするリコリスを。
心なしか元気がないような……
「……ラディッツ、リコリスさんに何か?」
「いや、こっちのセリフだし……なんなんだよ、俺らに用か?」
「あなたに用はありません。それとも何か、その暑苦しい髪でも切ってほしいのですか?
……私が聞いているのはリコリスさんに何かしたのか、ということです」
坊主にでもあの蟹頭にでも何でもしてやりたいところだが今はそれどころじゃない。リコリスの様子が気になる。
他人の心配だなんて、宇宙の帝王が聞いて呆れる。
「いちいち一言多いな……俺は何もしてねぇよ、さっきカカロットのやつに託されたところだ」
「フリーザさん、何かあった?」
やっぱり、声に元気がない。
何かあったのはあなたの方じゃないか。
「いえ……あ、いや、あなたと少しお話がしたくて。
……ラディッツ、リコリスさんを寄越しなさい」
「あぁ?リコリスに何を……」
むっとラディッツは眉をひそめた。
渡さないなら強行手段に……と思った時。
「ラディちゃん、私 行ってくるよ。下ろしてくれる?」
「……リコリスがそう言うんじゃ仕方ねーな」
ちらりとボクを見てラディッツは地上に降りていく。
まったく、リコリスには頭が下がる。
あの野蛮なサイヤ人をたったの一言で諌めることができるんだから。
そう考えてボクも降下した。
「何かされそうになったら叫べよ、すぐ飛んでってやるからな」
「ふふ、私なら大丈夫だよ。
……でもそれ最初に悟空にも言われた。やっぱり兄弟だね」
「はいはい、嬉しくねーよ」
地上に着いたとき、ふたりはそんな会話をしていた。
ボクがリコリスに何かするなんて……
……わからないけど。
「行きましょうか、リコリスさん」
リコリスは微笑んで頷いた。
あたたかいあなたの笑顔は氷山すらも溶かすだろう。
実際ボクは、溶かされた。
リコリスに合わせてしばらく歩いた。
どう切り出そう、そんならしくもない悩みを今、ボクは抱えている。
「……フリーザさん、私に用なんて何かあったの?
私でよければ……何でもする、とは言えないけど、聞くだけでもするよ?」
心配そうにボクの顔を覗き込むリコリス。
……そうだ、違うじゃないか。
ボクの悩みなんかちっぽけで、本当に悩んでるのは……
……ボクからすれば思い出さない方がいい、都合の悪い記憶だって、リコリスからすれば大切な自分の一部だ。
……例えあのセルの恋人、だったとしても。
「その……さっきのセルとの会話の内容ですが……セルジュニアたちを尾けさせていた特戦隊から聞きました。
……すみません、リコリスさん」
らしくない。
自分から白状して、その上謝罪までしてしまうなんて。
「そっか、聞いたんだ」
リコリスはそう言ってへらりと笑う。
そんなことまるで気にも留めない様子のリコリスのその笑顔で、ボクの心は少し軽くなった気がした。
「はい……生前の記憶がない、と」
「うん……と言っても全部じゃないよ?
『死ぬ前の一定期間』らしいけど……」
寂しそうに笑うリコリスを見てボクは思ったんだ。
ボクはリコリスを元気づける術を知らない。
他人に何をしてあげれば喜んでくれるのかもわからない。
幼い頃からパパに叩き込まれてきた帝王学なんて、これっぽっちも役立たない。
「フリーザさん?」
「……私が、」
その時は本当のことを言うと、そこまで本気じゃなかった。
でも今は……美辞麗句なんかじゃない。
「私が言った、困ったことがあればお手伝いいたします、は……社交辞令じゃなくて本心です」
別にやましい気持ちなんて……
……多少はあるけど。
そう言ってリコリスの右手を取った。
「わかってるよ、フリーザさん」
見透かしてたならそれでいい。
でも、今のこの気持ちだけは伝わってほしい。
「あなたの記憶を思い出させるためなら……リコリスさんのためなら、なんでもします。
どうか必要なときには私を頼ってください」
誰かのために何かをしてあげたいと、本気で感じた。
パパが今のボクを見たらなんて言うだろう。
……なんと言おうと構わない。
ボクはこれからは、リコリスを喜ばせるために『生き』よう。
帝王学など、もう必要ない。
そう思った瞬間、頭上から強烈な衝撃。
「フリーザさん!?」
そして、離れていく右手。
……あぁ、ボクとしたことが不意をつかれてしまうなんて。
「フリーザさーーーんっ!!!」
金髪に青色の肌。
……そうだ、奴は。
薄れゆく意識の中、初めて思った。
兄さんの居場所を知りたい。
と。
続く