曼珠沙華の花束を貴方に
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振り返ったそのジュニアたちの『パパ』は、大きくなったジュニアそのもの。
精悍な顔立ちをしていた。
しかし不意に、無表情だったその顔が呆然とした顔に変わった。
「あぁ、リコリス……リコリスじゃないか……」
ふらふらと覚束ない足取りで、花をかき分けて彼は私に近づいてくる。
「あのとき わたしはお前に、探しに来るなと言ったはずだ……しかしなぜリコリスが地獄に……
いや……そんなことどうでもいい……ずっと、会いたかった」
無機質な彼の目は薄っすらと濡れているように見えた。
そして、彼は私を抱きしめた。
「……えと、なんで私の名前を?」
申し訳ないが私には彼の記憶はない。
けど彼の全身からは情愛や懐古の念をひしひしと感じた。
引き離すことは、私にはできなかった。
「……わたしだよ、セルだ。
まさか……覚えていないのか?」
私の両肩を掴んで離しセルさんは言う。
その瞳は動揺の色を見せていた。
嘘を言っているような目じゃない。
……おそらく彼は、私の記憶と深く関係してる。
「……ごめんなさい」
最初のセルさんの切羽詰まったような言葉が離れない。
『ずっと、会いたかった』
彼はそう言っていた。
「いや……いいんだ、謝る必要はない。
わたしはお前に、お前の……
…………いや、わたしのことはゆっくり思い出してくれればいい……時間は永遠にあるんだ」
狼狽しているけど、それでも彼は言葉を選んで、優しい声音で私に語りかける。
それをジュニアたちは唖然とした表情で眺めていた。
「パパ、リコリスのこと知ってるの?」
「あぁ、よく知っている。
リコリスとは生前、共に暮らしていたからな……」
思った通りだ。
間違いなく彼は、私の失ってしまった記憶の鍵を握ってる。
「あのっ!セルさんっ!!」
その言葉に彼は寂しそうに微笑んで
「前のようにセル、でいい」
と再び私を抱きしめ、背中を撫でた。
なぜだか理由はわからないけどとても安心する。
「……私、死ぬ直前の記憶がないの。
あなたの知ってること、全部教えてくれない?」
その言葉にセルさんは私から身体を離す。
「ああ、それで……
……それは構わないが……その前に教えてくれ。
なぜお前……いや、君がここに?」
「ええと、閻魔様に……その、特別に、地獄のオニとして働いてくれと頼まれて……」
能力のことは言わなかった。
信じてくれるとは思ってなかったし、言う必要もないと思ったからだった。
「なるほど、君の『瞳の才能』を買われた、ということか」
やっぱり、彼は私を知っている。
それも私の両親以上に。
お父さんもお母さんも私がなぜか動物に好かれる、ということは知ってはいたが、目のことは知らなかった。
初めて閻魔の間に行ったときの私のように。
「そんなことまで知ってるんだ……
私なんか自分のことなのに、死んでから初めて知ったのに」
へらっと笑ってみたが、セルさんは不思議そうな顔をして。
「……そうか」
ひとこと言って意味深に苦笑いした。
ジュニアたちはいつの間にか、遠くの方で遊んでいた。
「せ、セルさん……あの、私のこと、教えてもらっても……」
そう言いかけた時だった。
私の隣に悟空が降り立った。
「セル……きさま、リコリスになにをしている」
初めて聞いた悟空の敵意むき出しの声。
「孫悟空か……わたしは彼女にはなにもしていない。ただ会話をしていただけさ」
セルさんからはもう、さっきまでの動揺は微塵も感じられない。
飄々と、静かに言い放った。
……けど、ふたりから感じるこの雰囲気。
なにか因縁でもあるんだろうか、ふたりとも動かずに睨み合っていた。
「……今後はリコリスに近づくんじゃねえ。
じゃねぇと……今度はオラがおめぇにとどめを刺してやる」
悟空が、セルさんに?一体どういう……
「貴様に指図される筋合いはない」
「閻魔のおっちゃんから聞いたんだ。
リコリスには死ぬ前の一定期間の記憶がねえってな……
……あんな記憶、思い出さねえ方がいいんだ」
……閻魔様、悟空に言ったんだ。
でも思い出さないほうがいいって……?
「リコリスはオラが連れて行く。
二度と、リコリスに話しかけるな」
がしっと私の二の腕を掴んで悟空は額に人差し指と中指を当てた。
「待て……待ってくれ!リコリスッ!」
最初にここに来た時のように、目の前が真っ暗になった。
その刹那、枯れた一輪の彼岸花が見えたような気がした。
ぱっと風景が変わり、目の前にはもうすでに見慣れてしまったもじゃもじゃが現れた。
「ご、ごく」
「ラディッツ……」
私が言いかけた時だった。
悟空が呻くように、もじゃもじゃに声をかける。
「おわっ!またお前かよ!!
人の背後に突然現れんなって親に教わっただろ!?」
「俺はそんなこと教えた覚えはねぇぞ」
相変わらずの口調でラディちゃんとバーダックさんは言った。
そのやりとりを聞いて、やっと『日常』に戻ってきた気がした。
さっきまでは夢の中にいるような気分だったのに。
……きっと、彼岸花たちがそう感じさせたんだろう。
「父ちゃん……ちょっといいか……?
……ラディッツ、リコリスを頼む……」
いつものような覇気がない悟空に気がついたのか、ラディちゃんは不思議そうに首を傾げた。
バーダックさんはそんなラディちゃんの頭を一発殴る。
「いでっ!なんだよ親父!!」
「とっととリコリスを連れて、行け」
殴る必要ねーだろ、とぶつぶつ文句を言いながらラディちゃんは私を抱えて地面を蹴った。
上空からは、バーダックさんが元気づけるかのように悟空の背中を叩くのが見えた。
一方その頃、地獄の果ての方。
セルやジュニアたちが立ち去った花畑では、五人の男たちが円を描くようにして座り込んでいた。
「まさか、あのセルとリコリスに接点があったとは驚きだぜ」
と、顎に手をやるバータ。
「リコリスが死ぬ前、あいつらは互いに特別な関係だったみたいだな」
グルドがそう思索する。
「セルの言っていた『瞳の才能』ってのも気になるぞ」
それを耳聡く聞いていたのはジースだった。
「それ以上にセルとあのサイヤ人がリコリスちゃんにあんな執着してんのが気になるんだよなぁ」
左右に揺れながらリクームが言う。
「……とりあえずフリーザ様に報告だ」
ギニューは冷静に、かつ毅然として言葉を発し立ち上がった。
続く