曼珠沙華の花束を貴方に
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パッと景色が変わり、おどろおどろしい空間が私の目の前に広がった。
「うぉ!びっくりした……
……お前いい加減、瞬間移動で俺んとこ来んのやめろよな!」
振り返るとそこにいたのは、背の高いもじゃもじゃの男の人。
もしかしてこの人がお兄さん?
というかさっきのが瞬間移動……?
「わーりぃわりぃ!ラディッツが一番まともそーだから、ついよぉ~!!」
「チッ、まぁいいだろう……ところで」
「その女は誰だ?」
上から声が降ってきたので驚いて見上げると、そこには悟空と同じ顔つきの男性が二人、浮いていた。
「え!?ちょ、どういうこと!?
なんのトリック使ってるの!?」
「トリックだ?そんなくだらねーモン使うわけねーだろ」
とん、と二人はそばに降り立つ。
肩に置かれた悟空の手に少し力が入った気がする。
「父ちゃんもターレスも、あんまリコリス怖がらすんじゃねぇぞ」
「あぁ?そいつが勝手にビビってんじゃねぇかよ」
「ふーん……リコリスっていうのか、お前。
なんだ、カカロットの女か?」
ずい、と浅黒い方の悟空が一歩踏み出すと、悟空が私を守るように前に出た。
カカロット……って悟空のこと?
ここにきてから何が何だか……
「リコリスに近寄んなよ、ターレス」
ターレスと呼ばれた方は楽しそうにククッと笑う。
その様子を見てラディッツさんが面倒臭そうに頭を押さえた。
「やめろ、ターレス。
お前じゃカカロットにゃかなわねーよ」
「うるせぇ、バーダックは引っ込んでな。
……なぁ、リコリスちゃんよ、カカロットよりも俺様の方がいい男だと思わねーか?」
「えぇ?えと……あの……」
同じような顔に囲まれて余計に混乱してきた。
やっぱりみんな、性格は違うんだ。
「おめぇら、あんましリコリスにちょっかいかけんじゃねぇ。
リコリスはオニっちゅーことでここに来たんだ、ただの死人じゃねぇんだぞ」
悟空はそう言ってため息をついた。
なるほど、『めんどくせぇ奴ばっか』とはこういうことだったのか。
「……地獄のオニとして、ここに来ました。
リコリスって言います。
みなさんよろしくお願いします」
悟空の陰から一歩出て、一応自己紹介してみる。
やっぱりオニということでみなさん歓迎ムードでは出迎えてくれないよね。
「ま、オニでもなんでもいいや。
こちらこそよろしくな、リコリス」
意外とラディッツさんはいい笑顔で答えてくれた。
「お前、女には優しいんだな」
「ターレスは黙ってろ!
……で!このスケコマシがターレス。
こっちの悪人ヅラがバーダックだ」
日焼け肌?の方がターレスさん、
左頬に傷がある方がバーダックさん……
「誰が悪人ヅラだ!
……ったく、口の悪いバカ息子めが。
誰に似たんだか」
「あんたに似たんだよ!」
バーダックさんは悟空とラディッツさんのお父さんなんだ。
……けど、二人揃って地獄行きなんて、生前はそんなに悪い人だったのかな。
そんなに悪そうな人には見えないけど。
「……おい、リコリス」
腕を組んでラディッツさんとバーダックさんのやりとりを見ていたターレスさんがおもむろに口を開いた。
「はい」
「お前、せっかく俺らが自己紹介してやってるってのに目も合わせねーのかよ」
「紹介したのは俺だぞ」
ラディッツさん、ナイスつっこみ。
って、ターレスさんよく見てるなぁ。
未だ肩に置かれていた悟空の手をはじいて、ターレスさんは私に詰め寄った。
「ターレスおめぇ!」
「いた……っ!?」
ぐいっと腰を抱かれて、無理やり顔を掴まれた。
「へぇ……やっぱりな。
いい目つきしてんじゃねーか」
それでも逸らしたままの私の目を見て、ターレスさんはまたさっきのように笑った。
「ちゃんと俺の目を見ろよ、リコリス……ご褒美にキスしてやってもいいぜ?」
どんな女性でも落ちそうな甘い声でターレスさんは囁く。
思わず言う通り見つめてしまう。
私の能力なんか、メじゃないくらいの甘い声だった。
「ターレス!リコリスに触んな、放せ!」
たぶん三秒以上経過した頃、ターレスさんは私を解放してくれた。
「フン……リコリス、キスはまた今度だ。
カカロットがいない時にゆっくりな……」
ターレスさんはニヤリと不敵に笑って鼻歌交じりにどこかに飛んで行ってしまった。
「なんだぁ、あいつ?
