曼珠沙華の花束を貴方に
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地獄っていうのはやっぱり広いもので、どこまで行っても果てがない。
針の山や血の池といった現世でもメジャーなスポットから遊園地などという、地獄にはおよそ似つかわしくない施設までいろいろな場所があった。
その辺りで人魂がちらほらと見え出した。
やっぱり一般人は身体を与えてもらえないのかな?
「リコリスも飛べりゃ苦労しねーのになぁ」
「私にはそんなトリック使えないんだって」
「ちょっと試してみようぜ、死んだらできましたーなんて展開もあるかもしれねーしな」
ふわりと公園に降り立ち、ラディちゃんは私を下ろしてくれる。
そんな漫画みたいな展開あるわけない……って思ったけど、お話の中でしか聞いたことがない『瞬間移動』があるくらいだし、ありえるかも。
「リコリス、ちょっと気合い入れてみろよ」
気合い入れろってそんな簡単に言うけど、どーすればいいんだ。
というか本当にトリックじゃないのか。
「わかった、やってみる……」
すぅ、と深く息を吸う。
「はぁぁああああ゛!!!」
……なにも起こらない。
強いて言えばその辺にいた人魂たちがビクッとしたくらい。
「リコリス〜、最後おっさんになってんぞ〜」
そしてラディちゃんのダメ押し。
「うるさいなぁもう!
恥かいただけで全然できないじゃん!ラディちゃんの馬鹿!」
「お、俺のせいか?」
「ラディちゃんがやれって言い出したんでしょー!?」
わめき散らしてたら苦笑いだったラディちゃんの顔が、ふと険しくなった。
「フフフ……威勢のいいお嬢さんですねぇ……」
ぞわっと鳥肌が立つような声に振り返ると、そこにはトカゲ?みたいなヒトらしきものがいた。
「フリーザ……!」
「楽しいデート中にすみませんねぇ」
ここへ来て初めて直感で『極悪人』だ、と思った人だった。
慌ててラディちゃんの陰に隠れる。
気づけばいつの間にか、人魂たちはどこかに行っていた。
「そんなに怯えなくても悪いようにはしませんよ」
じり、と近寄るそのトカゲ、もといフリーザ。
「リコリス、俺が合図したらすぐ逃げろ」
視線だけこちらに寄越してラディちゃんは小声で言った。
で、でも私は、ここを落ち着かせに来たのに……
「わかったな?」
「う、うん……」
「よし…………喰らえ、フリーザ!
ダブルサンデーーーッ!!」
何コレ何コレ!?!?
大きな音と衝撃、そして強烈な光。
何してるのラディちゃん!?
あと必殺技なのか知らないけどネーミングセンス終わってるよ!!
「行け!リコリスッ!!」
砂煙が立ち上る中、合図を聞いてその声とは逆方向に走り出す。
爆風と砂埃の中は前が見えないし息もできない。
って死んでるんだった。
……なんてアホみたいなこと考えてたら誰かに右腕を掴まれた。
「へっへっへ……新入りさんかな?
えらく慌ててどこ行くのぉ?」
「フリーザ様に挨拶なしなんていい度胸だな」
砂埃が薄くなり、声の主が薄っすらとだけど見えてきた。
オレンジ色の頭髪の大男と目が四つもある緑色の小男のふたり。
「ほう、こいつがラディッツの女か」
「あんな奴より俺らと遊ぼうぜ、たっぷり可愛がってやるよ」
「可愛がってやるといっても遊園地で一緒に遊んだり、茶屋でまんじゅうをおごってやる、ということではないぞ」
そして、紫色の身体で血管が浮き出た頭をした男と、
青い身体に赤目の大男、長い白髪に赤い肌の男……
悪役の代名詞みたいなセリフとともに五人の男が姿を現した。
フリーザも含めて六人もいるんじゃラディちゃんだけじゃ勝ち目ないじゃん……
でも私には彼しか頼る人はいないし。
「ラディちゃ~~~ん!!」
やっと視界が晴れてきたと思ったら、そこにいたのは倒れているラディちゃんと、こともなげに立っているフリーザ。
し、死んでる……んだった、すでに。
「残念ですが、あなたの彼氏はこの有様です。
……さぁ、私たちと一緒に来てもらいましょうか」
「彼氏じゃないし、絶対行かない!」
恐怖で身体も声も震えるけど、フリーザの目を睨みつける。
三秒以上、三秒以上……
「……この私にそんな目を向けた女は初めてですよ。
捕まった状態でどうしようというのですかねぇ……」
フリーザは指先に光をためて、それを私に向けた。
あ、やられるかも。
「……」
「……フリーザ様?」
「と、思いましたが……うん、まあ……
……争いはよくありませんね」
ふっと光が消えて、フリーザは手を下ろした。
勝った!
ラディちゃん!仇はとったよ!!
「突然どうされたんですか!らしくもない!!」
「こんな女一発じゃないですか!!」
こちらの五人組はぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているが、当のフリーザ様はどこ吹く風。
「放しておあげなさい、リクームさん」
フリーザは最初登場した時の寒気のする声で、私の腕を掴んでいる男に声をかけた。
びくりと震えて手を放すリクーム。
それを見ると先ほどの凍るような雰囲気はどこへやら、フリーザはにっこりとフレンドリーな笑顔を浮かべた。
「すみませんね、私の部下が手荒な真似をしてしまって……お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です……」
一体どうしちまったんだ、フリーザ様があんなこと言うなんて……と五人は私の背中に隠れてこそこそ話し合う。
私の能力の毒牙にかかったんだよーだ!
「あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「あ、リコリスって言います。
地獄のオニとして今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ。リコリスさんですね、
リコリスさん、リコリスさん……素敵なお名前ですね」
ちょっと赤くなりながら私の名前をつぶやく様はまるで初めて恋した中学生男子のようだった。
さっきと違う意味でちょっと恐い。
……でも、攻略できたらいい人かも?
「紹介が遅れましたが、私はフリーザと申します。
そしてあちらがぎ」
すっとフリーザさんは五人組を指差しながら何かを言いかけたが、大きな声によってかき消された。
「リクーム!!!」
「バータ!!!」
「ジース!!!」
「グルド!!!」
「ギニュー!!!」
「みんなそろって!!ギニュー特戦隊!!!!」
「……です」
しっかりとポーズまで決める五人組。
な、なんなんだ一体……
「しかしお前みてーな気弾に驚くような女がオニとは……」
「リコリス、です」
何事もなかったかのようにポーズをやめる五人の内の一番右、バータがそう言った。
どこが瞳かわかんないけど、とりあえず目を見つめる。
「……ま、まぁ他のオニどもも驚いてたくらいだし、仕方がないかな!」
「バータ!?お、俺はこんな女なんかにオニなんか務まるとは思……」
その左にいたジースが私を睨みつける。
そっちがその気なら私だって睨み返してやる。
「……フッ、これからよろしくな!」
「何を言っているんだふたりとも!
このふたりにそう言わしめるとはお前、何か持ってるな!?」
中央のギニューがびしっと私を指差す。
自分の目で確かめてみな!
「……魅力か!」
「どうしたんですか隊長!
貴様……隊長まで味方につけるとは……」
その左、よっつの目で私を凝視するグルド。
くらえ、ラディちゃんの仇!
……は、さっきとったんだった。
「……なかなかやるじゃねーか!」
「グルドぉぉ!!
まさかギニュー特戦隊の内の四人が……ひとりの女に……
……きっ……貴様……」
最後はリクーム、私の能力にかかって堕ちろ……!
……なんて、私もだいぶこの状況に慣れてきたなぁ……
「……綺麗な目をしてるね!」
やった、コンプリート!って何が?
閻魔様に落ち着かせてくれって言われた時はどうなることかと思ったけど、案外簡単にできるかもしれない。
この分だと私の天国行きももうすぐかな!
「これからよろしく頼むぜ、リコリスちゃん!」
リクームさんはとびっきりの笑顔で私の右手を掴む。
さっき腕を掴まれた時とは違って柔らかい握手だった。
「おいリクーム!イケメン担当の俺を差し置いてそりゃねーだろ!俺が先だ!」
負けじとジースさんが割り込んでくる。
イケメン担当って自分で言う?
「そりゃお前が勝手に言ってるだけだろ!
俺がリコリスに飛び方も気弾の打ち方も教えてやるよ!」
バータさんがぽんぽんと私の肩を叩きながら言う。
「ずるいぞ!それはじゃんけんだ!」
グルドさんも下から猛抗議。
……もしかして、落ち着かせるどころか余計にうるさくなっちゃうかも……
「すまんなリコリス、うちの隊員たちが……
お詫びのしるしにキャラメルをあげよう」
ギニューさんは胸元から個包装のキャラメルを一個渡してきてそう言った。
受け取ったけどなんか……生温かい。
「皆さん、おやめなさい。
リコリスさんが困っているじゃないですか」
「はっ!すみませんフリーザ様!」
鶴の一声というかトカゲの一声というか、その言葉に隊員たちはみんなおとなしくなった。
「なにか困ったことがあればお手伝いいたします。
リコリスさん、気軽に声をかけてくださいね」
やっぱりこの能力、最強かも。
微笑むフリーザさんを見て確信しかけた。
……のに、やっと朗らかなムードになった頃、突然またひとり現れた。
「楽しそうにしているではないか、フリーザよ」
私たちから少し離れたところに、フリーザさんによく似た人が立っていた。
最初にフリーザさんが現れた時以上に冷たい雰囲気を放っている。
「……フン、なにか用かい……兄さん」
険しい表情で彼を睨むフリーザさん。
あの人、フリーザさんのお兄ちゃんなんだ。
ラディちゃんと悟空と違って険悪そうだなぁ……
「つまらん仲良しごっこに興じている弟になにも用はない。
俺はただ……見に来ただけだ」
一言一言に氷柱のような鋭さを感じさせるその人は、ちらりと私を見た。
「……その厄介な女をな」
ふっとまた一瞬にしていなくなってしまった。
彼も瞬間移動が使えるんだろうか。
「……すみません、兄さんのせいでリコリスさんの気分を害してないといいのですが」
私の方に向き直るフリーザさんからはもう、『兄さん』に向ける牙のようなものは感じられなくなっていた。
「いや、そんなことないけど……彼は?」
「私の兄のクウラです。
兄さんがあの調子なので関わることはないと思いますが……
……気をつけてくださいね」
兄に気をつけろ?
フリーザさんがそういうくらいだからよっぽど悪い人なのかな……
「なにかあれば俺らも助けるけど……」
「クウラ様には敵うかどうかわからんからな」
ジースさんやバータさんまで弱気だ。
わたし一人では関わらないほうがよさそうかも。
「それにしても、兄さんの言葉が気になりますね……追いますよ、皆さん」
「はっ!」
みんなはクウラさんを追いかけ飛んで行ってしまった。
ほんのちょっとだけ、不安になってきた。
だって……
ラディちゃんまだ起きないし!!
「いつまで寝てるのー!?」
続く