いつにも増して変な奴だなぁ……」
「フッ……ターレスのありゃ本気だな。
カカロットの女とくりゃ余計にか?」
「わ、私は別に、悟空の女ってわけじゃ……」
肩をすくめたバーダックさんと目が合う。
思わず逸らしてしまった。
「ターレスの言うこともまんざら間違いじゃねぇみてぇだな。
おい、リコリス。俺を見ろ。
別にあいつみてぇに取って食いやしねぇからよ」
「親父のことだしどうだかな」
「ラディ、聞こえてんぞ」
ラディッツさんに釘を刺して、バーダックさんは私の方に向き直る。
「これから鬼としてここに来る奴が罪人と目も合わせられねぇんじゃな。
ん?そう思わねぇか、リコリス?」
確かに、言われてみればそうだ。
仕事内容は詳しく知らないけど、これじゃ地獄の極悪人たち、を落ち着かせることなんてできないだろう。
「ターレスを落としたその目つき、見せてもらおうか」
じっと見据えられる。
蛇に睨まれたカエルみたいに動けない。
でも面倒なことは極力避けたいし、三秒以内、三秒以内……
「……ほう」
バーダックさんは感嘆の声を漏らした。ように聞こえた。
彼の瞳は……何か哀しげな、すべてを失ったような、深い色をしていた。
それこそ、私の方が吸い込まれてしまいそうな瞳。
「……お前、若く見えるがいろいろ経験してきたような目をしてるな。ターレスの奴が本気になった理由もわかる気がするぜ」
「おい、親父……」
「これからよろしく頼むぜ?俺らのことをよぉ……」
バーダックさんもどこかへ飛んで行ってしまった。
「ごめんな、リコリス。変な奴らばっかで……悪い奴じゃないはず、なんだけどよ」
全然関係なかったラディッツさんが一番申し訳なさそうにしている。
それを見てやっと悟空は安心した様子だった。
「ターレスの事はちっと気になるけどよ、とりあえずラディッツがいるからでぇじょぶそうだな!
オラまだ用事残ってっから、ラディッツ、あとは頼んだぞ!」
「あぁ、任せておけ」
「じゃな、リコリス!またぜってぇ来っからよ!」
来た時と同じように、悟空は額に人差し指と中指を置く。
「ラディッツ頼むぞ、オラの女を!」
「ちょっ、悟空、今……」
にかっと笑ってそう言い残し、悟空は一瞬で消えてしまった。
オラの女?
「なんだよ、リコリスって見かけによらず悪い女だなー。
ターレスや親父はまだしもあの鈍感なカカロットまで手玉に取るなんてよ」
「私は別に……!」
キッとラディッツさんを睨みつける。
これはほしくて身につけた能力なんかじゃない。
苦労だってそれなりにしてきたのに。
「わわ、わかってるよ、冗談だって!
地獄に来たの初めてだろ?
いろいろ案内してやるから許してくれよ!」
ラディッツさんは慌ててニコッと笑った。
バーダックさんやターレスさんを見た後だと、ラディッツさんてなんか……
「へたれ?」
「しっ失礼だな!ヘタレじゃねーよ!」
「ラディちゃん的な?」
「うるせー!!おら、行くぞ!!」
ラディッツさんもまたふわっと浮き上がる。
だからそれはなんのトリックなんだ。
「えっと……」
「なんだお前、飛べねぇのか?」
私はごく普通の女だ。
空なんか飛べないし瞬間移動だってできない。
この能力以外は、なにも持たない。
「しょうがねーなぁもう……俺の背中につかまれ」
なにそれ、絶対落ちる。
それに背中っていうよりも……髪の毛?
「……こういう場合ってお姫様だっこじゃないの?」
「馬鹿!もう……馬鹿!!
そんな小っ恥ずかしい真似、俺にできるかよ!!」
照れてる。
ラディッツさんってやっぱりヘタレっぽい。
「お願い!私、絶対落ちる自信ある!」
私だって恥ずかしいけど、ここってなんか広そうだし、たぶん飛んだ方が早いし。
だったら安全な方がいい。
「……わかったよ、ほら……」
ちょっと赤くなりながら、ラディッツさんはお姫様だっこをしてくれる。
「ありがとうラディちゃん!」
「ラディちゃんちゃうわ!!」
よかった、悟空のお兄さんだけあってやっぱりいい人じゃない。ちょっと安心しちゃった……
「もうなんでもいいや……
親父やターレスよりめんどくせぇ奴らが来る前に、さっさと行くぞ」
バーダックさんやターレスさんより面倒な人たち?
こんなこと言っちゃ失礼だけど、そんな人いるのかな。
「ラディちゃんがいれば大丈夫でしょ。悟空も信頼してるみたいだし……」
「さぁ、どーだかな……」
含みを持たせた言い方するなぁ。
……でも、悟空が何かあったらラディちゃんを頼れって言ってたくらいだし。
大丈夫だよね……?
「おや、あれはラディッツじゃないですか……」
「女を抱えているみたいですよ!」
「ひょー!ラディッツのくせにやるじゃねぇのよー!!」
「……行きましょう、特戦隊の皆さん」
私たちを見つけてそんな会話をしている人たちがいたなんて、
そしてこれからまた『めんどくせぇ奴ら』がどんどん増えていくなんて、私にはまだ知る由もなかった。
続く